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いじめ問題の記者会見で失敗しない準備と対応の全手順

いじめ撲滅

~ 校長,教頭先生はこちら ~ いじめ問題の記者会見で失敗しないために…準備と対応の全手順

はじめまして!いじめ撲滅委員会代表、公認心理師の栗本顕です。私の専門は「いじめ」です。心理学の大学院で研究もしてきました。現在はいじめの問題を撲滅するべく、研修やカウンセリング活動を行っています。

いじめ撲滅委員会代表栗本顕

今回のテーマは「いじめ問題の記者会見で失敗しない準備と対応」です。

学校でいじめが発覚したとき、マスコミから取材を受けることがあります。記者会見を開くべきか、何を準備すればいいのか、多くの校長先生や教頭先生が悩まれています。

目次は以下の通りです。

① 記者会見開催の判断基準
② 想定問答集の作成方法
③ 記者会見の準備作業
④ 冒頭発表の組み立て
⑤ 質疑応答での対応術
⑥ リハーサルの実施
⑦ 会見後の対応
⑧ よくある失敗例と対策
⑨ SNS時代の注意点

記者会見は学校の信頼を守るための大切な場です。しっかりとした準備をすることで、子どもたちと保護者を守ることができます。本記事では、いじめ問題での記者会見について、準備から実施まで具体的に解説していきます。ぜひ最後までご一読ください。

記者会見開催の判断基準

すべてのいじめ事案で記者会見が必要なわけではありません。しかし、開くべき状況を見極めることは重要です。判断を誤ると、学校への信頼を失う可能性があります。

会見が必要な状況

記者会見を開く必要がある状況は以下になります。

生徒が命を失った
生徒が大きな怪我をした
長期の不登校になった
複数メディアから取材
保護者が会見を求めた
SNSで大きく拡散し

これらの状況では早めの会見が必要です。逆に、軽微ないじめで当事者間で解決した場合は、記者会見は不要です。ただし、マスコミから問い合わせが殺到している場合は、会見を検討します。隠しているという印象を与えないことが大切です。

開催時期の決定

記者会見の時期は、事実関係がある程度明らかになってから行います。何もわからない状態で会見を開くと、かえって混乱を招きます。ただし、調査が完全に終わるまで待つ必要はありません。

現時点でわかっていること、調査中のこと、今後の対応を明確に分けて説明できる段階で開催します。発生から3日以内を目安に考えましょう。それ以上遅れると、情報を隠していると疑われる可能性があります。

保護者への事前説明

記者会見を開く前に、必ず被害生徒の保護者に説明します。会見で何を話すのか、どの範囲まで公表するのかを確認します。保護者の同意なしに会見を開くと、信頼関係が壊れます。

加害生徒の保護者にも事前に連絡します。会見の日時と内容を伝えましょう。全校保護者への説明会も検討します。新聞やテレビで初めて知るという事態は避けなければなりません。保護者との信頼関係を最優先に考えてください。

いじめ加害者,事実確認

想定問答集の作成方法

記者会見で最も重要なのが想定問答集です。記者からどんな質問が来るかを予想し、答えを準備します。この準備が会見の成否を分けます。

予想される質問

記者会見で予想される質問の内容は以下になります。

記者から聞かれる主な質問
いつ認知したか
誰が何をしたか
学校は把握していたか
過去にも同様の件は
なぜ防げなかったか
今後どう対応するか
責任はどこにあるか
校長は辞職するのか
できるだけ多くの質問を想定しましょう

厳しい質問も含めて、50個以上の質問を用意します。教職員全員でアイデアを出し合いましょう。「そんなこと聞かれないだろう」という質問も書き出します。実際の会見では予想外の質問が必ず来ます。

回答の基本方針

すべての回答に共通する基本方針を決めます。まず、被害生徒への謝罪と心のケアを最優先とすることを明確にします。事実は隠さず正直に話すことも重要です。わからないことは「調査中です」と答えます。憶測で答えてはいけません。

「他校もやっている」「法律は守っている」という言い訳は絶対に避けます。再発防止に全力で取り組む姿勢を示しましょう。答えられない質問については、理由を説明して理解を求めます。すべての回答は組織として統一します。

法的チェック

想定問答集は必ず法律の専門家にチェックしてもらいます。個人情報保護法に違反していないか、名誉毀損にあたらないかを確認します。教育委員会の法務担当者や、顧問弁護士に相談しましょう。特に加害生徒の名前や詳細な行為については、慎重な判断が必要です。

被害者保護の観点からも、どこまで公表するかを専門家と相談します。法的に問題がある回答は、会見で大きなトラブルになる可能性があります。必ず事前のチェックを受けてください。

記者会見の準備作業

会見当日までに、様々な準備が必要です。発表者の選定から会場設営まで、細かな点まで気を配ります。準備の質が会見の印象を左右します。

発表者の選定

記者会見の発表者は校長が基本です。学校の責任者として、自ら説明することが求められます。ただし、詳しい説明は教頭や生徒指導主任が補足することもあります。発表者は必ず複数名で対応しましょう。

一人で会見を行うと、質問に答えられない場合に困ります。校長が不在の場合は、その理由を必ず説明します。「出張中です」など、正直に伝えてください。発表者の服装は、落ち着いた色のスーツが適切です。派手な服装は避けましょう。

配布資料の作成

記者会見で配る資料を準備します。資料の内容は以下になります。

配布資料に含める内容
事案の概要
発生日時と場所
被害の状況
学校の対応経過
今後の再発防止策
連絡先
学校の基本情報
わかりやすい資料を作りましょう

資料は事前に教育委員会の確認を受けます。個人情報が含まれていないか、表現に問題がないかをチェックします。図や表を使って、視覚的にわかりやすくすることも大切です。資料は記者の人数分プラス予備を用意します。

会場設営の注意点

記者会見の会場は学校の会議室や体育館を使います。記者が座る椅子を十分に用意しましょう。発表者の机には、長いテーブルクロスをかけます。足が見えないようにすることで、落ち着きのない動きが映らないようにします。

マイクとスピーカーの音響チェックも重要です。背景には学校名の看板を置きます。照明が暗すぎないか、明るすぎないかも確認してください。カメラの位置も考えて、発表者がよく見える配置にします。

冒頭発表の組み立て

記者会見の最初に行う発表を「冒頭ステートメント」と言います。この部分で、学校の姿勢と誠意を示すことができます。しっかりと準備しましょう。

謝罪の伝え方

冒頭では、まず深くお詫びをします。被害を受けた生徒と保護者に対する謝罪の気持ちを伝えます。このとき、形だけの謝罪にならないよう、心を込めて話すことが大切です。お辞儀は深く、ゆっくりと行います。

「申し訳ございませんでした」とはっきり言いましょう。言い訳や責任転嫁は絶対に避けます。「学校として責任を痛感しています」という言葉で、責任を明確に認めます。謝罪の時間は短すぎても長すぎても良くありません。30秒程度が適切です。

事実説明の範囲

次に、現時点でわかっている事実を説明します。いつ、どこで、どのようなことがあったのかを時系列で話します。ただし、個人が特定される情報は言いません。「◯年生の生徒」「複数の生徒」という表現を使います。

加害行為の具体的な内容は、被害者のプライバシーを考えて慎重に話します。学校がいつ認知したか、どのように対応したかも説明します。調査中の事項については、「現在調査を進めています」とはっきり伝えましょう。憶測で話すことは避けてください。

再発防止策の提示

最後に、今後の対策を説明します。再発防止策の内容は以下になります。

全校アンケート実施
教員研修の強化
相談体制の見直し
保護者との連携強化
いじめ防止委員会設置
定期的な見守り活動
外部専門家の活用

「今後このようなことがないよう努めます」だけでは不十分です。いつまでに、誰が、何をするのかを明確に示しましょう。実現可能な対策を提示することが信頼回復につながります。

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質疑応答での対応術

冒頭発表の後は、記者からの質問に答えます。この質疑応答が最も難しい部分です。落ち着いて、誠実に対応することを心がけましょう。

答えられない質問

すべての質問に答える必要はありません。個人情報に関わる質問には、「個人情報保護の観点からお答えできません」と明確に断ります。調査中で答えられない場合は、「現在調査中です。結果がまとまり次第、報告します」と伝えます。

憶測や推測で答えることは絶対に避けましょう。わからないことは「わかりません」と正直に言います。後から誤った情報だとわかると、さらに大きな問題になります。答えを保留にした質問については、いつまでに回答するかを約束してください。

感情的な追及への対処

記者の中には、厳しい口調で追及する人もいます。しかし、感情的に反応してはいけません。冷静さを保つことが何より大切です。挑発的な質問にも、丁寧に答えましょう。

声を荒げたり、記者を非難したりすると、その場面がニュースで流れます。深呼吸をして、落ち着いて対応します。同じ質問が何度も来ても、イライラした態度を見せません。基本メッセージを繰り返し、誠実な姿勢を示し続けます。困ったときは、隣の発表者にサポートを求めても構いません。

個人情報の扱い

生徒の名前や住所、家族構成などの個人情報は絶対に言いません。被害生徒だけでなく、加害生徒の個人情報も守ります。「何年何組の生徒ですか」という質問にも答えてはいけません。「個人が特定される情報はお答えできません」とはっきり断ります。

写真の提供を求められても応じません。学校の中で撮影を許可する場合も、生徒が映らない場所に限定します。個人情報の保護は法律で定められています。記者に理解を求めながら、毅然とした態度で対応しましょう。

リハーサルの実施

本番の記者会見の前に、必ずリハーサルを行います。練習を重ねることで、自信を持って会見に臨めます。十分な準備時間を確保しましょう。

模擬記者会見

教職員で記者役と発表者役に分かれて、模擬記者会見を行います。記者役は想定問答集から厳しい質問を投げかけます。本番と同じ会場で、同じ配置で練習しましょう。発表者は冒頭ステートメントを読み上げ、質問に答えます。

できればビデオカメラで撮影して、後で見返すと良いでしょう。自分の話し方や表情、姿勢を客観的に確認できます。何度も練習することで、スムーズに答えられるようになります。最低でも3回は練習してください。

表情と姿勢の確認

記者会見では、話す内容だけでなく、表情や姿勢も重要です。チェックするポイントは以下になります。

□背筋を伸ばす
□手は机の上に置く
□ペンをいじらない
□貧乏ゆすりをしない
□目線はカメラと記者に
□真剣な表情を保つ
□笑顔は見せない
□緊張は自然なことです

カメラは常に発表者を映しています。気を抜いた瞬間の表情が、ニュースで使われることもあります。リハーサルで、無意識の癖を見つけて直しましょう。

時間配分の調整

記者会見の時間は、30分から1時間程度を目安にします。冒頭ステートメントに5分、質疑応答に25分から55分です。リハーサルで実際の時間を計ってみましょう。話すスピードが速すぎたり遅すぎたりしないか確認します。

質問が少ない場合と多い場合の両方を想定します。時間が余っても、無理に引き延ばす必要はありません。逆に、時間をオーバーしそうなら、「お時間ですので、最後の質問とさせていただきます」と切り上げます。時間管理も重要な準備の一つです。

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会見後の対応

記者会見が終わっても、対応は続きます。教職員への説明、保護者への報告、メディアへの継続的な情報提供が必要です。会見後の動きも計画しましょう。

教職員への周知

記者会見の内容は、すぐに全教職員に伝えます。会見を見ていない教員もいるからです。職員会議を開いて、何を話したか、記者からどんな質問があったかを共有します。配布資料のコピーを全員に配りましょう。

個別に記者から取材を受けた場合の対応方法も確認します。基本的には、「広報担当者にお願いします」と伝えて、個人では答えないようにします。教職員全員が同じ情報を持つことで、混乱を防げます。

保護者説明会の実施

記者会見の後、できるだけ早く保護者説明会を開きます。新聞やテレビの報道を見て、保護者は不安を感じているからです。会見で話した内容と、その後の学校の対応を説明します。保護者からの質問にも丁寧に答えましょう。

個別の相談を希望する保護者には、別途面談の機会を設けます。説明会の日程は、できるだけ多くの保護者が参加できる時間にします。平日の夜や休日の午前中が良いでしょう。説明会の様子も記録として残してください。

メディア対応の継続

記者会見の後も、メディアからの問い合わせは続きます。対応する窓口を一本化しましょう。教頭や広報担当者が窓口となり、個別の取材に応じます。新しい事実が判明したら、プレスリリースを出して情報を更新します。

黙っていると、隠していると疑われます。定期的に状況を報告することで、誠実な姿勢を示せます。取材を受ける際は、必ず複数名で対応します。一人で答えると、言った言わないのトラブルになる可能性があります。記録を取りながら対応しましょう。

よくある失敗例と対策

過去の記者会見では、様々な失敗例があります。同じ失敗を繰り返さないために、よくある失敗パターンを学びましょう。事前に対策を立てることが大切です。

隠蔽と疑われる発言

記者会見で避けるべき発言は以下になります。

把握していなかった
報告を受けていない
そこまでとは知らず
担任の判断だった
認識の違いがあった
軽微なものと思った
いじめとは考えず

これらの発言は、学校が問題を軽視していた印象を与えます。「なぜ把握できなかったのか」を反省する姿勢が必要です。組織として対応が不十分だったことを認め、改善策を示しましょう。

責任転嫁の表現

責任を他人に押し付けるような発言は、最も避けるべきです。

「担任が報告しなかった」
「保護者から連絡がなかった」
「生徒が言ってくれれば」

などの言葉は、責任転嫁に聞こえます。校長として、学校全体の責任を引き受ける姿勢を見せましょう。

「私の責任です」とはっきり言うことが大切です。組織の長として、すべての責任を負う覚悟を示します。個人を責めるのではなく、システムの問題として説明します。そして、改善策を具体的に提示しましょう。

準備不足による混乱

準備が不十分なまま記者会見を開くと、混乱します。質問に答えられない、発表者同士で意見が食い違う、資料に誤りがあるなどの問題が起きます。このような失敗を防ぐために、十分な準備期間を確保します。

急いで会見を開くより、しっかり準備してから開く方が良い結果につながります。教育委員会や弁護士など、専門家のアドバイスを受けることも重要です。一人で判断せず、チームで準備を進めましょう。リハーサルを必ず行い、想定外の質問にも対応できるようにします。

SNS時代の注意点

現代の記者会見は、新聞やテレビだけでなく、SNSでも拡散されます。インターネット上での情報の広がり方を理解して、対策を立てることが必要です。

拡散への備え

記者会見の様子は、すぐにSNSで拡散されます。一部分だけを切り取った動画や画像が、瞬時に広まります。発言の一部だけが独り歩きすることもあります。このため、どの瞬間を切り取られても問題ない対応を心がけます。

不適切な表情や態度は、すぐに批判の対象になります。常に真剣な姿勢を保ちましょう。また、記者会見の全体を正しく伝えるために、学校のホームページに会見の内容を掲載します。公式の情報源を作ることが大切です。

ホームページでの発信

記者会見と同時に、学校のホームページで情報を発信します。掲載する内容は以下になります。

学校の対応
再発防止策
保護者への連絡
相談窓口の案内
会見の全文
配布資料のPDF

ホームページは、保護者や地域の人が正しい情報を知るための重要な窓口です。更新した際は、保護者にメールでお知らせしましょう。

二次被害の防止

SNS上では、生徒の個人情報が拡散される危険があります。学校は、個人情報の拡散を防ぐ対策をとります。保護者に対して、SNSでの情報発信を控えるよう協力を求めます。生徒たちにも、SNSの使い方について指導します。誹謗中傷の投稿を見つけた場合は、削除要請を行います。法務局の人権相談窓口や、警察とも連携しましょう。被害生徒と加害生徒の両方を、二次被害から守ることが学校の責任です。インターネット上の情報は、一度広まると完全に消すことは難しいです。予防が最も重要です。

まとめ

いじめ問題の記者会見は、学校にとって大きな試練です。しかし、しっかりとした準備と誠実な対応をすれば、必ず乗り越えられます。

最も大切なのは、被害を受けた生徒を守り、二度と同じことを起こさないという強い決意です。記者会見は、その決意を社会に示す場でもあります。

この記事で紹介した手順に沿って、一つひとつ準備を進めてください。想定問答集の作成、リハーサルの実施、そして何より、誠実な姿勢を忘れないことが成功の鍵です。

記者会見を恐れる必要はありません。正直に向き合い、責任を果たす姿勢を見せることで、学校への信頼は必ず回復します。子どもたちの未来のために、勇気を持って一歩を踏み出しましょう。

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いじめ,カウンセリング

 

参考文献

[1] 文部科学省. (2017). いじめの防止等のための基本的な方針. 文部科学省
 
[2] 文部科学省. (2024). いじめの重大事態の調査に関するガイドライン. 文部科学省
 
[3] 経済広報センター. 危機管理広報. 企業広報プラザ

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