対人恐怖症の克服の仕方

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「対人恐怖症」をテーマに解説していきます。目次は以下の通りです。

人前に立つと緊張する

①はじめに
②対人恐怖症とは何か
③対人恐怖症と2つの型
④10代から始まる原因
⑤対人恐怖症の克服法
⑥具体的な事例

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

①はじめに

対人恐怖症は筆者の川島にとって極めて思い入れがあります。なぜなら私自身がこの症状に悩まされてきたからです。私の対人恐怖は14歳からはじまり、22歳まで続きました。ピーク時は、視線恐怖、吃音症、自殺企図も起こり、生きることに疲れていたこともありました。

そんな私もアラフォーとなり、当時の私が陥っていた心理状態を、冷静に分析できる年齢になってきました。当コラムでは、学術的な話と私の体験談などを盛り込みながらお話できればと思います。

対人恐怖症で生活に困る

②対人恐怖症とは何か?

意味

対人恐怖症とは精神医学事典(2011)[1]によると以下のように定義されています。

対人場面において耐え難い不安・緊張を抱くために、対人場面を恐れ・避けようとする神経症の一型

対人恐怖症になると、人間関係において不安を感じて深く悩んだり、回避的になったりするという特徴があります。

研究の始まりは日本

昔から「人に迷惑をかけてはいけない」といった日本人の感覚は対人不安を招きやすいと考えられてきました。森田正馬という心理療法家は最初の対人恐怖の治療者と言われています。

森田が対人恐怖の概念を発見した時期は100年も近く前のことです。森田は対人恐怖を改善する世界で初めての心理療法を開発し、現在では森田療法として世界中で親しまれています。

世界でも認知される

対人恐怖症の治療は日本独自に発展をしてきましたが、だんだんと世界中で似たような症状があることが分かってきました。1980年代になると、アメリカの精神医学会で「社会恐怖」という診断基準が用いられるようになってきました。

その後、1994年に「社会不安障害」、2008年には「社交不安障害」と呼ぶようになりました。さらに日本精神医学会の主導[2]により2014年からは「社交不安症」と呼び名を変える動きもあります。

文化依存症

このように現代では、人間関係で深く悩む場合、一般的には社交不安症という病名が付くことになります。一方で、アメリカ精神医学会の診断基準[3]では「Culture-bound syndrome」の中に日本人特有の文化依存症的な対人恐怖症の記述があります。

社交不安症との違いとしては、「人に迷惑をかけてはならない」とする独特の感覚があるとされてiます。この感覚が強い場合は対人恐怖症として治療をしていく可能性がのこされています。

③対人恐怖症と2つの型

山下(1977)[4]は対人恐怖症を、以下の2つに分類しています。

緊張型

「緊張型」とは、人と話すことや他の人と一緒にいることに対して、強い不安や恐怖を感じます。特に、自分が話しているときや他の人からの評価を受けるときなど、社交的な場で特に強く感じられます。緊張型は対人恐怖症の初期に現れやすく、比較的軽度であるとされています。

対人恐怖症になると、人からバカにされることや、他人に迷惑をかけることを恐れるようになり、会話場面を徹底的に避けるようになります。その結果、会話力が低下し、さらに人間関係が苦手になるという悪循環を抱えがちです。

確信型

「緊張型」が悪化すると「確信型」に発展することがあります。「確信型」とは、自分の容姿、赤面、臭い、視線などに非現実的な思い込みを持つタイプを意味します。赤面症視線恐怖症、醜形恐怖症、自己臭恐怖症などが挙げられます。

例えば、自己臭恐怖症がある人は、無臭にも関わらず、自分の体臭が臭いと思い込み、周りに迷惑をかけているという妄想を持つ方がいます。対人恐怖症の中でも重度であるとされています。確信型の症状を放置しておくと、人間関係が妄想的になり、非現実的な思考で埋め尽くされてしまいます。

堀井(2014)[5]は大学生4461人を対象として対人恐怖心性について調査を行いました。その結果、対人恐怖心性は、様々な恐怖感情と結び付いていることがわかります。

対人恐怖症の心理的影響

例えば上記の図では、対人恐怖心性があると、自己視線恐怖や醜形恐怖になりやすいとされています。

醜形恐怖とは、必要以上に自分の容姿をマイナス評価してしまう心の状態を意味します。例えば、鼻の形が気になる、スタイルが気になるなどを過剰に意識してしまいます。カウンセリングなどを行うと、びっくりするほど美人な方も多く、現実以上に自分をマイナス評価してしまう状態だと言えます。対人恐怖傾向はこのように様々な恐怖症と結びつきやすく、社会性を維持できなくなるリスクがあるため対応が必要です。

 

④10代から始まる原因

10代からはじまる

社交不安障害は、約80%の方が10代で発症します[3]。もし皆さんが対人恐怖症傾向があるとしたら、おそらく10代からはじまったのではないでしょうか?

しかし、この時期に対人恐怖症の勉強をすることはほとんどありません。その結果、対人恐怖をこじらせてしまい、不登校や引きこもりに発展することもあるのです。


図1. 社交不安障害の発症年齢(DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアルより、一部改変)

私的自己意識とは何か

病気というと、普通は子どもか高齢者がかかりやすいものです。一方で、対人恐怖は健康的であるはずの10代に起こるのです。私たちは10歳ぐらいまでは、私的自己意識を主体として生きています。私的自己意識とは、自分の気持ちを中心に考える意識です。

おやつが食べたい!
ゲームがしたい!
遊びにいきたい!

など、自分の感情を優先し、人の目は気にしない!楽しければいい!そんな意識です。私たちは10歳ぐらいまでは私的自己意識の世界で生きていて、他者にしばられず、痛快な時間を過ごしています。

身体の変化

私的自己意識は、中学生頃のあるきっかけを元に段々と変化していきます。そのきっかけとは、身体の変化です。

男子であれば、精通を迎え
女子であれば、初潮を迎えます。

これはなんだ!!とびっくりするわけです。自分だけがおかしいのではないか?と周りの目を気にし始めます。周りと自分と比較しはじめるのです。

人の目を気にする

さらには、思春期は強烈な異性への興味も膨らんできます。初恋で頭がいっぱいになります。

相手が自分のことをどう考えているのか?
私は異性からモテるのか?
綺麗に見られているか?
カッコよくみられているか?

と気になりはじめます。恋だけではなく、その他にも人の目を気にする機会が増えていきます。

レギュラーを取るには先生に評価されないといけない
旅行の班分けで孤立しないようにしないと
内申点をもらうために評価されないと
〇〇と喧嘩した。相手は今どう思っているのだろう

これらの「人の目を気にする心理」がどんどん増えていきます。これは公的自己意識と言います。人の目を気にすることは、社会で生きて行くためにとても大事なことですが、人が怖いという感覚が増えるというデメリットがあるのです。

思春期の青年は、心も未熟です。コントロールの仕方がまだわからないので、公的自己意識が暴走してしまい、対人恐怖がはじまっていくのです。

堀井(2001)[6]は高校生(256名)と大学生(271名)の男女に対して、対人恐怖傾向と公的自己意識に関する調査を行っています。

このように、対人恐怖傾向が高いと公的自己意識も高いという結果が出ています。人の目を気にする心理と、人が怖いという悩みはかなり関連しているのです。

 

会話の内容がおかしくないか不安

 

⑤対人恐怖症の克服法

ここからは対人恐怖症の解決策を紹介していきます。これまで対人恐怖症については様々な改善法が開発されてきています。今回は以下の8つのやり方を提案させて頂きます。

①私的自己意識を増やす
②失敗過敏を修正
③論理療法の学習
④会話の練習をする
⑤徐々に行動範囲を広げる
⑥森田療法の学習
⑦漸進的筋弛緩法で体をほぐす
⑧薬物療法

複数の選択肢があるので、この中からご自身の生活に合いそうなものを組み合わせて取り入れてみてください。

自分の見た目に自信がない

対策① 私的自己意識を増やす

対人恐怖の中核的な心理は人の目を気にする公的自己意識の過剰にあります。必ず抑えておきたいのが、

公的自己意識を減らす
私的自己意識を増やす

この2点です。周りの目を気にする傾向がある方は、下記のコラムをぜひ参考にしてみてください。後半に練習問題があるので取り組んでみてくださいね。

人の目を気にする意識の改善

 

対策② 失敗過敏を改善する

対人恐怖傾向があるか方は、失敗を恐れやすいことがわかっています。

嫌われてはならない
人前で緊張してはいけない
絶対にミスをしてはいけない

このような感覚がある方は要注意です。失敗過敏を改善するには、考え方を積極的に修正していく必要があります。例えば、

会話を弾ませよう!
友人と仲良くありたい
相手を褒めるぞ!

とイメージするのです。前者はミスをなくす、とネガティブな方向に向いています。逆に後者はプラスに目が向いていますね。

人と接するときに失敗するイメージをしてしまう方は下記の失敗は成功のもとコラムを参考にしてみてください。前向きなイメージをする練習ができます。

失敗怖い…を前向きにする練習

 

対策③ 論理療法の学習

対人恐怖症がある方は、非現実的な考え方に支配されていることがあります。例えば、

あがり症は恥ずかしいことだ
緊張している自分は笑われる
顔が赤くなると評価が下がる

このような強い思い込みが見られます。この点については、現実的に考える練習をすると、緊張がほぐれ現実的な行動をしやすくなります。

考え方が極端になっているかも…と感じる方は下記のコラムを参照ください。

論理療法の基礎

 

対策④ 会話の練習をする

対人恐怖の時期は、人との会話量が減るため、会話の苦手意識が生まれます。会話の苦手意識が生まれると、さらに人が怖くなるという悪循環に陥りやすくなります。

ここで意識してほしいことが、会話の力が落ちないように、練習をしていくことです。ただし会話の練習について、対人恐怖の状態から独学で克服していくのは、かなり難しいので、専門家に習うことをおすすめしています。

会話が苦手な方は学生向け、成人向けの講座がありますので参考にしてみてください。公認心理師主催で、開催しています。

学生向けSST講座
大人向けSST講座

 

対策⑤ 徐々に行動範囲を広げる

対人恐怖傾向がある方の特徴として、回避癖があります。

心理学的に回避は、特定の不安を強くしてしまうことが分かっています。対人恐怖は、人が怖いから、人を避けることでさらに不安を強くしてしまっているのです。

その意味で、克服するには最終的には、大変ですが行動することで改善していかなくてはなりません。しかし。突然行動しよう!と言われてもそれができないから困ってしまうと思います。

この点については、スモールステップを作って少しづつ行動範囲を広げていくことが大事です。具体的には下記の行動療法をぜひ学習していきましょう。

スモールステップー行動療法

 

対策⑥ 森田療法

対人恐怖症の伝統的な改善法としては森田療法がとてもおすすめです。

森田療法は、ざっくりとですが、対人恐怖の症状を無理やり治そうとするのではなく、自然なものとして受け入れながら、やるべきことをやりなさい。

という心理療法になります。自然なものとして受け入れる…と言う考え方にであり、私自身もすごく救われた記憶がありました。対人恐怖症の方に必須の心理療法です。

是非一度学習してみてください。

森田療法,あるがまま,目的本位

 

対策⑦ 漸進的筋弛緩法

私たちの心と体はつながっています。人と話すときに

体が緊張して固まる
心臓がどきどきする
呼吸が荒くなる
汗が止まらない

これらにあてはまる方は体ほぐすエクササイズがおススメです。具体的には、筋肉の緊張と弛緩の感覚が身につく、漸進的筋弛緩法を練習してみてください。

漸進的筋弛緩法を練習する

 

薬物療法

症状が強く、人と話すことがほどんどできないような状態の方は、医療の力を借りるようにしてください。社交不安障害は誰でもなる心の病気です。

恥ずかしいものではなく、世界中のお医者さんがあなたのために研究を重ね、改善するためのお薬を開発しています。以下対人恐怖とお薬について解説をしています。

特に症状が重たい方は参考にしてみてください。

社交不安症と薬物療法の基礎

⑥具体的な事例

川島の事例

筆者の川島達史は15歳から22歳ぐらいまで対人恐怖症/社交不安症を持っていました。ざっと経験したことは以下の通りです。赤面症、視線恐怖症、表情恐怖、人間関係の徹底的な回避、ひきこもり、ニート、自殺企図…本当に様々な症状を体験してきました。

幸運にも様々な心理療法と巡り合い、少しづつ回復して、社会復帰をすることができました。私は現在、公認心理師、精神保健福祉士として、対人恐怖の改善や、講演活動をしています。参考まで私が克服した際の体験談と動画にしています。興味がある方は下記をご参照ください。

ちえさんの事例

ひきもりさんの事例

まとめ

紹介させて頂いた手法については、いきなり全部試すのではなく、1つに1か月ぐらいかけて実践するぐらいで充分です。じっくり取り組んでみてください。

繰り返しになりますが、対人恐怖症の知識は、一般的には知られていないことが多いです。知らず知らずのうちに悪化してしまうこともあります。

もし当コラムにたどり着いた方がいたら、ご自身のため、そして親しい方のために、紹介した知識や手法を役立てて頂けるとすごくうれしいです。

皆さんが、過度に人を恐れることなく、健康的な人間関係を築かれることを切に願っています。

講座のお知らせ

私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・対人不安の改善法
・緊張の改善,認知行動療法の学習
・人間関係の回避癖を改善する
・ソーシャルスキル(SST)会話力をつける

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

コミュニケーション講座,心理療法の学習

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 加藤敏, ら編(平野羊嗣:分担,編集協力者)(2011).精神医学事典 弘文堂

[2] 清水栄司,佐々木司,鈴木伸一,端詰勝敬,山中学,貝谷久宣,久保木富房(2014).「不安障害」から「不安症」への病名変更案について 不安障害研究,

[3] 監訳  髙橋 三郎,大野裕(2014). DSM5 精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院

[4]  山下格(1977).対人恐怖 金原出版

[6] 堀井俊章(2001).青年期における自己意識と対人恐怖心性との関係 山形大学紀要12,4