ストレスマネジメントの理論について解説①
みなさん、こんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「ストレスマネジメント論」です。
現代はストレス社会です。
「移動のたびにマスクの着用…」
「仕事のプレッシャーが強い」
「恋愛がうまくいかない」
日常生活には、さまざまなストレスがあります。一方で、ストレスを発散・解消する方法を体系的に学習している方は多くはありません。そこで今回は、ストレスマネジメント入門を3回シリーズでお伝えします。
①ストレスマネジメント理論の基礎
②6種類のコーピングスキル
③ストレスを診断する方法
全て読むと、基礎を一通り学ぶことができます。是非最後までご一読ください。
ストレス理論の発展
まずはじめにストレス理論の歴史を概観していきましょう。
ストレス理論の誕生前
ストレスの起源は、1500年前後の中世イングランドといわれています。当時はストレスという言葉はなく、捕まえる・拘束するという意味の「distress(ディストレス)」と表現されていました。
1800年代に入ると、物理学の分野で「stress(ストレス)」という用語が使われるようになりました。たとえば、ボールの上に重りを乗せるとします。するとボールは反発しようとする力がはたらきます。この「ボールが重りを跳ね返そうとする力」を物理学では「ストレス反応」と呼んでいました。
ハンス・セリエ
1930年代になると、生理学者のハンス・セリエ (Selye, H.) によって、医学の分野で「ストレス」という言葉が使われるようになります[1]。医学と科学の博士後を持つセリエは、生理学という分野の権威者でした。
生理学とは、生命現象を物理的・化学的手法を用いて研究する手法で、物理学の親戚ともいわれています。おそらく、物理学の用語として使われていた「ストレス」を生理学で使うようになったと推測できます。
セリエは、マウスの実験を通して、ストレスを受けると「警告反応期」「抵抗期」「疲弊期」が生じることを明らかにしました。
リチャード・ラザルス
1980年代になると、ストレスという概念を治療に役立てようという動きが進みます。カリフォルニア大学の心理学者リチャードS.ラザラス (Lazarus, R.S.) 教授は、治療の手順を明確にする「ストレス理論モデル」を作りました[2]。ラザルス教授の功績は2つあります。
過程が明確になる
人がストレスをどのように感じてどのように対処するのか、そのプロセスがわかるようになった
コーピングスキルを整理
人がストレスと付き合っていくための具体的な方法が整理された
私たちは、人生において様々な困難に直面し、悩んだり、落ち込んだり、楽しい気持ちでチャレンジをしたりします。ラザルスはその過程を分析し、ストレス対策の基本的な考え方を整理したのです。
ストレス理論モデル
ラザルスのストレス理論モデルについて見ていきましょう。ストレス反応が出る過程の全体像はこちらです。
①ストレッサー
ストレス理論では、ストレスの原因となるもののことを「ストレッサー」と呼びます。ストレッサーは大きく分けて4種類あります。
「身体」
病気やケガ、運動不足、偏った食生活など
「環境」
暑さ、寒さ、騒音、紫外線、満員電車など
「社会」
景気が悪い、収入がない、自粛の流れ、テロや戦争など
「心理」
失恋、誹謗中傷、心の問題など
① 一次評価
私たちはストレッサーに直面すると、無意識のうちに2種類の評価を行います。まずは一次的評価です。一次評価では「このストレッサーは自分にとって脅威なのか?」を評価していきます。
例えば「仕事が山積みになっている」という状況は、ストレッサーになり得ます。一次評価の過程で「数は多いけど簡単な仕事ばかりだ」ということが分かればストレス反応は小さくなり、「難しい仕事もたくさんある」ということが分かればストレス反応は大きくなってしまう可能性が高いです。
ストレスをためやすい人は、以下の3つの特徴があるとされています。それぞれの特徴と対策を解説しました。理解を深めたい方は折り畳みをご確認ください。
性格は、遺伝的によって先天的に作られたものと環境から獲得する後天的なものに分かれますが、性格の3割~7割は先天的に作られるといわれています。先天的に作られたもののなかには、ストレスをためやすい性格傾向があります。
*タイプA
フリードマン (Freidman, M.) 医師とローゼンマン (Rosenman, R.H.) 医師によって提唱された性格傾向です。特徴は、慢性的な競争心、達成動機の高さ、敵意などで、イライラしやすい性格傾向のことを指します。
Friedmanら(1959年)[3]によると、せっかちでイライラするなどの性格傾向がある人は、冠状動脈性心臓病のリスクが2倍以上になることが分かっています。理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
*HSP
Aron&Aron (Art Aron & Elaine Aron) によって提唱された概念で、 The Highly Sensitive Person(ハイリーセンシィティブパーソン)の略称です。HSPの人は、感受性が強く、中枢神経が敏感で、小さなこともストレスと感じやすいため、とても疲れやすい傾向にあります。理解を深めたい方は、以下のコラムを参照ください。
*メランコリック
ドイツの精神科医であるテレンバッハ (Tellenbach, H.) が提唱した性格 (Typus melancholicus (独); melancholic type)です。特徴として、几帳面で良心的、まじめで優しいという点があげられます。一方で、思い悩む性格からストレスをためやすくなります。
*遺伝との付き合い方
ストレスの感じ方は性格によるところが大きいです。性格によるストレスを軽減するには、自分の性格を理解して自分自身とうまく付き合うことが大切です。性格のポジティブな側面にも目を向けて、自分の強みとして活用することもいいでしょう。
性格診断で自分の特性を確認したり、問題が大きい場合には、心理療法を学んだり医学の力を利用することもおススメです。性格と遺伝については以下の動画で詳しく解説しました。興味がある方は参照ください。
「認知の偏り」とは、不合理な考え方、自分や周りに対する偏見、非現実的な思い込みなどを意味し、「認知の歪み」と呼ばれることもあります。
認知の偏りには、代表的な10のパターンがあります。
自己関連付け 白黒思考 過度の一般化 選択的知覚 マイナス化思考 心の読みすぎ癖 拡大解釈・過小評価 感情的決めつけ べき思考 レッテル貼り
例えば、ストレスを溜めやすい方は「自己関連づけ」が強い傾向があります。自己関連付けとは、マイナスな出来事を、すべて自分の責任と思い込む捉え方です。
色々な問題を自分のことと考えてしまうため、災害や事件などによる人の痛みを自分のことのように感じてしまう傾向が強いです。自己関連付けが強い方は、自分とは関係がないストレスまで背負ってしまうため、メンタルヘルスが悪くなりやすい傾向があります。
認知の偏りを改善するには、認知療法を学び現実検討力を鍛えていくのがおすすめです。バランスのとれた考え方を身につけることで、ストレスを改善することができます。認知療法について知りたいという方は、以下のコラムをチェックしてみてください。
問題があった時に、乗り越える自信がないときは、「もうだめだ」「苦しい未来が待っている」という気持ちになりやすいので、ストレスを溜めやすくなります。
成功体験が少ない
挫折を乗り越えたことがない
劣等感が強い
これらの傾向がある方は、ストレスを感じやすいので注意が必要です。
自信をつけるには、成功体験を重ねる、自分の長所をみつける、褒めてもらえる環境に身を置くなどの対処が必要です。詳しくは以下のコラムを参照ください。
③ 2次評価とコーピングスキル
ストレッサーが「自分にとって脅威である」と評価された場合、二次評価の段階に進みます。二次評価では「自分はストレッサーに対処できるか?」を考え、ストレッサーの解決を目指します。このストレッサーに対処する技術を「コーピングスキル」といいます。
コーピングスキルは、6種類あります。
①情動解決コーピング
感情を発散する方法でカタルシス効果とも呼ばれます。たとえば、日記を書く、泣きたいときには泣くなど、気持ちを素直に表現することで心の整理をします。
②問題解決コーピング
直接問題解決していく方法です。たとえば、満員電車がストレスなら、引越しをするなど問題を解決することでストレスを軽減していきます。
③認知的評価コーピング
考え方を変えることでストレスを減らす方法です。たとえば、上司からの注意がストレスなら、学びのためのアドバイスと考えるなど、考え方を柔軟にすることでストレスを軽減していきます。
④社会支援コーピング
周囲にアドバイスを求めたり、信頼できる人に打ち明けるなど、悩みを相談する方法です。家族や友人、時にはカウンセラーに相談してもいいでしょう。
⑤身体的コーピング
運動をする、十分な睡眠をとるなど体の健康面からストレスを発散させる方法です。
⑥気晴らしコーピング
自分にとって気晴らしになることをする方法です。たとえば、旅に出る、趣味に没頭する、美味しい食事をするなでリフレッシュをします。
ストレスはいろいろなコーピングスキルで対処できるため、コーピングスキルが多いほどストレスに強くなれます。ストレスコーピングについてはコラム②で詳しく解説しています。
④ストレス反応
コーピングスキルを使ってストレッサーにうまく対処できない場合、不安やイライラ、よく眠れないなどのストレス反応が出てきてしまいます。ストレス反応は短期的であれば大きな問題になることは少ないでしょう。しかし長期化するとさまざまな問題が出てきます。
身体的問題
睡眠障害、胃潰瘍、突発性難聴、心筋梗塞
精神的問題
適応障害、うつ病
行動面の問題
暴飲暴食、暴言を吐く、ギャンブル依存
ストレス反応は長期化すると様々な問題を招くため、長期化させないことが大切です。ストレスに強くなるには、一次評価と二次評価を意識して行い、コーピングスキルをしっかり身につけていくことが重要です。
仕上げ動画
ストレスマネジメントについては、動画でも解説をしました。仕上げとしてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・ストレスコーピングの学習
・ストレスが溜まる依頼を断る練習
・ストレスフリーな人間関係を築く練習
・心が安定する,認知療法の学習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連