恐怖症の種類と克服方法

皆さんこんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史です。私は現在心理学講座を開催しています。今回のテーマは「恐怖症」です。

恐怖症についての研究

当コラムでは恐怖症の基礎から治療法まで一通り解説していきます。目次は以下の通りです。

①恐怖症とは何か
②体への影響
③健康な恐怖,問題となる恐怖
④恐怖症の治し方
⑤具体的な事例

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

①恐怖症とは何か

定義

心理学辞典(1999)[1]では恐怖症は以下のように定義されています。

特定の状況、物、活動(たとえば高所、イヌ、水、血、運転、飛行)に対する、持続した不合理な恐怖。結果として、熱心に避けたり、著しい苦痛に耐えることになる。

恐怖症は精神疾患の中でも古くから見られ、研究されてきました。12カ月の有病率としては、日本では1.1%、ヨーロッパでは3.5%、アメリカでは8.7%と国によって幅があります(上田,2019)[2]

恐怖の性質

「恐怖症」はなぜ起こるのでしょうか?不安と恐怖の意味からひも解いていきましょう。心理学辞典(1999)[1]では、以下のような違いがあります。

*不安
自己存在を脅かす可能性のある危険を漠然と予想することに伴う不快な気分のこと

*恐怖
漠然とした不安が何かに焦点化され対象が明確になったもの

このように、対象がぼやけているものに対して感じるのが不安で、ハッキリとしたものに対して感じるのが恐怖と呼ぶと考えるとよいでしょう。

種類

恐怖症という言葉は正式な呼び名ではありません。WHOが発行している国際疾病分類[3]では、恐怖性障害とされています。主な内訳は以下の通りです。

広場恐怖(症) 社会恐怖(症) 特定の恐怖(症)

恐怖症はそれぞれ対象が異なるのが特徴です。「広場恐怖」は、助けを求められない、逃げ場のない環境、「社会恐怖」は人がいるなんらかの環境、「特定の恐怖」は蛇やカエルなどがよく見られますが、鉛筆が怖い、鰹節が怖いなど、様々なものが挙げられます。

恐怖症,komugi1020様作成

②体への影響

私たちは、ハッキリとした危険が迫ると、身体の防衛機能を高める「交感神経」が活性化し、

・心臓がバクバクする
・筋肉が緊張する
・手に汗が出る
・血圧が上がる

・対象に集中する

などの反応が起こります。このように体を戦闘態勢にすることで、私たちは危機に備えようとするのです。このような体の働きは短期的には役立つこともありますが、長時間続くと、疲れやすくなる、不眠になる、心臓に負担がかかるなどの影響が出てきます。

恐怖症,交感神経

以下脳と恐怖,身体の仕組みについて解説をしました。興味があるタイトルを参照ください。

恐怖は感情に影響を与える神経伝達物質の影響を受けます。脳の中では以下のようなプロセスで恐怖が起こると考えられています。

オレキシン
普段は睡眠や食欲などをコントローしていますが、緊急事態は、青斑核に行ってノルアドレナリンを作るきっかけになります。

青斑核
せいはんかくと読みます。ノルアドレナリンの製造部署です。脳幹の中にあります。

ノルアドレナリン
集中力を高めたり、興奮状態を作り出すホルモンです。感情を司る扁桃体に働きかけ、活性化させます。

偏桃体
マイナス感情の中枢です。恐怖や怒りを活性化させます。

③健康な恐怖,問題となる恐怖

健康な恐怖

恐怖を覚えることは悪い事ではありません。なぜなら恐怖は、私たちの身を守ってくれる感情だからです。例えば、田舎に行ったときに、見たこともない虫が飛んできたとします。

この時大概の人は、びっくりして払いのけるでしょう。未知の生物は毒を持っているかもしれないですし、どんな危害が及ぶか予測できないからです。この意味で、未知の対象に対して恐怖を感じるということは、極めて健康的な心が育っていると言えます。

問題となる恐怖

一方で、「スパゲティ」が怖い恐怖症については、いかがでしょうか。スパゲティは私たちにとっては大して問題にならない対象です。もしスパゲティが怖かったら、スーパーに行ったり、飲食街をあるいたり、食堂にいくことが困難になったりします。現実的に考えて、非合理的な恐怖はやはり少なくしたいものです。

恐怖症,種類

 

④恐怖症の治し方

恐怖症を治すやり方としては、大きく分けて薬物療法と心理療法が挙げられます。当コラムでは心理療法を中心に紹介させて頂きます。具体的には代表的な以下の5つの手法を紹介させて頂きます。

①認知療法
②行動療法
③系統的脱感作法
④マインドフルネス療法
⑤森田療法

まずは全体を概観して、気になるリンクがあったらクリックしてみてください。

①認知療法

恐怖症の治療によく採用されるのが認知療法です。認知療法は、認知の歪みを発見し、改善していくことで、心の安定を目指す心理療法です。例えば、以下のような考えになり生活が制限されているAさんがいたとします。

10年前に飛行機の墜落事故があった。飛行機は墜落するものだ。

強い恐怖心があり、飛行機に乗れない。つきたい職業につけない。

Aさんは、夢だった仕事につくために、考え方を次のように改善し、飛行機に乗れるようになりました。

10年前に飛行機の墜落事故があった。飛行機は墜落することはあるが、統計的には0.001%前後で、8200年毎日乗っても事故にあうか合わないか。

恐怖心が和らいだ、不安ではあるが飛行機に乗れるようになる。つきたい職業につく。

この例はかなりうまくいったケースを極端に表しています。現実的には考え方が強いほど、修正には時間がかかります。非現実的な考えをしてしまっているかも…という方は、認知療法を基礎から学ぶことをおすすめします。

認知療法の基礎とやり方

②行動療法

行動療法は行動のあり方を改善することで、恐怖場面を克服していく方法です。恐怖症の方は、回避を繰り返していくことで、逆に恐怖心を強くしてしまう傾向があります。

例えば、人が怖い!という恐怖心があるときに、人がいる場所を避け続けると、余計に人が怖いという感覚が促進されていきます。そこで行動療法では、無理のない計画表を作成し、今までは回避していた場面にチャレンジしていくことで、恐怖心を克服していきます。

回避癖がある、生活の行動範囲が狭くなっている、という方は下記のコラムも参考にしてみてください。

行動療法の基礎とやり方

③系統的脱感作法

系統的脱感作法とは、身体をリラックスさせた状態で、恐怖場面をイメージし、恐怖心を和らげていく心理療法です。私たちの体と心はつながっています。例え恐怖場面であっても体がすごくリラックスしていれば、恐怖心も随分減らすことができます。

系統的脱感作法では、身体を十分ほぐし、恐怖のレベルの低いものから段階的にイメージしていく形で練習していきます。本格的に恐怖症を治したい方におすすめなのですが、リスクがある心理療法なので専門家と一緒に取り組まれることをおすすめします。詳しくは以下の動画を参考に信頼できるカウンセラーを探してみてください。

カウンセラーの探し方

④マインドフルネス療法

マインドフルネス療法とは、不安や恐怖を客観的に眺め、冷静に対処する力を高める心理療法です。マインドフルネスの特徴としては、恐怖心を無理に無くそうとしない点にあります。

あくまで恐怖を自然な感情として受け入れ、ただ冷静に眺めることで、うまく付き合っていこうとするのです。東洋的な考え方が土台にある心理療法で、日本人にもしっくりきやすいという特徴があります。

マインドフルネスをしっかり学ぶと恐怖心で混乱している状態から抜け出す力をつけることができます。様々なエクササイズがありますので、参考にしてみてください。

マインドフルネス療法

⑤森田療法

森田療法は恐怖や不安とうまく付き合いながら目的本位に生きていくという心理療法です。森田療法の特徴としては、恐怖心を無理に無くそうとすると、余計に悪化するという考え方にあります。

例えば、人と接するのが怖い人がいたときに、怖い気持ちをなくしたい!とこだわるほど、恐怖心が大きくなっていきます。これは精神交互作用と呼ばれます。

森田療法では、このように恐怖心を無理に押さえつけるのではなく、「あるがまま」受け入れ、「目的本位」に生きることを大事にしていきます。恐怖心とうまくつきあいながら、やるべきことをしっかりやる力をつけたい方は以下の森田療法を参考にしてみてください。

森田療法のやり方

 

恐怖症,克服法,森田療法

⑤具体的な事例

恐怖症についての具体的な事例は以下の通りです。折りたたみを展開して参考にしてみてください。

[toggle title="嘔吐恐怖症の事例" load="close" suffix="3"]

松本ら(2019)[4]の調査では嘔吐恐怖症に対して、認知行動療法による介入を行った事例を紹介しています。

・28歳女性
・13年にわたり嘔吐恐怖を抱えており食事や運動など行動の制限があり
・嘔吐によって人に嫌われると考え引きこもりがちに

嘔吐恐怖症は「限局性恐怖症」に分類され、自分や他者が嘔吐することを過度に恐れている状態です。

この女性に対して認知行動療法を実施しています。具体的には「飲食時に喉が圧迫される感じ」や「胃が収縮する感覚」など身体感覚に対しての介入を行っています。

その結果、嘔吐に対する恐怖心が減少し、日常生活では家族と食事ができたり、気軽に一人で出かけられるようになったとしています。

谷口(2012)[5]の研究では、自己臭恐怖症の人が就労につながった事例を紹介しています。

・28歳男性
・自分からおならの臭いがしていると考え、仕事が続かない
・後方の車が距離を空けると自分の臭いで車間距離を空けたと考える妄想様の思考もあり

こうした症状に対して、認知行動療法によって介入が行われました。介入の方法として、

「コンビニで立ち読みをし、周囲の人が臭っていないかを検証し、不安があってもその場に立ち読みを続ける」

というものでした、不安から回避するとそれを学習してしまうことでさらにその場面を回避してしまうことに対するアプローチです。この方法は曝露療法とも言われています。その他にも、臭いに対する考え方の変容にも焦点が当てられました。

その結果、就労支援機関への定着が進み、自己臭恐怖症の症状も軽減していったとしています。

 

 

まとめ

当コラムでは恐怖症について、種類や治療法を紹介してきました。実は筆者の川島は社交不安障害になったことがあります。症状としては、視線恐怖症、醜形恐怖症がありました。一番重たい時は、自宅から全く出ることができなくなりました。

それでも、心理療法をしっかり学び、1つ1つ環境を改善していくことで症状を軽くすることができました。当コラムが参考になり、皆さんの症状が少しでも軽くなるヒントになれたならとてもうれしいです。じっくり取り組んでみてください。

 

心理療法を学びたい方へ

恐怖症コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知療法の学習
・暴露療法,チャレンジシートの作成練習
・恐怖心のコントロール法
・冷静になる,マウンドフルネスエクササイズ

社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください↓

コミュニケーション講座,心理療法の学習

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 中島義明,安藤清志,子安増生,坂野雄二,繁桝算男,立花政夫,箱田裕司(1999).心理学辞典 有斐閣

[3] ICD‐10 国際疾病分類第1 第5章 精神及び行動の障害(F00-F99)  岡山大学大学院教育学研究科研究集録

[4] 松本一記,清水栄司,濱谷沙世,関陽一,吉野晃平,白山幸彦,佐藤康一(2019).パニック症と広場恐怖症が合併した嘔吐恐怖症に対する認知行動療法の一症例報告—他者評価の調査(世論調査)を取り入れた治療モデル—認知行動療法研究 45(2),87-97

[5] 谷口敏淳(2012).自己臭恐怖症への認知行動療法の適用:症状の低減から就労支援まで 行動療法研究 38 (3), 247-2574

[6] 仁藤二郎,奥田健次(2021).強迫性障害の男性に対する曝露反応妨害法による介入―日常生活における行動指標の測定と介入効果の検証―日本行動分析学会 行動分析学研究36(1)27-36