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いじめ撲滅

~ いじめの定義 ~ いじめの定義とは?変遷の理由や改定点をわかりやすく解説

はじめまして!いじめ撲滅委員会代表、公認心理師の栗本顕です。私の専門は「いじめ」です。心理学の大学院で研究もしてきました。現在はいじめの問題を撲滅するべく、研修やカウンセリング活動を行っています。

いじめ撲滅委員会代表栗本顕

今回のテーマは「文部科学省によるいじめの定義とその紐解き」です。いじめ問題に向き合う上で、その定義を正しく理解することは欠かせません。

定義は時代背景や社会の変化に応じて改定されてきました。本記事では、いじめの定義がどのように変わってきたのか、現在の定義は何を意味するのか、そしていじめ防止対策推進法とは何かについて詳しく解説していきます。

目次は以下の通りです。

いじめの定義が改定されてきた背景
昭和61年度からの定義
平成6年度からの定義
平成18年度からの定義
平成25年度からの定義(現在)
認知件数という考え方
いじめ防止対策推進法とは
法律制定の背景と趣旨
いじめ防止対策推進法の目的
いじめ防止対策推進法の基本理念
法律に定められた内容

保護者、教職員、そして子どもたち、それぞれの時代で定義は異なります。自分の経験だけで判断せず、現在の定義を正しく理解することが大切です。ぜひ最後までご一読ください。

いじめの定義が改定されてきた背景

いじめの定義は、その時代背景や多様化する社会に対応するため、定期的に改定されてきました。将来的にも、さらなる改定の可能性は十分にあります。

今までにどのように改定されてきたのか、現在はどのような内容なのかを把握することは、いじめ問題に向き合っていく上で、また研究や対策を進める上で必要不可欠です。

特に注目すべきは、定義の範囲が徐々に広がってきたという点です。初期の定義では限定的だったものが、被害者の立場に立った判断、継続性の有無、ネットいじめの追加など、時代とともに実態に即した形へと変化してきました。

昭和61年度からの定義

最も古い時期の定義は、次のようなものでした。

昭和61年度の定義内容

「いじめ」とは、①自分よりも弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないものとする。

この定義の特徴

昭和61年度の定義の特徴は以下になります。

学校の確認が必要
範囲が限定的
把握されないケースが多数

この時期の定義は、内容が非常に限定的でした。特に「学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの」という条件があったため、学校が確認していないいじめは、いじめとして認められませんでした。

そのため、実際にはいじめが起きていても、いじめとされなかったものが多くあったと考えられます。この定義では、被害を受けている子どもがいても、学校が把握していなければ対応されないという問題がありました。

いじめの兆候

平成6年度からの定義

平成6年度に、定義の改定が行われました。

平成6年度の定義内容

「いじめ」とは、「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」とする。なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。

主な変更点

平成6年度の改定での変更点は以下になります。

学校の確認要件を削除
被害者の立場重視を追加
判断基準の明確化

この改定では、少し内容が広くなりました。まず、「学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの」という条件が削除されました。これにより、学校が把握していなくても、いじめと認められる範囲が広がりました。

そして、「いじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」という文言が追加されました。よりいじめとなるものの範囲が広くなり、なおかつ「児童生徒の立場に立って」という、いじめ対策にとても大切な視点が加わったことが、大きな改定でした。

いじめの定義

平成18年度からの定義

平成18年度には、さらに大きな改定が行われました。

平成18年度の定義内容

個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係にある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。(※)なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

重要な変更点①:人間関係の捉え方

「自分より弱い者に対して一方的に」から「一定の人間関係のある者から」へと改定されました。これは非常に重要な変更です。

いじめにおける被害者・加害者という関係性の考え方が見直されました。いじめは、「一定の人間関係の中で発生すると捉える」という視点です。つまり、改定前の定義のように弱い者に対して一方的にということだけではなく、一定の人間関係の中で、どの子にもいじめは起こりうると考えるようになりました。

重要な変更点②:継続性の削除

平成18年度の改定の変更点は以下になります。

継続性の要件削除
一過性も対象に
早期対応の重視

「身体的・心理的な攻撃を継続的に加え」から「心理的、物理的な攻撃を受けたことにより」へと改定されました。これにより、「継続的」という言葉が削除されました。

改定前は、一過性の心理的、物理的な攻撃はいじめという捉え方をしていませんでした。しかし、改定後は、継続的なものはもとより一過性のものもいじめと捉えて指導していくことになりました。これは、いじめの早期発見・早期対応を重視する姿勢の表れです。

重要な変更点③:苦痛の程度

「相手が深刻な苦痛を感じているもの」から「精神的な苦痛を感じているもの」へと改定されました。これにより、「深刻な」という言葉が削除されました。

改定前よりも、被害者の立場に立って、被害者が感じている精神的苦痛を適切に把握し、いじめの解消に努めていくことが必要であることが強調されました。深刻でなくても、精神的な苦痛を感じていればいじめと認定されるようになったのです。

認知件数という考え方の導入

また、この年からいじめの件数を把握するために、従来の「発生件数」から「認知件数」へと改定されたことも大きな変化です。

認知件数とは、発生しているいじめのうち、学校が把握できている数のことです。これにより、学校がいじめを積極的に見つけ出す姿勢が求められるようになりました。認知件数が多いことは、学校がしっかりいじめを把握しているという評価にもつながります。

平成25年度からの定義(現在)

現在使われている定義は、平成25年度に改定されたものです。

平成25年度の定義内容

「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

主な変更点

平成25年度の改定での変更点は以下になります。

ネットいじめの明記
精神的から心身へ
法律に基づく定義

平成25年度には、「いじめ防止対策推進法」が施行されたことで、定義についても改定がありました。そのため、内容も表現も大きく変わっていますが、根本となるものは同じです。

主な変更点として、まず「インターネットを通じて行われるものも含む」という文言が追加されました。これは、学校裏サイトなどのネットいじめや、近年ではLINEでのいじめも注目されている時代背景を捉えたものです。大きな変化として、ネット上でのいじめも明確に含まれることになりました。

心身の苦痛という表現

また、「精神的な苦痛」から「心身の苦痛」へと変更になりました。これにより、苦痛を感じている度合いや範囲が広くなり、いじめと判断される範囲もその分広くなったと考えられます。

いじめによる精神疾患の発症や身体症状(腹痛や頭痛など)、不登校なども視野に入れたものだと推測できます。心だけでなく、体に表れる症状も含めて被害として認識されるようになったのです。

時代による定義の違いに注意

以上のように、いじめの定義は、その時代背景や多様化する社会に対応するため、定期的に改定されてきました。

そのため、保護者の時代や教職員の時代、現在の子どもたちの時代とでは内容が変わります。自分の経験した時代の物差しだけで判断することは控えなければいけません。現在の定義を正しく理解し、それに基づいて対応することが重要です。

いじめの定義,インターネット

いじめ防止対策推進法とは

いじめ防止対策推進法は、いじめへの対応と防止について、学校や行政等の責務を規定している法律です。

法律制定の背景

いじめ防止対策推進法が制定された背景は以下になります。

大津市中2いじめ自殺事件
学校の隠蔽問題
社会問題化

この法律が規定された背景には、2011年に起きた大津市中2いじめ自殺事件があります。学校側がいじめはなかったとして隠蔽や責任逃れをしたことが原因でこの悲劇が起こり、2012年になって発覚して大きく取り上げられました。これが法律制定の大きな契機となったと考えられます。

いじめが社会問題化する中で、いじめに対峙していくための法の制定の必要性が叫ばれました。また、国会でもいじめ対策が喫緊の課題であるとの認識のもと協議が重ねられました。その結果、2013年6月28日に議員立法によって国会で可決成立し、同年9月28日に施行されました。

法律制定の趣旨

平成25年度には、「いじめ防止対策推進法」が施行されました。この法律は、2011年の大津市中2いじめ自殺事件を契機に、いじめへの対応と防止について学校や行政等の責務を明確に規定したものです。

2013年6月28日に議員立法によって国会で可決成立し、同年9月28日に施行されました。この法律の制定により、いじめの定義も法律に基づくものへと改定されることになりました。

いじめ防止対策推進法について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。

いじめ防止対策推進法とは?

いじめ,法律

 

まとめ

いじめの定義は、時代とともに大きく変化してきました。昭和61年度の限定的な定義から始まり、平成6年度には被害者の立場を重視する視点が加わりました。平成18年度には継続性の要件が削除され、一過性のいじめも対象となりました。そして平成25年度には、ネットいじめも明確に含まれる現在の定義となりました。

定義の範囲が広がってきた背景には、いじめの実態に即した対応をするという姿勢があります。また、いじめ防止対策推進法の制定により、法律に基づいた対応が可能になりました。児童・生徒等の尊厳を保持することを根本とし、全ての子どもを対象に、社会全体でいじめに取り組む仕組みが整えられています。

保護者や教職員は、自分の経験した時代の定義だけで判断せず、現在の定義を正しく理解することが大切です。子どもたちを守るために、最新の知識を持って向き合っていきましょう。

相談をご希望の方へ

いじめ撲滅委員会では、全国の小~高校生・保護者のかた、先生方にカウンセリングや教育相談を行っています。カウンセラーの栗本は、「いじめ」をテーマに研究を続けており、もうすぐで10年になろうとしています。

・いじめにあって苦しい
・いじめの記憶が辛い
・学校が動いてくれない
・子供がいじめにあっている

など、いじめについてお困りのことがありましたらご相談ください。詳しくは以下の看板からお待ちしています。

いじめ,カウンセリング

 

文部科学省 2016 平成28年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について.
文部科学省 2013 いじめ防止対策推進法の公布について.

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