学習障害と症状,治療法

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している臨床心理士の森、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「学習障害」です。

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学習障害は発達障害の中でも中心となる障害です。当コラムでは基礎から一通り解説していきます。目次は以下の通りです。

①学習障害とは何か
②学習障害の原因
③治療法
④精神保健福祉制度
➄当事者の体験談
⑥心理師として感じていること

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

①学習障害と症状

診断基準

学習障害とは以下の意味があります。

全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの能力の習得と使用が、実年齢より著名に低い状態

英語ではSpecific learning disorderとされ、SLDやLDと簡略していうこともあります。学習障害とは主に、識字障害、書事障害、算数障害の3つが代表的です。また運動機能の不器用さも特徴的です。詳しい診断基準は以下の通りです。

アメリカ精神医学会によるDSM-5「1」の診断基準は以下の通りです。DSM-5では”限局性学習症”として基準が設定されています。

A.学習や学業的技能の仕様に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにも関わらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6か月間持続していることで明らかになる

(1)不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたはゆっくりとためらいがちに音読する)
(2)読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、または深い意味を理解していないかもしれない)
(3)綴字の困難さ(例:母音や子音を付け加えたり、入れ忘れたり置き換えたりするかもしれない)
(4)書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
(5)数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係性の理解に乏しい、1桁の足し算を指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
(6)数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)

B.欠陥のある学業的技能はその人の暦年齢に期待されるよりも著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施工の標準化された到達尺度及び総合的な臨床評価で確認されている。17歳以上の人においては確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてもよいかもしれない

C.学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求がその人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない

D.学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない

 

読字障害

ディスレクシア(dyslexia)と呼ばれます。文章を読むことが極端に苦手な症状です。具体的には、

・文を途中で区切ってしまう
・行間が狭いと読みにくくなる
・濁音など特殊な音韻が苦手
・本を読んでいるとすぐに疲れる

などの症状がみられます。以下は識字障害の方のわかりやすい動画となります。

書字障害

文字を書くことが極端に苦手な症状です。具体的には

・文字の形が理解できない
・実在しない文字を書いてしまう
・同じ読み方の別の漢字を当てる
(例:散歩→算歩)
・送り仮名を間違える
(例:一人→一人り)

特に、日本語には「ひらがな」「カタカナ」「漢字」と複数の書き方があるので、アルファベットよりも書字障害が生じやすいといわれています。以下は書字障害の方のわかりやすい動画となります。

算数障害

計算することが極端に苦手な症状です。具体的には、

・数の概念が理解できない
・暗算ができない
・筆算が不正確
・数学的推論ができない

などの症状があります。以下は算数障害の方のわかりやすい動画となります。

 

②学習障害の原因

学習障害は、脳の微細な機能不全が原因であるとされています。考えられる原因としては、遺伝的な問題、妊娠中の喫煙、アルコール依存、毒性のある薬剤の使用、低出生体重、重度の黄疸、虐待、視空間認知の問題、など複数が挙げられます。

一方で確実な原因が解明されているわけではなく、極めて健康な育成環境でも学習障害になってしまう方はたくさんいます。そのため親はいたずらに自責の念に駆られないようにしなくてはなりません。

吉田ら(2020)「2」は、「漢字の画数の多さ」は「読み書きの成績」にどれぐらい影響するかについて調査を行いました。その結果の一部が下図となります。

読み書き両方の成績が低い児童は、書きのみ成績が低い児童は、漢字の画数が多くなると成績が下がりやすいという結果が出ています。漢字を書く上では「文字を形として読み取る力(視空間認知)」「形のイメージを再現する力」が必要です。どちらかに障害があると、複雑な漢字の書き出しが困難になると推測されます。

秋元(2017)「3」では、算数障害の原因について調査をしています。算数のつまずきの仕方から4つの群に分けて、その特徴を分けています。

①群:視空間認知の障害が推察され、イメージを扱うことが苦手。金額の見積もりなどの概算が難しく、500-200のような簡単な計算も暗算ではなく筆算するなどの特徴がある。

②群:注意や記憶の問題が推察される。計算のケアレスミスが目立つ。イメージが思い浮かばない。

③群:数字や数式の取得が困難。かけ算の九九を覚えて唱えるなど、手続き的な知識の得点が低い。

④群:ディスレクシアを伴う群で、桁数の多い数字をスムーズに読むことができない。

以上の群の中で③群、④群の中には算数障害の対象児が含まれるとして、①群の中でも空間性計算障害が顕著な対象児は算数障害と診断される可能性があるとしています。

このように算数障害の原因には、視空間認知や注意・記憶、イメージ的な思考が難しいなどの複数の要因が含まれていることがわかります。

 

③学習障害の治療法

学習障害は遺伝の影響が強いため、治療というよりも、うまく付き合っていくことが大事になります。当コラムでは、臨床心理学や精神保健福祉の観点からよく使う対策を紹介します。

①心理教育
②個別指導とスモールステップ
③感覚統合論
④代替機器の活用
⑤SST
⑥環境調整

①心理教育

学習障害に対しては、自己理解を深めることは何より大事です。障害の特性を理解すると、混乱することが減る、人間関係の失敗が減る、自分を受け入れるきっかけになる、という効果があります。具体的には専門家から説明を受ける、書籍を読む、学習障害の当事者の動画を見るなどが挙げられます。

②個別指導

学習障害の方は集団の講義ではおいていかれることが多く、個別指導で丁寧に成長を促すことが大事です。また個人指導はスモールステップで、挫折感の内容に充分配慮しなくてはなりません。

③感覚統合論

感覚統合理論とは、感覚と脳の処理過程を促進することで、学習能力をの向上を促す方法です。感覚統合理論では、感覚入力と脳の処理能力が低下が学習の困難さにつながると仮定しています。

具体的なやり方の一例を知りたい方は以下の折り畳みを参照ください。

フラミンゴのまね⇒バランス感覚

 

積み木⇒目と手の協調性

 

同じ絵探し⇒視知覚

これらは対象者自身が主体的に取り組めるように、遊びを通して感覚の反応を促すことが大事です。

 

④代替機器の活用

機器で能力を補える場合は、その使用法を教えることも大事です。電卓を使う、音声読み上げ機能、ワープロなどが挙げられます。現在ですが。テキストをスキャンすると読み上げてくれるソフトもあります。このような機器を積極的に活用していきましょう。

⑤SST

SSTはソーシャルスキルトレーニングの略で、社会性を身に着ける様々なトレーニングの総称です。学習障害の方でも、SSTを学ぶと随分会話が楽になります。例えば、学習障害の方は、人の話を聴く際に、何を返せばいいかわからず困惑してしまう方がいます。この時、「オウム返し法」という技術を学び、いったん相手の話を受け止める訓練をすると、自然な会話に近い雰囲気を作ることができます。SSTは弊社で学生向け、成人向けの講座がありますので参考にしてみてください。

学生向けSST講座
大人向けSST講座

⑥環境調整

学習障害は学校や家庭での環境調整が大事です。例えば、授業の流れを黒板に板書して、先を見通せる授業を心がける、時計をデジタルではなくアナログにするなどが挙げられます。

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④精神保健福祉制度

学習障害については様々な使える制度や支援機関があります。サポート体制を充実させるためにも参考にしてみてください。

発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害児(者)への支援を総合的に行うことを目的とした専門的機関です。発達障害児(者)とその家族が豊かな地域生活を送れるように、総合的な支援ネットワークを構築しています。相談も無料で行ってくれるので是非訪ねてみてください。

通級,特別支援学級

学習症の治療の特徴の一つとして、教育的な支援があげられます。学校での支援として、「通級」「特別支援学級」という教育体制があります。通級とは、通常の学級とは別に、それぞれの生徒に応じた指導・支援を受けるものです。国の調査(2020)「4」の調査によると児童数は増加傾向にあります。

相談支援事業
相談支援事業は生活全般についてのあらゆる相談に乗ってくれる支援事業です。専門の支援員がついてくれるので物理的にも精神的にも大きな心の支えになってくれます。是非利用してみてください。

精神障害者保健福祉手帳の手引き
各種割引が受けられる手帳です。医療費が安くなる、交通機関を安く利用できる、などのメリットがあります。学習障害の診断を受けた方は取得することをおすすめします。

障害者就労支援
学習障害の方は大きくわけて、一般就労をされる方と、障害者向けの就労支援を利用される方がいます。一般就労で活躍している方もたくさんいらっしゃる一方で、理解をされず苦しむ方もいらっしゃいます。障害者就労支援制度では、症状を理解する支援員のもと、健康的に仕事を続けることができます。

➄当事者の体験談

学習障害を理解するには、当事者方の体験談が参考になります。理解を深めたい方は参考にしてみてください。

まさくんの体験談

⑥心理師として感じていること

私たちは1つとして同じ顔はありません。体重、身長もバラバラです。脳にも個性があり、できることできないことに個人差があります。学習障害の方は特定のことができないところもありますが、自責をせず、顔つきや身長の違いのように個性の1つとして考えて欲しいと感じています。

そして自分ができないことばかりに目を向けるのではなく、できることに目を向け、自信を持って人生を切り開いていってほしいと感じています。

講座のお知らせ

「学習障害」コラムにお付き合いしていただき、ありがとうございました。

最後にお知らせがあります。発達障害は、心理療法やソーシャルスキルを学ぶと、社会に適応的な面を増やせることがわかっています。心理療法や人間関係を学びたい方は、私たち公認心理師が開催している講座への参加をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知行動療法の学習
・ソーシャルスキルトレーニング(SST)
・感情のコントロール法
・健康的な生活環境の作り方

興味がある方は以下の看板をクリックください。皆さんのご来場をお待ちしています。

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

「1」アメリカ精神医学会 診断基準 DSM5
「2」吉田有里,中知華穂,銘苅実土,高橋昇希,小池敏英, 藤野博(2020)小学校通常学級における漢字書き困難と視空間認知能力との関連に関する検討:多画数効果に着目して 東京学芸大学紀要41,29-43

「3」秋元有子(2017) 数学的思考の視点から見た算数障害 日本教育心理学会65(1),106-119

「4」特別支援教育に係る主な論点 : 15年目を迎える特別支援教育の現状と課題 竹内 健太 立法と調査  2020 参議院事務局