アイデンティティを確立する方法
皆さんこんにちは。コミュニケーション教室を開催している公認心理師の川島達史です。当コラムは下記にあてはまる方におすすめです。
・目標を見失っている
・仕事にやりがいがない
・夢が希望を持てない
アイデンティティの確立とは、「自分とは何者か」「何のために生きるのか」という問いに、自分なりの答えを持てている状態を指します。当コラムでは、その意味と、確立するための4つの具体的な方法をお伝えします。是非最後までご一読ください。
◆全体の目次
①アイデンティティの意味とは
②青年期とアイデンティティ
③アイデンティティ拡散とは
④確立が重要な理由
⑤アイデンティティ確立の4方法
⑥まとめ・次に読みたい方へ

アイデンティティの意味とは
はじめに「アイデンティティ」という用語の意味を抑えておきましょう。アイデンティティの概念は、1940年代後半に発達心理学者のエリクソンが提唱したものです。
エリクソンの定義
エリクソン(1950)[1]は「幼児期と社会」という本の中でアイデンティティを次のように定義しました。
自分が他ならぬ自分として,生き生きとした生命的存在として生き続けているという実存的な意識であり,同時に,自分が所属する社会の人々とある本質的性格において共通しており,世界との一体性をもつという実感

いかがでしょうか?…かなり難しいですね。「内的な普遍性と連続性…」のあたりでもうパニックです(汗)
心理学辞典の定義
次にわかりやすい、心理学辞典(1999)[2]の定義を紹介します。
「自分は何者か」「自分の目指す道な何か」「自分の人生の目的は何か」「自分の存在意義は何か」など、自己を社会のなかに位置づける問いかけに対して、肯定的かつ確信的に回答できること
いかがでしょうか。このように「自分とは何者なのか?」を問い、その答えを前向きに出していくことをアイデンティティ確立と呼ぶのです。
ちなみにエリクソン自身も、出自の複雑さから「自分が何者か」という問いを生涯抱え続けた人物だったと言われています。理論家自身が当事者だったからこそ、生み出された概念なのかもしれません。エリクソンが提唱した理論全体について詳しく知りたい方は、エリクソンの心理社会的発達理論とはもあわせてご覧ください。
青年期とアイデンティティ
人生を8つの段階に分ける
エリクソンは、様々な悩みを持つ方の援助を行う中で、人生には8つの発達段階があることを見出し、5番目の段階を青年期と呼びました。そして青年期に乗り越えなければならない課題こそが、アイデンティティ確立だと考えたのです。

青年期の課題
私たちは小学生時代までは、自分とは何か?という気持ちをそこまで考えずに、一瞬一瞬を生きていきます。
・今日のおやつは何かな?
・今日はゲームできるかな?
・宿題やんなきゃ!
せいぜいこれぐらいの思考です。それが青年期になると、目の前のことだけではなく、様々な事を考えはじめます。
・将来どんな大学に行こうか?
・理系・文系どちらが向いているのか?
・僕のやりたいことって何だろう?
こんなことを考え始めますね。このように自分とは何者なのか?生きる目的とは何か?と考え、その芯を定めていくことをアイデンティティ確立と呼ぶのです。
アイデンティティ拡散とは
一方でアイデンティティは簡単に確立できるものではありません。むしろ確立するまでに大きく悩む時期があるのが普通です。これをアイデンティティ拡散(クライシス)と言ったりします。
拡散の意味
心理学辞典(1999)[2]によると、アイデンティティ拡散は以下のように定義されています。
自己探求を続ける青年が、多くは一過性的に経験する自己喪失の状態
これから社会生活を送っていく上で、自分らしさをどのように発揮していけばいいか?わからなくなってしまう状態を指します。「自分が嫌いでたまらない」と感じる方は、その根っこにアイデンティティ拡散が関わっているケースもあります。関連する対処法は自分が嫌いでたまらない方へ,改善する6つの方法でも解説しています。拡散という状態そのものをより詳しく知りたい方はアイデンティティ拡散とはで深掘りしています。
生涯の課題
アイデンティティ拡散が起こりやすい場面はいくつかあります。
・学校などで進路を考えるとき
・転職など働き方について考えるとき
・失恋、離婚、死別
・外国などに行き異文化に接したとき
アイデンティティ拡散は人生で1回だけではなく、何度も形を変えて起こることがあります。エリクソンも当初はアイデンティティ形成を青年期の課題としていましたが、のちに生涯をかけた課題であると考えを改めました。「なんとなくむなしい」「何のために生きているかわからない」という感覚が強い方は、虚無感を解消する方法も参考になります。
確立と拡散の違い
大野(1984)[3]はアイデンティティの「確立(達成)グループ」と「拡散グループ」の違いを調査しました。

確立グループは充実感が高く毎日を主体的に生きており、拡散グループは充実感が低く何となくむなしいという結果が出ています。同じ仕事でも「これが私のやるべき仕事だ」と考える場合と「これは私のやるべき仕事ではない」と考える場合とでは、充実感に大きな違いが出てくるのです。
確立が重要な理由
谷(2001)[4]は大学生188名を対象に、アイデンティティについて調査を行いました。

アイデンティティを確立すると、自尊心が向上しやすく、充実感を持ちやすく、基本的信頼感も持ちやすいという結果になっています。メンタルヘルスを健康的に保つ上で、アイデンティティの確立は重要な土台のひとつと言えるでしょう。自尊心そのものを高めたい方は自尊心が低い方へ,高める方法も合わせてご覧ください。
アイデンティティ確立の4方法
ここからはアイデンティティを確立するための具体的な方法をお伝えします。谷(2001)[4]の研究によると、以下の4つが重要であると考えられています。
①過去の自分を受け入れる(自己斉一性・連続性)
②目標を見つける(対自的同一性)
③本当の自分で接する(対他的同一性)
④社会で役割を持つ(心理社会的同一性)
それぞれ、考え方と今日から試せる具体的なアクションをセットでご紹介します。取り入れられそうなものから始めてみてください。
①過去の自分を受け入れる
谷(2001)[4]の研究によると、アイデンティティを確立する上では「自己斉一性・連続性」が大事であることがわかっています。これは、過去の自分があったからこそ、今の自分があるという感覚です。
・過去の失敗があるから今がある
・努力をしてきた自分を認める
・失敗も成功も含めて自分
このような感覚を育てることが大事です。具体的な手法としては「ライフチャート法」がおすすめです。過去の自分を見つめ直し、肯定的に考え直す効果があります。
【今日からできること】
紙に1本の線を引き、生まれてから今までを100点(絶好調)〜マイナス100点(どん底)で振り返ってみましょう。点数の上下だけでなく、「なぜその点数になったのか」を一言添えると、出来事に意味付けができ、自己斉一性が育ちやすくなります。より本格的に取り組みたい方は、以下のコラムで手順を詳しく解説しています。

②目標を見つける
2つ目に重要なのは「対自的同一性」です。対自的同一性とは、自分の価値観に耳を傾け、これからやりたいこと、大事にしたいこと、人生の目的を見つけていくことを意味します。
一方で人生の目的はそう簡単に見つかるものではありません。そこで有効なのが、人生の危機を前向きに活かすという視点です。私たちはうまく行っている時は深く考えないものですが、危機を迎えた時こそ、自分と深く向き合うきっかけになります。

これは「アイデンティティのらせん式発達モデル」と呼ばれ、私たちはぐるぐるとらせんを描きながら「自分とは何か?」を理解し、アイデンティティを確立していくことを示しています。転職活動、仕事の失敗、人間関係の失敗、大事な人の死など、人生には危機が定期的に訪れます。辛い時期ではありますが、自分とじっくり向き合う機会と捉えると良いでしょう。
【今日からできること】
「もし何をしても失敗しないとしたら、何をしたいか」を3つ、思いつくままに書き出してみましょう。制約を外して考えることで、自分が本当に大事にしたい価値観が見えやすくなります。過去に大きな危機を乗り越えて目標を見つけた方の実例を、以下に2つご紹介します。
③本当の自分で接する
3つ目に重要なのは「対他的同一性」です。対他的同一性とは、「人に見られている自分」と「本当の自分」が一致している状態を意味します。
私たちは大人になると気遣いや協調性が生まれ、周りに合わせるようになります。これ自体は良いことですが、行き過ぎると演技的になり、自分らしさを失ってしまいます。人と接するときに自分の意見を言えない、周りを優先しすぎてしまう、自分らしくいられないと感じる方は、アサーティブコミュニケーションの学習がおすすめです。
【今日からできること】
誰かに何かを頼まれて断りたい時、「できません」の代わりに「今日は難しいですが、明日ならできます」のように、自分の状態を伝えつつ代案を出す練習をしてみましょう。小さな自己主張の積み重ねが、対他的同一性を育てます。
④社会で役割を持つ
4つ目に重要なのは「心理社会的同一性」です。心理社会的同一性とは、周りに必要とされている、社会に役立っているという感覚、社会の一員として活躍している感覚を意味します。会社内で頼りにされる、社会的意義のある仕事をする、子育てに励む、ボランティア活動をするなどが該当します。
私たちは「社会的動物」と言われ、人間関係なしには生きていけません。自分のためだけでなく、社会のために役立つ生き方を意識することが、アイデンティティ確立につながります。
【今日からできること】
「自分がいなくなったら誰が困るか」を紙に書き出してみましょう。家族、職場、友人関係など、意外と多くの役割を担っていることに気づけるはずです。

まとめ・次に読みたい方へ
アイデンティティの確立とは、①過去を受け入れ、②目標を見つけ、③本当の自分で人と接し、④社会での役割を持つことの積み重ねです。一度に全部やろうとせず、まずは①のライフチャート法など、取り組みやすいものから始めてみてください。
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②ライフチャート法で人生の整理を
③アイデンティティ拡散とは
④エリクソンの心理社会的発達理論とは
コミュニケーション教室のご案内
筆者は東京のお茶の水でコミュニケーション教室を開催しています。今回お伝えした「自分らしさを保ったまま人と関わる」というテーマは、実は教室でも中心的に扱っている内容です。
公認心理師のもとで、人間関係を築く技術を実際に通学しながら練習していくことができます。興味がある方は、下記のリンクからお待ちしています。
アイデンティティ診断
ここまで読んでいただいた内容を、実際に自分に当てはめて考えてみたいという方には、簡単な診断を受けてみることをおすすめします。
いくつかの質問に答えるだけで、今の自分がどの程度アイデンティティを確立できているか、大まかな傾向を知ることができます。文章で理解した内容を、自分ごととして捉え直すきっかけにしてみてください。
学術的な背景を知りたい方へ
今回のコラムでは、エリクソンや谷(2001)の研究を交えながら、できるだけ生活に近い言葉でアイデンティティ確立について解説してきました。
もう少し学術的な切り口から、アイデンティティという概念の成り立ちや、心理学における位置づけを詳しく知りたいという方は、以下の姉妹サイトもあわせてご覧ください。研究紹介の形で、より専門的な内容を整理しています。

2件のコメント
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私は他者と親密になれないという悩みがあります。
原因はいつくもありますが、私が「アイデンティティの拡散」していることにもありそうと思いました。コラムで説明されているメンタライゼーション(自分と向き合う、他人と向き合うこと)は特に重要だと思うのですが、正直億劫です。できる自信がありません。でも少しづつ自分と向き合うことが必要だと強く思いました。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1] Erikson.E,H(1950) Childhood and Society. Norton野栄三郎訳(1955)児童期と社会,日本教文社,[2][3] 大野久 現代青年の充実感に関する一研究(5)日本教育心理学会総会発表論文集 26(0), 478-479, 1984[4] 谷冬彦(2001)青年期における同一性の感覚の構造 -多次元自我同一性尺度MEISの作成- 教育心理学研究 49 265-273










上記の図でわかるように、


私はどれが無理をしていない自分の人格なのか判らない状態です。
私は人見知りで対人恐怖心があります。
人と会話をするのが苦手です。
でも人と会話をするのは好きです。特に直接会って会話するのが好きです。
自分の意見を言うのは遠慮してしまいます。
しかし、攻撃的な発言をしてしまう時もあります。
私は人と接するのが、好きなのか?嫌いなのか?
私は自分の意見を主張できる人なのか?主張できない人なのか?
自分でも判りません。
私は今アイデンティティクライシスが起こっている状態です。
乗り越えるための方法を参考にしたりして
日記を付けて自分と向き合ってみたいと思います。