パニック障害の症状と治療法

皆さんこんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史です。私は現在心理学講座を開催しています。今回のテーマは「パニック障害」です。目次は以下の通りです。

①パニック障害とは何か

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。心理的な視点からうつ病の知識を身に付けてもらえたらうれしいです。

なお動画解説もあります。一度ご覧いただいてから読み進めると理解がより促進されると思います。

パニック障害とは

パニックの意味,語源

パニックとは心理学事典(1999)[1]によると以下のように定義されています。

恐怖や不安にかられた人々のヒステリックな集団逃走及び混乱状況。行動に表出する前段階の、緊迫した心理的混乱状況

パニックはもともとギリシャの神話からきた言葉だと言われています。古代ギリシャの人々は、羊が理由もなく、恐怖にかられる姿をみました。ヒツジは我先にと逃げ出します。この現象を「パーン」という神様がいて驚かしていると考えたのです。パニックという言葉はこのように最初は神話の世界の転用として使われていましたが、社会心理学、臨床心理学、精神医学の世界でも使用されるようになっていきました。

意味

パニックが強くなると、パニック障害(最新の基準ではパニック症)と診断されることがあります。厚生労働省[2]はパニック障害を以下のように定義しています。

突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作を起こし、そのために生活に支障が出ている状態

典型的な例でいうと、何の前触れもなしに動悸がしてきて息苦しくなり、汗をかき始め、このまま死んでしまうのではないかという恐怖に襲われます。

診断基準

パニック障害について以下の13の特徴のうち、4つ以上当てはまる方と言われています。

① 動悸、心拍数の増加
② 発汗
③ 身震い・震え
④ 息切れ
⑤ 窒息感
⑥ 胸痛またか胸部の不快感
⑦ 腹部の不快感
⑧ めまい、気が遠くなる感じ
⑨ 寒気または熱感
⑩ 異常感覚
⑪ 現実感消失 離人感
⑫ 抑制感喪失
⑬ 死ぬことに対する恐怖

詳しい診断基準は以下の通りです。

精神疾患の診断基準であるDSM-5[3]によると、パニック障害の診断基準は以下となります。

A.繰り返される予期しないパニック発作、パニック発作とは突然激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に以下の症状のうち4つが起こる。
(1)動悸、心悸亢進、心拍数の増加
(2)発汗
(3)身震いまたは震え
(4)息切れ感または息苦しさ
(5)窒息感
(6)胸痛または胸部の不快感
(7)嘔気または腹部の不快感
(8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
(9)寒気または熱感
(10)異常感覚
(11)現実感消失または離人感
(12)抑制力を失うまたは”どうかなってしまう”ことに対する恐怖
(13)死ぬことに対する恐怖

B.発作のうちの少なくとも1つは以下に述べる1つまたは両者が1か月続いている。
(1)さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配
(2)パニック発作を避けるような行動

C.その障害は物質の生理学的作用または他の医学的疾患によるものでない

D.その障害は他の精神疾患によってうまく説明されない

ICD-10[4]によるとパニック障害は以下のように示されています。

この分類では、一定の恐怖症的状況で起こるパニック発作は、恐怖症の重篤さの表現とみなされ、診断的優先権は後者に与えるべきである。パニック障害それ自体は、F40.-のいかなる恐怖症も存在しない場合にのみ診断されるべきである。確定診断のためには、自律神経性不安の重篤な発作が、ほぼ1ヵ月の間に数回起きていなければならない。
(1)客観的危険が存在しない環境において起きる。
(2)既知の、あるいは予見できる状況に限定されない。
(3)発作と発作の間は、不安症状は比較的欠いている(しかし、予期不安は通常認められる)

 

合併症

パニック障害の35%にうつ病が併存するという調査があります(Kessler , 2006)[5]。うつ病以外にも、不安障害(全般性不安障害や社交不安障害など)を合併することがあると言われています(樋端ら, 2016)[6]。このように、パニック障害はその他の精神疾患を合併することが多いと考えられます

混同されやすい

パニック障害には、他の精神疾患や身体疾患と混同されてパニック障害を患っていることに気づかないという特徴があります。パニック障害は、社交不安障害やうつ病といった他の精神疾患と合併して発症していることがあり、その見極めが難しいときがあります(川上,2006)[7]

有病率

パニック障害はそれほど珍しい病気ではなく、100人に2人ほどの割合で罹患すると言われています。アメリカで行われたNCS疾病調査(1990,2001)[8]によると、その割合は増加傾向にあります。男女差はあまりありませんが、女性の方がやや多いようです。

発症年齢

パニック障害の発症年齢は幅広いですが、20代前半と30代半ばで発症している人が多い傾向があります。そもそも日本では、精神疾患の知識を学ぶことが少なく、気が付いたら重症化しているケースがかなりあります。

パニック発作,予期不安

パニック発作とは何か

パニック発作は、突然の強い不安や恐怖を伴った精神状態を指します。この状態は、呼吸や心拍数の増加、息切れ、胸の痛み、動悸などの心身の症状を引き起こすことがあります。また、逃避や回避行動を取ることもあります。

後山ら(2002)[9]は、婦人心療外来・更年期・閉経外来で治療した1365名の中から、パニック障害と診断した111例を対象に調査を行いました。以下の図は「初回パニック発作の症状の強さ」を表しています。

パニック障害

青いグラフは精神的な症状、赤いグラフは身体的な症状を示しています。なかでも群を抜いて強いのが、「動機」であることが分かります。呼吸が早くなり、場合にはよっては過呼吸になってしまうこともあります。

予期不安

一度パニックになった経験をすると「将来も同じことが起こるのではないか」と考え強い不安に襲われることがあります。これは予期不安と呼ばされています。貝谷(1997)[10]は、パニック障害には動機や発汗などの身体症状も見られるため、患者は内科や循環器科を訪れるケースがあることを報告しています。身体的な不調のみに注目して何年も症状が改善されないというケースは珍しいものではありません。

パニック障害の症状

 

パニック障害の心理学研究

パニック障害になりやすい傾向とはどのようなものがあるでしょうか?陳ら(2003)[11]はパニック障害患者102名と、健常者78名を以下の項目で比較しました。

・失敗に対する不安
・行動の積極性
・セルフエフィカシー

それぞれ結果を見ていきましょう。

失敗に対する不安が強い

パニック障害の方は、失敗や、相対外の出来事を嫌う傾向あるとされています。予想外の出来事があるととても不安に感じるのです。以下の図をご覧下さい。

積極性が低い

パニック障害の人は、かつて発作が起きた場面や状況から回避する行動が引き起こされるとしています。「また発作が起きるのではないか」と考え、積極的に行動ができないということが指摘されています。

セルフエフィカシーが低い

セルフエフィカシーとは、「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度確実にできるかという個人の認知」としています。要は、”物事をどれだけ自分はうまくできそうか”と考えることですね。このセルフエフィカシーは、健常者に比べると低いという結果が出ています。

このようにパニック障害は心理的にマイナスの影響が出やすいと言えますが、心理療法などを活用して改善していくことができます。そのまま放置するのではなく、メンタルヘルスを向上させる練習にぜひ取り組んでいきましょう。

パニック障害の治療法

パニック障害の治療法は大きく分けて、薬物療法、心理療法の2つがあります。当コラムでは、心理療法を中心に6つのやり方を紹介します。

①認知療法で考えを現実的に
②行動療法で段階的に改善
③マインドフルネス療法
④森田療法であるがまま
⑤現実検討力をつける
⑥緊張をほぐす方法

ご自身でも活かせそうなものを中心にご活用ください。

①認知療法で考えを現実的に

パニック障害の方やパニックになりやすい方は、“死んでしまうのではないか”“心臓発作に発展するのではないか”など、最悪の状況を想像することが原因となるケースもあります。

①破局的な結論を予想しすぎていないか?
②0か100かのような、あまりに極端な考え方をしていないか?
③「~にちがいない」などと決めつけすぎていないか?

など思考の歪みを見つけ、これを修正していく練習をします。詳しくは以下のコラムを参照ください。

認知療法の基礎とは

②行動療法で段階的に改善

先ほど解説した通り、パニック障害を発症すると予期不安や回避行動のため、外出したり電車に乗ったりすることが難しくなり、学校や仕事、家事が普段通りにこなせなくなる場合も出てきます。予期不安や回避行動が原因の場合、不安な場所や状況に少しづつ慣れていく事が対応のポイントです。

パニック障害 治し方

具体的には、上記の図のように、不安の度合いが比較的低い場所に行ってみて上手くいったら、その次に不安の度合いが高い所にチャレンジしていきます。だんだんと不安な状況に慣れて行くことで行動範囲を広げていきます。

行動療法の基礎

③マインドフルネス療法

マインドフルネス療法は、不安や恐怖を客観的に眺め、冷静になる練習をしていきます。イメージとしては禅に近いです。特に気持ちを落ち着ける、恐怖心とうまく付き合う上で有効な心理療法です。マインドフルネス力は瞬間瞬間でも活用できるというメリットもあります。

マインドフルネス療法

④森田療法であるがまま

パニック障害になると、不安を感じる自分を必要以上に責めてしまい、自信をうしないがちです。あてはまると感じる方は、日本の古典的な心理療法である森田療法がおすすめです。森田療法では、パニックになる自分を否定することなく、ありのままの自分を認める練習をします。特にあるがまま、気分本位、目的本位という概念はとても気づきのある考え方です。ぜひ一度学習してみてください。

森田療法

⑤現実検討力をつける

パニック障害になる方は、非現実的な思考で悩む傾向があります。そこで心理療法では、「現実検討力」を高める練習をします。確率が低いことで悩んでいる、思い込みが激しい方は、一度現実的に考える練習をしてみましょう。

現実検討力を高める練習

⑥緊張をほぐす方法を学ぶ

パニックと緊張は切っても切り離せない関係にあります。緊張の原理とほぐし方を知りたい方は下記のコラムを参考にしてみてください。

緊張を和らげる,ほぐす方法

呼吸を整えてパニック障害の原因に対応

心理療法を学びたい方へ

パニック障害コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知行動療法の学習
・混乱しやすさを緩和,認知の偏りの改善
・感情のコントロール法
・心が安定する,生活環境の作り方

社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください↓

 

パニック障害の原因,治療法を心理面から解説,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 中島義明,安藤清志,子安増生,坂野雄二,繁桝算男,立花政夫,箱田裕司(1999).心理学辞典 有斐閣

[3] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院

[4] 監訳 融道男・小見山実・大久保善朗・中根允文・岡崎祐士(2005).ICD-10精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン 新訂版 医学書院

[5] Kessler RC et al. (2006).The epidemiology of panic attacks, panic disorder, and agoraphobia in the National Comorbidity Survey Replication. Archives of General Psychiatry, 63, 415-424.

[6] 樋端佑樹,篠山大明,本田秀夫(2016). 特集精神疾患の予防と早期治療アップデート不安症への早期介入. 精神医学, 58(7), 597-603.

[9] 後山尚久,池田篤,東尾聡子,植木實(2002).婦人心療外来で治療したパニック障害の発症状況と臨床像の調査  7 巻 1 号 p. 76-80

[10] 貝谷(1997).「パニック障害」 頻度と特徴

[11] 陳峻叟,形岡美穂子,鈴伸一,熊野宏昭,貝谷久宣,坂野雄二,川村由美子 (2003).広場恐怖を伴うパニック障害患者における一般性セルフ・エフィカシー尺度の特徴に関する検討 43 巻 12 号 p. 821-828