回避性パーソナリティ障害の症状と治療法
みなさんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「回避性パーソナリティ障害」です。
目次は以下の通りです。
①回避性パーソナリティ障害とは
②社交不安障害との違い
③診断の流れ,基準
④治し方,心理療法
当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。
お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。
回避性パーソナリティ障害とは
回避性パーソナリティ障害とは
回避性パーソナリティ障害は英語では、anxious personality disorderと表記し、 APDと略されることもあります。心理学辞典(1999)によると、定義されています。
人から悪く評価されるのではないかとおびえ、批判されるとひどく傷つきやすいなど、対人関係上の全般的な不安を持つ。そのため、人間関係を回避したり、ごく限られた人間としか親しい関係が結べず、大切な社会的、職業的活動を避けるなどの回避行動が特徴である。
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しかし内面では人に関わりたいという強い気持がある点が、対人希求性の乏しい分裂病型人格障害と異なるとされる。
発症率
アメリカの人格障害の調査(2004)によると、アメリカの一般人口の2.36%が回避性パーソナリティ障害があるとされています。日本では詳しい調査がなく、実際の有病率はわかっていません。
位置づけ
回避性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中の1つです。パーソナリティ障害は3つにわけられます。
A群
奇異的な考え,理解しがたい行動が目立つ
B群
情緒不安定,激しい行動が目立つ
C群
不安が強い,内向的
回避性パーソナリティ障害はC群のうちの1つとされています。C群は回避性、依存性、強迫性の3つがありますが、いずれも不安や恐怖が中核となる障害です。
社交不安障害との違い
社交不安障害と回避性パーソナリティ障害は人が怖い、人間関係を回避するという点で、かなり重複しています。
違いとして、社交不安障害はスピーチ恐怖、会食恐怖、赤面恐怖などの特定の場面を恐れる場合に診断されやすく、回避性人格障害は全般的に人が怖い場合に診断されやすいと言えます。
しかし、最近の診断では、特定の場所への恐怖がなくても社交不安障害と診断されることがあり、両者を区別する意義は薄れてきていると言えます。筆者は将来的には両者は統合される可能性があると考えています。
診断の流れ,基準
診断の流れ
実際の診断は精神科や心療内科で行われます。ただし初診から回避性パーソナリティ障害という診断名がつくことは稀です。何度も面接を重ね、症状の変化などを把握する必要があるからです。また1度診断を受けたとしても、年齢を重ね、落ち着いてくると、障害ではないとされるケースもあります。
診断基準
回避性パーソナリティ障害にはWHOとアメリカ精神学会の2つの診断基準があります。以下はそれぞれの診断基準の概要となります。
*WHOの基準 ICD-10を簡略化
つねに緊張と心配を感じる
自分には魅力がないと思う
人に批判されるのが怖い
自分への好意が確信できないと不安
*アメリカ精神医学会の基準 DSM5を簡略化
自分が批判されたり,拒絶されたりすることを恐れる
対人的接触を伴う仕事関連の活動を回避する
自分が好かれることが確実ではない限り人と関わらない
親密な関係を築くことをためらう
④治し方,心理療法
回避性パーソナリティ障害は大きくわけて、心理療法と薬物療法の観点から治療をしていきます。当コラムでは、主に臨床心理学の視点から、よく使う対策を紹介します。
①私的自己意識を増やす
②不安階層表を活用する
③認知療法を試す
④SSTを学ぶ
⑤漸進的筋弛緩法
⑥依存しないようにする
⑦森田療法
⑧薬物療法
ご自身にあった対策を組み合わせてご活用ください。
①私的自己意識を増やす
回避性パーソナリティ障害を治療する上では、人の目を気にする意識である公的自己意識を減らし、自分の気持ちによりそう私的自己意識を増やすことがポイントとなります。例えば、会話をする時に、
相手に嫌われないようにしなくては…(公的自己意識)
と考えながら会話をしたとします。このように人の目を気にしてばかりで会話をすると、疲れきってしまいます。改善するには、
相手に嫌われたくない気持ちがあるな…(公的自己意識)
でもそれだけじゃ疲れる…たまには自分が話したい話もしよう。最近キャンプに行って楽しかったからその話をしよう~(私的自己意識)
このように公的自己意識に、私的自己意識を追加していくのです。このワークは本当によく効きますので是非練習してみてください。詳しくは以下のコラムを参照ください。
②回避癖を改善する
回避性パーソナリティ障害を抱えている人は「回避」という障害名の通り、人間関係を避ける癖があります。回避は一時的には安心感をもたらしますが、長い目でみると症状を悪化させる性質があります。
回避が不安を増大させる原理を具体例を使って解説します。
花子さんは、会社に気になる男子がいました。思い切って食事に誘おうか迷っています。花子さんは期待と不安が半々の状態でした。
*回避をした場合
ここで花子さんが不安に注目し、誘うことを避けたとしましょう。その時の心理を図にすると以下のようになります。
誘うことを避けると、とりあえずは何も起こらないので「安心」が増えます。しかし、回避は長期的な「自信低下」につながると言われています。そのため、長い目でみると人間関係で余計に不安感が増幅してしまうのです。
*チャレンジした場合
次に花子さんが不安に注目しつつも、思い切って誘うことにしたとしましょう。その時の心理を図にすると以下のようになります。
「アプローチする」ことは誰しも勇気が必要です。一時的には不安になります。しかし、結果を問わず、逃げなかった自分には自信を持つことができるので、長期的には安心感が増えるのです。
回避性パーソナリティ障害を治すには、いずれかのタイミングで、回避癖を改善していく必要があります。この時大事なことは、いきなり社交的な場面に挑戦すると挫折しやすくなります。
大事なことはスモールステップで着実に経験値を増やしていくことです。例えば、家族に協力してもらう、同級生との会話からはじめる、などが挙げられます。
具体的なやり方は下記の行動慮法コラムの中盤に、「不安階層表の使い方」というコーナーがあります。実際に行動するさいに参考にしてみてください。
③認知療法を学ぶ
回避性パーソナリティ障害と相性が良い心理療法の1つに、認知療法があります。認知療法は考え方の偏りを柔軟にほぐす手法です。人間関係で不安になりやすい方は、「失敗してはいけない」「緊張する自分ははずかしい」など偏った考え方を持っています。
認知療法ではこれらの、偏った思考を現実的にしていく練習を行います。認知療法は体系化された心理療法でマスターしやすいので、学習したことがない方は以下のコラムで理解を深めることをおすすめします。
④SSTを学ぶ
SSTはソーシャルスキルトレーニングの略で、社会性を身に着ける様々なトレーニングの総称です。回避性パーソナリティ障害でも、SSTを学ぶと随分会話が楽になります。
例えば、「ひとこと肯定返し」という技術を学ぶと、温かい人間関係を築きやすくなります。SSTは弊社で学生向け、成人向けの講座がありますので参考にしてみてください。
⑤漸進的筋弛緩法
回避性パーソナリティ障害の方は身体が緊張しやすく、声が震える、赤面する、発汗しやすいという症状が出やすい傾向があります。この点、心の面だけでなく、身体の面からのリラックスを法を学ぶことも大事になってきます。
体のリラックス法としては、さまざまなやり方がありますが、漸進的筋弛緩法という手法が代表的です。体の面から緊張をほぐす練習をしたことがない方は参考にしてみてください。
⑥依存しないようにする
市川ら(2013)は、回避性パーソナリティ障害と依存性パーソナリティ障害との関係について調査をしました。依存性パーソナリティ障害とは、相手に従属し、相手から離れることに対して強い不安を感じることを特徴とします。研究の結果の一部が下図となります。
上図のように、この2つ障害には強い関連があり、他者の支持や保証を強く求める点で一致しているとしています。
回避性パーソナリティ障害があるかたは、人間関係が希薄になる分、一度築いた人間関係はなんとしても手放してはならないと感じてしまいます。その結果、束縛をする、すがりつく、なんでもいうことを聴くなど、共依存関係に近い状態になりやすいです。
人間関係はお互いを成長させるような関係性を築くことが大事です。あてはまる…と感じる方は以下のコラムもご一読ください。
⑦森田療法を学ぶ
森田療法は不安とうまく付き合いながら目的本位に生きていくという心理療法です。森田療法の特徴としては、不安を無理に無くそうとすると、余計に悪化するという考え方にあります。例えば、人が怖いときに、怖い気持ちをなくしたい!とこだわるほど、恐怖心が大きくなっていきます。
森田療法では、このような感情を無理に押さえつけるのではなく、恐怖心を自然な感情として「あるがまま」受け入れ「目的本位」に生きることを大事にしていきます。森田療法は東洋的な思想が基盤にあり、日本人に馴染みやすい心理療法です。興味がある方は以下のコラムを参照ください。
⑧薬物療法
当コラムでは、回避性パーソナリティ障害の心理療法を中心に解説をしましたが、重篤な場合は、薬物療法と組み合わせることをおすすめします。消えてなくなりたい…もう半年近く人と会話をしていない…という方は心療内科か精神科を受診しましょう。詳しくは下記のコラムを参照ください。
心理療法の講座お知らせ
最後にお知らせがあります。専門家から心理療法をしっかり学びたい!という方は良かったら私たち公認心理師が開催している、心理学講座への参加をおすすめしています。講座では
・対人不安の改善法
・認知行動療法の学習
・回避癖の治し方
・SSTで会話力をつける
などを学習していきます。筆者も講師をしています。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリック♪↓
Grant, Bridget F. Hasin, Deborah S. Stinson, Frederick S. Dawson, Deborah A.; Chou, S. Patricia Ruan, W. June Pickering, Roger P. 2004 “Prevalence, Correlates, and Disability of Personality Disorders in the United States”. The Journal of Clinical Psychiatry. 65