森田療法で視線恐怖克服

皆さんこんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、社交不安症の専門カウンセリングを行っています(興味がある方はこちら)。視線恐怖症コラム1では治療方法を概観してきました。今回は「あるがまま森田療法」について解説していきます。

森田療法,視線恐怖症,はるかむぎ様

森田療法は100年近く前に、森田正馬という精神科医が提唱した心理療法です。筆者の川島も20代の前半に、この療法と出会い随分助けられました。以下森田療法の考え方と、視線恐怖への応用に仕方をお伝えします。

 

視線恐怖と「とらわれ」

小川(1974)[1]は対人恐怖症の方の心のあり方を以下のように表現しています。

対人恐怖症の場合、極めて意識性に富み、自己内省的で、対人場面における自己の一挙一投足を極端なまでに意識し、それにこだわり、そこから由来する不安について悩む

かなり難しい表現ですね。もう少しわかりやすく解説します。

視線が怖くなると、四六時中、視線のことを考える状態になります。例えば、相手の表情が少しでも悪くなると、私と目が合って不快に思ったに違いない…と考えて行きます。

その結果、人が怖いという感覚が強くなり、人の視線が怖い、視線が怖い状態を改善したい、と考え続けるのです。

このように視線恐怖症の方は「視線」に人一倍こだわっている言えます。目を合わせると嫌われる、目があうと相手が不快に思う、目を合わせると緊張がばれる・・・など、

とにかく、目、目、目、目、目とこだわっていると言えるのです。

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精神交互作用とあるがまま

精神交互作用

このように、こだわるほどその症状が悪化する悪循環を精神交互作用といいます。これは日本人の心理療法家である森田正馬が提唱した概念です。下の図が精神交互作用のメカニズムです。

精神交互作用のメカニズムの図と視線恐怖症の克服方法

 

あるがままとは

精神交互作用を断ち切るには森田正馬が考えた「あるがまま」の姿勢が有効です。あるがままには以下の特徴があります。

恐怖心を打ち消そうとしない
そのまま受け入れる
前向きな目的に注意を向け行動する

視線恐怖の症状は、視線に執着することによって起こります。それをなくそうともがくのではなく、今自分がやるべきことを実行してゆく!という姿勢を持つことが大事だと森田は主張しています。

 

あるがまま具体例

ここで次の例題について考えてみましょう。

今日は、初めての習い事の日だなぁ…人と話せるようになりたいな、でも行くと緊張してパニックになるし、視線が怖いなぁ…

このようなお悩みについて、あるがままで考えた場合どのような心構えになりそうでしょうか。

 

解答例

緊張して震えるくらい視線が怖い。でもこの気持ちはあるがままの姿勢で自然なことと考えよう。視線が怖い、怖くないにこだわらず、やるべきことをやろう。

このように、見られる恐怖を取り除こうとせずに、恐怖心を感じながら、その恐怖を受け入れて、行動に移して行くのがコツです。

それができたら話がはやい・・・という皆さんの声が聞こえてきます(^^; もちろんすぐには難しいですが、「こだわりすぎない」という姿勢は少しずつ増やすようにしてみてください。

森田療法については以下のコラムで詳しく解説しています。理解を深めたい方は参照ください。

森田療法の基礎理解

 

あるがまま,視線恐怖症,はるかむぎ様

 

*補足 研究紹介

筑波大学の八重澤・吉田(1981)ら[2]は、18~30歳の女子大生38名を対象に視線と人間の心理について実験しました。その結果、神経質傾向が高い人は、心(認知反応)と身体(生理反応)のギャップが大きいことがわかりました。

つまり
神経質で気にしがちな人ほど
身体は緊張していないのに
心は過敏に不安や緊張を感じている

と言えます。わかりやすく表現すると、は緊張していないに、は「緊張している!どうにかしなきゃ!」と神経質になっていると言えます。視線恐怖の人は、自分の体の小さな変化を必要以上に大げさに捉えていると解釈できるかもしれません。

まとめ

視線にこだわり、視線の中で人生を過ごすのではなく、前向きに自分らしく生きてゆけるよう、森田療法の『あるがまま』に取り組んでみてくださいね。視線へのこだわりが、少しでも軽減されつことを願っています。

カウンセリングのお知らせ

心理療法を独学で学ぶことに不安がある場合は、専門家の元でしっかり学ぶこともお勧めしています。筆者の川島は社交不安症のカウンセリングを行っています。内容は以下の通りです。

・人の目を気にする心理の改善
・精神交互作用の学習
・緊張緩和法の学習
・人と楽しく会話をする練習

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。まずは気軽にご相談ください。

社交不安障害, カウンセリング

 

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 小川捷之(1974).いわゆる対人恐怖症における「悩み」の構造に関する研究 横浜国立大学教育紀要,14:1-33

[2] 八重澤敏男,吉田富二雄(1981).他者接近に対する生理・認知反応生理指標・心理評定の多次元解析 心理学研究 52(3), 166-172