~ いじめの定義 ~ いじめと傍観者効果とは?見て見ぬふりが起こる理由と対策
はじめまして!いじめ撲滅委員会代表,公認心理師の栗本顕です。私の専門は「いじめ」です。心理学の大学院で研究もしてきました。
現在はいじめの問題を撲滅するべく、研修やカウンセリング活動を行っています。

今回のテーマは「いじめと傍観者効果」です。学校や職場で誰かが困っているとき、周りに人がたくさんいるのに誰も助けない場面を見たことはありませんか。実はこれは「傍観者効果」という心理現象が関係しています。
目次は以下の通りです。
①傍観者効果とは何か
②傍観者効果が生まれた歴史
③いじめで起こる傍観者効果
④なぜ助けられないのか
⑤傍観者の心理的影響
⑥いじめが長引く理由
⑦学校でできる対策
⑧子どもができる行動
⑨傍観者から抜け出すために
ぜひこの記事を通して、いじめを止めるために一人ひとりができることを学び、勇気を持って行動するきっかけを掴んでください。
傍観者効果とは何か
傍観者効果は、周りに人がいることで自分が行動できなくなる心理現象です。ここではその基本的な仕組みを見ていきましょう。
周りに人がいると動けなくなる心理
傍観者効果とは、困っている人がいるときに、その場に多くの人がいればいるほど、誰も助けようとしなくなる現象のことです。これは社会心理学で研究されている集団心理の一つで、英語では「bystander effect」と呼ばれています。
たとえば道で人が倒れているとき、自分一人しかいなければすぐに声をかけるかもしれません。しかし周りにたくさん人がいると、「誰かが助けるだろう」と思って何もせずに通り過ぎてしまうことがあります。これが傍観者効果です。
人数が多いほど強まる効果
傍観者効果の特徴は、周りにいる人の数が増えれば増えるほど、その効果が強くなることです。心理学者のラタネとダーリーの実験では、目撃者が1人だけの場合は約85%の人が助けに入りましたが、目撃者が6人いる場合は約60%にまで低下しました。
つまり、助けが必要な人の周りに多くの人がいるほど、かえって誰も行動しなくなるのです。これは人間の冷たさではなく、誰にでも起こりうる心理的なメカニズムなのです。
傍観者効果が生まれた歴史
傍観者効果という概念は、ある悲劇的な事件をきっかけに生まれました。その歴史的背景を理解しましょう。
キティ事件がきっかけ
1964年、アメリカのニューヨークでキティ・ジェノヴィーズという女性が暴漢に襲われて殺害される事件が起こりました。この事件は深夜に発生し、犯行は30分以上に及びました。
衝撃的だったのは、アパートの住人38名がこの事件に気づいていたにもかかわらず、誰一人として警察に通報しなかったことです。キティさんは何度も悲鳴を上げて助けを求めましたが、誰も動かなかったのです。この事件は社会に大きな衝撃を与え、「都会人の冷淡さ」として報道されました。
心理学の実験で証明された
この事件をきっかけに、心理学者のビブ・ラタネとジョン・ダーリーが研究を始めました。彼らは「多くの目撃者がいたからこそ、誰も通報しなかったのではないか」という仮説を立てました。
実験では、被験者が討論会に参加している最中に、他の参加者の一人が発作を起こすという設定を作りました。その結果、参加者が2名だけの場合は全員が助けを求めましたが、6名いる場合は4分経過しても60%しか報告しませんでした。この実験によって、傍観者効果が科学的に証明されたのです。
いじめで起こる傍観者効果
学校のいじめでも、傍観者効果は大きな影響を与えています。いじめの構造を理解することが解決への第一歩です。
クラスの4層構造
いじめは、加害者と被害者だけの問題ではありません。研究によると、いじめには4つの層が存在することが分かっています[1]。加害者がいじめを行い、被害者がそれを受け、観衆がはやし立て、傍観者が見て見ぬふりをするという構造です。
この4層構造の中で、観衆と傍観者の存在がいじめを長期化させる大きな要因となっています。統計では、いじめの現場の約88%に傍観者がいるとされています。傍観者がいることで、加害者は「みんなが認めている」と感じ、いじめがエスカレートしていくのです。
観衆と傍観者の違い
観衆とは、いじめを面白がって見ている存在です。直接手を下さなくても、笑ったりはやし立てたりすることで、いじめを積極的に応援しています。一方、傍観者は「見て見ぬふり」をする存在です。
傍観者の多くは、心の中では「いじめは良くない」と思っています。しかし「自分がターゲットになるかもしれない」という恐怖や、「何をしたらいいか分からない」という無力感から、何も行動できずにいるのです。傍観者の83%がいじめの状況を不愉快だと感じているというデータもあります。
なぜ助けられないのか
傍観者が行動できない背景には、いくつかの心理的な要因があります。これらを理解することで、対策を考えることができます。
誰かがやると思う責任分散
責任分散とは、その場にいる人が多いほど、一人ひとりの責任感が薄れてしまう現象です。「自分がやらなくても、他の誰かがやるだろう」と考えてしまうのです。
たとえばクラスに30人の生徒がいれば、「30人の中の誰かが先生に言うだろう」と思います。しかし全員が同じように考えると、結局誰も行動しません。これが責任分散のメカニズムです。一人ひとりは悪意がなくても、集団全体として機能不全に陥ってしまうのです。
失敗が怖い評価懸念
評価懸念とは、自分の行動が周りからどう見られるかを気にする心理です。「余計なことをして失敗したらどうしよう」「大げさだと思われたら恥ずかしい」という不安が行動を抑制します。
特に思春期の子どもたちは、周りの目を強く意識します。いじめを止めようとして、「うざい」「空気読めない」と言われることを恐れるのです。また、行動して失敗したときに自分が笑われることへの恐怖も、傍観者を生み出す大きな要因となっています。
緊急性を感じない多元的無知
多元的無知とは、周りの人が何もしていないのを見て、「たいしたことではないのだろう」と誤解してしまう現象です。本当は緊急事態なのに、他の人が冷静に見えるため、自分も行動しなくていいと判断してしまうのです。
いじめの場合、「みんなが笑っているから、ふざけているだけかもしれない」と考えてしまいます。また「被害者も笑っているから、本当は嫌がっていないのでは」と思い込むこともあります。しかし実際には、被害者は恐怖から笑顔を作っていることも多いのです。
傍観者の心理的影響
いじめを傍観することは、傍観者自身の心にも深い傷を残します。その影響を見ていきましょう。
罪悪感を抱える子どもたち
傍観者の多くは、何もできなかった自分を責め続けます。「あのとき助けていれば」「自分も加害者と同じだ」という思いが、心の中でずっとくすぶり続けるのです。
1986年の中野富士見中学校いじめ自殺事件では、当時傍観者だった生徒が大人になってからも「忘れられない」と証言しています[2]。心の奥に小骨が刺さったような感覚が続き、自分の人生にも影響を与え続けるのです。
大人になっても残る記憶
傍観していた記憶は、年月が経っても消えません。むしろ大人になって物事を理解する力がついたとき、あらためて自分の行動を後悔することもあります。
特に被害者が深刻な結果に至った場合、傍観者は生涯にわたって罪悪感を抱え続けることになります。「もし自分が勇気を出していたら」という思いは、何年経っても心を苦しめ続けます。傍観することは、自分自身の心の健康にも大きな影響を与えるのです。
いじめが長引く理由
傍観者の存在が、いじめを深刻化させる構造を作り出しています。そのメカニズムを理解しましょう。
傍観者が加害を黙認する構造
傍観者が何も言わないことは、加害者にとって「認められている」というメッセージになります。誰も止めないということは、「このくらいは許される」と加害者が解釈してしまうのです。
また、傍観者が多いほど、加害者は安心していじめを続けられます。クラス全体が黙っていることで、いじめは正当化され、どんどんエスカレートしていきます。文部科学省の調査でも、傍観者の存在がいじめを助長することが指摘されています[3]。
被害者の孤立が深まる過程
誰も味方になってくれない状況は、被害者を極度の孤立に追い込みます。「クラス全員が敵だ」「誰も助けてくれない」という絶望感が、被害者の心を深く傷つけるのです。
実際には、多くの生徒が心の中で「かわいそうだ」と思っています。しかし誰も行動しないため、被害者には「みんなが自分を嫌っている」と見えてしまいます。この認識のずれが、被害者をさらに追い詰めていくのです。
学校でできる対策
傍観者効果を防ぐためには、学校全体で取り組む必要があります。具体的な対策を見ていきましょう。
報告しやすい仕組み作り
いじめを発見したときに、すぐに報告できる体制を整えることが重要です。匿名で相談できる窓口や、定期的なアンケート調査を実施することで、子どもたちが声を上げやすくなります。
また、報告した生徒が不利益を被らないよう、学校側が守る姿勢を明確にすることも大切です。「チクった」と言われることへの恐怖を取り除き、「勇気ある行動だ」と評価する文化を作る必要があります。報告することが正しい行動だと、全校に伝え続けることが重要です。
具体的な行動を教える
「いじめを止めよう」という抽象的なスローガンだけでは、子どもたちは動けません。具体的にどう行動すればいいかを、段階的に教える必要があります。
いじめを止める方法は以下になります。
先生に報告する
被害者に声をかける
その場を離れさせる
加害者に止めるよう言う
このように、レベル別に具体的な行動を示すことで、子どもたちは自分にできることを選択できます。ロールプレイなどで練習しておくと、実際の場面でも行動しやすくなります。一人でも行動する人が現れれば、それに続く人が増えるという研究結果もあります。
いじめを許さない雰囲気
学校全体で「いじめは絶対に許さない」という明確なメッセージを発信し続けることが大切です。校長や教師が率先して、いじめを止める姿勢を示すことで、子どもたちも安心して行動できます。
また、クラス内で「助け合う文化」を育てることも重要です。困っている人を助けた生徒を褒めたり、その行動を全体に紹介したりすることで、援助行動が広がっていきます。傍観者効果を防ぐには、個人の努力だけでなく、組織全体の文化を変える必要があるのです。
まとめ
傍観者効果は、周りに人が多いほど誰も行動しなくなる心理現象です。いじめの現場では、この効果によって多くの人が見て見ぬふりをしてしまいます。
責任分散、評価懸念、多元的無知という3つの要因が、私たちの行動を抑制します。しかし傍観し続けることは、加害を黙認することであり、あなた自身の心にも深い傷を残します。
学校全体で報告しやすい仕組みを作り、具体的な行動を教えることが重要です。そして一人ひとりが、自分にできる小さな行動から始めることで、いじめのない社会を作ることができます。
あなたが最初の一人になることを恐れないでください。勇気を出して一歩踏み出すことが、誰かの命を救い、あなた自身の人生も変えていくのです。



