~ スクールカウンセラーの方はこちら ~ いじめを受けた子どもへの心の支援とは?信頼関係の築き方
はじめまして!いじめ撲滅委員会代表、公認心理師の栗本顕です。私の専門は「いじめ」です。心理学の大学院で研究もしてきました。現在はいじめの問題を撲滅するべく、研修やカウンセリング活動を行っています。
今回のテーマは「いじめを受けた子どもへの心の支援」です。スクールカウンセラーとして働いていると、いじめで傷ついた子どもたちと出会います。どのように支援すればよいのか、悩むこともあるでしょう。本記事では、実践的な支援方法について解説していきます。
目次は以下の通りです。
① 今のいじめの状況
② 心への影響を知る
③ 最初にすること
④ 状況を把握する方法
⑤ カウンセリングの技術
⑥ 学校の先生と協力
⑦ 保護者への支援
⑧ いじめた側への対応
⑨ 病院との連携
⑩ 学校に戻る支援
⑪ 記録と秘密を守る
⑫ SC自身を守る
いじめ被害への支援は、子どもの未来を守る大切な仕事です。一人ひとりに寄り添う支援のヒントを、この記事から見つけてください。ぜひ最後までご一読ください。
今のいじめの状況
いじめの現状を正しく理解することは、支援の第一歩です。ここでは、最新のデータや子どもたちの様子、学校が直面している課題について見ていきましょう。
いじめの件数と変化
文部科学省の調査では、いじめの認知件数は年々増えています。令和3年度には61万件を超えました[1]。これは過去最多の数字です。
件数が増えた理由は、学校がいじめを見逃さないよう、注意深く見るようになったからです。小さないじめも報告するようになりました。これは良い変化と言えます。
しかし、数字の裏には深刻な問題も隠れています。暴力や仲間外れ、ネットでの悪口など、いじめの形は様々です。早期発見と早期対応が、今まで以上に求められています。
学校が抱える問題
学校現場は、いじめ対応で多くの課題を抱えています。教員の多忙さや、専門知識の不足が指摘されています。組織的な対応が難しい学校もあります。
スクールカウンセラーの配置は進んでいますが、勤務時間が限られています。週に1回、数時間だけという学校が多いです。そのため、継続的な支援が難しい状況です。
また、いじめの報告を躊躇する雰囲気がある学校もあります。評価を気にして、問題を小さく見せようとする動きもあります。子どもの安全を最優先にする文化作りが必要です。
心への影響を知る
いじめは、子どもの心に深い傷を残します。その影響を正しく理解することで、適切な支援ができます。ここでは、心理的な影響について詳しく見ていきます。
PTSDという症状
PTSDとは、心的外傷後ストレス障害のことです。恐ろしい体験の後に起きる、心の病気です。いじめを受けた子どもにも、PTSDの症状が現れることがあります。
主な症状は3つあります。1つ目は、いじめの記憶が急に蘇る「フラッシュバック」です。2つ目は、いじめを思い出す場所や人を避ける「回避」です。3つ目は、常に緊張している「過覚醒」です。
これらの症状により、日常生活が困難になります。学校に行けなくなったり、友達と関われなくなったりします。専門的な治療が必要なケースも多いです。早期発見が重要です。
繰り返すトラウマ
いじめは、一度だけでなく繰り返し起きることが多いです。そのような場合、「複雑性PTSD」という状態になります。通常のPTSDより深刻で、治療も難しくなります。
複雑性PTSDでは、感情のコントロールが難しくなります。些細なことで怒ったり、泣いたりします。自分を責める気持ちが強くなり、「自分には価値がない」と感じます。人を信じられなくなることもあります。
対人関係にも大きな影響が出ます。友達を作ることが怖くなります。親や先生との関係もうまくいかなくなります。長期的な支援が必要です。
体に出る不調
心の傷は、体の症状として現れることがあります。これを「身体化」と言います。子ども自身も、なぜ体調が悪いのか分からないことが多いです。
よく見られる症状は、頭痛、腹痛、吐き気です。朝の登校前に症状が強くなります。めまいや動悸を訴える子もいます。食欲不振や過食になることもあります。睡眠の問題も多く見られます。
これらの症状は、心理的なストレスが原因です。しかし、医療機関で検査しても異常が見つからないことが多いです。体の症状と心のケアを、同時に進める必要があります。
将来への影響
いじめの影響は、その時だけで終わりません。大人になってからも続くことが分かっています。研究では、50歳を過ぎても影響が残ると報告されています。
将来への影響として、うつ病や不安障害のリスクが高まります。対人関係の困難さも続きます。仕事や結婚生活に影響が出ることもあります。自己肯定感の低さが、人生全体に影を落とします。
だからこそ、子どものうちに適切な支援が必要です。心の傷を癒し、回復を助けることが大切です。スクールカウンセラーの役割は、とても重要なのです。
最初にすること
いじめの相談を受けたとき、最初の対応が最も重要です。ここでは、初期対応の具体的な方法について解説します。子どもの安全を守りながら、信頼関係を築いていきましょう。
いじめの確かめ方
いじめの事実を確認するときは、慎重に進めます。子どもを責めるような聞き方は絶対にしてはいけません。安心して話せる雰囲気を作ることが第一です。
まず、子どもの話を丁寧に聴きます。「何があったの?」と優しく尋ねます。「いつ」「どこで」「誰に」「何を」されたのか、具体的に聞きます。でも、無理に話させないことも大切です。
話を聴くときのポイントは以下になります。
落ち着ける場所
時間に余裕
子どもの言葉で
メモを取る
信じて受け止める
子どもの安全が最優先です。話を聴いた後は、必ず「よく話してくれたね」と伝えます。「一緒に解決していこう」という姿勢を示すことが大切です。
安全を守る順番
いじめが分かったら、まず子どもの安全を確保します。これが最優先事項です。命に関わる危険がある場合は、すぐに行動します。
安全確保のための対応は以下になります。
加害者と引き離す
見守りを強化
登下校の配慮
保護者への連絡
緊急性の判断
同時に、学校全体で情報を共有します。担任、学年主任、生徒指導主事、管理職に報告します。チームで対応する体制を作ります。一人で抱え込まないことが重要です。
信頼される関係作り
子どもとの信頼関係は、支援の土台です。信頼がなければ、本当の気持ちを話してくれません。焦らず、時間をかけて関係を築いていきます。
信頼関係を作るには、まず子どもの味方であることを示します。「あなたは悪くない」と伝えます。どんな話も否定せず、真剣に聴きます。約束は必ず守ります。秘密も適切に守ります。
関係作りのポイントは以下になります。
共感する姿勢
安心できる場
定期的な面談
小さな約束を守る
変化を認める
子どもは、大人を試すこともあります。それは自然なことです。根気強く向き合い続けることで、少しずつ心を開いてくれます。
保護者への伝え方
保護者への連絡は、とても大切です。しかし、伝え方を間違えると、混乱を招きます。慎重に、そして丁寧に説明する必要があります。
まず、保護者の気持ちを受け止めます。ショックや怒りを感じるのは当然です。話を聴きながら、学校の対応を説明します。今後の支援計画も伝えます。保護者と協力して、子どもを守る姿勢を示します。
保護者への説明内容は以下になります。
保護者への説明
起きた事実
子どもの様子
学校の対応
今後の計画
家庭での配慮
保護者も不安を抱えています。定期的に連絡を取り、子どもの様子を共有します。家庭と学校が連携することで、より良い支援ができます。
状況を把握する方法
子どもを支援するには、状況を正しく把握することが必要です。ここでは、アセスメントの具体的な方法について説明します。情報を集め、分析し、支援計画を立てていきます。
情報を集める手順
情報収集は、様々な角度から行います。子ども本人からだけでなく、周囲の人からも話を聞きます。多面的な情報が、正確な理解につながります。
まず、子どもとの面談で詳しく話を聞きます。次に、担任や他の教員から観察情報を得ます。保護者からは家庭での様子を聞きます。必要に応じて、友人関係も確認します。過去の記録も参考にします。
情報収集の対象は以下になります。
情報収集の対象
子ども本人
担任教師
他の教職員
保護者
過去の記録
集めた情報は、整理して記録します。事実と推測を分けて書きます。時系列で並べると、全体像が見えやすくなります。個人情報の扱いには十分注意します。
心理検査の使い方
心理検査は、子どもの心の状態を知る助けになります。しかし、検査だけで全てが分かるわけではありません。面談と組み合わせて使うことが大切です。
よく使われる検査には、性格検査や発達検査があります。YG性格検査やバウムテストなどです。子どもの年齢や状態に合わせて選びます。検査の前には、必ず目的を説明します。結果は慎重に扱います。
検査実施の注意点は以下になります。
目的の説明
同意を得る
適切な環境
結果の伝え方
守秘義務
検査結果は、子どもや保護者に丁寧に説明します。専門用語は使わず、分かりやすく伝えます。結果を支援に活かす方法も一緒に考えます。
家族の様子を見る
子どもの問題を理解するには、家族全体を見る必要があります。家族関係が、いじめへの対処に影響することがあるからです。ジェノグラム(家系図)を作ると、関係性が見えやすくなります。
家族構成や年齢、職業などを記録します。家族間の関係性も重要です。誰が子どもを支えているか、家族内に問題はないか、確認します。しかし、家族を責めるような態度は避けます。
家族理解のポイントは以下になります。
家族構成
関係性の質
サポート体制
家庭の雰囲気
養育態度
家族の情報は、支援計画に役立ちます。家族の強みを活かした支援を考えることができます。家族と協力する姿勢が大切です。
危険度を判断する
いじめの深刻さを判断することは、とても重要です。命に関わる危険がある場合は、緊急対応が必要です。リスクアセスメントを適切に行います。
自殺のリスクを評価する際は、慎重に聞きます。「死にたい」という言葉があったか、具体的な計画があるか、確認します。過去の自傷行為の有無も重要です。家族のサポートがあるかも見ます。
リスク評価の項目は以下になります。
リスク評価項目
自殺念慮の有無
具体的な計画
過去の自傷
サポート体制
精神症状
高リスクと判断した場合は、すぐに行動します。管理職に報告し、保護者に連絡します。必要に応じて医療機関につなぎます。一人で判断せず、チームで対応します。
カウンセリングの技術
効果的なカウンセリングには、専門的な技術が必要です。ここでは、いじめ被害者への具体的なカウンセリング方法を紹介します。基本的な姿勢から実践的な技法まで、順番に見ていきましょう。
話を聴く姿勢
カウンセリングの基本は、「聴くこと」です。ただ聞くのではなく、心を込めて聴きます。これを「傾聴」と言います。子どもは、本当に聴いてもらえていると感じると、安心して話せます。
傾聴のポイントは、子どもの話を否定しないことです。「でも」「だって」という言葉は使いません。相槌を打ち、共感を示します。子どもの気持ちに寄り添います。焦らず、じっくり待つことも大切です。
傾聴のポイントは以下になります。
傾聴のポイント
否定しない
共感を示す
相槌を打つ
待つ姿勢
非言語も大切
子どもの表情や姿勢にも注目します。言葉にならない思いが、体に現れることがあります。全身で聴く姿勢が、信頼関係を深めます。
心の傷のケア方法
いじめによる心の傷は、トラウマと呼ばれます。トラウマのケアには、専門的なアプローチが必要です。無理に思い出させたり、早く忘れさせようとしたりすることは避けます。
まず、安全な環境を作ります。「ここは安全だよ」と伝え続けます。次に、感情を表現する手伝いをします。絵や遊びを使うこともあります。少しずつ、トラウマと向き合う準備をします。
トラウマケアの段階は以下になります。
トラウマケアの段階
安全の確立
感情の表現
トラウマ処理
統合と回復
成長へつなぐ
トラウマの処理には、専門的な技法があります。持続エクスポージャー療法やEMDRなどです。これらは訓練を受けた専門家が行います。必要に応じて、専門機関を紹介します。
考え方を変える支援
いじめを受けた子どもは、考え方が歪んでしまうことがあります。「自分が悪い」「誰も信じられない」と思い込みます。この考え方を、一緒に見直していきます。これを認知行動療法と言います。
まず、子どもの考えを丁寧に聞きます。そして、他の見方がないか、一緒に探します。「本当にそうかな?」と優しく問いかけます。事実と考えを分けて整理します。新しい考え方を、少しずつ試していきます。
認知を変える手順は以下になります。
認知を変える手順
考えを特定する
証拠を集める
別の見方探し
新しい考え方
行動で試す
考え方が変わると、行動も変わります。少しずつ自信を取り戻していきます。完璧を求めず、小さな変化を一緒に喜びます。
少しずつ進める方法
支援は、段階を踏んで進めます。急がず、子どものペースに合わせることが大切です。小さな目標を立て、一つずつクリアしていきます。成功体験を積み重ねることで、自信が育ちます。
最初の目標は、とても小さくします。例えば、「カウンセリングルームまで来る」だけでも立派な目標です。達成したら、たくさん褒めます。次の目標は、少しだけ難しくします。こうして、徐々にステップアップします。
段階的支援の例は以下になります。
段階的支援の例
面談に来る
気持ちを話す
別室に登校
短時間教室
完全復帰
焦りは禁物です。うまくいかない日もあります。そんな時は、一歩戻って休むことも大切です。「ゆっくりでいいよ」と伝え続けます。
学校に戻る支援
不登校になった子どもの学校復帰は、慎重に進めます。焦らず、子どものペースに合わせることが大切です。ここでは、段階的な復帰支援の方法を説明します。
段階的な登校計画
いきなり全日登校を目指すのは、負担が大きすぎます。小さなステップを踏みながら、少しずつ学校に慣れていきます。計画を立て、無理なく進めることが重要です。
最初は、放課後の学校訪問から始めます。人が少ない時間に、学校に慣れます。次に、午前中の数時間だけ登校します。別室で過ごすことから始めてもよいです。徐々に時間を延ばし、最終的に全日登校を目指します。
段階的登校の流れは以下になります。
段階的登校の流れ
放課後訪問
短時間登校
別室登校
一部授業参加
全日登校
各段階で、子どもの様子をよく見ます。無理をしていないか、確認します。うまくいかない時は、一つ前の段階に戻ります。焦りは禁物です。
別室の利用方法
別室登校は、学校復帰の大切なステップです。保健室や相談室を活用します。ここで安心感を得ることが、次の段階につながります。
別室では、子どものペースで過ごします。勉強をしてもよいし、休んでもよいです。カウンセラーや養護教諭が、適度に声をかけます。孤立させないよう、気を配ります。しかし、無理に話しかけることもしません。
別室登校での配慮事項は以下になります。
別室登校の配慮
安全な場所
自由な過ごし方
適度な声かけ
孤立させない
次へのきっかけ
別室登校は、ゴールではありません。あくまで、教室復帰への通過点です。子どもが準備できたら、少しずつ教室に向かう支援をします。
勉強面での協力
不登校期間中、学習の遅れが心配になります。しかし、心の回復が最優先です。無理に勉強させることは避けます。心が安定してから、学習支援を始めます。
学習支援では、まず得意な教科から始めます。簡単な内容で成功体験を積みます。分からないところは、ゆっくり教えます。教科担任と協力し、プリントを用意してもらうこともあります。進度は、子どもに合わせて調整します。
学習面での支援内容は以下になります。
学習面での支援
得意科目から
簡単な内容
個別対応
プリント活用
無理をしない
テストや評価については、柔軟に対応します。別室での受験や、時間延長などの配慮をします。完璧を求めず、できたことを認めます。
環境を整える工夫
学校復帰を支えるには、環境を整えることが大切です。子どもが安心して過ごせる環境を作ります。クラスの雰囲気作りも重要です。
まず、いじめた側と物理的に離します。座席を離したり、グループを分けたりします。見守りを強化し、同じことが起きないよう注意します。クラスメイトにも、温かく迎える雰囲気を作ってもらいます。ただし、特別扱いしすぎないバランスも大切です。
環境調整の具体例は以下になります。
環境調整の具体例
座席の配慮
見守り強化
温かい雰囲気
自然な接し方
相談しやすさ
困った時にすぐ相談できる体制も作ります。カウンセリングルームや保健室が、いつでも開かれていることを伝えます。安心できる逃げ場があることが、子どもを支えます。
まとめ
いじめを受けた子どもへの心の支援について、様々な視点から解説してきました。いじめは子どもの心に深い傷を残します。PTSDや複雑性PTSDなど、深刻な影響が出ることもあります。だからこそ、スクールカウンセラーの役割は非常に重要です。
支援の基本は、子どもの安全を守ることです。そして、信頼関係を築き、丁寧に話を聴くことです。状況をしっかり把握し、適切なカウンセリングを行います。一人で抱え込まず、学校の先生や保護者、医療機関と協力することも大切です。子どもの回復には、チーム全体の力が必要なのです。
いじめ問題に関わることは、簡単ではありません。時には心が痛み、無力感を感じることもあるでしょう。だからこそ、自分自身を守ることも忘れないでください。スーパービジョンを受け、仲間と支え合い、学び続けてください。
相談をご希望の方へ
いじめ撲滅委員会では、全国の小~高校生・保護者のかた、先生方にカウンセリングや教育相談を行っています。カウンセラーの栗本は、「いじめ」をテーマに研究を続けており、もうすぐで10年になろうとしています。
・いじめにあって苦しい
・いじめの記憶が辛い
・学校が動いてくれない
・子供がいじめにあっている
など、いじめについてお困りのことがありましたらご相談ください。詳しくは以下の看板からお待ちしています。
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