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メタ認知の意味とトレーニング方法,具体例

日付:

メタ認知の意味とトレーニング

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「メタ認知のトレーニング法」についてご相談を頂きました。

相談者
30歳 女性

お悩みの内容
私は周りに流されることが多く、自分と向き合うことが苦手です。感情的に行動することも多く、あとで後悔することが多いです。悩みを検索していたところ、メタ認知のトレーニングが自分にあっていると感じました。詳しく教えてください。

自分と向き合うことが苦手だと、どうしても感情的な行動をしがちになってしまいますよね。当コラムではメタ認知力を鍛えるトレーニング法を紹介していきます。是非最後までご一読ください。

メタ認知の意味とは

正式な定義

メタ認知は以下のように定義されています。

自己の認知状態の評価
認知過程の実行制御
感情的評価

といった広範囲な心的事象を包摂する
(心理学辞典,1999 一部簡略化)[1]

なかなか難しい定義ですね。以下わかりやすく解説していきます。

わかりやすい意味

メタ認知には「メタ」「認知」という言葉があります。分解して考えてみましょう。

メタ(meta)には、
「高次の、超えた、背景」
という意味があります。

認知(cognition)には
「考える、評価する、把握する」
という意味があります。

これらをまとめるとメタ認知は
「考えることを超える 高次の考え」
と言い換えることができます。

もっと簡単にしてしまうと、

考えることを考える

これがメタ認知になるのです。以下、具体例、理論モデル、提唱者について、わかりやすく解説をしました。理解を深めたい方は気になるタイトルを展開してみてください。

事例①ラーメンを選んだ理由は?

太郎さんは、炒飯とラーメンのどちらを食べるか迷っています。迷った結果、太郎さんはラーメンが食べたいと考えました。

メタ認知の解説

通常であれば、ラーメンを食べたいからラーメンを食べるで終わりになります。しかし、太郎さんはふと、「なぜラーメンを選んだのか?」自分が考えた事を更に考えていきます。

メタ認知とは?

その結果、太郎さんは
「体が冷えている自分がいるな」
「そうか自分は温まりたいんだ」
と、自分の状態に気が付きました。このように、考えた事をさらに考えることがメタ認知になります。

事例②勉強がはかどらない…

次郎くんは、古典の勉強がはかどりません…。次郎くんは「なぜ古典を勉強したくないか?」と、考えた事をさらに考えていきました。

「将来やりたい事とズレているから?」
「将来やりたい事って何だ?」

次郎君は自分としっかり向き合いました。

勉強がはかどらない時のメタ認知

その結果、次郎君は「ゲームが好きだからゲームのプログラミングをやってみたい自分がいる!」と自分の考えを発見しました。このように、自分の考えを深堀していくことがメタ認知になるのです。

メタ認知とは何か?

メタ認知は、1976年に、アメリカのジョン・H・フラベル(Flavell, J.H.)[2]が提唱しました。フラベルはアメリカ心理学会の発達心理学部門の会長を務められた有名な心理学者です。

フラベルは、メタ認知と子供の心の理論を専門としています。フラベルは子供の知能発達を研究する過程で、メタ認知が重要な役割を担っていることを発見しました。

メタ認知の提唱者ジョン・フラベル

画像出典:スタンフォード大学HP

フラベルは研究により、3歳児と5歳児にはメタ認知力に顕著な違いがあることを発見しました。そしてメタ認知という概念を研究する学者が増え、現在ではあらゆるメンタルヘルスにメタ認知力が関連していることがわかってきています。

提唱者のフラベルは、メタ認知をするタイミングは4つに分類できるとしています。[3]

メタ認知 目標経験

目標
例えば就職や転職では、将来どんな仕事をしたいのかな…など、自分の考えについて考えます。なぜその仕事がしたいのでしょうか?好きだから?評価されるから?「それが目標となる理由は何か」について、考えていきます。

知識
目標を達成するために、自分がどんな知識を持っているか?何を経験してきたか?何が不足しているか?振り返っていきます。「無知の知(自分が知らないということを知ること)」も、メタ認知においては重要です。

行動
行動しながらメタ認知をしていきます。例えば、集中していない自分がいる、なぜ集中できないのか?など自分を観察していきます。

経験
上記のような「自分の考えについて考える」過程の中で、メタ認知的経験をします。「自分のことに気づけた・認識できた」という感覚を大事にしてみましょう。

 

メタ認知の効果研究

メタ認知力が高いと、以下の4つについて効果があることが分かっています。

①計画の達成力が向上する
②学習成績が向上する
③先延ばしをしなくなる
④怒りのコントロール力がつく

それぞれについて折りたたんで解説をしました。興味があるタイトルと展開してご覧ください。

阿部ら(2010)[4]は、大学生246名を対象として、成人向けのメタ認知尺度の作成を行いました。研究結果の一部が下図となります。

メタ認知と計画

図のようにメタ認知と計画達成は、正の相関になっています。メタ認知ができる人ほど、計画性があることを意味しています。

例えば、勉強がすぐ終わる人は、「勉強したくない」気持ちがでてきたら、自分の感情を深く考えることなく、そのまま勉強をやめてしまいます。

一方で、メタ認知力が高い人は、一歩踏みとどまって「勉強したくない自分がいるな」と冷静に自分の気持ちを観察します。そして、勉強したくない自分の感情の深い部分を整理し、再び計画的に行動することができるのです。

西村ら(2011)[5]は、中学生1226名を対象に、メタ認知と学業成績の研究をしています。その結果の一部が下図となります。

メタ認知と外的調整

こちらは、周りが言うから勉強する(外的調整)傾向がある人は学習成績が上がりにくいことを表しています。一方で、下図をご覧ください。

メタ認知 夢の実現

メタ認知と学業

夢の実現や将来のことをしっかり考える人(同一化調整)はメタ認知が高く、メタ認知が高いと学習成績が上がりやすいことを表しています。

周りに言われて勉強をするのではなく、なぜ勉強するのか?を自分の中でしっかりと考え、その結果目標を持ち、学習意欲に繋げていると推測できます。

藤田(2010)[6]は、大学生161名を対象に、「課題先延ばし」と「メタ認知」の関連を調査しました。その結果の一部が下図となります。

メタ認知 努力モニタリング

この図は、課題の先延ばしをする人は、努力をしているときに、自分自身をメタ認知できないことを意味しています。これは逆に、先延ばしをしない方は、努力をしている自分をしっかりメタ認知できる傾向があると言えます。

何かを始めようとしたときに、集中力やモチベーションが不足していることがありますが、メタ認知ができる人は、自分を冷静に分析することで、やるべきことをやろう!と立て直すことができるのです。

心理学者のスティーブンスら(2018)[7]は、ドライバー309人を対象に、マインドフルネスと運転中の怒りや攻撃的な運転に関する調査を行いました。

マインドフルネスとはメタ認知と似た概念で、自分を観察する能力と捉えてください。この研究では、安全運転できる人と怒りを感じながら運転する人を比較しています。

メタ認知と運転心理

その結果、マインドフルネスができる人(メタ認知できる人)は、運転中の怒りが少ないことが分かりました。たとえば、運転中にクラクションを鳴らされた場合でも、安全運転ができます。

マインドフルネスと運転中の怒りA

一方で、マインドフルネスができない人(メタ認知できない人)は、運転中の怒りが増える傾向がありました。クラクションを鳴らし返すなど、怒りを感じながら運転をしてしまいます。

マインドフルネスと運転中の怒りB

感情は観察することで、取り扱いが可能になります。怒りの感情も、メタ認知することでコントロールができるようになるのです。

 

メタ認知能力,トレーニング法

本コラムでは、メタ認知力を高めるトレーニング法を5つを紹介します。

①~だな法
②呼吸観察法
③自分の似顔絵法
④事実,思考,感情整理
⑤なぜなぜ法
*注意事項

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

練習①~だな法

メタ認知は自分を観察することが基本になります。まずは簡単にできる「~だな法」を紹介します。「~だな法」はとてもシンプルなやり方で

私は~と感じているんだな
私は~と考えているな
私の気持ちは~だな

と私を主語にして、考え方や感情を確認していきます。「~だな」というフレーズを使うと、自分自身を客観的に観察するきっかけとなり、メタ認知に繋げることができます。

マインドフルネス療法の手順感情が混乱しているとき、冷静さを失っている時、自分を客観的に観察したい時に、是非試してみてください。

 

練習②呼吸観察法

呼吸観察法は、呼吸をしながらリラックス状態を保ち、感情や考えを眺める方法です。具体的には以下の3ステップを意識してみてください。

①呼吸に集中する

・鼻から息を吸う
・口からゆっくり息を吐く
この呼吸を繰り返しながら、自分を観察する

②観察する

呼吸をする間、さまざまな思考や感情が浮かんでくるので、それを観察します。
「この後~しなきゃ」
「めんどくさいな」
「楽しみだな」
「お腹すいたな」
「この前こんなことがあったな」
「時計の音がカチカチ聞こえるな」
 などなど、頭に浮かんできた思考や感情をただ観察しましょう。

③評価をしない

「考えてしまったから失敗」「これは良い考え・悪い考え」など、評価は加えません。
浮かんできた考えや感情を、ただ観察するのみにとどめ、ありのままの自分を見つめます。

呼吸をしている自分を観察することで、意識を観察モードに切り替えます。その上で、感情や考えをメタ認知していきます。またメタ認知をするときに、評価をすると、ありのままの自分の考えを見つけることができません。ありのままの自分を観察する意識を持ちましょう。

「~だな法」「呼吸観察法」以外にも、メタ認知力を高める手法が以下のコラムでたくさん紹介されています。是非、ご自身に合うエクササイズを探してみてください。

マインドフルネス療法,エクササイズ
アクセプタンス,エクササイズ

練習③自分の似顔絵法

似顔絵と吹き出し

練習①・②は、自分の頭の中でイメージをする手法でしたが、実際に自分の似顔絵を描いてメタ認知をするのも有効です。具体的には、紙に自分の似顔絵を描いて、吹き出しを使って、自分が何を考えているかなどを分析していきます。

例えば、人間関係で嫌なことがあったら、その時の自分も含めた登場人物などを絵に書き、それぞれ考えていることを吹き出しで書いていきます。そしてなぜそのような考え方・感情になったかなども洞察していくと良いでしょう。

余談:主我と客我

自我(自分)は大きく「主我」「客我」の2つに分けられます。

自我、主我、客我

少し分かりづらいですね。たとえば、自分の似顔絵を見ているとします。この時、似顔絵になっている自分が「客我」で、自分を観察している自分が「主我」になります。

メタ認知能力を高めるには、似顔、動画、写真などで客我を作りだし、主我の視点で自分自身を観察することも有効なのです。

メタ認知を高める客我法とは

練習④事実,思考,感情整理

実際に何をメタ認知するかについてですが、事実,思考,感情,の3つに分けるやり方があります。例えば、以下のように混乱しているとしましょう。

あ・・・モヤモヤする。急にプロジェクトを任せたいと言われるなんて!不安だなあ。失敗したら評価下がるよな。ああ・・・逃げたい・・・

この時、練習①,②,③で練習したメタ認知のトレーニングなどを活かしながら、自分を観察し、事実,感情,思考を冷静に整理していくのです。

(事実)
上司にプロジェクトを任せたいと言われた
(考え)
失敗したら批判されると考えている自分がいる
(感情)
正直不安がある、モヤモヤする、逃げたい

このように整理をしていきます。このように整理するだけでも効果があるのですが、考え方を変えたり、追加するのもOKです。例えば、以下のような追加が挙げられます。

(事実)
上司にプロジェクトを任せたいと言われた
(考え)
失敗したら批判されると考えている自分がいる
でも逃げるともっと後悔するだろう
チャレンジすれば結果に関わらずきっと最後は自信を持つことができる

(感情)
正直不安がある、モヤモヤする、逃げたい
やる気、積極性

このように考え方を変えたり、追加をする手法は認知療法と言われます。メタ認知と組み合わせると効果が上がるので、不安感や抑うつ感が強い方は、以下のコラムも参照ください。

認知療法のやり方

練習⑤なぜなぜ法

練習④では事実に対する考え方を整理する手法を紹介しました。ここで考え方を深掘りする手法として「なぜなぜ法」があります。

なぜなぜ法は文字通り、「なぜ」を繰返しながら、自分の深い考えを探っていく手法です。これは「下向き矢印法」や「ソクラテス式問答法」とも言われます。

なぜなぜ法を繰返していくと、自分の深い考え方が見つかったり、時に矛盾した考えがメタ認知され、新しい気づきに繋がります。先程の例で考えてみましょう。

失敗したら批判されると考える
  ↓
なぜ?批判されるとだめなの
  ↓
批判されると傷つくから
  ↓
なぜ?傷つくの
  ↓
批判をされることは自分の人格を否定されたような気持ちになるから

このようになぜなぜを繰返すと、深い考えや、矛盾が見つかっていきます。そして以下のような気づきにつながることがあります。

あれ?もしかして私は「批判=人格否定」と勘違いしているのかもしれないな。批判はあくまで批判であり、人格を否定されているわけではない。失敗をしても、人としての尊厳を失いわけではないから、そこまで深刻に考えなくても良いかも。

自分の深い部分をメタ認知したい場合は、なぜなぜ法を試してみてくださいね。

 

注意事項

メタ認知をすると急な孤独感が襲ってくることがあります。「自分ってどんな人間なんだろう」と考えすぎてしまうと、心への負担が大きくなってしまうのです。また、なぜなぜ法は、ネガティブな考えが堂々巡りしてしまい、自責や落ち込みが強くなるケースもあります。

私(川島)の仮説になりますが、メタ認知やマインドフルネスを行いすぎると、

・離人感が高まる可能性がある
・感情的で素直な自己表現ができなくなる
・達観しすぎて人間味を失う

これらのデメリットもあります。メタ認知は、自分の心の状態と相談しながら取り入れてみてください。

 

お知らせ・発展編

ここまではメタ認知の基礎について解説をしてきました。ここからは「お知らせ」と「発展編」になります。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・メタ認知練習をしっかりする
・メタ認知,~だな法
・自分を客観視,マインドフルネス
・呼吸と自己観察練習

体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^) 

心理学講座を体験してみる

コミュニケーション講座,初心者

仕上げ動画

メタ認知力が付くと、集中力が向上し、感情のコントロールが効くようになります。一部デメリットもあるものの、ほとんどの心理学の研究ではメンタルヘルスにプラスとなります。

仕上げの動画も作成しました。皆さんが、自分の考えを深く洞察し、自分の真意に気が付き、厚みのある時間を過ごされることを願っています。

 

助け合い掲示板

2件のコメント

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    • ヒロ
    • 2022年3月10日 10:56 AM

    川島先生、はじめまして。
    鬱病になって、自分の思考癖・コミュニケーション癖を見直しているヒロと申します。
    こちらのHPは、詳しく&分かり易く説明してくださっていて、とても参考になっています。ありがとうございます。

    メタ認知の注意点の部分、川島先生は仮説と仰っていますが、
    (メタ認知が弱い私に的確なアドバイスをくれる、HSPの)夫が正に、
    このデメリットの状態で、時々苦しいと話しています。

    川島先生は、このデメリットの状態になっている患者が居た場合、どのようにアドバイスされていますでしょうか?
    可能でしたら、アドバイスいただけますと幸いです。
    よろしくお願いいたします。

    返信する
    • ユウスケ
    • 2021年3月4日 6:13 PM

    こんばんは。
    不安に対するメタ認知に関する本でおすすめの本はありますか?

    返信する

コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典.
[1]中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志 (1999). 心理学辞典 有斐閣
 
[2]Flanvell, J.H. (1976). Metacognitive aspects of problem solving. In L. B. Resnick (Ed.), The nature of intelligence (pp. 231-235). Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum. 
 
 
[4]阿部 真子・井田 政則 (2010). 成人用メタ認知尺度の作成の試み–Metacognitive Awareness Inventoryを用いて  立正大学心理学研究年報,1, 23-34.
 
 
[6]藤田 正 (2010). メタ認知的方略と学習課題先延ばし行動の関係  教育実践総合センター研究紀要,19, 81-86.
 
[7]Stephens, A.N., Koppel, S., Young, K.L., Chambers, R., Hassed, C. (2018). Associations between self-reported mindfulness, driving angerand aggressive driving.  Transportation Research Part F: Trafic Psychology, 56, 49-155.