統合失調症の基礎理解
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「統合失調症」です。理解を深めて、症状の改善に役立ていただけたらうれしいです。目次は以下の通りです。
①統合失調症とは
②陽性症状,陰性症状
③破瓜型,緊張型,妄想型
④治療の方針
⑤よくある疑問
⑥障害の社会モデル
当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。
お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。動画にもまとめています。参考にしてみてくださいね♪
①統合失調症とは
定義
統合失調症は次のように定義されています。
異常な行動や考えが起こり妄想、幻聴、意欲の低下が特徴的な精神障害
若い人が高リスク
統合失調症は約80%の方が、15歳から30歳までに発症します。男性の方が女性よりも発症年齢が若い傾向があります。
病識が乏しい
統合失調症の方は、妄想があったとしても、それが病気だと気づけないことがよくあります。病識がないため、通院できず症状が悪化してしまうケースがしばしばあります。
自殺率5~10%
自殺率が非常に高いです。5~10%が自殺をするという統計もあり注意が必要です。特に命令性幻聴がある場合は高リスクになります。
長期化しやすい
厚生労働省(2017)によると、心の病気をもつ約240万人の中で約80万人が統合失調症です。また入院されている方は15万人いらしゃいます。つまり精神病棟における入院患者の約60~70%が統合失調症を患っている方になります。加えて統合失調症の方は、長期入院の問題もあり、30年以上入院されている方もいます。
②陽性症状,陰性症状
統合失調症には大きく分けて「陽性症状」と「陰性症状」の2つの症状があります。
陽性症状
陽性症状は「異常な考え方や行動が活性化してしまう状態」です。典型的には次のような症状があります。
・妄想
非現実的なことがあたかも現実に起こていると信じ込んでしまいます。例えば「自分の悪口を言っている」「監視されている」といった被害妄想が代表的症状になります。
私が相談を受けた事例を紹介します。個人情報があるので事実と少し変えています。相談者は24歳の女性。マンションの6階に住んでいらっしゃいました。彼女の相談は
「男子高校生100人くらいの罵声がマンション外から毎日する」
でした。相談時点で少しおかしいと思いましたが、まずは実際に調べてみました。するとマンション近くに高校はありませんでした。
そこで私は統合失調症かもしれないと考え診断を促したところ、統合失調症の診断がおりました。一般的に統合失調症は、病気の意識が無い点も特徴になります。このように「悪口を言われていている」「誰かに見張られている」というのは陽性症状の典型的な症状になります。
・幻聴
幻聴にもいろいろな種類がありますが、典型的には「命令性の幻聴」が挙げられます。命令性の幻聴は、誰もいないのに「消えてなくなれ!」と自殺を促すような声が聞こえてきたり「誰かをなぐれ!」と他者を攻撃させうようとする声が聞こえてきたりします。
・支離滅裂
会話には流れがあります。しかし統合失調症になると、文脈がめちゃくちゃになってしまい、周囲の人は理解できなくなってしまう事もあります。
・思考伝播
自分の考えが他人に知られてしまうと感じる症状です。例えば、健常者の方であれば「心に秘めた秘密は黙っていれば当然皆にはばれていない」と感じます。一方で統合失調症の方は「例え黙っていたとしても、自分の考えや秘密が皆にばれている」という感覚になります。極論すれば、自分の考えは世界中の人が知っているという感覚になってしまいます。
陰性症状
陰性症状は「人間らしい活発な活動が無くなっていく状態」です。典型的には次のような症状があります。
・会話量が低下
雑談をしようとして懸命に話しかけても、短くて素っ気なく返すようになってしまいます。
・興味の減退
何か目的をもって行動をしたり、興味や関心を持つことができなくなります。
・感情表現が不足
重症化すると感情表現がほとんどなくなってしまいます。一日中無表情でボーっと過ごす方もいらっしゃいます。
・ひきこもり
会話力が低下し感情表現も不足するため、社会生活が難しくなります。生活が引きこもりがちになり、社会的なスキルが更に落ちていくという悪循環に陥ることもあります。
③破瓜型,緊張型,妄想型
統合失調症は、個人差が大きい疾患ですが、代表的には3つの型があります。
破瓜型
破瓜(はか)型は、思春期から青年期までに発病することが多い統合失調症です。感情の起伏が起こらなくなる、意欲が低下するなど陰性症状が中心となります。
緊張型
主に青年期に突然発症する傾向があります。理由なく叫び声をあげるようになたり、身体の動きがぎこちなくなっていきます。周囲への反応がにぶくなることもあります。
妄想型
主に30代前後に発症します。もっとも発症のタイミングが遅い統合失調症です。その名の通り、妄想や幻聴の症状が現れてきます。妄想型は、妄想以外の力は正常に保たれていることが多いです。友人がいたり、安定した人柄の方もたくさんいらっしゃいます。
④治療の方針
薬物療法
統合失調症は脳の問題が非常に大きい疾患になるため、薬物療法が基本となります。代表的な薬には、古くから使われている「定型抗精神病薬」、比較的新しい「非定型抗精神病薬」の2種類があります。統合失調症は個人差が非常に大きい病気になるため、お薬の処方も慎重に見極めていく必要があります。信頼できるお医者さんにしっかり相談して治療を進めてください。
病識を持つ
統合失調症の方は、病気の意識が持てない方が多いです。病識がないと、服薬の継続が難しく、治療がすすんでいかないという結果に繋がります。統合失調症は、薬をやめると再発率が非常に高くなる疾患です。患者自身も病気を理解していく必要があります。
全体の流れを抑える
統合失調症の治療は、長期戦になることが多いです。焦ることなく治療に専念するためにも、回復までのプロセスを頭に入れておく必要があります。
引用:所沢市
・前駆期(ぜんくき)
発症の前触れのような変化がみられる時期です。眠れなくなったり、少し支離滅裂になってきたりします。
・急性期
幻覚や妄想などの陽性症状が目立つ時期です。頭の中が混乱し、周囲とのコミュニケーションがうまくとれなくなる非常につらい時期です。病院に行く方が非常に多い時期になります。
・休息期
通院すると休息期に入り陽性症状が落ち着く傾向にあります。この時期は、感情の起伏がなくなり、無気力になるなど、陰性症状が中心になります。
・回復期
回復期は症状が徐々に治まり、無気力な状態から脱していきます。この時期は、少しづつ社会生活をとり戻すために、心理学を学習したり、作業療法をして生活リズムを整えていくことになります。
統合失調症は急に治るものではありません。長期的な視点で、症状とうまく付き合っていく必要があります。
現実検討力をつける
現実検討力とは、
現実と非現実を客観的、合理的にくべつする力
です。統合失調症の方は、現実的でない出来事をあたかも現実のように受け止めてしまいます。そのため、現実・非現実を判断できるようになる訓練が非常に大切です。現実検討力がついてくると、幻聴があっても「これは幻聴である」と認識できるようになります。現実検討能力は、統合失調症に限らずうつ病や適応障害などの障害にもいかせます。詳しくは、以下のコラムを参考にしてみてください。
行動実験
治療が本格的になってくると、妄想の内容や幻聴の要求に逆らって行動する「行動実験」を行うことがあります。行動実験では、妄想に従うのではなく、実際は正しくないという気づきを得ていきます。
例えば「監視されている。外に出てはならない」という妄想の場合には、実際に外に出る練習をしてみます。外に出てると「監視されて不安」になりますが、行動を繰り返すことで「監視されている」という考えが妄想で正しくないと気が付く方もいます。行動実験は、あくまで本格的な治療で行う心理療法であることを抑えておきましょう。
作業療法
作業療法は、日々の生活でできなかったことをできるようにする療法です。具体的には「料理をする」「着替えができる」「買い物ができて保存ができる」などの作業を、作業療法士の方と一緒に練習をしていきます。統合失調症の方は、引きこもりや入院など長期化する方が多く、日々の生活が苦手になる方も多いです。作業療法を行うことで社会生活が健康的に行えるようにしていきます。
⑤よくある疑問
統合失調症はあぶない?遺伝する?など、統合失調症についてよくある疑問にお答えしたいと思います。
統合失調症の方の犯罪の内訳は公開されていません。理由は分かりませんが、おそらく差別や偏見につながるからだと思います。これを前提に、今回は少し枠を広げて精神障害の犯罪率からお話を進めたいと思います。
まずは、犯罪者数に対して精神疾患を持っている方の割合が大きいかという点についてです。現在、精神障害者の数は約420万人です。日本の総人口に占める割合はざっくり3%になります。3%を下回る場合は一般の方よりも、犯罪のリスクが少ないと考えられます。以下は警視庁がまとめた、精神障害者による刑法犯の検挙人数や比率をまとめたものです。
「窃盗」「詐欺」は少ないことがわかります。ただし「殺人」「放火」はリスクが高いと言えます。
この点は社会全体として、リスクがあることを共通認識としてもち、犯罪が起きない仕組み作りをすることが大切だと思います。命令性の幻聴など攻撃性のある妄想をもつ方は、注意が必要です。危険がある時には、措置入院・医療保護入院という制度があるので、保健所に通報してみるのもいいでしょう。
統合失調症は、治療を中断すると再発リスクが高い疾患です。薬をやめると1年後には約70~80%の人が再発するという統計もあります。一方で、薬を継続した場合は治る率が70%ほどになります。さらにリハビリテーションなどの治療を組み合わせることで約90%が改善したという統計もあります。
私たちはさまざまな病気にかかります。その中には、完治ができな疾患もあり上手く付き合っている方もいらっしゃると思います。統合失調症も上手く付き合っていくことができる疾患です。信頼できる先生と継続して治療を進めることが大切です。
結論からいうと、遺伝する傾向があります。様々な研究がありますが、例えば、
一卵性双生児の一致率は約50%
二卵性双生児の一致率は約10%
片親が統合失調症の場合の子供の発症率は約10%
この数字を逆に考えると、全く同じ遺伝子(一卵性双生児)でも50%は遺伝しないことになります。つまり環境を整えるなどすれば、予防できるということです。
統合失調症を理由に結婚を反対されるケースがあったりしますが、片親の場合での遺伝は10%にしか過ぎません。統合失調症は、薬とリハビリを行えば、90%ぐらいの方が回復することもぜひ抑えておいてください。
➅障害の社会モデル
最後に精神保健福祉の重要な概念を皆さんにお伝えしたいと思います。障害を考える上での2つの哲学「医学モデル」「障害の社会モデル」です。
医学モデルとは何か
医学モデルは20世紀型のモデルになります。医学モデルは、
身体や心の機能に問題があると障害
と考えていきます。例えば「妄想が出る」という方がいたら「妄想=異常な障害」と考え「障害」だから薬を処方しようという考え方になります。
社会モデルとは何か
一方で2000年あたりから重要視されてきた障害の社会モデルは
身体と心の問題は個性と考え、それを受け入れる社会の仕組みがない場合にはじめて障害
と考えていきます。例えば「妄想が出る」という方がいたら、「妄想=個性」と考えます。そのうえで社会の対応が無い場合は「障害」、ある場合は「障害ではない」と考えます。
障害の社会モデルでは、異常で少数の例外的に起こる症状として捉えるのではなく、ごくごく当たり前に起こるひとつの症状と考えていきます。そのうえでこの個性をもった人が生きていける社会の仕組みがない場合は障害とします。
統合失調症と社会のあり方
社会の対応というのは、国の制度や私たちの偏見や差別も含みます。つまり差別や偏見が続く限りは統合失調症はずっと重たい障害になるのです。逆に私たちが正しく理解して苦しまないような社会を作っていけば、障害としてかなり軽いものになるかもしれないということはぜひ抑えておいてほしいと感じています。
まとめ
これまで「統合失調症」コラムにお付き合いしていただき、ありがとうございました。統合失調症は3本の指に入る精神疾患です。妄想、幻聴、支離滅裂になる症状は、引きこもりや長期入院の問題などにも発展します。症状の理解を深めて早期治療をしてほしいと思います。
心理療法の講座のお知らせ
心理療法や人間関係を学びたい!という方は良かったら私たち公認心理師が開催している、心理学講座への参加をおすすめしています。講座では
・認知行動療法の学習
・認知の歪みの改善
・感情のコントロール法
・傾聴方法
などを学習していきます。参加のタイミングとしては、社会復帰の準備をしている時期、復帰後に再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリック♪↓