アンガーマネジメント入門‐意味,方法
皆さんこんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、心理学の講師としてこちらの心理学講座で活動しています。今回のテーマは「アンガーマネジメント」です。

怒りのコントロールは極めて重要です。なぜなら離婚、別れ、虐待、DV、パワハラ、犯罪、戦争、これらの原因のほとんどに怒りが関連しています。
この意味で怒りをコントロールできるようになれば、大事な人たちと平穏で豊かな生活を送る助けになると言えます。是非最後までご一読ください。
意味と歴史
意味
アンガーマネジメントには様々な意味があります。
怒りを予防・制御するための心理療法プログラム 不適切な怒りの感情をうまくコントロールすることを目指す Novaco(1975)
“感情”の中でとくにマイナスな結果を引き起こす原因となる“怒り”に正しく対処することで、健全な人間関係をつくり上げる知識・技術を習得するということ 安藤(2015)
怒りは人生を破壊的にする感情です。本当に必要な時以外は、コントロールする必要があります。
アンガーマネジメントはそのような必要性から発展してきました。まずは歴史を概観していきましょう。
歴史
アンガーマネジメントは1970年代のアメリカで本格的に広がっていきました。第1人者は心理学者のRaymond Novacoです。Novacoは1975年、「怒りを予防・制御するための心理的対処力」を提唱し、アンガーマネジメントをモデル化しました。
その後、怒りの管理の重要性が認識され、犯罪者、精神疾患、ビジネスの現場、教育分野で導入されるようになりました。
一例としては教育分野で活用されているKYBが挙げられます。KYBは
The Know Your Body HealthPromotion System
の略称です。これは、幼稚園から中学3年生を対象とした、学年ごとに獲得すべき行動スキルの内容を示した予防教育プログラムになります。
その中の教育テーマのひとつである「ストレス」に対する行動目標には、「怒りの感情をコントロールする方法を学ぶ」と記されています。
日本では文部科学省(2011)は、「アンガーマネジメントを感情理解教育」とし、児童・生徒のうちから学ぶべきスキルとして推奨しています。また、グーグルでの月間検索数は50,000件前後となっていて、需要が増加しています。
一方で日本の研究はアメリカほど盛んではありません。例えば、論文検索サイトでは500件前後とやや少ない状況で、学会での精査もまだまだと言えます。怒りのコントロールの重要性を考えると、今後は日本でも研究数が増えていくと予想できます。
怒りと健康の関係
現在の生理学、心理学的な研究によると、怒りには様々なマイナスの影響があることがわかっています。以下に研究を折りたたんで記載しました。興味のある研究がありましたら展開してみてください。
佐藤ら(2005)は、大学生155名を対象に、タイプAとタイプBの日常生活のストレスを比較しました。
タイプAとは、怒りやすい傾向がある人で、タイプBは穏やかな傾向がある人を意味します。その結果の一部が下図となります。
タイプAの方は全体的にストレスを溜めやすいことがわかります。怒りは自分自身を苦しめる感情であるともいえるのです。
井澤ら(2004)は男子大学生20名に対して怒りと生理的な影響について研究を行いました。その結果の一部が下図となります。
図のように、衝動的な怒り情動を表す「短気」が、収縮期血圧・拡張期血圧の上昇と関連を示すことがわかりました。
怒りは
①対人場面に遭遇
②怒り思考
③偏桃体が反応
④交感神経が活発
というプロセスで起こります。
対人場面に遭遇し、理不尽な扱いを受けた方がいたとえいます。すると「扁桃体(へんとうたい)」が反応します。扁桃体は以下の部位に位置しています。
偏桃体は怒り、恐怖、不安を感じる脳の部位で原始的な脳と言われています。危機を感じると、扁桃体が活発になり、合理的な判断がしにくくなります。
偏桃体が反応すると、「自律神経」が対応を始めます。自律神経には2種類あり、それぞれ以下のような働きがあります。
*交感神経
緊張する、活力を上げる、心拍数が上がる
*副交感神経
リラックス、休息する、心拍数が下がる
怒りを感じている時は体が「交感神経」が優位になっています。体の反応が高まる中で心臓の鼓動が早くなり、血流や血圧が高まっていくのです。
これは体が戦いの準備を始めているサインになります。うまく制御できないと、暴言や暴力へと発展していきます。
アンガーマネジメント手法7つ
ここからは、アンガーマネジメントのやり方を7つ提案させて頂きます。
①マインドフルネス力をつける
②怒りの段階確認法
③リラックス深呼吸法
④相手への期待値を下げる
⑤認知療法,考え方を増やす
⑥心に余裕を持つ
⑦体の状態を整える
ご自身にあった内容を組み合わせてご活用ください。
①マインドフルネス力をつける
アンガーマネジメントの基本は「怒りに気がつく」ことです。なぜなら怒りに気がつくと「いま私は怒っている…このまま暴言を吐いたら取り返しがつかない…」と行動を冷静に判断することができるからでです。
「気がつく力」をつけるには、マインドフルネス療法を学ぶことをおすすめします。マインドフルネスとは、自分の感情や価値観を客観的に把握することを意味します。
マインドフルネスには様々な手法があり、1つのやり方として「〇〇になっている自分がいるな」と確認する手法が挙げられます。具体的には以下のように観察していきます。
「遅刻されて怒っている」
自分がいるな…
「手伝くれない!とムカついている」
自分がいるな…
「約束を破られてイライラしている」
自分がいるな…
このように、自分を観察していくと、冷静になることができます。マインドフルネスについては、以下のコラムで詳しく解説しています。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
②怒りの段階確認法
マインドフルネスができるようになると、自分の状態を確認する力がついていきます。「怒り」は感情としては後に来ることに多く、その手前に様々な段階を踏むことが多いです。具体的には、以下の6段階でステップアップしていきます。
ステップ1 疑惑 疑問
ステップ2 困惑 戸惑い
ステップ3 不満 納得できない
ステップ4 ムカつく イライラする
ステップ5 怒り カッとなる
ステップ6 暴力 暴言
怒りをコントロールするには、早めの段階で、気がつくことが大事です。例えば、ステップ2の困惑の段階にあるとします。この時、自分の体の状態を観察すると落ち着きやすくなります。
いま自分は困惑の段階にいるな…
少し呼吸が荒くなっている…
ゆっくり呼吸をしよう…
と考えると、怒りを抑制することができます。段階を確認し、気持ちを落ち着ける手法は以下のコラムで解説しました。理解を深めたい方は是非ご参照ください。
③リラックス深呼吸法
深呼吸法は感情コントロールの王様です。是非マスターしたいところです。以下の手順で落ち着きを取り戻してください。
①吸う
5秒程度、鼻から息を吸います。
この時、リラックスした空気が体を循環するイメージをしましょう。
②止める
2秒程度息を止めます
③吐く
10秒程度かけて息を吐きます。
この時「ムカつく気持ち」が体の外に出ていくイメージをしましょう。
手順は気持ちが落ち着くまで何度か繰り返します。
いかがでしょうか。これだけでも激しい行動を随分予防することができます。怒りを感じたらまずは深呼吸を是非原則としてみてください。
感情的になったらまずは深呼吸!と覚えておきましょう。詳しくは以下のコラムで練習してみてください。
④相手への期待値を下げる
人間関係において、怒りっぽい人もいれば、おだやかな人もいます。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
1つの特徴として、怒りやすい人は周りの人への期待値が高いという特徴があります。期待値と感情の関係を図で表すと以下のようになります。
このように、想定していた期待値を「50」とすると、それを下回れば下回るほど、ムカつく気持ちが抑えられなくなります。
1つのコツに高すぎる期待を、下げていくという手法があります。例えば、以下のように相手への期待を下げると効果的です。
どんな時でも時間は厳守すべきだ!
→プライベートでは多少ゆるくてOK
仕事ではメールを必ず返すべきだ!
→たまには忘れてしまうこともある
このように「○○してくれたらいいな」ぐらいの期待感にとどめておくと、他人に対して寛容になり怒りも感じにくくなります。他人に対して、強い口調で怒ってしまう…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
⑤認知療法,考え方を増やす
アンガーマネジメント力をつけるには、認知療法がおすすめです。認知療法とは以下の意味があります。
極端な考え方を見直し、健康的な考え方をふやす事でメンタルヘルスを安定させる手法
怒りをうまく制御できない人は、思考の偏りがあり、感情が極端になりがちです。この点、認知療法を学ぶと考え方の幅が広がり、怒りのコントロールがしやすくなります。
認知療法はアンガーマネジメント力と相性が良いのでお時間はある時にぜひ学んでみてください。
⑥心に余裕を持つ
細田ら(2009)は、中学生305名を対象に、ソーシャルサポートと自他への肯定感に関する研究を行いました。その結果、自己肯定感が下がると、他者肯定感も下がることが分かりました。
上図のように自己肯定感と他者肯定感は、相関関係にあります。つまり、自分を否定的に見ると、他人も否定的に見てしまうのです。相手にイライラしてしまうかたは、心の余裕がなく、相手に当たり散らしまいます。
これに対して、自己肯定感がしっかりあり、余裕がある方は、相手を許す寛容さを持ち合わせています。普段から自分の心も豊かにしておくように心がけましょう。
自己肯定感が不足している…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
⑦体の状態を整える
生理学や心理学の研究では、身体にストレスがかかると、怒りやすくなることがわかっています。怒りは身体の状態と密接にかかわります。
例えば寝不足の時は誰でもイライラしやすく、ちょっとしたことで怒りっぽくなってしまいます。対策としては以下を心がけてください。
充分な睡眠
日光を浴びる
適度に運動する
森林浴をする
栄養バランスをよくする
体が健康で快調だと、心も穏やかになりやすくなります。以下のコラムでは、日常的な体のストレスを軽くする手法を解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
まとめとお知らせ
まとめ
今回はアンガーマネジメントの手法について詳しく解説していきました。怒りは私たちの人生を壊しかねない強烈な感情です。
もし怒りを感じたら、まずはその感情に気がつき、深呼吸をしたり、考え方をほぐすことでいつもの自分に戻るようにしましょう。皆さんが心穏やかに、健康的な人間関係を築かれることを願っています。
資格,学校の種類
アンガーマネジメントをより深く学びたいという方は、講座・資格の勉強をお勧めします。アンガーマネジメントを学べるスクールは様々ありますが、その中でも特におすすめなものを、コラム④で取り上げています。アンガーマネジメントの講座・資格を知りたい方は下記をご覧ください。
お知らせ
公認心理師,精神保健福祉士など専門家の元で感情のコントロール法を学びたい方は、私たちが開催している心理学講座をオススメしています。講座では
・アンガーマネジメントの手法
・イライラする考え方の改善
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・暖かい人間関係を築くコツ
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出典・参考文献
Novaco, R.W. (1975) Anger Control: The Development and Evaluation of an Experimental Treatment. Lexington Books, Lexington.
井澤修平・長野祐一郎・依田麻子・児玉昌久・野村忍 2004 敵意性と怒り喚起時の心臓血管反応性の関連 生理心理学と精神生理学,22(3)215-224 早稲田大学
佐瀬 竜一・児玉 健司・佐々木雄二(2005)大学生のデイリーハッスルとタイプ A行動パターンおよびアレキシサイミアの関連 駒澤大学心理学論集, 2005, 第 7号, 43-50 2005, 7, 43-50