前頭側頭型認知症の症状や原因

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「前頭側頭型認知症」です。目次は以下の通りです。

①前頭側頭型認知症とは何か?
②前頭側頭型認知症の症状
③症状の経過
④治療方法

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

①前頭側頭型認知症とは何か

意味

前頭側頭型認知症とは、脳の前頭葉と側頭葉に萎縮があり、人格や行動面に問題を抱えやすい病気です。原因や症状によては、Pick病(ピック病)と呼ばれることもあります。前頭側頭型認知症は、記憶には比較的影響が少ないですが、行動の抑制が効かないことがあります。そのため、暴言を吐く、暴力的になる、窃盗や、放火など社会的ルールから逸脱した行動をしてしまう方もいます。

好発年齢

好発年齢は50~70歳です。発症年齢はアルツハイマー型認知症よりも若いという特徴があります。

原因

脳の前頭葉、側頭葉の萎縮が原因とされています。ピック病では脳の神経細胞の中にピック小体と呼ばれるたんぱく質が蓄積しているものをいいます。前頭側頭型認知症では、ピック小体が蓄積していない場合もあるので、区別されています。

アルツハイマーとの違い

アルツハイマーと比較して、記憶障害は比較的軽度ですが、人格の変化や社会的行動の障害が大きいことです。以下にアルツハイマー型認知症との特徴の違いを示します。

診断基準

前頭側頭型認知症は、DSM-5「1」という診断基準によると、以下の基準で診断がなされます。

A.認知症または軽度認知障害の基準を満たす

B.その障害は潜行性に発症し緩徐に進行する

C.(1)または(2)
(1)行動障害型
(a)以下の行動症状のうち3つ、またはそれ以上
i.行動の脱抑制
ⅱ.アパシーまたは無気力
ⅲ.思いやりの欠如または共感の欠如
ⅳ.保続的、常同的または強迫的/儀式的行動
ⅴ.口唇傾向および食行動の変化

(2)言語障害型
(a)発語量、喚語、呼称、文法、または語理解の形における言語能力の顕著な低下

D.学習および記憶および知覚運動機能が比較的保たれている

E.その障害は脳血管疾患、他の神経変性疾患、物質の影響、その他の精神疾患、神経疾患、または全身性疾患ではうまく説明されない

②前頭側頭型認知症の症状

脱抑制

衝動性が抑えられず、常識では行わない行動をしてしまいます。例えば、他人の物を勝手に持ち出したり、多額のお金を使いこむなどのことがあります。さらには、窃盗や交通ルールの無視など、反社会的な行動にもつながることもあります。

常同行動

繰り返し行われる行動や習慣をいいます。例えば、「12時になると仕事の途中でも昼食に行く」ことや「雨が降っていても毎朝5時になると散歩に行く」などがあります。周りから注意されると怒ったり、ひどく興奮することがあります。

無気力

意欲が減退し、無気力で何もしない状態になります。思い当たる原因もなく、本人の葛藤もありません。無気力によって活動性が低下することで、閉じこもりや引きこもりなど社会的な活動にも影響が出てきます。

言語障害

前頭側頭型認知症では発語の障害がみられます。発語の際に躊躇したり、どもるなどの症状も見られます。それに伴って発話が減少したり、話すのをためらうこともあります。

 

③症状の経過

初期

人格の変化や行動上の問題が目立ちます。判断力、抑制力も低下して、社会的行動の障害がみられます。例えば、
仕事の能率が低下する、他人の物を勝手に持っていく、相手に不快なことを言うなどの社会生活を送るうえで支障が出てきます。

中期

他人への無関心、無頓着が目立つようになります。相手を無視したり、相手を小馬鹿にしたような対人関係を取るようになります。また、意欲の低下や常同行動も目立つようになります。言葉数も減って言語症状がみられることもあります。

後期

精神機能の荒廃が目立ち、無動無言状態になることがしばしばあります。後期の状態ではアルツハイマー型認知症との鑑別が難しくなります。

 

 

④前頭側頭型認知症の治療法

前頭側頭型認知症の治療にはアルツハイマー型認知症の治療と同じ内容になります。大きく分けて3つの治療方法があります。

  • 薬物療法
  • 心理療法
  • 作業療法

の3つです。それぞれはアルツハイマー型認知症のコラムで紹介しています。こちらを参考にしてください。

アルツハイマー型認知症の治療とは

脱抑制に対する対処

前頭側頭型認知症の症状には、脱抑制があります。衝動が抑えられず、社会的なルールから逸脱した行動を取ってしまいます。この脱抑制に対処する方法として、逸脱を防ぐような環境設定が必要です。例えば、

・盗癖があり施設の備品を盗む
⇒備品を手の届かない位置にしまう

・お金を使いこんでしまう
⇒お金を少額づつ渡す

・交通ルールを無視する
⇒信号のない散歩ルートに変更

などの例が挙げられます。

逸脱した行為によって叱られたり、罰を受けることは本人にとっては、心理的、社会的なダメージが大きいです。脱抑制があっても、逸脱につながる要因を減らしていくことが大事です。

常同行動に対する対処

前頭側頭型認知症の症状に、常同行動があります。常同行動は繰り返し行われる行動や習慣のことをいいます。この常同行動に対処する方法としては、意図的に常同行動を作り上げる、時刻表を作成してスケジュールを立てる、という手法があります。

例えば、「雨の日でも10時になると散歩に行ってしまう」という問題があったら、「好きな編み物の時間に当てて、同じ作業を繰り返す」という行動を促します。そして、以下のようなスケジュールを立てます。

10:00~11:00 編み物
11:00~11:15 片づけ
11:15~11:30 昼食の用意
11:30~12:00 昼食

といったように、編み物活動という常同行動を作り出して繰り返し実施していきます。さらに、スケジュールを立てることで、スケジュールそのものが常同行動になるように促していきます。

支援の力を高めたい方へ

認知症の症状を和らげるには、日々の会話による支援が大事です。私たち公認心理師は、福祉関係の方、ご家族の方向けに、コミュニケーション講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・傾聴スキルトレーニング
・共感の基礎とトレーニング
・話しやすい雰囲気の作り方
・カウンセリングの基礎理論

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

 

前頭側頭型認知症の症状や原因,コミュニケーション講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

「1」高橋三郎,大野裕(2014) DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院