対人恐怖症克服記61 吃音でありがとうが言えない
重度の対人恐怖症になり、引きこもりとなった私は、心理療法を試し、醜形恐怖症や視線恐怖症をいくばくか軽くすることができました。そして、 「社会に出でよう」という気力がわいてくるようになりました。
対人恐怖症は、残念ながら心のあり方だけでどうにかなるものではなく、実際に人と接しながらでないと、乗り越えられない病気でもあります。
しかし、対人恐怖症を持つわが身にとっては、人と実際に接することはかなりの勇気が必要でした。この時、参考になったのが行動療法という心理療法でした。

行動療法で実践
行動療法は、行動のあり方を見直すことで、心理的な問題を改善していく心理療法です。行動療法を学ぶと、対人恐怖症が治らない人は、無理な目標を掲げてしまう傾向があることがわかってきました。
会話で沈黙になってはいけない
社交的にみられるようにしたい
冗談を言えるようになりたい
女子にもてたい
このような高い目標を掲げても、失敗するだけです。失敗することで自信を失い、症状が悪化する悪循環になるのです。私もまさにこのパターンにはまっていました。
スタートはコンビニから
高い目標を掲げて自爆する悪癖を改善するには、不安階層表が効果的であることを知りました。不安階層表とは、自分にあったレベルを決め、1歩1歩じっくり達成していくやり方で、行動療法の代表的な手法です。
私はさっそく以下のような、コンビニチャレンジ不安階層表を作成しました。
段階1 何も買わずに一回りして帰る
段階2 ジュースを買って無言で帰る
段階3 少額のお菓子を買って店員さんの目をチラ見する
段階4 お釣りをもらうときに「ありがとう」と言う
段階2のジュースを買ってくるまでは、比較的、簡単にできました。
段階3の店員さんの目をチラッと見る課題では対人不安が強く出てきました。実際にチャレンジすると脂汗が出てきました。目をチラ見する訓練は1週間程度で30回ぐらい繰り返しました。
30回練習するとさすがに、緊張がほぐれ、店員さんとどうにか目を合わせることができるようになりました。いくばくかの自信がつきました。ただし、チロルチョコが大量に溜まってしまい、困りました。

ブロック症状がもどかしく
次は、段階4、お釣りをもらうときに「ありがとう」と言うにチャレンジしました。しかし、このチャレンジは大いに苦戦しました。
私は軽度の吃音があり、緊張すると「ブロック症状」が出ます。ブロック症状とは声を出そうと思っても、最初の一言が出てこない症状です。
「声を出そう!」と意識するほど、ブロック症状が出てきます。そのためいざ、ありがとうと言おうとしても、のどに物が詰まったように、声がでませんでした。
私はありがとうと言えない自分をもどかしく感じました。「ありがとう」すら言えないなら、とてもではないですが、社会でやっていけません。私は失敗を繰り返すたびに、自信を失っていきました。
しかし、10回目ぐらのチャレンジの時です。その10回目は心のコンディションがよく、さらに店員さんが中年の人が良さそうな男性でした。緊張しないで話せる感覚があり、
・・・あ、あ、あ、ありがとうございます
と声に出して言うことができたのです。さらに嬉しいことに、店員さんが微笑み返してくれました。私はどうにか課題を達成できたことに安堵しました。ありがとうチャレンジもその後1週間程度続けました。最終的には、毎回声に出してお礼を言うことができるようになりました。

コンビニ課題をクリアすると、喫茶店に入ってオーダーをする、家電量販店で質問をする、喫茶店で女性店員に質問をする・・・、という形で、チャレンジの幅を広げていきました。
健康であればあたり前にできるこれらの努力も、わたしにとっては非常にストレスがたまるものでした。精神的に上がったり下がったりを繰り返し、疲れてまた一日外に出れない日もあったりしました。それでも全体としては、外に出る機会が増え、行動範囲を広げることができました。
行動範囲を広げることに成功した私は、少しずつ社会性を取り戻していきました。コミュニケーションの自信のかけらのようなものができてくると、今度は、自分の容姿について考える時間が増えていました。
今でこそスマート?な私も21歳の引きこもりの時は、
80キロ 髪は伸び放題 無精ひげ
ニキビ面 猫背 クタクタの洋服
と不健康な見た目そのものでした。そこで私は、不安階層表と並行して、ダイエットに取り組むことにしました。そうして私は短期間で20キロ痩せることに成功するのです。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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