依存性パーソナリティ障害

みなさんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「依存性パーソナリティ障害」です。目次は以下の通りです。

①依存性パーソナリティ障害とは
②特徴
③診断の流れ,基準
④治し方,心理療法

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師視点の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

依存性パーソナリティ障害,かわた様作成

依存性パーソナリティ障害とは

依存性パーソナリティ障害とは

依存性パーソナリティ障害(dependent personality disorder)は以下のように定義されています。

世話をされたいという広範囲で過剰な良い卯休のため、従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する恐怖をもつパーソナリティ障害(現代精神医学事典,2011[1]

自主・独立への志向性がなく、また日常生活上の小さな判断や決断も他者からの助言や保証を必要とする人格障害(臨床心理学辞典, 1999[2]

自分で判断することが難しく、他人に依存せざるを得ない傾向があり「一人になると何もできない」という恐怖にとらわれています。保護者から過保護に育てられていることも多く、社会性や情緒の未熟さが目立ちます。

発症率

アメリカ精神医学会のDSM-5によると、依存性パーソナリティ障害の有病率は0.6%だといわれています[3]。日本における有病率についてはわかっておりません。臨床心理の現場でも、依存性パーソナリティの方の相談を受けることは多くありません。

位置づけ

依存性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中の1つです。パーソナリティ障害は3つにわけられます。

A群
奇異的な考え,理解しがたい行動が目立つ

B群
情緒不安定,激しい行動が目立つ

C群
不安が強い,内向的

依存性パーソナリティ障害はC群のうちの1つとされています。C群は回避性、依存性、強迫性の3つがありますが、いずれも不安や恐怖が中核となる障害とされています。

パーソナリティ障害とは何か

 

特徴

自尊感情が低い

市川,望月(2014)[4]の研究では、パーソナリティ障害特性と、自尊感情について比較を行っています。その結果の一部が下図となります。

上図は、依存性パーソナリティ障害の傾向が高い人は低い人と比べて、自尊感情が低いことを意味しています。

断れない

依存性パーソナリティ障害の特徴として、断ることが苦手であることが挙げられます。人に嫌われることを恐れているため、依頼を断ることで嫌われたくないと思っています。そのため、過度な要求や自分に不都合な頼みごとに対しても拒否できずに相手に従ってしまうことが多いです。

孤独が苦手

依存性パーソナリティ障害は孤独が苦手で、常に一緒にいる相手を求めてしまう傾向にあります。一人では生きていけないと考えているため、自分を支えてくれる対象を求めてしまいます。相手が自分を利用していたり、暴力を振るっていたとしてもなかなか別れられません。こうした他者への強い依存には、孤独が苦手であることが背景にあります。

境界性との違い

以下は、同じパーソナリティ障害である、境界性パーソナリティ障害との違いを比較した図です。

このように、依存性パーソナリティー障害は他者から保証がないと日常生活においても、自分で判断ができない特徴があります。一方で衝動性や同一性の混乱はありません。

 

診断の流れ,基準

診断の流れ

実際の診断は精神科や心療内科で行われます。ただし初診から依存性パーソナリティ障害という診断名がつくことは稀です。何度も面接を重ね、症状の変化などを把握する必要があるからです。また1度診断を受けたとしても、年齢を重ね、落ち着いてくると、障害ではないとされるケースもあります。

診断基準

診断基準であるDSM-5[5]では、以下の基準に当てはまると依存性パーソナリティー障害と診断されます。

面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。

以下のうち、5つ当てはまる。

⑴日常生活のことを決めるにも、他人からありあまるほどの助言と保証がなければできない

⑵自分の生活のほとんどの主要な領域で、他人に責任をとってもらうことを必要とする

⑶支持または是認を失うことを恐れるために、他人の意見に反対を表明することが困難である

⑷自分自身の考えで計画を始めたり、または物事を行うことが困難である
(動機や気力の欠如というより、判断や能力に自信がないため)

⑸他人からの世話および支えを得るために、不快なことまで自分から進んでするほどやりすぎる

⑹自分自身の面倒をみることができないという誇張された恐怖のために、一人になると不安や無気力を感じる

⑺一つの親密な関係が終わったときに、自分を世話して支えてくれる別の関係を必死で求める

⑻一人残されて自分で自分の面倒をみることになるという恐怖に非現実的なまでにとらわれる

 

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治し方,心理療法

依存性パーソナリティ障害は大きくわけて、心理療法と薬物療法の観点から治療をしていきます。当コラムでは、主に臨床心理学の視点から、よく使う対策を紹介します。

①自己理解を深める
②自尊感情を増やす
③アイデンティティの確立
④認知療法を試す
⑤アサーティブコミュニケーション
⑥SSTを学ぶ

ご自身にあった対策を組み合わせてご活用ください。

①自己理解を深める

依存性パーソナリティ障害において、自己理解を深めることは何より大事です。障害の特性を理解すると、混乱することが減る、人間関係の失敗が減る、自分を受け入れるきっかけになる、という効果があります。具体的には専門家から説明を受ける、書籍を読む、当事者の動画を見るなどが挙げられます。

②自尊感情を増やす

前述したように、依存性パーソナリティ障害の人は、自尊感情が低いことが指摘されています。自尊感情を高めるためには、自分の長所を見つけたり自分を褒めていく方法が必要です。

少しづつ成功体験を重ねて、自尊心を高めていくことが必要です。以下のコラムでは自尊心を高める方法を具体的に紹介しています。自分に自信が持てない・・・と感じる方は参考にしてみてください。

自尊心が低い方へ,高める方法

③アイデンティティの確立

他者に依存してしまう方は、アイデンティティが確立されていない傾向があります。アイデンティティの確立とは、「自分自身とは何か?」「自分の人生の目的とは何か?」という問いに対して、肯定的、確信的に答えられることです。アイデンティティが確立されていないと、自分の判断に自信が持つことができず、他人に依存してしまいます。

一方で、アイデンティティが確立されると、自分自身の価値観を土台として、物事を主体的に決めていけるようになっていきます。以下のコラムでは、アイデンティティを確立していくための手法を紹介しています。是非参考にしてみてください。

アイデンティティを確立する方法

④認知療法を学ぶ

依存性パーソナリティ障害に対する心理療法の1つに認知療法があります。認知療法は考え方の偏りを柔軟にほぐす手法です。人間関係で依存的になりやすい方は、「相手に好かれなければならない」「嫌われてはいけない」など偏った考え方を持っています。認知療法ではこれらの、偏った思考を現実的にしていく練習を行います。認知療法は体系化された心理療法でマスターしやすいので、学習したことがない方は以下のコラムで理解を深めることをおすすめします。

認知療法のやり方

⑤アサーティブコミュニケーション

依存性パーソナリティ障害の人は、他者からの支持を得たいがために、自分の意見を言えなかったり、断れないことがあります。このように、自分の主張を上手く表明できない悩みがある方は、アサーティブコミュニケーションの学習をおすすめします。アサーティブコミュニケーションでは以下の理念を大事にしています。

私たちは誰からも尊重され、大切にされる権利がある
誰もが自分の行動を決定し、自己表現できる権利がある
私たちは誰でも過ちをし、それに責任を持つ権利がある

こうした理念は、他者に従属的になってしまいがちな依存性パーソナリティ障害に対して、とても有効です。「言いたいことがあっても、いつも我慢してしまう…」と感じる方はぜひ以下のコラムを参照ください。

アサーティブコミュニケーションの基礎

⑥SSTを学ぶ

SSTはソーシャルスキルトレーニングの略で、社会性を身に着ける様々なトレーニングの総称です。SSTを学ぶことで他者とのコミュニケーションが楽になり、人間関係も適切な距離感を保てるようになります。例えば、依存性パーソナリティ障害を持つ方の中には、相手に気に入られようと一方的に聴き手に回ってしまうことがあります。SSTを学ぶとこのような偏ったやりとりが減って、健康的な人間関係を築けるようになります。詳しくは以下の講座を参照ください。筆者もワークを行っています。

学生向けSST講座
大人向けSST講座

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心理療法を学びたい方へ

私たち公認心理師は心理療法をわかりやすく学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知行動療法の学習
・辛い気持ちを緩和,認知の偏りの改善
・SST,人間関係を健康的にするトレーニング
・ストレスを緩和,生活環境の作り方

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

依存性パーソナリティ障害の症状と治療法,心理学講座

 

 

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 加藤敏, ら編(平野羊嗣:分担,編集協力者)(2011).精神医学事典 弘文堂

[2] 恩田彰, 伊藤隆二 編 (1999). 臨床心理学辞典 八千代出版

[3] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院

[5] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院