現実検討能力,反証とは何か?合理的に考える力
はじめまして!公認心理師の川島です。今回のテーマは
「現実検討能力」
です。

当コラムの目的
・現実検討能力を理解する
・練習問題にチャレンジ
・合理的に考える癖をつける
- 全体の目次
- 入門①現実検討能力とは何か
- 入門②練習問題にチャレンジ
- 入門③自分の問題で考えよう
- 発展-認知療法を学ぶ
- 発展-認知の複雑性練習
入門①~③を読み進めていくと、基本的な知識と対策を抑えることができると思います。是非入門編は最後までご一読ください。もしお役に立てたなら、初学者向け心理学講座でもぜひお待ちしています。
入門①現実検討能力とは
意味
現実検討(吟味)能力とは、沸き起こる感情や考えが合理的、現実的なものかを判断する能力で、反証、現実吟味と言ったりもします。
心理学辞典(1999)では現実吟味が以下のように定義されています。
現実に存在している・起こっている事柄と客観的・合理的に定期号した認知を成立させることであり、現実と非現実を区別する働きである
人はそれぞれ独自の世界観を持って物事を解釈しています。悩みが深くなっているとき、この解釈がよくゆがむことがあります。
特にうつ病や統合失調症の方と対応するときは、現実検討能力が低下しやすく、専門家同士での会話や、カウンセリングの記録紙でよく見られる用語です。
現実検討が苦手な人
例えば、会社でスピーチをする場面があったとします。この時、緊張のあまり声が震えたとしましょう。すると、職場の仲間が「笑っているように見えた」とします。
このとき現実検討能力がない方は
「無能だと思われた」
「もう仕事では俺の出世はない」
「絶対に裏で悪口言っているよな」
と考え頭の中で妄想してしまうのです。しかし、これらの考えの根拠は「笑っているように見えた」だけなのです。
現実検討が得意な人
これに対して現実検討ができる方はどのように考えるのでしょうか?
「あくまで笑っているように見えただけ」
「笑うという事は嫌われたわけではない」
「今後の担当を外されたわけではない」
「緊張したから評価を下げるような上司ではない」
このように、根拠のない感情や思考について、しっかり見直していくことができるのです。
視野が狭いと抑うつになりやすい
現実検討力とよく似た概念で「認知的複雑性」という言葉があります。認知的複雑性とは、1つの物事の見方ではなく、様々な角度から考えることを意味します。
認知的複雑性がある方は、抑うつ感が少ないことが分かっています。「複雑」というとネガティブなイメージがありますが、心理学的には、ポジティブな意味になるのですね。
*深く理解したい方は下記動画を参照ください
現実検討-具体的な方法
ここからは、現実検討の具体的な方法を紹介していきます。コラムでは、簡略版として3つの質問に答える方法を実践してみましょう。
練習として、まずは今心配していることを紙に書き出してください。そして、次の質問に答えてみてください。
①心配事が起こる根拠はある?
心配していることが現実に起こるという証拠や根拠はあるでしょうか。探してみてください。
②何%くらいの確率で起こる?
心配していることが本当に起こりそうな確率は何%でしょうか。感覚的なものでいいですから、数値を出してみてください。
③過去に同じような心配事は起こった?
過去に、今心配しているような状況があったでしょうか。あった場合、今まではどのようなことが起き、結果どうなってきたでしょうか。
入門①鍵かけたっけ?練習
ここでは、例題を通して心配性になりやすい考えについて現実検討・反証の練習をしてみましょう。
例題
タロウさんの状況
・幼い頃から心配性
・外出後、鍵を閉めたか、電気は消したか心配になる
・もし鍵を閉めてなかったら…と心が落ち着かなくなる
3つの質問を通して反証してみましょう。
①心配事が起こる根拠はある?
→
②何%くらいの確率で起こる?
→
③過去に同じような心配事は起こった?
→
解答例
①心配事が起こる根拠はある?
→鍵を確かに閉めた記憶はあるのだから、鍵が閉まっていないという証拠はありません。
②何%くらいの確率で起こる?
→鍵を閉めたはずなのに鍵がかかっていない確率はかなり低いでしょう。1%くらいでしょうか。
③過去に同じような心配事は起こった?
→今までも鍵が閉まってなかったらどうしようと心配になることはありましたが、本当に鍵が閉まっていなかったことはありませんでした。
3つの質問で反証したところ、鍵の閉め忘れが心配になっても、実際に閉め忘れている可能性は低いと考えられます。タロウさんは「鍵はかけたから大丈夫」と言い聞かせて、心配性な考えを止めるようにしました。
より練習を深めたい方をは下記をクリックしてみてください。
それでは事例で実際に練習してみましょう!
事例
登場人物
太郎君 サッカー選手 フォワード
出来事
PKを失敗…チームは敗北してしまった 監督から「今回の敗因は心の弱さだ」と怒られた。
問題
現実検討力が
ない方は
どう考えるでしょうか?
ある人は
どのように考えそうですか?
解答例
ない人
「自分は無能だ」
「自分さえいなければチームは勝てたはずだ」
「自分はダメな人間で必要のない存在なんだ」
ある人
「PKはプロでも20%は外す」
「毎回ミスをしているわけではない」
「反省点を教えてくれた。メンタルも鍛えられる」
「失敗もあったが、チームに貢献できた部分もかなりあった」
否定されたとき、挫折をしたとき、感情が先に立って現実検討することが難しくなることがあります。人間なので、落ち込むのは自然なことですが、ある程度落ち着いたら以下の3ステップで、現実検討してみましょう。
質問①
最近否定をされたり、失敗して、落ち込んだことはありますか?その時どんなことを考えていましたか?
→
質問②
その考えは現実的でしょうか?
→
質問③
もし現実的でない部分がある場合、否定を拡大解釈せず、現実検討をしたらどのような考えになるでしょうか?
→
心配性を克服しよう!
練習問題はいかがでしたか。3つの質問に答える方法を行うと、次のような効果があります。
①簡単には起こらない!大丈夫
「心配事が起こる根拠はある?」この質問に答えることで、心配していることが「もし〜だったらどうしよう」と仮定しているだけだと気づけます。現実にはそう簡単には起こらないかもしれない、だから大丈夫かもしれない、と考えを改めるきっかけになります。
②現実検討能力の向上
「何%くらいの確率で起こる?」この質問に答えることで、心配していることを冷静に、そして客観的にみつめることができます。心配なことは、よく考えてみると現実には起こらないかも…と考え直せることがあります。このように現実的に考える力を現実検討と言います。確率で計算することは現実検討能力の向上につながります。
③乗り越える勇気が出る
「過去に同じような心配事は起こった?」この質問に答えることで、今心配していることと過去の経験とを照らし合わせ、より適応的な考え方ができるようにします。今までは何とかなってきたのだから、今回も乗り越えられるかもしれない、などと考えられるとよいでしょう。
現実検討-発展
認知療法
現実検討力をつける上では、認知療法がおススメです。今回はより柔軟な思考を身に着けたい方は、下記のコラムを読んでみてください。
認知の複雑性-練習動画,悪口を言われた時
よくある事例として、悪口を言われた時の練習問題を作成しました。参考にしてみてください。
まとめとお知らせ♪
今回は「現実検討」を紹介してきました。否定的な言葉を投げかけられたり、理不尽なことがあると過剰反応しがちですが、よくよく考えてみると、部分的な出来事だったりするのです。冷静な考え方で現実検討能力を高めるようにぜひ実践してみてください。
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現実検討とは聞き慣れない言葉でしたが、非現実の中でぐるぐるするタイプなので自分にはとても重要な方法というのがわかりました。
瞬間湯沸かし器な自分が客観かつ冷静に対応するために、現実検討能力を高めていくことにします。