抑うつ状態,気分の原因と治し方

皆さんこんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、こちらの心理学講座で講師をしています。今回のテーマ「抑うつ状態,気分」です。

抑うつ,MIMI様作成

抑うつという言葉は心理学や精神医学の世界でよく使われる用語です。当コラムでは、抑うつ状態について理解を深め、原因別の対処法を詳しく解説していきます。目次は以下の通りです。

①抑うつとは何か
②抑うつと悪い影響
③抑うつの前向きな面
④原因と治療法

ご自身に必要な知識を組み合わせてご活用ください。

①抑うつとは何か

意味

抑うつとは心理学や精神医学で以下の意味で使われる用語です。

心配、罪責感、悲しみ、焦燥感などのネガティブな感情が増え
喜び、興味、やる気、幸福感などのポジティブな感情が低下した状態

このように抑うつとはとても広い意味で使われることが多く、一般的には「元気がない状態」と考えると良いでしょう。よく勘違いされますが、精神科医の方が抑うつがあると言ったからと言って、うつ病であるというわけではありません。あくまで元気がないね…という感覚で抑うつという言葉を使います。

抑うつという言葉は似たような用語があります。以下細かい用語の違いについて解説しました。理解を深めたい方は展開してみてください。細かい知識が不要な方は飛ばしてください。

抑うつ気分は抑うつの中でも比較的軽い状態を意味します。ただし、抑うつ気分が続くと、掃除ができない、会社に行けないなど、行動面でも問題が起こりやすくなるので注意が必要です。問題を放置しておくと、抑うつが悪化していくという悪循環に陥ることもあります。

うつ状態スパイラル

抑うつ状態とは、抑うつが比較的強い状態を意味します。抑うつ状態が長く続くと、精神疾患の可能性を視野に入れる必要があります。抑うつ状態を伴う精神疾患はうつ病だけでなく、統合失調症、認知症、身体疾患などでも当てはまることがあります。

抑うつ状態が長く続く場合、うつ病と診断されることがあります。厚生労働省によると、うつ病は以下のように説明されています。

うつ病は、気分障害の一つです。一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。[1]

抑うつ反応は心理学事典(1999)[2]によると以下のように定義されています。

何らかの挫折・失敗、失恋により引き続いて起こる抑うつ状態

抑うつ反応は、ある程度原因がはっきりしている場合に、元気がなくなるときに使われます。例えば受験の失敗、失恋、死別などが挙げられます。抑うつ反応は、通常の反応を超えたときによく使われます。例えば失恋をしたときは誰でも落ち込みますが

「もう生きていけない」
「自分なんてどうなってもいい」
「もう死にたい」

このような形で、強い悲観に暮れる場合などは抑うつ反応があると表現されます。

反応性抑うつは、抑うつ反応と同じ意味です。原因がはっきりしている場合に気分がひどく落ち込む場合に使われます。反応性抑うつが長期化し、強い落ち込みが続く場合は適応障害うつ病と診断されることがあります。

 

②抑うつ状態と悪影響

抑うつ状態になると様々な影響があります。

否定的認知が増える

抑うつ状態が慢性化している患者には、自分、周囲、将来に対する否定的認知がみられることを指摘しています。例えば以下のような考えが挙げられます。

自分は物覚えが悪い、だからつまらない人間だ。
周りの人は自分を見捨てた、誰もが私を嫌っている
この先楽しいことなどないだろう 何も良いことがない

行動への悪影響

抑うつ状態では、活動量が減少する、先延ばし傾向が出る、問題行動、回避行動が増えます。具体的には以下のような行動が挙げられます。

仕事に行けない
引きこもり気味になる
しなくてはいけないことを先延ばしにする
飲酒、ギャンブルなどが増える

孤独になりやすい

竹島・松見(2013)[3]は、小学生の高学年の児童を対象に、抑うつ症状を示す児童(10名)と低い児童(10名)の行動の違いを調査しました。その結果が下図となります。

抑うつの研究 独り

自然場面における独り行動は、抑うつ高群は多い、抑うつ低群は少ないことがわかります。もう1つの結果も引用させて頂きます。

抑うつの研究 仲間との相互作用

自然場面における仲間との相互作用行動は、抑うつ高群は少ない、抑うつ低群は多いことがわかります。この結果から抑うつ症状が高い児童は、自然場面において孤立することが多く、仲間との相互作用も少ないことがわかりました。

 

③抑うつの前向きな面

抑うつは一般的にはマイナスの感情とみられますが前向きな面もあります。

自分と向き合うきっかけ

名倉・橋本(1999)[4]、大学生の男女270名を対象に抑うつに関連する研究を行いました。その結果、抑うつになると、否定的な考えこみが増え、自分の世界に入りこむことがわかりました。

抑うつと自己没入

私たちは落ち込む時期は、マイナス思考が増え、自分と対話を始めます。講師の川島も20代の前半に引きこもりをしたことがあるのですが、その際は否定的な考えに支配されて、一日中考え事をしていました。

ただ一方でこの時期は自分と深く向き合うことができて、人生をどう生きるかなどを考える貴重な時期だったと感じています。

共感性の土台

私たちは辛い時期があるからこそ、他人の気持ちが分かるようになります。落ち込む時期、悲しい時期は、共感性の土台になり、困っている人を助ける力を高める効果があります。うつ病が治った患者さんが今度は、同じ病気で悩む方を助けたいと思い、支援の仕事をされるケースなどよく見られます。

抑うつ,考える,tomoe様作成

 

④抑うつの原因と対策

心理学や精神医学では、心の病気は、生理、心理、社会の3つの視点から考えます。以下、それぞれの視点と解決策を合わせて解説します。ご自身でも活用できそうな知識を組み合わせてご活用ください。

生理的な原因と対策

生理的視点は、体の仕組みから考えていくことを意味します。私たちの心と体は深くつながってます。抑うつが続いている場合、体の健康を害している可能性があるのです。

例えば、安心感を生み出すセロトニン、やる気を生み出すドーパミンと言った神経伝達物質が不安定になると、抑うつになることがあります。セロトニンやドーパミンは身長や体重に個人差があるように、個人個人で量や安定度が異なります。

また、抑うつ状態は日々の生活が原因となることもあります。以下の花子さんと太郎さんの生活で見てみましょう。

花子さんの生活
・適度な運動
・適切な食生活
・上質な睡眠がとれている
・有休をしっかりとる

太郎さんの生活
・運動不足気味
・食事は3日間連続カップ麺
・睡眠も不足気味
・有休を取らず過労

花子さんと太郎さん、どちらの生活が心と体の健康にマイナスでしょうか?

抑うつと体

心と体の健康にマイナスになりやすいのは、おそらく太郎さんの生活でしょう。このように、心だけでなく体調面からのアプローチも、健康には欠かせないと考えることができます。

対策① 医療機関の利用で治す

前述したように、内因性の場合、セロトニンやドーパミンが不安定になっていることがあります。この場合は個人の努力では改善が難しくなります。抑うつ状態が続いていて、消えてなくなりたい…やる気がでない…という感覚がある方は、お近くの心療内科か精神科で主治医の先生とよく相談する必要があります。

対策② 身体のストレスを発散する

抑うつ状態は、体を整えることで改善されることもあります。身体を整えるやり方としては、下記が挙げられます。

①運動をする
②朝日を浴びる
③ 丹田呼吸法
④臨床動作法
⑤食生活を整える
⑥入浴,サウナ

身体の調子の悪さが、心理面に影響している…と感じる方は下記のコラムを参考にししてみてください。

ストレス発散-心と体の健康UP

 

心理的な原因と対策

私たちは日々、仕事、人間関係、家庭環境、経済的なストレスにさらされています。これらのストレス状態に対して、私たちは考え方を柔軟にしたり、誰かに悩みを相談することで対処しようとします。これらの努力がうまく行かず、キャパシティをオーバーすると抑うつ状態になります。

対策① 認知行動療法で治す
抑うつと相性が良いのは、認知行動療法と言われる手法です。認知行動療法は抑うつ気分を改善する考え方の学習、感情コントロール法、健康的な行動の仕方を学ぶ最もベーシックな手法です。心理療法を学んだことがないという方は是非下記のコラムを参考にしてみてください。

認知行動療法の基礎

対策② ストレスコーピング理論を学ぶ
心因性への対処法としては先程挙げた認知行動療法やストレスコーピング理論を学ぶのがおすすめです。ストレスコーピング理論を学ぶと、考え方をほぐす、助けをもらうなど、総合的にストレスを改善する力がつきます。嫌なことがあるとすぐに抑うつになると感じる方は以下のコラムを参考にしてください。

ストレスコーピングコラム


対策③ ソーシャルサポート

心理学の世界では、孤独な状況だと人間は精神的にマイナスになりやすいことが分かっています。悩みがあるときはお互い様です。一人で抱え込みやすい…という方は下記のコラムを参考にしてください。

ソーシャルサポートをもらおう

環境による原因と対策

抑うつは生活環境の影響による起こることもあります。例えば、長時間の労働、パワハラを受けている、ワンオペで子育てをしている、失恋した、などが挙げられます。このような原因がはっきりしている場合は、環境そのものを改善していく必要があります。

対策① 休息をとる

人生は挫折や失敗がつきものです。もし心理的に大きな負担になる出来事があったら、無理にポジティブに考えず、焦らず休息をとることも大事です。心には自然な回復機能があり、時間とともに整理され、回復させていくことができます。詳しくは以下のコラムを参照ください。

苦しいときの過ごし方

対策② 環境を整理する

自分のキャパシティーをオーバーしていると感じたら環境を整えることも大事です。例えば、仕事量を減らす、配置転換を希望する、家事を減らす、などが挙げられます。真面目な人ほど頑張りすぎてしまうので注意しましょう。

まとめ

ここまで解説してきたように、抑うつはかなり幅広い感情で、その原因も様々です。大事なことは抑うつを引きお起こしていると思われる、原因を1つ1つ丁寧に解決していき、長期的な視点でじっくり改善していくことが大事です。皆さんが、心穏やかに、日々喜びをもって生活されることをせつに願っています

 

心理療法を学びたい方へ

抑うつ感コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知行動療法の学習
・抑うつ感を緩和,認知の偏りの改善
・感情のコントロール法
・ストレスを溜めない,環境の作り方

社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください↓

 

抑うつ状態,気分の原因と治療法,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 厚生労働省 うつ病 みんなのメンタルヘルス,

[2] 中島義明,安藤清志,子安増生,坂野雄二,繁桝算男,立花政夫,箱田裕司(1999).心理学辞典 有斐閣

[3] 竹島克典, & 松見淳子. (2013). 抑うつ症状を示す児童の仲間との社会的相互作用. 教育心理学研究, 61(2), 158-168.

[4] 名倉祥文, & 橋本宰. (1999). 考え込み型反応スタイルが心理的不適応に及ぼす影響について. 健康心理学研究, 12(2), 1-11.