不安障害の症状,種類,心理療法

皆さんこんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史です。私は現在心理学講座を開催しています。今回のテーマは「不安障害」です。

不安障害,nipper様作成

当コラムでは不安障害の基礎から治療法まで一通り解説していきます。目次は以下の通りです。

①不安障害とは何か
②不安障害の種類と特徴
③治し方,医療と心理療法
まとめ

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

不安障害の意味

不安障害の意味

不安障害は広い概念ですが、要約すると以下のように定義できます。

人前で話すとき、大事な試験の時、苦手な場所にいるときに、心配や不安が大きくなり、回避的になるため、日常生活に支障をきたす障害

3つの特徴

不安障害には3つの特徴があります。
①特定の場所や状況が苦手
電車が苦手、人と話す状況が苦手、不潔な状況が苦手など、特定の場所や状況が苦手になります。

②不安が非常に大きい
私たちは生きていれば多少なりとも不安を抱えて生きているものです。しかし不安障害になると、社会生活が困難になるぐらい大きな不安を抱えることになります。

③回避的である
不安障害になると、特定の場所や場面を避けて生活をすることになるため、仕事や余暇の活動が制限され、QOLが下がることになります。

有病率

不安障害の患者数はアメリカのNCS調査(2005)[1]によると、全体では28.8%となっています。1年以内では18.1%となっています。日本の厚生労働省が平成14年から18年まで行われた調査では、生涯有病率は9.2%、1年以内の有病率は1.8%となっていました。[2]

日米で差はあるものの、少なくともも10人に1人はなんらかの不安障害になることを考えると、極めて身近な精神疾患であることがわかります。

不安障害,生涯有病率

 

不安障害の種類

不安障害の種類

不安障害は、不安を基盤とする心の病気の診断名や症状の総称です。不安障害と診断されるわけではなく、より詳細な診断名や症状がつきます。代表的なものは以下が挙げられます。

パニック障害 広場恐怖症 社交不安障害 選択性緘黙 全般性不安障害 限局性不安障害 強迫性障害 分離不安障害 PTSD

このように不安障害が様々な障害をふくむことがわかります。代表的なものを折りたたんで解説しました。詳しく知りたい方はそれぞれを展開してみてください。

パニック障害(panic disorder)は、パニック発作が起きることが特徴的です。パニック発作は、ある日突然起きます。アメリカ精神医学会の診断基準[3][4]によると、パニック発作とは以下の13の症状うち少なくとも4つ以上の症状があり、さらにその発作は急激に始まり、数分以内にピークに達するものを言います。

パニック発作が起きると、死んでしまうかもしれないと感じるほど、苦しい発作です。その場に倒れこんでしまい、救急車が呼ばれることもあります。こうしたパニック発作に加え、再びパニック発作が起こるのではないかと心配する、“予期不安”を抱き、日常的に不安を感じます。詳しくはこちらを参照ください。

パニック障害とは何か

不安症のパニック発作で見られる症状

社交不安症(障害)はsocial anxiety disorderのことで、頭文字をとってSADと略されます。ほかにも、社交恐怖症、対人恐怖症と呼ばれることがあります。

SADとは、その名前が示す通り、社交場面や人とかかわる場面強い不安感や緊張感を抱き、そのために日常生活に不都合が生じる精神障害のことです。

SADは10代半ば~20代ころに発症することが多く、うつ病やアルコール依存症との合併がよくみられます。詳しくはこちらを参照ください。

社交不安障害

選択性緘黙とは、他の状況では話せるのに、特定の状況では話せなくなってしまうことが特徴です。言語能力には問題はありません。家では話せるのに学校では話せない、話そうとすると緊張こうした症状があるために、学校生活や職業生活に支障が出てしまいます。

久田ら(2016)[5]は、学校での選択性緘黙児童の状態について調査しています。

この結果から、約6割の児童は全く話せないわけではなく、特定の友人であれば話せるということがわかります。詳しくは以下を参照ください。

選択的場面緘黙とは何か

全般性不安障害はgeneralized anxiety disorderのことで、頭文字をとってGADと略されます。新しい診断基準では、全般不安症と言います。GADとは、いろいろな事柄についての過剰な不安と心配が6カ月以上続いている時に診断されます。

症状としては、落ち着きのない感じ、緊張感、疲れやすさ、集中困難なども伴います。めまいや耳鳴り、動悸もよく見られます。例えば、以下のようなことをとりとめなく考えてしまいます。

上司の笑顔が引きつっていた…仕事を首になるのではないか
友人にメールをしたが帰ってこない…嫌われたのではないか
胃が痛い…何か大きな病気に罹ってしまったのではないか
家族がいつもより30分帰りが遅い…交通事故に巻き込まれているのではないか

全般性不安障害の方は、上記のようにはっきりとした根拠がないままに不安や心配がわいてきて、それらを自分で止めることができず、とてもつらい思いをします。詳しくはこちらを参照ください。

全般性不安障害

限局性恐怖症はある特定の対象や状況に対する、持続的な強い恐怖を示すものです。例えば、高いところ、注射、動物などの特定の対象に対する恐怖があります。限局性恐怖には以下のようなタイプがあります

動物型 動物や虫に対する恐怖
自然環境型 台風など自然災害
に対する恐怖
血液・
注射型
注射や血を見ることの恐怖
状況型 トンネル、橋、エレベーター
など状況への恐怖

幼児期において、母親と離れるときには不安を抱えるものです。この不安のことを分離不安といいます。分離不安は正常の反応ですが、不安が過剰になると、分離不安障害となります。幼児期、小児期の病気で、発症は18歳以前です。症状としては、分離に対する過剰な心配、分離に関する悪夢、不安で学校にいけない、などが挙げられます。

合併症

不安障害は、うつ病など、他の精神疾患との併存が多いことが知られています。以下の図は、社交不安障害、パニック障害、全般性不安障害の患者に見られるうつ病の併存率を示しています。[6][7]

不安障害患者におけるうつ病の併存率

③治し方,医療と心理療法

不安障害の恐れがある際は以下対策が基本になります。

①医療の力を借りる
②認知療法
③行動療法
④マインドフルネス慮法
⑤森田療法

精神疾患全般に言える事ですが、治療については、1つだけに頼るのではなく、複数の手法を総合的に活用することが大事になってきます。

全般性不安障害,治療方法

①医療の力を借りる

私たちの脳は、様々な脳内伝達物質で、不安を感じたり、悲しくなったりします。精神科や心療内科ではこれを「薬」の面から改善していくのです。例えばSSRIというお薬は、不安や心配を緩和する効果があり、不安障害でよく処方されます。

診察はまずは予備面接から始まることが多く、30分前後、コメディカルの面接を挟み、検査などを行い、そのうえで、精神科医のお医者さんとの面接にはいることが多いです。

一方で、精神科では薬物がメインとなるため、問題そのもの対処力があがるわけではありません。薬と併用しながら心理療法を学び、自分自身の基本的な感情コントロール力を向上させると効果的です。不安障害と薬について理解を深めたい方は、以下のコラムを参照ください。

社交不安障害と薬物療法

②認知療法

不安障害と相性が良い心理療法の1つに、認知療法があります。認知療法は考え方の偏りを柔軟にほぐす手法です。不安を抱えやすい方は根拠のない思考が多くなりがちですが、現実的に考える練習を行います。特に非現実的なことに対して不安や恐怖を感じやすい方にとても効果があります。

認知療法のやり方

③行動療法

行動療法は不安の小さなものから取り組み、行動範囲を広げていく手法です。不安が強い際は、回避をしたり、問題行動を繰返してしまいます。そこで行動療法では、自分が苦手とする場面に少しずつ慣れていくような手法で、実践的に練習をしていきます。行動療法はざっと10種類程度あり、症状に合わせて適切な療法が適用されていきます。

行動療法のやり方

④マインドフルネス療法

マインドフルネス療法とは、不安を客観的に眺め、冷静に対処する力を高める心理療法です。ここ15年で急速に研究が進み、不安障害にも効果があることがわかってきました。マインドフルネスの特徴としては、不安を無理に無くそうとしない点にあります。あくまで不安を自然な感情として受け入れ、ただ冷静に眺めることで、うまく付き合っていこうとするのです。東洋的な考え方が土台にある心理療法で、日本人にもしっくりきやすいという特徴があります。

マインドフルネス療法

⑤森田療法

森田療法は不安とうまく付き合いながら目的本位に生きていくという心理療法です。森田療法の特徴としては、不安を無理に無くそうとすると、余計に悪化するという考え方にあります。例えば、人と接するのが怖い人がいたときに、怖い気持ちをなくしたい!とこだわるほど、恐怖心が大きくなっていきます。これは精神交互作用と呼ばれます。森田療法では、このような感情を無理に押さえつけるのではなく、「あるがまま」受け入れ、「目的本位」に生きることを大事にしていきます。

森田療法のやり方

 

不安障害を治す3つの方法とコツ

まとめ

当コラムでは不安障害について、種類や治療法を紹介してきました。実は筆者の川島は社交不安障害になったことがあります。一番重たい時は、自宅から全く出ることができなくなりました。それでも、心理療法をしっかり学び、1つ1つ環境を改善していけばきっと症状は軽くなると思います。

当コラムが参考になり、皆さんの症状が少しでも軽くなるヒントになれたならとてもうれしいです。じっくり取り組んでみてください。

心理療法を学びたい方へ

不安障害コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・不安を軽くする,認知行動療法の学習
・恐怖心を緩和,認知の偏りの改善
・感情のコントロール法
・マインドフルネス,エクササイズ

社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください↓

 

不安障害の症状,種類,心理療法,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Andersson, G. & Carlbring, P., et al. (2006) Internet-Based Self-Help With Therapist Feedback and In Vivo Group Exposure for Social Phobia: A Randomized Controlled Trial. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74 (4), 677-686

[2] 上憲人(主任研究者)(2007).こころの健康についての疫学調査に関する研究(平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業) こころの健康についての疫学調査に関する研究,総合研究報告書).,

[3] American Psychiatric Association(2000).Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth edition, Text Revision (DSM-IV-TR). Washington, DC, American Psychiatric Association.

[4] 高橋三郎・大野裕監訳(2014).DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院.

[5]久田信行・金原洋治・梶正義・角田圭子・青木路人(2016).場面緘黙(選択性緘黙)の多様性—その臨床と教育— 不安症研究 8(1), 31-45

[6]Van Ameringen, M., Mancini, C., Styan, G., et al. (1991). Relationship of social phobia with other psychiatric illness. Journal of Affective Disorders 21, 93-99.

[7]Brawman-Mintzer & Lydiard, R (1996).Generalized anxiety disorder: issues in epidemiology. Journal of Clinical Psychiatry. 57 (Suppl 7), 3-8.