漸進的筋弛緩法の効果とやり方,注意点
みなさんこんにちは。
作業療法士の石橋
公認心理師の川島
です。私たちはこちらの心理学講座を開催しています。
今回のテーマは
「漸進的筋弛緩法」
です。
漸進的筋弛緩法とは?
定義
“漸進的”という言葉には、「順を追って段々と目的に到達する」という意味があります。順を追って緊張と弛緩を繰り返して、リラックス状態にたどり着くという方法です。
漸進的弛緩法は、心理学辞典(1999)では、以下のように定義されています。
まず身体の一部分(たとえば右腕の筋肉)から弛緩させ、しだいに身体の主要な筋肉の弛緩を始め、最終的には全身の筋肉をすべて弛緩させていく技法である。
【中略】いったん筋肉を緊張させてから弛緩させる方法をとっているので、その落差が大きく筋肉が弛緩した状態に気づくことを狙いとする。
提唱者
この方法は、1908年にアメリカの精神医学の医師であるジェイコブセンによって開発されました。
ジェイコブセンは、低微小電圧装置という装置を使い、
・筋肉の緊張
・精神活動
の関係を分析を行いました。このような研究は当時画期的なものでした。
その結果、
・緊張は筋肉の収縮をもたらす
・筋肉の弛緩と精神的リラックスは関係する
これらの関係があることを発見していったのです。
開発
その後ジェイコブセンは、後述する、実際に筋肉に力を入れたり、ゆるめたりを繰返すことで、身体と精神をリラックスさせる漸進的筋弛緩法を開発していきました。
対象
漸進的筋弛緩法は心身の緊張を和らげるリラックス法として、様々な場面で使われる汎用性の高い手法です。
・精神科のデイケア
・がん患者への指導
・スポーツ場面
・ビジネスの緊張場面
筋弛緩法をマスターすると、不安の改善、抑うつ感の改善、リラックス効果が得られます。
私の相談者の方で実際に成果を出された方の一例を折りたたんで掲載しました。興味がある方は、展開してみてください。
・カズオさん
・20代の男性
ある日突然、満員電車に乗っている時に、次のような経験をしました。
・心臓がどきどきする
・やたらと汗をかく
・呼吸が荒くなる
その後は込み合った電車に乗るたびに、上記の症状が現れるようになりました。この症状があるために、電車にも乗ることが難しくなり、学校も休みがちになりました。
インターネットで調べたところ、パニック障害や広場恐怖ではないかと思い当たり、クリニックを受診しました。医師からは薬が処方され、同時に漸進的筋弛緩法をやってみることにしました。
カズオさんは、漸進的筋弛緩法を練習することで、
・通常時に
身体のリラックス感覚をつかむ
・電車にのり、緊張が出た場合は
一度降りてベンチで筋弛緩法をする
・電車に乗りながら
筋弛緩法をする
などの対処をしていきました。その結果、苦手であった電車にも我慢しながらではあるものの、乗ることができるようになってきました。
漸進的筋弛緩法の効果
それでは、漸進的筋弛緩法の効果を見ていきましょう。以下にそれぞれ折りたたんで記載しましたので、気になる項目を展開してみてください。
近藤(2008)では、漸進的筋弛緩法を行って得られた体験について報告されています。研究では、入院中のがん患者に対して、2週間トレーニングしてもらいました。
その結果の1つが以下のグラフです。
PMRとは漸進的筋弛緩法のことです。
このように、円グラフをもっとも多く占めるのは「肯定感」であることがわかります。進的筋弛緩法を練習することで、様々な事柄を肯定的に捉えられる感覚を持てるようなると考えられます。
近藤(2008)では、漸進的筋弛緩法と「免疫機能」の関係について調査されています。研究では、入院中のがん患者に対して、2週間トレーニングしてもらいました。
その結果が以下の図です。
PMRとは漸進的筋弛緩法のことです。トレーニングをする「前」よりも「後」の方がグラフが伸びていますね。つまり、筋弛緩法を行うことで、免疫機能を高めることができると考えられます。
近藤(2008)では、漸進的筋弛緩法と「血圧」の関係について調査されています。研究では、入院中のがん患者に対して、2週間トレーニングしてもらいました。
その結果が以下の図です。
PMRとは漸進的筋弛緩法のことです。このように、トレーニングを行った後の方が、血圧が下がっていることがわかります。筋肉を緩め、リラックスするをすることで血の巡りも良くなっていくのですね。
近藤(2008)では、漸進的筋弛緩法と「脈拍」の関係について調査されています。研究では、入院中のがん患者に対して、2週間トレーニングしてもらいました。
その結果が以下の図です。
PMRとは漸進的筋弛緩法のことです。このように、トレーニングを行った後の方が、脈拍が下がっていることがわかります。体の緊張を緩めることで、呼吸が穏やかになり、安定することがわかります。
秋葉ら(2013)では、漸進的筋弛緩法と「快適度」の関係が調査されています。
研究では、大学生13名を対象に、以下のトレーニングを行ってもらいました。
・週1日×4回の漸進的筋弛緩法を行う
・その前後に心理状態を測るテストを行う
その結果が以下の図です。
このように、実施後の方が「快適度」のグラフが伸びていることがわかります。回数が増えるごとに、快適度の差がどんどん開いていることもわかります。
漸進的筋弛緩法を行うことで、不快感が和らぎ快適な気分が高まると考えられます。
漸進的筋弛緩法を実践
環境設定
古典的なやり方としては、実践者は、自分のリラックス状態が客観的にわかるような環境を設定します。例えば、脳波、心電図、筋電図などが、分かるようにします。
ただこれは一般的には難しいと思います。もし可能であれば、心拍数を図る機械などは比較的手に入れやすいので、用意してもいいかもしれません。
もちろん用意が難しい場合でも実践できますのでご安心ください。
※以下の図は富岡(2017)リラクセーション法より一部抜粋して作成させて頂いています。
①手と腕のエクササイズ
まずは両手を握り腕を曲げます。
60%ぐらい力を入れます
10秒キープします
脱力をします
10秒間
筋肉が弛緩している感覚を味わいます
②肩のエクササイズ
左右の方を上に持ち上げ、
耳にくっつけるようにします。
10秒力を入れてキープします
脱力をします
10秒間
筋肉が弛緩している感覚を味わいます
③顔のエクササイズ
目を固く閉じ、目と鼻を近づけるようにします
口はひょっとこのようにとがらせます。
10秒力を入れてキープします
脱力をします
10秒間
筋肉が弛緩している感覚を味わいます
以上の動きを各2~4セット行うといいでしょう。
注意点
漸進的筋弛緩法はリスクが少ない手法ですが、
循環系の疾患を抱えている方
身体の強い疲労がある方
実施時に強い不快感がある方
は医師の指導の元実施するようにしてください。
まとめ+おしらせ
まとめ
漸進的筋弛緩法は、強い緊張をほぐすのにおすすめの解決策です。体の部位に力を入れてから抜く作業を順次行っていくことで、緊張が和らぎます。
事例で取り上げたように、手だけ肩だけと部位を選べば、電車の中などでも実践することができます。ぜひ実践してみてくださいね。
お知らせ
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
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参考文献
富岡 光直 (2017)リラクセーション法 心身医学 57(10), 1025-1031
山田重行,今別府志帆(2008)漸進的筋弛緩法の習得過程におけるリラックス反応の経時変化 千葉大学看護学部紀要 (30), 11-17
秋葉茂季 立谷泰久 高井秀明 三村覚(2013) 競技者における漸進的筋弛緩法の継続的実施が心身に与える影響 ―心理状態と筋電位による検討― 日本体育大学スポーツ科学研究 Vol.2 40-47,
近藤由香 (2008)がん患者に対する漸進的筋弛緩法の継続介入の効果に関する研究 高崎健康福祉大学看護学部 日がん看会誌 22 巻 1 号