苦しい・辛い時期の乗り越え方
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「苦しい時期の乗り越え方」についてご相談を頂きました。
相談者
42歳 男性 独身
お悩みの内容
私は3年前に思い切って、会社を辞めて夢を持って独立しました。しかし、独立は思った以上に厳しくて、貯金が無くなり、今借金があります。年齢が42歳という事もあり、就職も厳しく本当に苦しいです。
もう1つ成功したら結婚をしようと考えていた女性がいたのですが、先日別れを告げられてしまいました。いつも苦しそうにしている私に、希望を持てなかったのだと思います。
苦しい時期を乗り越える方法が知りたいです。
人生は山あり谷あり
人生は山あり谷ありですよね。
当コラムはページ下部に助け合い掲示板があります。日々、様々なお悩みが投稿されています。おそらく当コラムにいらっしゃった皆さんも、辛い気持ちなのではないでしょうか。
実は筆者の川島も、ここに至るまでたくさんの苦しい体験がありました。。
引きこもり、対人恐怖、ニート、資格試験の失敗、会社が倒産しかけた、結婚しようと思っていた彼女に振られた、自殺企図…
ここまで本当にいろいろとありました。人生は山あり谷ありでした。。。
ただ…私は、人生は苦しい時期があってこそ、人は自分自身と向き合い、人生の深みを知り、一度きりの人生を噛みしめることができるのだと感じています。
苦しい時期は、冬の後に春が必ず来るように、いつかはちゃんと終わりと迎えてくれます。
そうして、振り返れば、苦しい時期は、自分自身を成長させてくれた、とても大切な時期なのだと感じれると思うのです。当コラムで苦しい時期の乗り越え方を一緒に考えていきましょう。
心の整理と4段階
心理学者のフィンク(1967)[1]は心の整理には4つの段階があると主張しています。
①衝撃期
大事なものを失うなど心に大きなダメージを負った時、苦しい感情はさまざまな現れ方をします。
・毎日のように涙が出る
・後悔の念が消えない
・食欲がない、身体が重いなど
苦しい気持ちがとても強い時期です。
②防衛的退行
苦しい現実が受け入れられず、葛藤する段階です。あの時こうすれば良かった…なぜこんな不運ばかりが起こるのか…私たちはああでもない、こうでもないと悩みます。
③承認期
自分の心と向き合い、徐々に苦しい出来事を理解し始めるようになります。どんな出来事が起きたのか人に打ち明けられるようになります。押さえつけていた辛い気持ちが外に出るようになります。
④適応期
徐々に自分を取り戻し、苦しい時期にきちんと意味を持たせることができます。適応期には興味のあることや新しいことを始めるなど、自分にとってポジティブになることに着手するようになっていきます。
苦しい時期が短期的なものであれば、時間が解決してくれる面もたくさんあります。ケガをしても、ちゃんと傷口がふさがるように、心にも自然治癒力があるのです。
うつ病に注意
長期化に注意
苦しい時期は多くの場合は、自然と改善していくものです。ただし、長期的に苦しい気持ちが続く場合は注意が必要です。特に苦しい時期が長く続くと、
という病気になることがあります。
消えて無くなりたい…に注意
うつ病になると、ひどく気分が落ち込んだり、人生の目的を見失ってしまうこともあります。特に消えてなくなりたい…という感覚があるかたは要注意です。
警察庁の令和3年の自殺統計[2]によれば、うつ病による自殺がもっとも多いことがわかっています。
上図は、健康問題での自殺の原因を調べたものです。身体の病気や統合失調よりもうつ病の方が多い傾向にあることが明確に出ていますね。
うつ病が悪化すると、どんどん自分を追い詰めてしまい悪循環となってしまうため、症状が小さいうちに対処していく改善していく必要があります。
苦しい時期の対処法
ここからは、苦しい時の対処法を提案させて頂きます。具体的には
①衝撃期の過ごし方
②防衛的退行時の過ごし方
③承認期の過ごし方
④適応期の過ごし方
こちらの4つを提案させて頂きます。ご自身に合う対策がありましたら生活に取り入れてみてください。
①衝撃期のすごし方
緊急度を診断してみよう
失恋をした、転職がうまく行かない、取り返しのつかないミスをしてしまった、これらの衝撃期に、私たちの心は病的なレベルになることがあります。
特に消えてなくなりたいと感じるぐらい症状が重い方は、緊急性が高いです。以下の診断を試してみてください。
医療機関の利用の仕方
診断結果が重い方は、お近くの医療機関を利用することも視野に入れてみてください。辛い時は専門家を訪ねるのが最も効果的です。一人で抱え込まないようにしましょう。
具体的には
・心療内科
・精神科
が基本となります。なお精神科の受診をする前に、ジョージエンゲルが提唱した、生理・心理・環境モデルを抑えておくことをおすすめします。以下の動画も参考にしてみてください。
衝撃期は休息が必要
無理に明るく勤めようと思っても、なかなかうまくいきません。苦しい気持ちに耐え続けることはとても労力がかかります。
「全然平気!」
「苦しくなんかない!」
「一人で解決できる」
と無理に元気に振舞うことは危険です。空元気を続けると、いつの間にか心の病になってしまったり、不眠や頭痛などの症状が体に表れてしまうことがあります。
苦しい時期は、休息をとりながら、自分を充分労わる必要があります。自分なりに休憩しながら、苦しい問題をじっくり整理していけば、いずれは解決できると大局的に考えていきましょう。
たまには周りに甘えよう
苦しい気持ちを一人で抱え込んでしまうと、視野が狭くなって様々な角度から見ることが難しくなります。特に周りに「助けて」と言えない人は要注意です。
世の中には多くのソーシャルサポートが存在します。辛い時はお互い様です。たまには周りに甘えてOk!と考えるようにしましょう。
一人で悩みを抱えている…という方は以下のコラムを参考にしてみてください。
ソーシャルサポートをもらおう
カウンセリングを受ける
専門家と一緒に悩みを改善していきたい場合はカウンセリングを受けることも選択肢の1つです。カウンセラーは心のケアの専門家なので、一人で抱え込むよりも安全に、心を整理することができます。以下の動画ではカウンセラーを選ぶコツを解説しました。興味がある方は参考にしてみてください。
②防衛的退行期のすごし方
衝撃期は考える余裕すらないこともありますが、防衛的退行期はあれやこれやと心を整理していく時期です。衝撃期とはまた違った大変さがある時期です。
防衛機制とはなにか
防衛的退行期は防衛機制と言われる心の葛藤が起こります。防衛機制とは、自分の心を守ろうとする、心理的なプロセスを意味します。例えば
「抑圧」
という心の防衛機制が作用することがあります。抑圧とは、本来なら苦しい気持ちが沸き起こるところを心の奥底にいったん沈めるイメージです。
しかし、人間の心の防衛機制にも限度があります。なかったことにする…という事にも限界があることをどこかで意識しておいてください。
悩みを整理する
防衛的退行期は悩みを書き出したり、誰かに語るなどして整理していくことが大事です。悩みは大概の場合さまざまな原因が複雑に絡まりあっています。
これを整理するには、まず自分が何を悩んでいるのか、丁寧に心から表に吐き出して、整理していくことです。悩みの正体がわかるだけで私たちの心はいくばくか軽くなります。これは心理学的にカタルシス効果と言ったりします。
具体的には、日記を書く、白紙の紙に書きなぐる、心を許せる友人に語る、カウンセラーに語る、などが有効です。またこちらの悩み事を整理する手法もおすすめです。ご自身にあったやり方で、じっくり整理していきましょう。
認知の歪みを見つける
自分と向き合う時期は、自分の考えの偏りを発見してみてください。例えば、心理学の世界では「白黒思考」があるとメンタルヘルスが悪いことが分かっています。
白黒思考とは物事を二者択一で考える癖を意味します。
・もうダメだ
・私には価値がない
・絶対に取り返せない
これらの考えには白黒思考があります。じっくり向き合う余裕ができてきたら認知の歪みを見つけるようにしましょう。詳しくは以下のコラムを参照ください。
現実的に考える
認知の歪みを見つけたら、現実的に考える練習が必要になってきます。苦しい時期は、最悪の状況をイメージしがちですが、悩みは杞憂に終わることもあります。
以下のコラムで現実的に考えるようにしましょう。
③承認期の過ごし方
承認期になってくると、過去の出来事に前向きな意味付けをする時期になってきます。当コラムに来られた方はまだ、前向きに考える余裕がない方も多いと思います。ブックマークをしておいて時期がきたら以下のチャレンジも視野に入れてみてください。
リフレーミング
この時期におススメなのが、リフレーミングです。リフレーミングは出来事を様々な角度から考え、前向きな意味付けをしていく手法を意味します。全部で18種類ありますので、何らかの意味付けのヒントになると思います。
余裕が出てきたら以下のコラムを参考にしてみてください。
危機を人生の糧に
心理学の世界では、人生に危機があるときに、新たな価値観が出来上がるとされています。例えば私は、引きこもり時代があったからこそ、自分と向き合うことができ、心理学をしっかり学び、世の中に広めたいという使命感を持つことができました。
私たちは苦しい時期があるからこそ、今まで気が付かなかった価値観に気が付き、より充実した日々を過ごすことができるのです。詳しくは以下のコラムを参照ください。
ロゴセラピー
ロゴセラピーは心理療法の1つで、苦しい時期を乗り越えるときに参考になります。ロゴセラピーの提唱者は、フランクルという精神科医で、ナチスドイツ時代に強制収容所で過ごし、その絶望的な状況でも力強く生きてきた人の心理を分析したことで有名です。
「夜と霧」という本は皆さん一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。ロゴセラピーでは、誰しもが、「意義のある人生」を主体的に獲得していく存在であるとしています。
以下の動画ではロゴセラピーの基礎について、事例を交えて解説しました。興味がある方は参考にしてみてください。
④適応期の過ごし方
苦しい心の葛藤も一区切りし、自分なりに心の整理が終わると、過去の苦しみを活かした新しい生き方ができるようになっていけます。
適応期は1つ成長した自分として、より豊かな生き方ができるはずです。是非、苦しい時期を教訓として、より視野を広く持ち、活発に活動していきましょう。
最後は私なりの考えをお伝えします。冒頭お伝えした通り、筆者の川島もたくさん苦しい時期がありました。実は今もコロナの影響で会社がピンチで苦しい時期です(汗)
私はこんな時は、人生は四季があるから面白いと考えるようにしています。
冬に耐えると、春が来て、春が来ると夏が来ます。冬には冬の過ごし方があります。本を読んだり、物思いにふけっていきます。時間が経つと、いつのまには春になっていて、ぽかぽかと暖かい日差しのありがたみがわかるようになします。
人生も四季のようなものです。じっくり付き合っていけば春は必ず来るのです。今とても苦しい方にも、きっと心の春が訪れると信じています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・苦しい時期の過ごし方
・辛くなりやすい思考の癖の改善
・前向きな見方を増やす,リフレーミング
・心を安定させる心理療法の基礎
など練習していきます。特に「承認期」「適応期」に効果が出やすいと思います。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
192件のコメント
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あつもりたのちい
キャラメルとペーターとオーロラとサラって
誰が一番かなぁ疲れた。
さよる ありがとう💛
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]Fink, S. L.(1967).Crisis and Motivation: A Theoretical Model. Archives of Physical Medicine& Rehabilitation, 48(11), 592-597.[2]警視庁(2022).令和3年中における自殺の状況 付録
いつまで我慢すれば報われる?