~ スクールカウンセラーの方はこちら ~ いじめ問題にSCが関わるタイミングと判断基準
はじめまして!いじめ撲滅委員会代表、公認心理師の栗本顕です。私の専門は「いじめ」です。心理学の大学院で研究もしてきました。現在はいじめの問題を撲滅するべく、研修やカウンセリング活動を行っています。
今回のテーマは「いじめ問題にSCが関わるタイミングと判断基準」です。
スクールカウンセラーとして、いじめ問題にいつ、どのように介入すべきか悩むことはありませんか。学校から相談を受けたとき、教職員や保護者にどうアドバイスすべきか、判断に迷う場面も多いでしょう。いじめ対応では、介入のタイミングと方法が問題解決の鍵を握ります。
目次は以下の通りです。
① SCの専門性と役割
② いじめ問題での介入対象
③ 介入が必要なサイン
④ 早期介入の重要性
⑤ 介入のタイミング判断
⑥ 学校との連携体制
⑦ 相談受付と初期対応
⑧ 被害者への心理的支援
⑨ 加害者への心理的支援
⑩ 医療機関との連携判断
⑪ SC介入の効果と評価
⑫ 介入の障壁と対処法
この記事では、いじめ問題でSCがどのタイミングで介入すべきか、どのような判断基準で動くべきかについて、実践的に解説していきます。ぜひ最後までご一読ください。
SCの専門性と役割
まずは、いじめ問題におけるSCの専門性と役割を再確認しましょう。
心理の専門家としての役割
SCは臨床心理学の専門家として、学校現場に配置されています。教育や指導を行う教職員とは異なり、心理的支援を提供する立場です。いじめ問題では、被害者・加害者・傍観者のアセスメントと心理的ケアが主な役割となります。教職員へのコンサルテーションを通じて、適切な対応方法を助言します。
第三者性と専門性を活かし、学校組織では対応しきれない心理的課題に取り組みます。外部性を保ちながら、組織の一員として機能することが求められます。
配置状況と勤務体制
現在、全国の学校の約7割にSCが配置されています。多くは非常勤で、週1回4~8時間程度の勤務形態です。中学校ではほぼ全校配置が進んでいますが、小学校や高校では配置にばらつきがあります。
複数校を掛け持ちするケースも多く、一校あたりの滞在時間は限られています。この時間的制約の中で、効率的かつ効果的な介入を行う必要があります。優先順位をつけ、緊急度の高いケースから対応することが実践的には重要です。
いじめ問題での介入対象
いじめ問題では、多様な立場の児童生徒が支援対象となります。
被害を受けた子どもの相談
被害児童生徒への対応は、SCの最優先課題です。心的外傷への専門的ケアが求められます。まずは安全な環境を確保し、被害児童が安心して語れる場を提供します。
話を強制せず、本人のペースを尊重することが重要です。PTSD症状の有無をアセスメントし、必要に応じて医療機関と連携します。保護者へのコンサルテーションも並行して行い、家庭での適切なサポート体制を構築します。被害者の心理的回復が、いじめ対応の中核となります。
加害側になった子どもの相談
加害児童生徒への心理的支援も、SCの重要な役割です。諸外国では加害者支援の重要性が認識されています。なぜいじめ行動に至ったのか、背景をアセスメントします。
家庭環境、発達特性、ストレス要因などを多角的に評価します。懲罰的アプローチではなく、共感性の育成と行動変容を目指します。再発防止のための継続的なカウンセリングが必要です。加害者保護者への心理教育も重要な介入ポイントとなります。
傍観者や周囲の子どもの相談
傍観者への介入は、いじめの構造を変える上で効果的です。目撃した児童生徒は罪悪感や無力感を抱えています。同調圧力により加担してしまった児童生徒もいます。
これらの児童生徒の心理状態をアセスメントし、適切な支援を行います。集団力学の観点から、学級全体へのアプローチも検討します。傍観者が援助行動を取れるよう、心理的エンパワーメントを図ります。クラス全体の心理的安全性を高めることが、予防にもつながります。
介入が必要なサイン
早期介入のためには、適切なサインの把握が重要です。
子どもの行動変化
いじめ被害児童には、特徴的な行動変化が見られます。突然の引きこもり、友人関係の断絶、学校活動への参加拒否などです。持ち物の破損や紛失が続く場合も注意が必要です。
こうした行動変化を教職員から聞き取り、早期発見につなげます。観察記録や気づきシートなどのツールを活用し、情報を集約します。SC自身も校内巡回を行い、直接児童生徒の様子を観察します。複数の情報源から総合的にアセスメントすることが重要です。
身体症状の出現
心理的ストレスは身体症状として現れることがあります。頭痛、腹痛、吐き気などの心身症状です。養護教諭からの情報が重要な手がかりとなります。保健室来室の頻度や訴える症状のパターンを分析します。
医療機関を受診しても器質的な異常が見つからない場合、心理的要因を疑います。起立性調節障害や過敏性腸症候群など、ストレス関連疾患の可能性も考慮します。身体症状を入り口に、心理的支援につなげるアプローチが有効です。
学校への恐怖感
学校への恐怖感や回避行動は、重大なサインです。登校渋り、遅刻・早退・欠席の増加が見られます。教室に入れない、特定の授業を避けるなどの行動も現れます。こうした状態が続くと、不登校に移行するリスクが高まります。早急な介入が必要です。
本人だけでなく、保護者からも家庭での様子を聞き取ります。恐怖の対象を特定し、段階的な曝露や環境調整を検討します。学校が安全な場所であると感じられるよう、支援体制を整えます。
早期介入の重要性
いじめ問題では、介入のタイミングが予後を大きく左右します。
心の傷を防ぐため
いじめによる心的外傷は、早期介入で軽減できます。長期化すると複雑性PTSDに発展する可能性があります。自己肯定感の低下、対人関係の障害、抑うつなど、長期的影響が懸念されます。
初期段階での心理的ケアが、トラウマ化を防ぎます。
安全・安心の確保
感情の言語化支援
認知の再構成
などの支援を用います。早期介入により、心理的回復が早まり、予後が改善されることが研究で示されています。
問題の深刻化を防ぐ
いじめは放置すると急速にエスカレートします。言葉の暴力から身体的暴力へ、個人から集団へと拡大します。SNSを通じて問題が広がり、収拾困難になるケースもあります。
早期介入により、エスカレーションを防止できます。被害・加害の固定化を防ぎ、関係性の修復可能性を残します。学級全体への波及を防ぐ効果もあります。組織的な初動対応が、問題の深刻化を防ぐ鍵となります。
不登校への移行を防ぐ
いじめは不登校の主要な要因の一つです。学校への恐怖や不信感が固定化する前の介入が重要です。不登校に移行すると、学習の遅れや進路への影響が生じます。対人関係のスキル獲得機会も失われます。
早期介入により、学校とのつながりを維持できます。段階的な登校支援や別室登校なども活用します。SCが継続的に関わることで、学校復帰への道筋をつけることができます。予防的観点からも、早期介入の意義は大きいです。
介入のタイミング判断
問題の段階に応じて、SCの介入方法を調整します。
いじめ発覚直後の対応
いじめ発覚直後は、危機介入の段階です。被害児童の安全確保が最優先となります。できるだけ早期に面接を実施し、心理状態をアセスメントします。緊急性の判断を行い、必要に応じて即日対応します。
学校の「いじめ対策委員会」に参加し、初動対応について助言します。教職員へのコンサルテーションを通じて、適切な事実確認方法を提案します。この段階での適切な対応が、その後の経過を左右します。
事実確認と情報収集の段階
事実確認では、SCの面接技術が活かされます。被害児童、加害児童、目撃者から丁寧に聞き取ります。二次被害を与えない配慮が必要です。教職員からの観察情報、保護者からの家庭情報も収集します。
複数の情報源を統合し、包括的なアセスメントを行います。いじめの態様、頻度、期間、影響度を評価します。発達特性や家庭環境などの背景要因も分析します。このアセスメントに基づき、具体的な支援計画を立案します。
継続的なケアが必要な時期
いじめ解決後も、継続的な心理的支援が必要です。被害児童の心理的回復には時間がかかります。定期的なカウンセリングで経過を観察します。加害児童への再発防止カウンセリングも継続します。
学級全体の人間関係の変化も見守ります。保護者へのフォローアップも重要です。長期的視点で関わり、再発の兆候を早期に発見します。学校との定期的なカンファレンスで情報共有を図ります。
学校との連携体制
SCは学校組織と協働しながら、いじめ問題に取り組みます。
担任への相談との違い
SCと担任では、役割と機能が異なります。担任は教育・指導の立場、SCは心理支援の専門家です。SCは第三者性を保ちながら、客観的なアセスメントを提供します。
守秘義務の範囲も異なり、SCはより厳密な守秘を求められます。ただし、児童の安全に関わる情報は適切に共有します。担任とSCが相補的に機能することで、包括的支援が可能になります。役割分担を明確にし、連携の仕組みを構築することが重要です。
いじめ対策組織での役割
いじめ防止対策推進法に基づき、学校には「いじめ対策委員会」が設置されています。SCはこの組織の構成員として参加します。心理の専門家として、児童生徒の心理状態について情報提供します。
効果的な対応策について、エビデンスに基づく助言を行います。再発防止策の立案にも関わります。予防的取り組みについても提案します。組織的対応の質を高めるため、SCの専門性が活用されます。
保護者との連携方法
保護者との連携は、SC業務の重要な要素です。被害者保護者の心理的サポートを行います。加害者保護者への心理教育も実施します。家庭での適切な関わり方について助言します。
ただし、保護者との連絡は教職員を通すことが基本です。緊急時や特別な場合のみ、直接連絡を取ります。保護者への対応では、教職員とSCの役割を明確にします。連携の窓口を一本化し、混乱を避けることが大切です。
相談受付と初期対応
SCへの相談受付から初期対応までの流れを整理します。
申し込みの手順
相談受付の手順は、各学校で明確化しておく必要があります。一般的な受付方法は以下になります。
担任経由の申込
養護教諭経由
相談日時の調整
事前情報の収集
緊急度の高いケースでは、即日対応も検討します。SCの勤務日を考慮し、次回来校日までの対応を教職員と協議します。申込用紙やシステムを整備し、スムーズな受付体制を作ります。
守秘義務について
SCには厳格な守秘義務があります。相談内容は原則として外部に漏らしません。ただし、生命の危険や虐待など、例外的な状況があります。いじめ対応では、学校との情報共有が必要な場合があります。
どこまで共有するか、相談者と事前に合意を得ます。守秘の範囲と限界について、初回面接で明確に説明します。信頼関係構築の基盤として、守秘義務の遵守は不可欠です。倫理綱領に基づき、慎重に判断します。
相談時に伝えるべき内容
初回面接で把握すべき情報は以下になります。
初回面接での情報
いじめの内容
開始時期と経過
現在の状態
支援ニーズ
これらの情報を、相談者のペースに合わせて聞き取ります。無理に詳細を聞き出さず、安全・安心を優先します。アセスメントに必要な情報を、複数回の面接で段階的に収集します。
被害者への心理的支援
被害児童生徒には、トラウマインフォームドな支援が求められます。
心的外傷へのケア
いじめによる心的外傷には、専門的アプローチが必要です。まず安全感の確立が最優先となります。トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)などのエビデンスベースドな技法を検討します。
ただし学校場面では、完全な治療的介入は困難です。医療機関との連携を視野に入れます。PTSD症状の評価を行い、重症度に応じて対応を調整します。学校でできる支援の範囲を見極め、適切にリファーすることも専門性の一つです。
安心感を与える関わり
被害児童への関わりでは、心理的安全性の確保が基本です。無条件の肯定的関心を示し、非審判的態度で接します。「あなたは悪くない」というメッセージを一貫して伝えます。
話すことを強制せず、沈黙も尊重します。加害者との早急な「和解」を求めません。被害児童の心理的準備が整うまで待ちます。相談室が安全基地となるよう、環境を整えます。信頼関係の構築が、すべての支援の基盤となります。
保護者のサポート
被害児童の保護者は、二次的トラウマを経験します。怒り、不安、自責感など、複雑な感情を抱えています。保護者の感情を受け止め、心理的サポートを提供します。
家庭での適切な関わり方について、心理教育を行います。過度な保護や過小評価を避け、適切な距離感を保つよう助言します。保護者自身が安定することで、子どもへの支援力が高まります。必要に応じて、保護者カウンセリングを継続的に実施します。
加害者への心理的支援
加害児童生徒への支援は、再発防止の鍵となります。
なぜいじめたのかを理解する
加害行動の背景要因を多面的にアセスメントします。家庭環境、発達特性、ストレス要因、対人スキルなどを評価します。過去のいじめ被害体験の有無も確認します。共感性の発達段階を把握します。
衝動性や攻撃性の程度も評価対象です。これらのアセスメント結果に基づき、個別の支援計画を立てます。懲罰的アプローチではなく、理解と成長支援の姿勢が重要です。背景理解が、効果的な介入につながります。
再発防止のアプローチ
再発防止には、認知・行動・情動の多層的アプローチが有効です。共感性を育てるためのロールプレイやソーシャルストーリーを活用します。怒りのマネジメント技法を教えます。
適切なコミュニケーションスキルをトレーニングします。認知の歪みがあれば、認知再構成を試みます。行動変容へのモチベーションを高めます。短期的な反省ではなく、長期的な成長を目指します。継続的なフォローアップで、行動変化を支援します。
加害者家族の心理的ケア
加害者保護者は、ショック、否認、怒り、自責など、複雑な反応を示します。まずは保護者の感情を受容し、落ち着きを取り戻す支援をします。子どもの行動を客観的に理解できるよう、心理教育を行います。
家庭での対応方法について、具体的にアドバイスします。感情的な叱責ではなく、対話の重要性を伝えます。保護者が孤立しないよう、継続的にサポートします。保護者の心理的安定が、子どもの変化を促進します。
SC介入の障壁と対処法
SC介入にはさまざまな障壁があり、その対処が課題です。
「こんなことで」という遠慮
児童生徒や保護者が「こんなことで相談していいのか」と遠慮するケースがあります。いじめの定義について、校内で共通理解を図ることが重要です。些細に見える事案でも、本人が苦痛を感じていれば「いじめ」です。早期相談の重要性を、学校便りや保護者会で伝えます。
SCの存在と役割を積極的に周知します。相談のハードルを下げる工夫が必要です。定期的な全員面接や教室訪問など、アウトリーチ的アプローチも効果的です。
仕返しへの恐れ
相談により状況が悪化する懸念は、被害児童の大きな障壁です。SCは慎重な対応計画を立てる必要があります。情報の取り扱いについて、事前に本人と合意形成します。
学校全体で児童生徒の安全を守る体制を構築します。対応の各段階で、被害児童の意向を確認します。加害児童への対応では、相談者の特定につながる情報を避けます。安全確保が最優先であることを、組織全体で共有します。適切な対応により、仕返しのリスクを最小化できることを伝えます。
子どもの拒否への対応
児童生徒本人が相談を拒否する場合もあります。無理に相談を強いることは逆効果です。まず保護者や教職員から情報を収集します。間接的な支援として、環境調整や周囲への働きかけを行います。本人が相談しやすい雰囲気づくりに努めます。教室での授業参観や行事参加を通じて、関係性を構築します。
信頼関係ができれば、自発的に相談に来る可能性が高まります。本人のペースを尊重しながら、見守り続ける姿勢が大切です。タイミングを見計らい、適切に声をかけます。
まとめ
いじめ問題におけるSCの介入タイミングと判断基準について解説してきました。
SCとして最も重要なのは、早期発見・早期介入の視点です。児童生徒の小さな変化を見逃さず、適切なタイミングで介入することが求められます。被害者の心理的ケアを最優先としながら、加害者や周囲の児童生徒への支援も並行して行います。
いじめ問題への対応は、SCの専門性が最も活かされる場面の一つです。この記事が、皆さんの実践の一助となれば幸いです。子どもたちの心の健康を守るため、引き続き専門性を磨き、質の高い支援を提供していきましょう。
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いじめ撲滅委員会では、全国の小~高校生・保護者のかた、先生方にカウンセリングや教育相談を行っています。カウンセラーの栗本は、「いじめ」をテーマに研究を続けており、もうすぐで10年になろうとしています。
・いじめにあって苦しい
・いじめの記憶が辛い
・学校が動いてくれない
・子供がいじめにあっている
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