アンガーマネジメントとは、怒りの感情そのものをなくすのではなく、怒りに早めに気づき、後で後悔するような言動につなげずに、適切に対処したり表現したりできるようにするための心理教育・トレーニングのことです。1970年代のアメリカで、心理学者レイモンド・ノバコの研究などをきっかけに広がりました。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「アンガーマネジメント」です。

怒りのコントロールは、とても大切です。人間関係のトラブルや、パワハラ、家庭内の暴力など、多くの問題の背景に、うまく扱えなかった怒りがあるからです。怒りと上手に付き合えるようになれば、大切な人たちと穏やかに暮らす助けになります。
当コラムはシリーズの1本目として、アンガーマネジメントの基本と、今日から使える方法を紹介します。目次は以下の通りです。
目次
①アンガーマネジメントとは
怒りを感じること自体は、自然なことです。問題になるのは、怒りの表し方です。まずは、アンガーマネジメントの意味と歴史を確認しましょう。
アンガーマネジメントの意味
アンガーマネジメントの基礎を築いたノバコ[1]は、怒りを予防し、制御するための心理的な治療プログラムを開発しました。日本では、安藤[2]が、マイナスの結果を引き起こしやすい怒りに正しく対処し、健全な人間関係を築くための知識や技術として紹介しています。
大切なのは、アンガーマネジメントは「怒らない人になる」ことが目的ではない、という点です。怒る必要のあることには適切に怒り、そうでないことには振り回されない。そのために、怒りの仕組みを理解し、冷静に対応する力を養っていきます。
歴史と広がり
アンガーマネジメントは、1970年代のアメリカで本格的に広がりました。ノバコは1975年に、認知行動療法の考え方を取り入れた怒りの治療プログラムを発表し、その後、怒りのコントロールの大切さが認識されるにつれて、司法・矯正、医療、教育、ビジネスなど、さまざまな分野で取り入れられていきました。
日本でも関心が高まっています。例えば、文部科学省がまとめた暴力行為の防止に関する報告書[3]では、小中学校の一貫した取り組みとして「感情理解教育(アンガーマネジメント)」を行う例が紹介されています。
効果の研究
ベックとフェルナンデス[4]は、認知行動療法による怒りへの取り組みを調べた50の研究(参加者約1,600人)をまとめて分析しました。その結果、取り組みを受けた人は、受けなかった人に比べて、怒りが大きく軽減していることが示されました。子どもや学生、受刑者など、さまざまな対象で効果が確認されています。

②怒りと体のしくみ
私たちが怒るとき、体の中ではさまざまな反応が起きています。仕組みを知っておくと、「今、体が戦闘モードになっている」と気づきやすくなります。
きっかけと脳の反応
怒りは、侮辱される、不公平な扱いを受ける、誤解される、大切なものを奪われそうになるなど、何らかのきっかけから始まります。こうした出来事に直面すると、脳の「扁桃体(へんとうたい)」が素早く反応します。
扁桃体は、怒りや恐怖、不安などの感情に深く関わる部位です。危機を感じて扁桃体の働きが強まると、冷静に考える働きが追いつかず、とっさの言動が出やすくなります。

ホルモンと自律神経
扁桃体が反応すると、ノルアドレナリンやアドレナリン、コルチゾールなどのホルモンが分泌され、体を戦いに備えた状態にします。このとき、自律神経のうち、体を緊張させる「交感神経」の働きが強まります。
交感神経:緊張する、活力が上がる、心拍数が上がる
副交感神経:リラックスする、休息する、心拍数が下がる
怒りを感じると、心臓の鼓動が速くなり、血圧が上がり、筋肉がこわばります。これは体が戦う準備を始めているサインです。この状態をうまく落ち着かせられないと、カッとなって暴言や暴力につながることがあります。

③怒りが心身に与える影響
怒りをため込んだり、激しく表したりすることは、相手だけでなく、自分自身の心と体にも負担をかけることが分かっています。研究を折り畳んで紹介しますので、興味のある項目を展開してみてください。
ストレスとの関係
体への影響
病気が隠れていることも
これまで穏やかだった人が、急に怒りっぽくなった場合は、心や体の病気が関わっている可能性もあります。例えば、うつ病のある人の中には、突然強い怒りがこみ上げ、動悸や発汗をともなう「怒り発作」がみられる人がおり、外来に通う人の約3分の1にみられたという報告もあります[8]。
このほか、双極症や認知症でも、それまでの性格からは考えにくい強い怒りが現れることがあります。気になる変化があるときは、医療機関に相談しましょう。

④その場でできる対処法
ここからは、実際に怒りを感じたときに、その場で使える方法を3つ紹介します。まずは、怒りに気づき、体を落ち着かせることが基本です。
怒りに気づく
アンガーマネジメントの基本は、「怒りに気づく」ことです。怒りに気づければ、「今、私は怒っている。このまま言い返したら、取り返しがつかなくなる」と、立ち止まることができるからです。
気づく力をつけるには、マインドフルネスの考え方が役立ちます。頭に浮かんだ気持ちを、次のように、少し離れたところから眺めるように言葉にしてみましょう。
「遅刻されて、怒っている自分がいるな…」
「手伝ってもらえなくて、イライラしている自分がいるな…」
このとき、「こんなことで怒るなんてダメだ」と自分を責めず、ただ「今、こういう気持ちなんだな」と観察するのがポイントです。詳しくは、マインドフルネスの基礎で解説しています。
深呼吸で体を落ち着ける
深呼吸は、高ぶった体を落ち着かせる、最も手軽な方法です。怒りを感じたら、まずは次の手順で呼吸を整えましょう。
①鼻から、5秒ほどかけてゆっくり息を吸う
②2秒ほど、息を止める
③口から、10秒ほどかけてゆっくり息を吐く。イライラした気持ちが、息と一緒に体の外へ出ていくイメージで
④気持ちが落ち着くまで、何回かくり返す
吐く息を長くすると、体をリラックスさせる副交感神経が働きやすくなります。「カッとなったら、まず深呼吸」と覚えておきましょう。
関係ない言葉をはさむ
怒りの言葉が頭の中でぐるぐる回っているときは、まったく関係のない明るい言葉をはさむと、怒りから少し距離をとることができます。
怒りの言葉:「絶対に許せない!」
関係ない言葉:「回転寿司、食べ放題♪」
組み合わせる:「絶対に許せない!回転寿司、食べ放題♪」
少しばかばかしく感じるかもしれませんが、それで大丈夫です。怒りの言葉の勢いが弱まり、冷静さを取り戻すきっかけになります。関係ない言葉は、好きな食べ物や楽しい予定など、なるべく明るいものを選びましょう。
⑤怒りにくくなる習慣
その場の対処に加えて、ふだんから心と体を整えておくと、怒りにくくなります。ここでは4つの習慣を紹介します。
怒りの段階を確認する
怒りは、いきなり爆発するのではなく、「疑問」「戸惑い」「不満」「イライラ」「怒り」「暴言・暴力」と、段階を踏んで強まっていくことが多いものです。早い段階で気づくほど、落ち着きを取り戻しやすくなります。詳しいやり方は、シリーズ2本目の怒りの段階確認法で解説しています。
相手への期待を見直す
怒りやすい人には、周りへの期待が高いという特徴があります。「時間は絶対に守るべきだ」という期待が高いほど、相手が少し遅れただけで、強い怒りを感じやすくなります。期待を「守ってくれたらうれしいな」くらいに調整すると、相手に寛容になれます。詳しくは、シリーズ3本目の相手への期待値を下げる方法で解説しています。

考え方の幅を広げる
怒りをうまくコントロールできない人は、「〜すべき」「絶対に〜」といった極端な考え方をしていることがあります。認知療法では、こうした考え方のくせに気づき、別の見方を増やしていきます。考え方の幅が広がると、怒りに振り回されにくくなります。認知療法の基礎もあわせてご覧ください。
心と体のゆとりを保つ
細田と田嶌[9]は、中学生305名を対象にした研究で、自分を肯定する気持ちと、他人を肯定する気持ちが関連していることを示しました。自分に余裕がないと、他人にも厳しくなりやすいのです。
寝不足のときは、誰でもイライラしやすくなります。十分な睡眠、適度な運動、日光を浴びる、バランスのよい食事など、体の調子を整えることも、立派なアンガーマネジメントです。体が軽く快調だと、心も穏やかに過ごしやすくなります。

⑥取り組むときの注意
アンガーマネジメントに取り組むときは、次の2つの点に気をつけましょう。
我慢することではない
アンガーマネジメントは、怒りを無理に押し込めて我慢することではありません。怒りの背景には、「大切にしてほしい」「分かってほしい」という気持ちが隠れていることが多いものです。落ち着いた後で、その気持ちを相手を責めない言い方で伝えることも大切です。伝え方は、アサーティブコミュニケーションが参考になります。
暴力があるときは相談を
自分の怒りを抑えられず、物を壊したり、家族に手を上げたりしてしまう場合は、一人で抱え込まず、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談してください。また、相手からの暴力や暴言に苦しんでいる場合は、我慢する必要はありません。まずは自分の安全を守り、配偶者暴力相談支援センターや警察などに相談しましょう。
⑦よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
⑧まとめ
アンガーマネジメントは、怒りをなくすのではなく、怒りに早めに気づき、上手に扱うための心理トレーニングです。怒りは、人生を壊しかねない強い感情ですが、扱い方は練習で身につけることができます。
今回のポイント
怒りを感じること自体は自然なこと
まずは怒りに気づき、深呼吸で体を落ち着ける
期待を見直し、考え方の幅を広げる
睡眠や運動で、心と体のゆとりを保つ
怒りを感じたら、まずはその気持ちに気づき、深呼吸をして、いつもの自分を取り戻しましょう。皆さんが穏やかな気持ちで、健やかな人間関係を築かれることを願っています。
シリーズの続きを読む
アンガーマネジメントシリーズでは、具体的な技法や、学べる講座についても解説しています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・アンガーマネジメントの手法
・ムカつく心理の改善,認知療法
・イライラする考え方の改善
・感情コントロール,マインドフルネス療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連





