~ 校長,教頭先生はこちら ~ いじめ問題における学校の責任とは?法的・社会的リスクの備え方
はじめまして!いじめ撲滅委員会代表、公認心理師の栗本顕です。私の専門は「いじめ」です。心理学の大学院で研究もしてきました。現在はいじめの問題を撲滅するべく、研修やカウンセリング活動を行っています。

今回のテーマは「いじめ問題における学校の責任とは?法的・社会的リスクの備え方」です。
学校でいじめが起きたとき、学校はどこまで責任を負うのでしょうか。法律で決められた義務を果たさなければ、損害賠償を求められる可能性もあります。
目次は以下の通りです。
① いじめ防止推進法とは
② 学校が問われる責任
③ 重大事態への対処
④ 判例から学ぶ失敗例
⑤ 学校が取るべき予防策
⑥ 万が一発生した時の対応
⑦ 教育委員会の役割
⑧ 民事訴訟への備え
⑨ 保護者対応の注意点
本記事では、学校が負う法的責任と、いじめを防ぐために今すぐできる対策について解説していきます。ぜひ最後までご一読ください。
いじめ防止推進法とは
いじめ防止対策推進法は、2013年に作られた法律です。この法律によって、学校には具体的な義務が課されるようになりました[1]。
学校が負う法的義務
学校には、いじめ防止のための基本方針を作る義務があります。また、複数の先生で構成される「いじめ対策組織」を必ず設置しなければなりません。先生がいじめを発見したり相談を受けたりした場合、速やかにこの組織に報告する義務も定められています。
情報を自分だけで抱え込むことは、法律違反になる可能性があります。さらに、いじめの疑いがあるときは、すぐに事実確認を行い、教育委員会などに報告しなければなりません。これらの義務を怠ると、学校の責任が問われることになります。
いじめの定義と認知
いじめかどうかは、被害を受けた子どもが「心や体に苦痛を感じているか」で判断します。加害者に「いじめるつもりはなかった」という言い分があっても、被害者が苦痛を感じていればいじめになります。
インターネットやSNSを通じて行われるものも、いじめに含まれます。大切なのは、先生の主観的な判断ではなく、被害者の気持ちを基準にして客観的に認知することです。「ふざけていただけ」「遊びの延長」という理由で見逃すことは許されません。
学校が問われる責任
学校がいじめに適切に対応しなかった場合、法的責任を問われる可能性があります。ここでは、どのような責任があるのかを見ていきましょう。
安全配慮義務違反
学校には、子どもたちが安全に学校生活を送れるよう配慮する義務があります。これを「安全配慮義務」といいます。いじめが起きそうな状況を予見できたのに何もしなかった場合、この義務に違反したことになります。
たとえば、子どもの様子がおかしいのに声をかけなかったり、トラブルの情報があったのに調査しなかったりした場合です。また、いじめを早期に発見するための取り組みを怠ったり、組織的な対応をせずに担任だけで対処しようとしたりすることも、義務違反になります。
損害賠償責任
安全配慮義務に違反した場合、学校は損害賠償責任を負うことがあります。国公立の学校では、国や市町村、都道府県が賠償の責任を負います。私立の学校では、学校を運営している学校法人が責任を負います。
また、私立学校の場合は、対応を怠った先生個人も責任を問われることがあります。実際の裁判では、数十万円から数千万円の賠償が命じられたケースもあります。賠償額は、いじめの深刻さや被害の程度によって変わってきます。
情報共有を怠った場合
先生がいじめの情報を知ったら、必ず「いじめ対策組織」に報告しなければなりません。担任が一人で抱え込んだり、管理職に報告しなかったりすることは、法律違反になります。
実際に、情報共有を怠ったために事態が深刻化し、先生が懲戒処分を受けた例もあります。「自分で解決できる」と考えて報告しないことや、「大したことではない」と判断して組織に伝えないことは、とても危険です。どんな小さな情報でも、組織で共有することが大切です。
重大事態への対処
いじめによって深刻な被害が出た場合を「重大事態」といいます。重大事態が起きたときは、特別な対応が必要になります。
重大事態とは
重大事態には、主に3つのパターンがあります。1つ目は、いじめによって子どもの命や心、体に重大な被害が出た場合です。たとえば、大きなケガをしたり、精神的な病気になったり、自殺を考えたりした場合が該当します[1][2]。
2つ目は、いじめが原因で年間30日以上学校を休むことになった場合です。3つ目は、保護者から「いじめで重大な被害を受けた」という申し立てがあった場合です。重要なのは、「疑い」の段階で重大事態として扱い、すぐに調査を始めることです[1][2]。
調査義務
重大事態が起きたら、学校は速やかに調査組織を作らなければなりません。この組織には、弁護士や精神科医、スクールカウンセラーなど、専門家を入れることが推奨されています。
調査では、何が起きたのかを明らかにし、被害を受けた子どもと保護者に、きちんと説明する必要があります。また、調査結果は教育委員会や市町村などに報告しなければなりません。2023年4月からは、文部科学省への報告も義務付けられています。調査を怠ったり、事実を隠したりすることは許されません。
判例から学ぶ失敗例
過去の裁判例を見ると、学校の対応の問題点が浮かび上がってきます。同じ失敗を繰り返さないために、具体例から学びましょう。
教員の対応不足
ある判例では、子どもが靴に画びょうを入れられたことを担任に相談しました。しかし、担任は「画びょうは学校のものだから」と言って回収しただけで、誰がやったのか調べませんでした。このような対応は、先生の責任を果たしていないと判断されました。
また、別の事例では、子どもから「つらい」という訴えがあったのに、「気にしすぎ」と言って軽く扱ってしまいました。周りの子どもたちから話を聞いたり、組織的に対応したりすることを怠ったため、学校の責任が認められました。
学校の組織的問題
多くの失敗例に共通するのが、情報共有の不備です。担任だけで対処しようとして、いじめ対策組織に報告しなかったケースが多く見られます。また、養護の先生が「いじめではないか」と進言したのに、管理職が「担任に任せよう」と判断し、組織的な対応をしなかった例もあります。
保護者との連携も不十分で、気になることがあっても家庭に連絡しなかったことが問題になりました。学校全体でいじめに取り組む体制が機能していないと、重大な事態につながってしまいます。
学校が取るべき予防策
いじめを防ぐためには、日頃からの備えが大切です。ここでは、学校が今すぐできる予防策を紹介します。
基本方針の策定
すべての学校は、「学校いじめ防止基本方針」を作らなければなりません。この方針は、国や都道府県の基本方針を参考にしながら、その学校の実情に合わせて作ります[1][3]。
作った方針は、学校のホームページに載せるなどして、保護者や地域の人が見られるようにする必要があります。毎年度の始めには、子どもや保護者に説明する義務もあります。また、方針は一度作って終わりではなく、定期的に見直して、より良いものにしていくことが大切です。
対策組織の運営
いじめ対策組織は、複数の先生で作ります。担任、学年主任、生徒指導の先生、養護の先生などが参加します。可能であれば、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、心理や福祉の専門家にも入ってもらいましょう。この組織は、定期的に会議を開いて、学校全体のいじめの状況を確認します。
いじめの疑いがある情報は、すべてこの組織に集まるようにします。組織がきちんと機能するように、情報を集める担当者を決めておくことも重要です。
早期発見の仕組み
いじめを早く見つけるために、学校は定期的にアンケートを実施する義務があります。アンケートは、記名式だけでなく、無記名でも書けるようにすると、子どもたちが本音を書きやすくなります。
また、いつでも相談できる体制を整えることも大切です。先生だけでなく、スクールカウンセラーなど、話しやすい相手を選べるようにしましょう。日頃から子どもたちの様子をよく観察し、変化に気づくことも重要です。そして、保護者と定期的に情報を共有し、家庭での様子も把握するようにしましょう。
万が一発生した時の対応
いじめが起きてしまったとき、初期対応がとても重要になります。適切な対応の流れを知っておきましょう。
初期対応の流れ
いじめが起きたことがわかったら、すぐに事実確認を始めます。被害を受けた子どもから、ていねいに話を聞きます。次に、加害者とされる子どもや、周りにいた子どもたちからも話を聞きます。
そして、わかったことをすぐに「いじめ対策組織」に報告します。組織で対応方針を決めたら、被害者と加害者の両方の保護者に連絡します。このとき大切なのは、スピードです。「様子を見よう」と先延ばしにせず、その日のうちに動き始めることが重要です。
記録の重要性
いじめ対応では、記録をきちんと残すことがとても大切です。いつ、誰が、何をしたのか、時系列で整理して書き残します。子どもや保護者から聞いた話は、できるだけそのままの言葉で記録します。先生がどのような対応をしたかも、詳しく書いておきます。
もし裁判になった場合、この記録が証拠になります。また、対応の途中で担当者が変わっても、記録があれば引き継ぎがスムーズにできます。記録は、学校を守るためにも、子どもを守るためにも必要なものです。
専門機関との連携
学校だけで対応することが難しいときは、専門機関の力を借りましょう。スクールカウンセラーは、子どもの心のケアをしてくれます。被害を受けた子どもだけでなく、加害者とされる子どもも、カウンセリングが必要な場合があります。
また、暴力や金銭の要求など、犯罪に当たる可能性があるときは、警察と連携します。家庭環境に問題があるときは、児童相談所と協力することもあります。法的な問題が心配なときは、弁護士に相談することも考えましょう。
いじめの初期対応について詳しく知りたい方は、下記を参照ください。
教育委員会の役割
教育委員会は、学校を支援し、指導する立場にあります。いじめ対策において、重要な役割を担っています。
学校への指導
教育委員会は、いじめ防止対策推進法の内容をすべての学校に周知する責任があります。先生たちがこの法律をきちんと理解し、実践できるよう、研修を行います。また、いじめへの対応は、一人の先生ではなく、学校全体で組織的に行うべきだということを、繰り返し指導します。
重大事態が起きたときは、学校が警察と適切に連携できるよう支援します。教育委員会が積極的に関わることで、学校のいじめ対策の質が高まります。
支援体制の整備
教育委員会は、学校を支援するための体制を整えます。指導主事という専門の職員を配置し、学校の相談に乗ったり、助言をしたりします。また、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門家を学校に派遣します。先生たちがいじめ対応のスキルを身につけられるよう、研修の機会を提供します。
そして、子どもや保護者が相談できる窓口を設けます。学校だけでは対応が難しいケースでも、教育委員会が支えることで、解決への道が開けます。
民事訴訟への備え
いじめが原因で訴訟になることがあります。学校はどのように備えればよいのでしょうか。
請求される可能性
いじめの被害を受けた子どもの保護者は、学校に対して損害賠償を請求できます。治療にかかった費用、通院のための交通費、精神的な苦痛に対する慰謝料などが請求の対象になります。過去の判例を見ると、数十万円から数千万円の賠償が命じられています。
金額は、いじめの深刻さや、被害の程度によって変わります。たとえば、不登校になったり、精神的な病気になったりした場合は、高額になる傾向があります。訴訟のリスクがあることを、学校関係者は認識しておく必要があります。
弁護士との連携
学校や教育委員会は、日頃から弁護士と連携しておくことが大切です。顧問弁護士がいれば、いじめが起きたときにすぐ相談できます。法的な問題が生じそうなときは、早めに弁護士に相談しましょう。
訴訟になる前に、適切なアドバイスを受けることで、問題を大きくせずに済むこともあります。また、もし訴訟になった場合に備えて、証拠をきちんと整理しておくことも重要です。記録や資料を、いつでも提出できるように保管しておきましょう。
保護者対応の注意点
いじめが起きたとき、保護者への対応はとても重要です。誠実な対応が、信頼関係を築く鍵になります。
被害者保護者への対応
被害を受けた子どもの保護者には、誠実に説明することが何より大切です。学校が把握している事実を、隠さず伝えます。ただし、他の子どものプライバシーには配慮が必要です。
そして、今後どのように対応していくのか、具体的な計画を示します。調査の進み具合や対応の結果について、継続的に報告することも忘れてはいけません。子どもの安全を第一に考え、登校できる環境を整えます。スクールカウンセラーなど、心のケアができる専門家につなぐことも大切です。
加害者保護者への対応
加害者とされる子どもの保護者にも、ていねいな説明が必要です。何が起きたのか、事実を客観的に伝えます。保護者の中には、自分の子どもがいじめをしたとは信じられない人もいます。
感情的にならず、落ち着いて話し合いましょう。学校としてどのように指導していくのか、方針を共有します。そして、家庭でも協力してもらえるよう、お願いします。
大切なのは、子どもの成長を一緒に支えるという姿勢です。加害者とされる子どもも、適切な指導を受けることで、変わることができます。
まとめ
いじめ問題において、学校が負う責任はとても重いものです。いじめ防止対策推進法によって、学校には具体的な義務が課されています。基本方針の策定、対策組織の設置、情報共有、事実確認、調査など、やるべきことはたくさんあります。
これらの義務を怠ると、安全配慮義務違反として、損害賠償責任を問われる可能性があります。実際の裁判では、学校の対応の不備が指摘され、高額の賠償が命じられた例もあります。
そして、保護者や地域、教育委員会、専門機関と連携しながら、社会全体でいじめのない環境を作っていきましょう。一人の先生が抱え込むのではなく、みんなで協力することが、子どもたちの笑顔を守ることにつながります。
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