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認知療法の効果,コラム法,やり方

認知療法の効果,コラム法のやり方

みなさんこんにちは。公認心理師の川島です。私はこちらの心理学講座を開催しています。当コラムは認知行動療法の入門シリーズです。全4回で解説しています。

①認知行動療法の全体像
②認知行動療法と認知療法
③認知行動療法と行動療法
④マインドフルネス療法への展開

今回はコラム2回目の「認知療法」についてお話します。

私たちの悩みの根本は、身に起きた出来事ではありません。解釈が、苦しみを生み出しているのです。

これは認知療法の提唱者であるアーロン・ベックの言葉です。例えば、最近ですと新型コロナウイルスの問題がありましたが、その反応は千違万別です。

すごく警戒する人、ピリピリする人、いつも通りな人、むしろチャンスと考える人、それぞれ違います。なぜこのような現象が起こるのでしょうか?

認知療法を学ぶとこのような人間の感情の違いが理解しやすくなり、メンタルヘルスを向上させやすくなります。今回の目次は以下の通りです。

①認知療法とは何か
②認知療法の基本モデル
③コラム法の手順
④適応的思考を増やす方法
⑤認知療法と発展知識

是非最後までご一読ください。

①認知療法の概要

まずはじめに認知療法の基礎的な知識を抑えていきましょう。

歴史

論理療法の誕生(1950年代)
論理療法は、アルバート・エリス博士によって1950年代に提唱されました。エリスは精神分析の効果に疑問を抱き、非合理的な信念が感情や行動の問題を引き起こすことに注目しました。そして、これらの非合理的信念を論理的に修正し、適応的な考え方へと変えるアプローチを開発しました。

認知療法の誕生(1960年代)
1960年代、アーロン・ベック博士が、うつ病患者の「自動思考」(無意識に浮かぶ否定的な考え)が感情や行動に影響を与えることを発見しました。これを基に、歪んだ認知を修正するアプローチを提唱し、認知療法を確立しました。初期の認知療法は、特にうつ病の治療に焦点を当てていました。

認知療法の拡大(1970年代)
1970年代に入ると、認知療法はパニック障害や不安障害、強迫性障害(OCD)など、他の精神疾患にも応用されるようになりました。また、1979年にはベック博士が初の専門書『Cognitive Therapy of Depression』を出版し、認知療法の理論と実践が体系化されました。

認知行動療法への統合(1980年代)
1980年代には、認知療法と行動療法を統合した認知行動療法(CBT)が登場し、さらなる発展を遂げました。この統合は、それぞれの治療法の強みを組み合わせることで、認知の修正だけでなく、実際の行動に変化をもたらすことを目指したのです。

国際的普及(1990〜2000年代)
1990年代、認知行動療法(CBT)の効果が多くの臨床研究で実証され、エビデンスに基づく治療法として世界的に注目を集めました。日本では、2010年以降、認知行動療法(CBT)が一部の疾患に対して公的医療保険の適用対象となっています。

認知行動療法では、エリスの論理療法を含めますが、当コラムではベックの認知療法を土台として解説していきます。論理療法に興味がある方は下記を参照ください。

論理療法の意味と進め方

認知療法の効果

認知療法は、思考の歪みを修正し、感情や行動の改善を促進します。ストレスや不安、うつ病の症状を軽減し、自己理解を深め、日常生活における問題解決能力を向上させます。

また様々な効果研究があり、科学的な研修もたくさん行われているのが特徴です。理解を深めたい方は以下の折り畳みをご参照ください。

竹田ら(2015)[1]は、対人援助職220名を対象に、認知の歪みと認知療法の効果について調査をしました。以下の図は認知の歪みが高い群に対する結果の一部となります。

認知療法によるストレスプログラムの効果

STAIの得点は、不安の大きさを意味します。認知療法を実施すると不安が小さくなっていることがわかります。

Rileyら(2007)[2]は、完全主義があり日常生活支障が出ている20人を対象に、認知行動療法を行い、その効果を調査しました。その結果の一部が下図となります。

認知療法と完全主義の心理学研究

認知療法を行った後は、完全主義傾向の得点が下がっているのが分かります。具体的には、対象となった20名のうち15名に改善がみられました。

佐藤(1999)[3]は、専門学生・大学生150名を対象に、認知の複雑性とメンタルヘルスについて調査を行いました。その結果の一部が下図となります。

肯定的自己複雑性と抑うつの関係

肯定的自己複雑性とは、自分のことを様々な角度から肯定的に考える姿勢を表します。こちらの図は、落ち込みにくい人は肯定的自己複雑性が高い傾向にあることを意味しています。自分を褒めること習慣にすると、メンタルヘルスに良いと推測できます。

認知療法と具体的な手法

認知療法は細かく分類すると以下のような関係になります。

認知行動療法 分類

認知療法(Cognitive Therapy)

アーロン・ベックという人が作った治療法です。この方法では、自分の考え方に問題があると感じる時、その考え方を見直して、もっと現実的でポジティブなものに変えていこうとします。

例えば、何か失敗した時に「私はダメな人間だ」と思ってしまうことがありますが、ベックの認知療法ではその思い込みを見直し、「今回は失敗したけど、次はうまくいくかもしれない」と考えるようにします。

この方法は、特にうつ病や不安がある人に役立ちます。また、患者は「気分・感情記録表」というシートを使って、自分の感情や考えを記録し、それをチェックしながら気持ちを整理していきます。

論理療法(Cognitive Therapy)

エリスの論理療法(REBT: Rational Emotive Behavior Therapy)は、アルバート・エリスが提唱した心理療法で、感情や行動の問題は非合理的な信念(思い込み)に起因すると考え、それを合理的な信念に変えることで解決を目指します。

エリスは「ABCモデル」を用い、A(出来事)そのものではなく、B(信念)がC(結果:感情や行動)に影響を与えるとしました。例えば「失敗したら価値がない」という信念を持つ人は、失敗時に強い自己否定を感じます。

REBTでは、こうした非合理的信念をD(論駁)で論理的に問い直し、E(新しい信念)を構築します。このアプローチは、現実的で柔軟な思考を促し、自己受容を高め、より健全な感情や行動を引き出すことを目的としています。

コラム法(Thought Record)

認知療法の中でよく使われる方法で、考え方を見直す手助けをします。患者は、日常で起きた出来事とそれに対する自分の感情、そしてその時に思ったことを記録します。

たとえば、テストに失敗した時、どんな考えが頭に浮かんだかを書きます。その後、その考えが本当に正しいのかを考え直し、もっと現実的な考えに変えることができます。これによって、ネガティブな考えを減らして、前向きな気持ちに変える練習ができます。

スキーマ療法(Schema Therapy)

ジェフリー・ヤングという人が作った治療法で、もっと深い部分にある「思い込み」を見つけて、それを改善していく方法です。私たちの中には、「自分は愛されない」「自分はいつも失敗する」といった深い考え方の枠組み(スキーマ)があることがあります。

スキーマ療法では、こうした考え方の枠組みがどんな風に自分の行動や感情に影響を与えているかを見つけ、それを変えていこうとします。この方法は、特に自分に自信がない人や過去に辛い経験がある人に効果的です。

考え方を扱う

前述したように、認知療法は様々な手法がありますが、当コラムでは、ベックが開発した認知療法を土台として進めていきます。認知療法には、「考え方」が感情に影響を及ぼすという前提があります。例えば、以下の図をご覧ください。

認知療法認知のゆがみ,考え方の例

「残業が減った」という事実に対して、「給料が少なくなる…」と考えると、元気が出てきませんね。一方で以下のように考えると、どうなるでしょうか。

認知療法の考え方の例

「副業にチャレンジする時間が増える!もっと稼げるかも!」と考えると、やる気が出てきそうですね。このように、私たちの感情は、考え方や解釈の仕方が影響していると認知療法では想定していくのです。

コラム法

考え方を修正していく手法としては「コラム法」が代表的です。コラム法とは、ネガティブな思考や非現実的な考え方を修正していく方法で、正式名称は「認知再構成法」といいます。具体的には以下の7つのステップでワークシートを使いながら進めていきます。

コラム法 ダイレクトコミュニケーション

表(コラム)にして書くため、コラム法と呼ばれています。コラム法のワークシートは支援者によってたくさんの種類があります。以下複数の種類をダウンロードできるようにしてあります。ご自身に合うシートを使用してみてください。

コラム法シート①
コラム法シート回答サンプル①

コラム法シート②
コラム法シート回答サンプル②

コラム法シート③
コラム法シート回答サンプル③

コラム法シート④
コラム法シート回答サンプル④

ここからはコラム法のやり方について、事例を用いながら詳しく解説していきます。

①出来事を書く

・明日20人の前でスピーチする
・明日は社長も出席する
・部長から「しっかりやれよ」と言われた

*記入のポイント
不安な気持ちが思い浮かんだシュチエーションを具体的に書きましょう。あくまで客観的な状況を書いていくのがコツです。5Wを意識して記入しましょう。

②気分を書く(%)

・緊張(70%)
・恐怖(40%)
・不安(60%)

*記入のポイント
感情の強さを0~100%の数値で書き込みましょう。感覚的な数値でOKです。

③自動思考を書く

自動思考とは、「出来事に直面した時、頭の中に浮かんでくる思考やイメージ」を指します。例えば以下のような考え方が挙げられます。

「失敗したらどうしよう」
「ミスしたら評価が落ちるに違いない」
「皆から笑われるかもしれない」

*記入のポイント
①で書いた不安な出来事に直面した時、瞬時に浮かんだ思考を書きだしましょう。また自動思考には認知の歪みが関わっていることがあります。考え方が極端になりやすい方は、こちらの認知の歪み10パターンも参考にしてみてください。

④自動思考の根拠

・スピーチする時は高確率であがってしまう
・以前、自分の発表でクスクス笑っている人がいた

*記入のポイント
③で挙げた自動思考を裏付ける客観的な事実を書きます。主観的なことや推論は書かないように注意しましょう。

⑤自動思考の反証

・あがっていてもスピーチはできる。
・自分のことを笑っていた確証はない。
・単純に隣の人と雑談していただけかもしれない。
・緊張しつつも気持ちを伝えることはできる。

*記入のポイント
自動思考とは逆の事実を書きます。こちらも主観的にならず、冷静に客観的に事実を探していきましょう。

⑥適応的思考を書く

・多少はあがっても経験を積めたからOKと考えよう。
・確かに緊張するかもしれないけど、自分の気持ちを伝えることに集中しよう。
・人前に立てるだけでも充分成長だ。

*記入のポイント
よりバランスの取れた現実的な思考を考えていきます。現実的なマイナス面を書いたあと、「しかし~」「ただ~」を活用して、プラス面を書いていくのがコツです。考え方を増やすコツは認知療法コラム①で解説しました。うまく発想できない方は参考にしてみてください。

⑦今の気分を書く(%)

・緊張(40%)
・恐怖(30%)
・不安(50%)

*記入のポイント
再び、気分を再確認していきます。③の自動思考が誤ったものであれば、ネガティブ感情が小さくなっているはずです。

このように7つのステップを踏んで考え方を柔らかくすることで、マイナスな感情を減らしていきます。先ほどのテンプレートに書きこむと以下のようになります。

コラム法 サンプル

③適応的思考を増やす方法

認知療法が苦手な方は、「適応的思考」が不足している傾向があります。なかなか思い浮かばない…と感じる方は参考にしてみてください。

質問① その考えは現実的?

悩んでいるときは、悪い未来をどんどん想像してしまうものです。そこで「その考えは現実的?確率はどれくらい?」と投げかけ、客観的な数字で考えて行きます。

質問② 他人ならどう考える?

「いつも明るい〇〇さんならどう考えるかな?」など、別の人の考え方を想像してみます。いつも楽観的な人の考え方がおすすめです。思わぬ発想ができたりします。

質問③ できた(る)ことはあるかな?

悩んでいるときは「ない」という発想で物事をとらえがちです。できていない部分ではなく、できたところ、できることに注目して、前向きな考えを増やしていきます。

質問④ 最悪よりマシなのでは?

目の前の良くない状態は、広い視野を持てば最悪の状態ではないことは多々あります。今の状態を「最悪の時よりはマシかもしれない」と考えてポジティブな考えを出していきます。

質問⑤ 人の痛みが分かるかも?

人生ではいろいろな経験をします。辛く悲しい経験が、心の成長になることもあります。辛い経験をしたからこそ、人の心の痛みが分かると前向きにとらえるといいでしょう。

質問⑥ チャンスな面はあるかな?

上手くいかない状態は、成功につながるチャンスと考えることもできます。ピンチをチャンスとして考えてみます。

質問⑦ 人生経験にプラスになったかな?

苦しみも成功も体験するからこそ、人生は豊かになっていきます。失敗や挫折も人生のドラマチックな一面と考えると良いかもしれません。

質問⑧ ネタになるかな?

目の前の不安も、笑いに変えることで、気持ちが楽になるものです。友だちと話す時にネタになるかも(^^;…そんな気持ちでとらえてみるといい考えが思いつくものです。

質問⑨ 仙人ならどう考える?

たまには達観した視点で考えてみるのもありです。仙人ならどう考えるかな?と想像してみると良いでしょう。ちなみに私は、どうせこの世は幻(笑)と言って苦難と乗り越えています。

以下、練習問題を2つ作成しました。認知療法の練習としてご活用ください。

<事例>
会社員の花子さん
3日後に会社でプレゼン
社長や部長も参加する

「感情的決めつけ癖」がある花子さんは「今から緊張している!こんなに緊張しているのだから失敗する!」と考え、混乱しています。

認知療法の練習問題

花子さんの状況をもとに、先ほどご紹介したコツを参考に考え方を増やしてみてください。

①現実的?確率計算する
②他人なら?
③できることはあるかな
④最悪よりまし!
⑤痛みが分かるかな
⑥チャンスな面はあるかな
⑦人生経験にプラス
⑧ネタになるかな
⑨達観できるかな

 

解答例

認知の偏りを修正する練習

<事例>
大学生の太郎くん
就活が上手く進まない
明日は第一希望の会社の面接

「白黒思考」がある太郎くんは「この会社に落ちたら人生が終わる!」「どうせうまくいかない」と極端に考え、プレッシャーで一杯になっています。

就活生の認知の偏り

太郎さんの状況をもとに、先ほどご紹介したコツを参考に考え方を増やしてみてください。

①現実的?確率計算する
②他人なら?
③できることはあるかな
④最悪よりまし!
⑤痛みが分かるかな
⑥チャンスな面はあるかな
⑦人生経験にプラス
⑧ネタになるかな
⑨達観できるかな

 

 

解答例

認知の偏りを修正する考え方

 

④認知療法と発展知識

ここから先は認知療法をより深く理解したい方向けの内容です。さまざまな研究や知識をお伝えします。

仕上げの動画

認知療法について動画でも解説しました。仕上げとして動画も見ておくと理解が深まると思います。

コラム法の基礎

コラム法の基礎について動画でも解説しました。シンプルなやり方として、5コラム法として紹介しています。自動思考、適応思考の解説もあります。

認知の歪みを改善する

認知療法を効果的にするには、白黒思考、完全主義、べき思考など、考え方の偏りを発見することも大事です。コラム法の仕上げとして以下のコラムも参照ください。

認知の歪み10パターン

スキーマ,自動思考を理解する

アーロン・ベックは「自動思考には、スキーマと呼ばれる偏った信念がある」と考えました。例えば、いつも高い目標を掲げてストレスを抱えるスキーマ、他人に依存的になってしまうスキーマなどが挙げられます。認知療法の理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。

認知療法,スキーマ,推論の誤り

論理療法を理解する

認知療法に近しい心理療法として、論理療法があります。一緒に勉強すると、より現実的に考える力をつけることができます。

論理療法の基礎

4つの心理療法を抑えよう

認知行動療法入門は、4つのシリーズで紹介しています。

認知行動療法の基礎①全体像
認知行動療法の基礎②認知療法
認知行動療法の基礎③行動療法
認知行動療法の基礎④マインドフルネス療法

まだ読んでいないコラムがありましたら是非、ご一読ください。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

認知療法の効果,コラム法,やり方,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 竹田 伸也・太田 真貴・松尾 理沙・大塚 美菜子 (2015).  対人援助職者に対する認知療法によるストレスマネジメントプログラムの効果 ストレス科学研究, 30, 44-51.
 
[2] Riley, C., Lee, M., Cooper, Z., Fairburn, C.G., & Shafran, R.(2007).  A randomised controlled trial of cognitive-behaviour therapy for clinical perfectionism: a preliminary study Behavior Research and Therapy, 45, 2221-2231.