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行動療法

行動療法とは何か,学習理論に基づく心理療法

「苦手な場面を避けてしまう」「やる気が出るのを待っているうちに、何もできなくなる」——そんな悩みには、頭の中の考えを変えるより、行動から変えていく方法が役に立つことがあります。それが行動療法です。

みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。当コラムは認知行動療法の入門シリーズです。全4回で解説しています。

①認知行動療法の全体像
②認知行動療法と認知療法
③認知行動療法と行動療法
④マインドフルネス療法への展開

今回は「③行動療法」について解説していきます。

行動療法,心理療法のイメージ

目次

ご自身でも活用できそうなワークを組み合わせて、ご活用ください。

①行動療法とは何か

何をする心理療法か

行動療法は、学習理論(人がどのように行動を身につけ、続け、やめるのかを研究する理論)にもとづいて、悩みにつながっている行動を変えていく心理療法です。ここでいう「行動」には、外から見える動作だけでなく、考えや感情、体の反応を含めて扱うこともあります(SAGE事典)[1]。

医療機関では、不安症、うつ病、強迫症などの治療の一部として使われます。また、積極性を身につけたい、引っ込み思案を直したい、習慣を変えたいといった、日常的なお悩みにも使える、守備範囲の広い心理療法です。

ほかの療法との違い

行動療法は、過去の歴史よりも「今」の行動と、それを続けさせている環境に注目します(Springer事典)[2]。過去の体験や無意識を扱う精神分析とは、この点が大きく異なります。

考え方を見直す認知療法とも役割が違いますが、実際の現場では両者を組み合わせた認知行動療法として使われることが多くなっています。

対象となる心の悩み

行動療法は、病気だけでなく、日常生活の悩みを解決するための方法です。不安障害では、怖いと感じることに少しずつ慣れる練習を行い、うつ病では、活動を少しずつ増やして気持ちを立て直していきます。また、緊張を減らす、時間の使い方を工夫する、悪い癖を直すといったことにも使えます。行動に直接働きかけるので、分かりやすく、実践しやすい方法です。

対象となるお悩み

行動療法は、以下のようなお悩みと相性が良い方法です。

苦手な場面を避けて生活が狭くなっている
気分が落ち込んで、何もする気が起きない
やめたい習慣が、なかなかやめられない
子どもの行動への対応に悩んでいる

②歴史と考え方

歴史のあらまし

行動療法は、1950年代に、学習理論を臨床に応用する動きとして生まれました。米国ではスキナー(B.F. Skinner)の研究グループ、南アフリカではウォルピ(Joseph Wolpe)、英国ではアイゼンク(Hans Eysenck)が、それぞれの立場から発展させました[1][2]。「行動療法」という用語を最初に使った人物と年は資料によって異なりますが、スキナーの指導学生だったリンズリー(Ogden Lindsley)らの1950年代前半の報告が、最初の使用例とされています。

B.F.スキナー(B.F. Skinner)

B.F.スキナー(B.F. Skinner)

歴史の流れが気になる方は、以下の折り畳みを開いてみてください。読み飛ばしても大丈夫です。

行動療法の歴史を詳しく知りたい方へ

行動主義の誕生(1910年代)

ワトソン(John Watson)が、観察できる行動を心理学の研究対象にすべきだと提唱しました。

古典的条件づけ(20世紀初頭〜)

パブロフ(Ivan Pavlov)の条件反射の研究が、刺激と反応の関係を明らかにしました。ワトソンとレイナーの「アルバート坊やの実験」(1920年)は、恐怖が学習によって形成されることを示しました。

オペラント条件づけ(1930〜1950年代)

スキナー[1]は、行動がその後の結果によって増減することを示しました(『有機体の行動』1938年、『科学と人間行動』1953年)。強化法やトークンエコノミーの基礎になっています。

行動療法の確立(1950年代)

ウォルピは『相反抑制による心理療法』(1958年)で、系統的脱感作法を発表しました。アイゼンク[1]は、従来の心理療法の効果を批判的に検討し、科学的な根拠にもとづく治療を主張しました。1963年には専門誌『Behaviour Research and Therapy』が創刊されています。

認知行動療法へ

その後、考え方を扱う認知療法と組み合わさり、認知行動療法へと発展していきました。

行動療法を提唱したハンス・アイゼンク

ハンス・アイゼンク(Hans Eysenck)

学習理論の2つの柱

行動療法の土台になっているのは、次の2つの学習のしくみです。

*古典的条件づけ(パブロフ)
もともと不安を起こさない刺激が、怖い体験と結びつくことで、不安の引き金になる学習です。たとえば、電車の中で動悸がした経験から、電車そのものが怖くなる場合です。恐怖条件づけとも呼ばれます。

*オペラント条件づけ(スキナー)
行動は、その後に起こる結果(得をした、嫌なことが避けられた)によって、増えたり減ったりする学習です。苦手な場面を避けて一時的にほっとすると、避ける行動が強まります。オペラント条件づけの考え方です。

行動療法では、悩みを「性格の問題」ではなく、「学習された行動のパターン」と考えます。学習されたものは、学び直すことで変えられる、というのが基本的な発想です。

③主な技法の全体像

行動療法には、多くの技法があります。ここでは役割ごとに整理し、詳しく解説しているコラムを紹介します。

不安・恐怖を扱う

・エクスポージャー法:不安な場面に段階的に向き合い、「思ったほど悪いことは起こらない」と学び直す方法です。
・系統的脱感作法:不安な場面を想像しながら、同時に筋肉をゆるめてリラックスする方法です。ウォルピが提唱しました。
・暴露反応妨害法:強迫症で、確認や洗浄といった行動を、あえてやらずに過ごす練習です。
・安全行動・回避行動の見直し:不安を一時的に和らげる行動が、かえって不安を保つことがあります。

意欲・活動を増やす

・行動活性化:活動を少しずつ増やして、気分の改善を目指す方法です。
・トークンエコノミー法:望ましい行動にご褒美を用意して、続けやすくする方法です(④で解説します)。
・シェーピング:小さなステップに分けて練習し、できたら褒める方法です。

行動を理解する

・機能分析(ABC分析):行動の前後の状況を整理して、行動が続く理由を調べる方法です。

心身を落ち着ける

・自律訓練法:体の重さや温かさを感じるリラクセーション法です。
・漸進的筋弛緩法:筋肉に力を入れてから抜くことで、緊張をゆるめる方法です。
・バイオフィードバック:脈拍や筋肉の緊張などを数値で見ながら、リラックスの状態を確認する方法です。

人との関わりを学ぶ

・モデリング・ロールプレイ:模擬場面を設定し、人の行動を観察しながら学ぶ方法です。ソーシャルスキルトレーニング(SST)の中でよく使われます。

④トークンエコノミー法

まずは記録することから

ここでは、初学者でも取り組みやすい方法として、トークンエコノミー法を紹介します。すべてのやり方で、「記録すること」が基本になります。たとえば会話力をつけたいなら、次のように具体的な行動を記録します。

・今日は何分会話したか?
・相づちは打てたか?
・誰と会話したか?

しっかり記録すると分析しやすくなり、問題を改善しやすくなります。スマホ、ノート、PCなど、続けやすいものを用意しましょう。

行動療法の記録のイメージ

ご褒美(トークン)の仕組み

トークンエコノミー法は、達成したらご褒美(トークン)がもらえる仕組みを人為的につくり、やる気を持続させる方法で、オペラント条件づけをベースにしています。行動療法の方向性は、大きく「望ましい行動を続けられるようにする」ことと、「望ましくない行動を減らす」ことの2つに分けられます。

望ましい行動とは、たとえば次のようなものです。

人前に立てるようになる
嫌なことをされたら、嫌だと伝えられるようになる
高いところに登れるようになる
勉強を途中でやめずに、最後までやり通す

「こうなりたい」という目標があるときは、達成したら次のようなご褒美を用意します。

お菓子を食べる
好きなお店のケーキを食べる
温泉旅行に行く
達成したら給料があがる

ご褒美は、自分で用意できるものでも、誰かからもらえるものでも構いません。ポイントは、達成の基準を具体的にして、達成したらすぐにご褒美がある状態にすることです。シンプルですが効果的なので、ぜひ意識してみてください。

報酬を用意する行動療法のイメージ

⑤行動を減らしたいとき

お酒の飲みすぎ、ギャンブル、暴食、喫煙など、悪い習慣を減らしたいときは、「罰を与える」よりも、次の工夫のほうが続けやすいことが多いです。

きっかけを減らす

お酒を家に置かない、ゲームのアプリを消す、など

代わりの行動を用意する

ストレスを感じたら、深呼吸をする、ガムを噛む、散歩に出る、など

できた日を記録する

やめられた日数を数え、区切りごとにご褒美を用意して自分を労う

お小遣いを減らす、失敗したら人に叱ってもらう、といった罰を自分に課す方法は、一時的に行動を抑えても、罪悪感や隠し事につながって続かないことがあります。強い罰は、あまりおすすめできません。なお、依存症の疑いがある場合は、自分だけで抱えず、医療機関や専門の相談機関に相談してください。

⑥効果を調べた研究

認知行動療法全体の効果

行動療法の技法は、単独よりも、認知療法と組み合わせた認知行動療法のパッケージとして研究されることが多くなっています。Hofmannら[3]は、認知行動療法を調べたメタ分析106件を整理しました。その結果、特に根拠が強いのは、不安症、身体表現性障害、過食症、怒りの問題、一般的なストレスに対する効果でした。ただし著者らは、ランダム化比較試験を中心に、さらなる研究が必要だとも述べています。

技法ごとの効果

技法ごとに見ると、不安症の治療では、エクスポージャーが治療の中心的な要素の1つとして位置づけられています(坂野, 2013)[4](詳しくはエクスポージャー法のコラム)。うつ病では、活動を増やす行動活性化が、経験の浅い専門職が行った場合でも、認知行動療法に劣らない結果でした(Richardsら)[5](詳しくは行動活性化のコラム)。

⑦理解度を確認する練習問題

ここまでの内容を踏まえて、3つの事例で、どの技法が合いそうかを考えてみましょう。合いそうな技法は、③の全体像から選んでみてください。

練習問題:電車を避けるようになった太郎さん

<事例>
電車の中で動悸がして以来、電車を避けるようになった太郎さん。最近は、駅に近づくだけで不安になり、外出そのものが減っています。

回答例

太郎さんは、回避が不安を保っていると考えられるため、エクスポージャー法(不安階層表を使った段階的な練習)と、安全行動・回避行動の見直しが合いそうです。

練習問題:休日を寝て過ごす花子さん

<事例>
気分の落ち込みが続き、休日は一日中寝て過ごすことが増えた花子さん。以前の趣味にも手がつかなくなりました。

回答例

花子さんは、行動活性化で、小さな活動から増やしていく方法が考えられます。ただし、落ち込みが2週間以上続く場合は、受診も検討してください。

練習問題:宿題を始められない子どもの保護者

<事例>
小学生の子どもが、宿題をなかなか始めません。声をかけるうちに、つい叱ってしまうことが増えました。

回答例

保護者の事例は、まず機能分析(ABC分析)で、宿題を始められない理由を調べ、そのうえでトークンエコノミー法で、始められたことを褒める工夫が考えられます。

よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

Q. 行動療法と認知行動療法は、どう違うのですか?

行動療法は、行動に注目する方法です。認知行動療法は、行動療法に、考え方を扱う認知療法を組み合わせたものです。実際の現場では、両方を使い分けたり、組み合わせたりすることが多いので、あまり厳密に分けすぎなくて大丈夫ですよ。まずは行動を変えるところから始めたい方に、行動療法は取り組みやすいと思います。

Q. 行動療法は、根性で苦手に立ち向かう方法ですか?

いいえ、根性論とは違います。むしろ、いきなり大きな壁に挑まず、小さなステップに分けて、確実に成功体験を積み重ねる方法です。教室でも、「これなら自分にもできそう」と思える小さな一歩から始める方が多いですよ。無理をして、つらさが増すようなら、ペースを落としてくださいね。

Q. ご褒美を使うのは、甘やかしになりませんか?

甘やかしにはなりません。ご褒美は、行動を続けるための「きっかけ」です。慣れてくると、行動そのものが楽しくなったり、できることが増えたりして、自然にご褒美がなくても続けられるようになる方が多いですよ。最初は、小さくて、すぐにもらえるご褒美から試してみてください。

Q. 子どもにも使えますか?

使えます。トークンエコノミー法は、シールやポイントを使うことが多く、子どもに向いている方法の1つです。ただし、叱らずに、できたことを具体的に褒めるのが大切です。お子さんの行動が気になるときは、まず、どんなときにその行動が起きるのかを記録して、理由を探ってみてください。困ったときは、専門家にも相談してくださいね。

Q. 自分でやってみて、注意することはありますか?

強い恐怖症、パニック発作、強迫症、トラウマ体験に関わる不安、依存症、強い落ち込みがある場合は、自己流で進めず、専門家に相談してください。自分に合わないと感じたり、気分が悪くなったり、悩みがかえって強まったりした場合も、いったん中止してください。「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談してください。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。

・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)

コミュニケーション教室,講座,ダイコミュ

個別レッスン

個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。

個別レッスンの詳細はこちら。

シリーズの続きを読む

不安な場面に段階的に向き合う、代表的な技法を詳しく知りたい方はこちら。

エクスポージャー法とは

気分の落ち込みで動けないときの、活動の増やし方を知りたい方はこちら。

行動活性化とは

不安を和らげるためにしている行動が、不安を保つことがあると知りたい方はこちら。

安全行動・回避行動とは

行動が続く理由を、前後の状況から整理する方法を知りたい方はこちら。

機能分析(ABC分析)とは

考え方を見直す認知療法との組み合わせを知りたい方は、こちらからどうぞ。

②認知療法の概要,コラム法

認知行動療法シリーズ全体(行動療法・マインドフルネスへの展開)に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。

認知行動療法の全体像

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] SAGE Encyclopedia. Behavior Therapy.

[2] Behavior therapy(事典項目). Springer.

[3] Hofmann, S. G., Asnaani, A., Vonk, I. J. J., Sawyer, A. T., & Fang, A. (2012). The efficacy of cognitive behavioral therapy: A review of meta-analyses. Cognitive Therapy and Research, 36(5), 427-440.

[4] 坂野雄二 (2013). 不安障害に対する認知行動療法―エクスポージャー法をどのように導入するか,そのコツを探る―. 精神神経学雑誌, 115(4), 421-428.

[5] Richards, D. A., Ekers, D., McMillan, D., et al. (2016). Cost and outcome of behavioural activation versus cognitive behavioural therapy for depression (COBRA): A randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet, 388(10047), 871-880.

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