不安神経症とは何か,治療方法,種類

皆さんこんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在心理学講座を開催しています。今回のテーマは「不安神経症」です。

不安神経症

不安神経症は、様々な定義が混在し、それゆえ治療方法も、ふわっとしたものになっています。当コラムではそんな不安神経症の意味を整理し、治療方法を解説していきます。目次は以下の通りです。

①不安神経症とは
②不安神経症と原因
③治療方法

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

不安神経症とは

不安神経症とは何か

不安神経症とは以下の意味があります。

心の問題により過剰に不安を感じることで健康的な生活ができなくなる心の病気

不安神経症がある方は、非現実的な考えがある、ささいなことを深刻に捉えるなど、心になんらかの問題があります。その結果、不安を強く感じ、行きたい場所に行けなくなる、メンタルヘルスが悪化するなどの問題を抱えることになります。

精神医学上の用語の衰退

古典的な精神医学では、心理療法が適用が難しい「精神病」と適用が可能な「神経症」を分ける必要性がありました。1984年には、フロイトが「不安神経症 Angstneurose」と名付けたのがはじまりとされています[1]。不安神経症という言葉は1970年代まで使われていました。

一方で「神経症」「神経質」という言葉は、曖昧で意味が広すぎるために、使いにくいとされ、1980年に発行されたDSM-III(第3版)では[1]、神経症という表現が撤廃され「パニック障害」「全般性不安障害」という用語として再定義されることになりました。

また、WHOの診断基準でも、大きな分類として神経症障害という言葉は使われているものの、診断としては全般的不安障害と診断されることになります。

心理学上の用語は持続する

一方で心理学の世界では「神経質」という言葉は、今後も使われていくことになります。と言うのも、性格の5大特性の中では「神経質傾向」があり、重要な指標だからです。

まとめると、「不安神経症」「神経症」という言葉は病気としては使われないですが、「神経質」という言葉は心理学の世界では今後も使われていくとおさえておきましょう。

分類

後に不安神経症に関わる心の病気を紹介します。現在アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM5[2]では、不安神経症は不安障害という用語で分類されています。内訳は下記のようになります。

不安神経症,障害,種類

関連するコラムは以下になります。理解を深めたい方は参考にしてみてください。

不安障害
パニック障害
社交不安障害
全般性不安障害

不安神経症の治療法

不安神経症の治し方としては、大きく分けて薬物療法と心理的なアプローチの2つがあります。当コラムでは心理的なアプローチを中心に5つ紹介します。

①現実検討力をつける
②行動療法で少しずつ慣れる
③系統的脱感作療法
④森田療法の考え方を活かす
⑤不安を味方につける
⑥思い切って環境を変える

ご自身に合いそうなものを組み合わせてご活用ください。

①現実検討力をつける

不安神経質症がある方は、非現実的な考えによって、自分自身で不安を大きくしてしまいます。改善をするには「現実検討力」をつけることが大事です。

現実検討力とは、自分の考えが、実際に起こりうることなのか、事実に即した考えなのか、を冷静に把握する力を意味します。具体的には以下のように検証をしていく力になります。

神経質な考えを裏づける証拠はあるか?
現実的か確率計算をしてみる
思い込みの可能性はないか?

例えば

外に出るとウイルスにかかる!
絶対に外出してはいけない!

と考え、家に完全に引きこもって、メンタルヘルスが不安定になっている方がいたとします。この考え方が現実的か考えていきます。

外に出るだけで感染するという学者は1人もいない
人がいない場所で感染する確率はゼロ%
外出をしないと別の健康リスクが出る

など現実的な証拠をベースに考えていく練習をしていきます。詳しくは以下のコラムを参照ください。

現実検討能力をつける方法

 

心配性を3つの質問に答える反証で対処

②行動療法で少しずつ慣れる

不安が強い人の治療法としては、行動療法がおすすめです。行動療法とは、回避をしている場面に実際にチャレンジをすることで、不安を軽くしていく心理療法です。まずは以下の図をご覧ください。

不安神経症,行動療法

この図は、チャレンジをしていくたびに、不安が減っていくことを表しています。行動療法ではこのような心の性質を利用し、

嫌な刺激に少しずつ慣れる
避けていた状況を実際にチャレンジする
回避癖を直して行動力をつける

これらのチャレンジを行っていきます。行動療法は症状がある程度改善してきた頃に有効です。現実場面を改善していきたい場合は、以下のコラムを参考にしてみてください。

神経症を治す行動療法

③系統的脱感作療法

系統的脱感作療法 (systematic desensitization therapy) は、心理療法の一種で、患者が恐れるものやストレスを感じるものに対して、次第に慣れられるようにすることで不安やストレスを取り除く方法です。具体的な手順としては以下のようになります。

1.評価
不安の原因を特定し評価する
2.目標設定
患者が望む状態を明確にし、目標を設定します
3.シートの作成
恐れるシチュエーションを不安の大きさごとに描写した表を作成する
4.リラックス・トレーニング
不安場面でもリラックスできるように、呼吸法やイメージトレーニングを行う
5.暴露
シチュエーションにチャレンジをしながらリラックスした状態になる練習を行います

不安神経症と系統的脱感作療法については効果研究もあります。理解を深めたい方は以下の折り畳みを参照ください。

高橋ら(1979)[3]は不安神経症のある患者を対象に、系統的脱感作療法の効果を調査しました。その結果は以下のようになりました。

症例1

・30歳男性
・クレーンの運転手として働いているが、高所への恐怖や動悸などが出現
・予期不安が強まると、外出ができないほどになる

この男性に対して系統的脱感作による治療が行われました。不安を10個の場面で評定した「不安階層表」というものを使っています。不安の評定は「車を運転しているとき(10点)」が一番低く、「最初に発作を起こした時(100点)」が一番不安が高くなっています。

不安の評定得点が低くなることを目標に、自宅で1日3回ずつの不安場面の脱感作を実施していきました。その結果、治療を開始して3週間後には会社で仕事もできるようになっていきました。

さらに、10週目には「最初に発作を起こした時」の不安得点も100点→0点に改善され、クレーンの運転も支障な

くできるようになりました。

高橋ら(1979)[3]の研究における症例2を紹介します。

・33歳女性 主婦
・夫が転勤により家を空けることが多く孤独感が強い
・一人でいると不安が高まり、一人での外出が不可能になる

この女性に対しても系統的脱感作が実施されました。この女性も「最初の発作を起こした時」の不安得点が一番高く100点になっています。

その結果、15週目には「最初に発作を起こした時」の得点も100点→0点に改善されています。さらに、一人で遠くまで買い物に行けるようになり、支障なく日常生活を送っているとしています。

④森田療法の考え方を活かす

森田療法は日本人である森田正馬によって考案された精神療法です。森田は神経症の症状は注意が注意を呼ぶことにより起こると考えました。

例えば、人から嫌われてないか気になる…という不安があった時に、

嫌われてはいけない!
嫌われてはいけない!
嫌われてはいけない!

と考えるほど、不安は大きくなっていきます。森田はこれを“精神交互作用”と呼びました。

不安神経症と精神交互作用

ここで大事なことは、不安にこだわらず「あるがまま」の態度を大事にすることです。

嫌われたくない気持ちがあるんだな
そうかそうかまあ当たり前のことだよな
その気持ちにOKを出しながら自分らしく

このように不安に対して自然体であると、そこまで大きくはならないのです。神経質を改善する古くからある手法でとてもおススメです。森田療法を学んでみたい方は下記のコラムを参照ください。

森田療法の基礎

⑤不安を味方につける

行動遺伝学の研究では、私たちの性格はある程度、遺伝的に決まっていることがわかっています。かなりざっくりとですが、不安の感じやすさは30~50%程度遺伝するのです。そのため、不安を感じやすい人が、全く楽天的な気質に変わることはかなり難しいと言えます。

ここで大事な視点が不安を感じやすい神経質な気質をむしろ味方につけてしまうことです。例えば、研究職、医療関係、高度な接客、職人、などでは、むしろプラスとなります。

不安は将来へのリスクを回避する重要な感情でもあります。未来を見据えて準備をする場面で役立つので、その気質を活かすように心がけましょう。

⑥思い切って環境を整える

自分の生活環境が気質にあっているかをチェックすることも大事です。私が相談を受けた事例では、都内に住んでいた方が、静かな郊外に引っ越したところかなり症状が改善した例もあります。

相談を下さった方にとって都会は、どうしても、人があくせくとしていて、競争意識も高く、不安が大きくなりやすい環境でした。幸いにもフリーランスだったので、山奥の古民家を購入してリノベしながらゆったり暮らす生活にされました。

その結果、不安な気持ちがかなり改善したのです。自分自身が安心して過ごせる生活環境をなるべく整えるようにしてください。

不安神経症,環境を変える

心理療法を学びたい方へ

不安神経症コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・不安を軽くする,認知行動療法の学習
・不安を緩和,認知の偏りの改善
・あるがまま,森田療法の学習
・マインドフルネス,エクササイズ

皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください↓

 

不安神経症とは何か,治療方法,病気の種類,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

塩入俊樹(2010).不安障害の病態について: Stress-induced Fear Circuitry Disorders を中心に – 精神神経学雑誌,- journal.jspn.or.jp

[2] 高橋三郎,大野裕(2014)..DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院

[3] 高橋幸夫, 佐藤光源, 洲脇寛, 大西俊和, 和気章, 大月三郎(1979).神経症とポリグラフ : 不安・動悸発作を主訴とする神経症の系統的脱感作療法 心身医学19巻5号