ストレスマネジメントとは、ストレスが生まれるしくみを理解し、自分のストレスに早めに気づいて、適切な対処法(コーピング)を使えるようにする取り組みのことです。心理学者ラザルスのストレス理論などを土台に、職場や学校のメンタルヘルス対策でも広く使われています。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「ストレスマネジメント」です。

仕事のプレッシャー、人間関係、生活の変化など、日常生活にはさまざまなストレスがあります。一方で、ストレスとの付き合い方を体系的に学ぶ機会は多くありません。当コラムはシリーズの1本目として、ストレスマネジメントの基礎を解説します。目次は以下の通りです。
目次
①ストレスとは
ストレスとは、外からの刺激や負担(ストレッサー)に対して、心や体に生じる反応のことです。まずは、その意味と、働く人のストレスの実態を確認しましょう。
ストレスの意味
心理学では、ストレスの原因となる出来事を「ストレッサー」、それによって生じる心や体の変化を「ストレス反応」と呼んで区別します。
適度なストレスは、やる気や集中力を高めることもあります。一方で、強いストレスが長く続くと、心や体の不調につながることがあります。
働く人のストレス
厚生労働省の令和6年の調査[1]によると、仕事や職業生活に関して、強い不安や悩み、ストレスを感じる事柄がある労働者の割合は68.3%でした。その内容は、「仕事の量」が43.2%と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が36.2%、「仕事の質」が26.4%となっています。
なお、この調査は令和6年から質問の形式が変わっており、それ以前の数値と単純には比べられない点に注意が必要です。
②ストレス研究の歴史
「ストレス」は、もともと物理学で、物体にかかる力を表す言葉でした。20世紀に入り、生理学や心理学の分野で、心と体の反応を表す言葉として使われるようになりました。
セリエと一般適応症候群
生理学者のハンス・セリエ[2]は、1936年に、ネズミにさまざまな有害な刺激を与えると、刺激の種類にかかわらず共通した体の反応が起こることを報告しました。セリエは、のちにこの反応を「ストレス」と呼び、ストレスという言葉を医学の分野に広めました。

ラザルスのストレス理論
心理学者のリチャード・ラザルスとフォルクマン[3]は、1984年の著書で、同じ出来事でも、その人がどう受け止め、どう対処するかによって、ストレスの大きさが変わることを示しました。この考え方は、現在のストレスマネジメントの土台になっています。
③ストレス反応の3段階
セリエは、強いストレスが続いたときの体の反応を、警告反応期、抵抗期、疲弊期の3つの段階に分けました。

警告反応期
ストレスを受けた直後の段階です。一時的に体の抵抗力が下がった後、体はストレスに立ち向かう準備を始めます。心拍数や血圧が上がり、緊張や警戒が強まります。
抵抗期
体がストレスに適応し、抵抗力が高まった状態が続く段階です。一見落ち着いているように見えますが、ストレスに耐えるために、体はエネルギーを使い続けています。
疲弊期
ストレスが長く続き、体のエネルギーが尽きてしまう段階です。抵抗力が下がり、心や体にさまざまな不調が現れやすくなります。疲弊期に入る前に、早めに対処することが大切です。
④心と体への影響
ストレスが長く続くと、体と心の両方にさまざまな影響が出ることがあります。ここでは、代表的なものと、相談の目安を紹介します。
体への影響
ストレスが続くと、体が緊張した状態が続き、さまざまな不調につながることがあります。
血圧が上がりやすくなる
胃痛や下痢など、胃腸の不調
頭痛や肩こり
風邪をひきやすくなるなど、抵抗力の低下

心への影響
ストレスが長く続くと、次のような心の不調につながることもあります。詳しくは、それぞれのコラムを参照してください。
相談の目安
気分の落ち込みや眠れない状態が2週間以上続く、仕事や家事が手につかない、消えてしまいたい気持ちがある、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や職場の産業医、相談窓口などに相談してください。
⑤ストレスが生まれる流れ
ラザルスのストレス理論では、ストレスは、ストレッサー、一次評価、二次評価とコーピング、ストレス反応、という流れで生まれると考えます。この流れを知ると、どこで対処できるかが見えてきます。

ストレッサー
ストレスの原因となる出来事や環境です。大きく次の4つに分けられます。
身体:病気やけが、運動不足、偏った食生活など
環境:暑さ寒さ、騒音、満員電車など
社会:収入の不安、景気の悪化、災害など
心理:失恋、人間関係のトラブル、悩みなど
一次評価
ストレッサーに出会うと、私たちは「これは自分にとって脅威か」を、無意識のうちに評価します。例えば「仕事が山積み」という状況でも、「簡単な仕事ばかりだ」と評価すればストレスは小さく、「難しい仕事ばかりだ」と評価すれば大きくなります。
二次評価とコーピング
脅威だと評価すると、次に「自分はこれに対処できるか」を評価します。そして、ストレスに対処するために行う工夫を「コーピング」と呼びます。コーピングの種類と使い方は、シリーズ2本目のストレスコーピングとはで詳しく解説しています。
ストレス反応
うまく対処できないと、不安やイライラ、眠れないなどのストレス反応が現れます。短い期間なら大きな問題になることは少ないですが、長く続くと、心や体の不調、暴飲暴食などの行動の問題につながることがあります。
⑥ためやすい考え方
同じ出来事でも、ストレスを感じやすい人と、そうでない人がいます。ここでは、ストレスをためやすくする考え方や特徴を紹介します。
考え方の偏り
「すべて自分のせいだ」「絶対に失敗してはいけない」など、極端な考え方のくせがあると、一次評価で脅威を大きく見積もりやすくなります。考え方のくせについては、認知の歪みと改善法を参照してください。
乗り越える自信の不足
「自分にはどうせできない」と感じていると、二次評価で「対処できない」と判断しやすくなります。小さな成功体験を重ねて、自信を育てることが大切です。詳しくは自己効力感を高める方法を参照してください。
性格の傾向
競争心が強くせっかちな「タイプA」、刺激に敏感な「HSP(ひといちばい敏感な人)」、几帳面でまじめな「メランコリー親和型」などの傾向がある人は、ストレスをためやすいとされることがあります。ただし、性格には良い面もあります。自分の傾向を知り、上手に付き合うことが大切です。タイプAの特徴と対策、HSPの特徴と対策も参照してください。
⑦今日からできる対策
ストレスマネジメントは、日々の小さな工夫の積み重ねです。ここでは、今日から取り組める3つの対策を紹介します。
ストレスに早めに気づく
ストレスは、気づかないうちにたまっていることがあります。定期的に自分の状態をチェックすることで、疲弊期に入る前に対処できます。チェックの方法は、シリーズ3本目のストレス診断の尺度で紹介しています。
対処法の引き出しを増やす
ストレスへの対処法は、一つだけでは足りないことがあります。気持ちを書き出す、人に相談する、体を動かすなど、いくつもの方法を持っておくと、状況に合わせて使い分けられます。
生活リズムを整える
睡眠、食事、運動などの生活リズムは、ストレスへの抵抗力の土台です。まずは、毎日同じ時間に起きることから始めてみましょう。
ストレス日記をつける
1日の終わりに、その日に感じたストレスと、そのとき自分がしたことを、短くメモしておく方法もおすすめです。続けていくと、「月曜の朝は疲れやすい」「人に話すと楽になる」など、自分のストレスのパターンと、効きやすい対処法が見えてきます。
例:「会議で意見を否定された(ストレス)→帰りに友人に話した(対処)→少し楽になった(結果)」
⑧よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
⑨まとめ
ストレスマネジメントは、ストレスが生まれる流れを理解し、早めに気づいて、自分に合った対処法を使えるようにする取り組みです。ストレスをなくすのではなく、上手に付き合うことを目指します。
仕上げ動画
ストレスマネジメントについては、動画でも解説しました。仕上げとしてご活用ください。
シリーズの他のコラム
ストレスマネジメントシリーズでは、ストレスのしくみから、対処法、自分の状態をチェックする方法までを解説しています。あわせてご覧ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・ストレスコーピングの学習
・ストレスが溜まる依頼を断る練習
・ストレスフリーな人間関係を築く練習
・心が安定する,認知療法の学習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



