自己愛性パーソナリティ障害の治療法

みなさんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「自己愛性パーソナリティ障害」です。

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目次は以下の通りです。

①自己愛とは何か
②自己愛性パーソナリティ障害とは
③自己愛と心理学研究
④治し方,心理療法

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

自己愛とは何か

自己愛の由来

自己愛性パーソナリティ障害を理解するには、「自己愛」について理解を深める必要があります。自己愛は英語表記でナルシシズム(narcissisom)と訳されています。由来としてはギリシャ神話から来ています。

若く美しいナルキッソスは、山の湖で自分の姿を見ます。その姿があまりにも美しかったために、彼は自分に恋をします。そうして、その水面から離れることができなくなり、ついには死んでしまう。

というお話です。なんとも示唆に富んだ話ですね。心理学の世界では、古くから自己を愛する対象とすることを自己愛と呼び、研究され続けてきました。

ナルシズム,自己愛

自己愛は不健康?健康?

自己愛は不健康なものと、健康なものがあります。

自己愛が強い人は、一見、すごく自分に自信があるように見えることがあります。ちょうど膨らんだ風船のようです。大きく見えますが、ふらふらとしていて不安定で、ちょっと傷がつくと割れてしまいます。これらの自己愛はいつも傷つけられないか?不安で仕方がないのです。

自分だけを愛する、自己否定を覆い隠す自己愛、傷もなく一見きれいだけど崩れやすい自己愛、これらは心理的な問題につながりやすいと言えます。

自己愛,不安定

対して自己愛が安定している人は、桃のようなイメージです。モモは手ごろな大きさで、重さもあり、中身があまく、充実しています。少々傷がついたとしても味が落ちることはありません。

ありのままの自分を愛する、多少傷つけられても揺るがない自己愛、充分な根拠のある自己愛は健康的と言えます。

自己愛が安定している人

不健康な自己愛、健康な自己愛について、まずはざっくりと上記のようにイメージしておきましょう。自己愛についてより深く理解したい方は以下の折り畳みを参照ください。

フロイトと自己愛

ナルシシズムを本格的に心理学の世界で使い始めたのはフロイトと言われています(松並,2013)。フロイトは1914年に「ナルシシズム入門」という本を出版しました。

①自体愛(1次的自己愛)
フロイトは、人間にはリビドーという欲望の塊があると考えました。幼児期にはその欲望の塊が自分に向いてると考え、これを「自体愛」と呼びました。「自己愛」ではなく、自体愛です。似ているので間違えやすいですね。

②自己愛(2次的自己愛)
フロイトは自体愛は青年期になると、自己愛に至ると考えました。自己愛は先程のナルキッソスの自己愛のイメージと近いです。自分自身を愛することを意味します。

③対象愛
そうして正常に発達していき、大人になると、自分だけではなく、周りも愛せるようになります。フロイトはこれを対象愛と呼びました。フロイトは、健全な発達のためには自己愛を卒業し、対象愛に進まなくてはならないと主張したのです。

ハインツ・コフート

精神科医・精神分析学者のハインツ・コフート(Heinz Kohut)は別の考えを持っていました。フロイトが、自己愛は対象愛に変わるべきと考えたのに対して、コフートは自己愛は持っていてよいと考えたのです。コフートは愛は相手に向けられるだけでなく、自分にも相手にも向けることが成熟した自己愛と考えたのです。

パルバーと自己愛

心理学者のパルバーは、自己愛を以下の2つに分けて説明しています。

健康的な自己愛
防衛的でない人間本来の自尊感情、自分をありのままを愛する、大切にする状態

不健康
な自己愛
ネガティブな自己評価から自分自身をまもろうとする防衛的自尊感情

この定義は比較的わかりやすいですね。自分をありのままに愛するのはOKだけど、自己否定を覆い隠すような虚勢を張った自己愛は不健康であるとパルバーは考えたのです。

 

自己愛性パーソナリティ障害とは

意味とは

自己愛性パーソナリティ障害は英語では、narcissistic personality disorderと表記し、NPDと略されることもあります。意味は以下のようになります。

自己愛が未成熟であり、傷つかないために自分を誇大にみせる、他者からの評価に敏感、他人への共感性がうすいという特徴がある障害

有病率

自己愛性パーソナリティ障害の有病率は0.5%、生涯有病率で1%前後と推測されていますが、正確な統計は今のところありません。現場感覚として、パーソナリティ障害の50%は境界性パーソナリティ障害と診断されるので、自己愛性人格障害と診断される方は、比較的めずらしいと言えます。

位置づけ

回避性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中の1つです。パーソナリティ障害は3つにわけられます。

A群
奇異的な考え,理解しがたい行動が目立つ

B群
情緒不安定,激しい行動が目立つ

C群
不安が強い,内向的

回避性パーソナリティ障害はB群のうちの1つとされています。B群は感情の不安定さ、人間関係が特徴となる障害群となります。

パーソナリティ障害とは何か

 

診断基準

際の診断は精神科や心療内科で行われます。ただし初診から境界性パーソナリティ障害という診断名がつくことは稀です。何度も面接を重ね、症状の変化などを把握する必要があるからです。また一度診断を受けたとしても、年齢を重ね、落ち着いてくると、障害ではないとされるケースもあります。

以下はアメリカ精神医学会の診断基準となります。


誇大性、賛美されたい欲求、共感の欠如の広範な様式で成人期早期までに始まる以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

自分が重要であるという誇大な感覚。
限りない成功、権力、才気、美しさにとらわれている。
自分が“特別”であり、独特であると考える
他の特別なまたは地位の高い人達が理解すると考える
過剰な賛美を求める。
特権階級意識
対人関係で相手を不当に利用する
共感の欠如
しばしば他人に嫉妬する
他人が自分に嫉妬していると思い込む。
尊大で傲慢な行動や態度。

 

他の病気との関連

自己愛性パーソナリティ障害の人は、複数の病気を発症する傾向があります。特に、

・うつ病
・摂食障害
・アルコール依存
・薬物依存

などの併存が多いことが分かっています。自分が求める賞賛が満たされなかった時、人一倍落ち込んでしまうので、上記のような病気へと発展しやすいと言えます。

 

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自己愛と心理学研究

自己愛についての研究から以下の4つの特徴を紹介します。気になるタイトルについて展開してみてください。

根岸・山口(2016)は18歳から25歳までの420名を対象に自己愛の心理的影響を調査しました。その結果、過敏性自己愛の男性は、他人を支配しやすいことがわかりました。

過敏型自己愛男性の結果

他者の言動や反応に敏感な方は、自分が傷つかないように、できるだけ自分の思い通りにしようとする傾向があると推測することができます。

過敏型自己愛の女性は「結合・相互妥協」との相関があることが分かりました。結合・相関妥協とは、他人との衝突を避けるために他人の意見を優先させる行動などです。

過敏型自己愛女性の結果

一見相手を大事にしているように見えて、実は自分自身を守るために妥協していると解釈できます。

誇大型自己愛がある方は、男女とも支配的になりやすいこともわかりました。

過敏型自己愛 研究結果

自分を愛するがゆえに、目立ちたい、上に立ちたいという欲求が生まれてくると予想できます。

下司・小塩(2019)が大学生 210 名を対象にした調査では、「自己愛傾向」と「自己優越感感情操作」との間に正の相関が認められました。

自己優越感感情操作とは、ことわりにくくさせた上で、相手に感情を強制するような意味があります。ざっくりというと、パワハラ上司が権力をかさに、部下に頭を下げさせるイメージでしょうか。

自己愛傾向と自己優越感感情操作の関係

つまり自己愛傾向が強いほど、有利な立場に立つことを好み、都合が良いように相手の感情を操作したがると言えます。

 

④治し方,心理療法

自己愛性パーソナリティ障害は大きくわけて、心理療法と薬物療法の観点から治療をしていきます。当コラムでは、心理療法の視点から、よく使う対策を紹介します。

①心理教育
②メタ認知力をつける
③認知行動療法を学ぶ
④共感力をつける
⑤アサーティブコミュニケーション
⑥共依存関係に注意する
⑦魅力として捉える

ご自身に役立ちそうなものを組み合わせてご活用ください。

①心理教育

NPDにおいて、自己理解を深めることは何より大事です。障害の特性を理解すると、混乱することが減る、人間関係の失敗が減る、自分を受け入れるきっかけになる、という効果があります。具体的には専門家から説明を受ける、書籍を読む、当事者の動画を見るなどが挙げられます。

②メタ認知力をつける

NPDの方は「我を失い」偏った発言や行動をしてしまいがちです。この点を改善するには、メタ認知力をつけていくことが大事です。メタ認知とは自分自身の感情や考え方を冷静に把握する力を意味します。

具体的には、自分の考えを把握するエクササイズや日記を書くことで、自分と向き合う練習を行っていきます。詳しくは下記のコラムを参照ください。

メタ認知のトレーニング法

③認知行動療法を学ぶ

NPDの方は、「馬鹿にされた」「批判された」と思い込むと現実的に物事を考えられなくなっていきます。その結果、ありもしない事実で思い悩むことになります。

対処法の1つに認知行動療法という手法があります。論理行動療法とは、偏った考えを、柔軟で現実的な考え方に変化させることで、感情を安定させる手法を意味します。

一度思い込むとなかなか元に戻れない…という方は下記のコラムを参照ください。

認知行動療法の基礎とトレーニング

④共感力をつける

NPDの代表的な特徴の1つに共感性の低さが挙げられています。共感性は先天的な面もあるので、すぐに獲得することは難しいですが、スキルトレーニングをすると、改善することができます。人の話を聴くのが苦手、自分勝手な会話になってしまう方は以下のコラムを参照ください。

共感力をつける方法

 

⑤アサーティブコミュニケーション

自己中心的になってしまうことが多い方は、アサーティブコミュニケーションの学習をおすすめします。アサーティブとは、自他尊重のコミュニケーションと呼ばれ、自分と他人の、価値観、生き方、困り事をお互いに尊重する心理療法です。

しっかり学ぶと、自分のことだけでなく、相手の意見を尊重しながら建設的に話し合う力をつけることができます。理解を深めたい方は以下のコラムを産参照ください。

アサーティブコミュニケーションの基礎

 

⑥アンガーマネジメント

他人の言動にイライラしてしまい、周りとうまくいかなくなってしまう方はアンガーマネジメントを学ぶことをおすすめします。アンガーマネジメントとは、怒りを予防・制御するための心理療法プログラムで、不適切な怒りの感情をうまくコントロールすることを目指す手法です。怒りをうまくコントロールできない方は以下のコラムを参照ください。

アンガーマネジメントのやり方

 

⑦共依存関係に注意する

NPDの方は共依存関係になりやすいので注意が必要です。共依存とは閉鎖的で、特定された人間関係であり、お互いに過剰に依存している状況を意味します。自己愛が強い方は、支配・被支配の関係になりやすく、自分のいうことを聞いてくれる人、なんでも賞賛してくれる人を好みます。

その結果、強く束縛する、高額なプレゼントを要求する、相手を卑下して自尊心を奪い支配する、などの不健康な関係になりやすくなります。特定の関係に依存しやすい…と感じる方は以下のコラムを参考にしてみてください。

共依存関係の原理と対策

 

⑧魅力として捉える

自己愛性パーソナリティ障害がある方は、「障害」として分類されていますが、あくまでそれは精神医学の世界の中の話です。芸術、役者、小説、漫画、音楽などの分野ではむしろ「才能」として開花することもあります。

例えば、演劇の世界では役に没頭し、演じ切ることが大事になります。この時、強い自己愛は役作りに多いに役立つでしょう。自身の特性も、前向きに活かせば魅力の1つになるという視点も持つようにしましょう。

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コミュニケーション講座

Dark Triadと他者操作方略との関連 下司 忠大  小塩 真司 パーソナリティ研究  2019
大学生の自己愛類型と対人葛藤方略の関連性について 2016  桜美林大学大学院心理学研究科