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ポジティブ心理学

ポジティブ心理学とは,幸福を科学する心理学

みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

当コラムは、ポジティブ心理学シリーズです。全3回で解説しています。

ポジティブ心理学とは、幸福、強み、よい人間関係など、人がよりよく生きるための条件を科学的に研究する心理学の分野です。アメリカの心理学者セリグマン[1]が、1998年にアメリカ心理学会の会長として提唱しました。

今回は、ポジティブ心理学の基礎を初心者にもわかりやすく解説していきます。目次は以下の通りです。

目次

動画でも解説していますので、あわせてご活用ください。

①ポジティブ心理学とは

ポジティブ心理学は、心の病気や問題を治すことに力を注いできた従来の心理学に対して、「人が幸せに生きるには何が必要か」という問いに光を当てた分野です。まずは、その考え方と生まれた経緯を確認しましょう。

病気だけでなく強みにも注目

20世紀の心理学は、うつ病や不安の病気など、心の問題を理解し治療することで大きな成果を上げてきました。一方で、人がどうすれば幸せに、充実して生きられるかという研究は、十分ではありませんでした。

セリグマンとチクセントミハイ[2]は、2000年の論文で、心理学は弱さを治すだけでなく、強さを育てることにも取り組むべきだと主張しました。これがポジティブ心理学の出発点になっています。

提唱者セリグマン

マーティン・セリグマン(Seligman, M. E. P.)は、もともと「学習性無力感」の研究で知られる心理学者です。その後、楽観主義の研究を経て、ポジティブ心理学を提唱しました。

経歴を詳しく知りたい方は、以下の折り畳みを開いてください。一般の方は読み飛ばしても大丈夫です。

学習性無力感から楽観主義へ

セリグマンは1967年、ペンシルバニア大学で心理学の博士号を取得しました。同じ年、セリグマンとマイヤー[3]は、自分では避けられない電気ショックを経験した犬が、後に避けられる状況になっても逃げようとしなくなることを報告しました。

この現象は「学習性無力感」と呼ばれ、「何をしても無駄だ」という思い込みが、うつ病の状態と似ていることから、人の心の研究にも広がっていきました。なお、動物に電気ショックを与えるこうした実験は、現在の研究倫理の基準から見ると、大きな議論のあるものです。

その後セリグマンは、同じ困難にあっても無力感に陥りにくい人がいることに注目し、楽観主義の研究を進めました。1990年には、楽観的な考え方は練習によって身につけられるとする一般向けの本『Learned Optimism(オプティミストはなぜ成功するか)』を出版しています。

折り畳みの中で紹介したように、セリグマンの研究は、「人を無力にするもの」から「人を元気にするもの」へと関心を移していきました。

②ウェルビーイングとは

ポジティブ心理学でもっとも大切にされている考え方が「ウェルビーイング」です。ウェルビーイングとは、体も心も、そして人とのつながりも含めて、満たされた状態が続いていることを指します。

主観的ウェルビーイング

心理学者のディーナー[4]は、人がどのくらい幸せや満足を感じているかを、「主観的ウェルビーイング」としてまとめました。主観的ウェルビーイングは、次の3つの要素からなるとされています。

ポジティブな感情をよく感じる
ネガティブな感情が少ない
人生全体に満足している

たとえば、喜びや感謝を感じる日が多く、強い不安や悲しみが少なく、「自分の人生はおおむね満足できる」と感じている状態です。

心理的ウェルビーイング

一方、心理学者のリフ[5]は、気分のよさだけでなく、自分らしく成長し、意味のある人生を送っているという感覚を「心理的ウェルビーイング」としてまとめ、次の6つの側面を示しました。

自分を受け入れている
人とよい関係を築いている
自分で決めて行動できる
環境にうまく対応できる
人生に目的を持っている
自分が成長していると感じる

「楽しい」と感じることと、「意味がある」と感じることは、どちらも幸せの大切な面です。ポジティブ心理学では、この両方を大切にしています。

③PERMAモデルの概要

セリグマン[6]は2011年、ウェルビーイングを構成する要素として、5つの要素からなる「PERMA(パーマ)モデル」を示しました。ここでは概要を紹介します。

5つの要素

P:ポジティブ感情(喜び・感謝など)
E:エンゲージメント(何かに没頭する)
R:よい人間関係
M:意味(人生の意義を感じる)
A:達成(目標をやりとげる)

5つの要素は、それぞれ単独でもウェルビーイングを高めると考えられています。すべてを同時に高める必要はなく、自分にとって取り組みやすい要素から始めることができます。

詳しく知りたい方へ

5つの要素のそれぞれを高めるための具体的な方法や、関連する研究は、PERMA理論のコラムで詳しく解説しています。

たとえばエンゲージメントは、時間を忘れて何かに打ち込む「フロー」と深く関係しています。フローについてはフロー心理学のコラムもご覧ください。

④強み(ストレングス)

ポジティブ心理学では、人が持つ長所や強みを「ストレングス」と呼び、それを見つけて活かすことを大切にします。ここでは、従来の考え方との違いと、強みの分類を紹介します。

医学モデルとの違い

心の問題を考えるとき、従来は「病気や障害を見つけて治す」という医学モデルの考え方が中心でした。一方、ストレングスの考え方では、その人がすでに持っている長所や能力、周りの支えに目を向けます。

バイク事故でけがをした人のイラスト

たとえば、事故で下半身に障害が残った人がいたとします。医学モデルでは、けがの治療や症状の緩和に焦点を当てます。

ストレングスの考え方では、それに加えて、動かせる腕の力などの強みを活かし、人生を前向きに過ごす方法を一緒に考えていきます。

車いすレースで活躍する人のイラスト

2つの考え方はどちらかが正しいというものではなく、治療と強みの活用を組み合わせることが大切です。

6つの美徳と24の強み

ピーターソンとセリグマン[7]は、世界の文化や思想に共通する人の長所を調べ、6つの美徳と、それを支える24の強みに分類しました。この分類をもとにした診断ツールは「VIA強み診断」と呼ばれています。

6つの美徳と24の強みの分類

自分の強みの見つけ方や、日常での活かし方は、VIA強み診断のコラムで詳しく解説しています。

⑤3つの良いことの練習

ポジティブ心理学の練習の中でも、もっとも手軽で、研究で効果が調べられているものの1つが「3つの良いこと」です。今日からすぐに始められます。

やり方

1日の終わりに、その日にあった「良かったこと」を3つ書き出し、それぞれについて「なぜそれが起きたのか」も書きます。

①今日あった良いことを3つ書く
②それぞれ、なぜ起きたかを書く
③1週間、毎晩続けてみる

「同僚がコーヒーを入れてくれた」「夕焼けがきれいだった」など、小さな出来事で構いません。理由を考えることで、自分の行動や周りの人の優しさにも気づきやすくなります。

効果を調べた研究

セリグマンら(2005)[8]は、インターネットで参加者を募り、いくつかの練習の効果を、比較のための練習と比べました。その結果、「3つの良いこと」を1週間続けた人は、幸福感が高まり、抑うつの症状が軽くなる傾向が、6か月後まで続いていました。

3つの良いことの練習と幸福感の変化

3つの良いことの練習と抑うつの変化

正式には書き出すことがすすめられていますが、寝る前に目を閉じて思い出すだけでも、1日を落ち着いて振り返るきっかけになります。

⑥ポジティブ比の議論

ポジティブ心理学の中には、一度は広く知られたものの、後に研究の誤りが指摘された考え方もあります。その代表例が「ポジティブ比(ロサダ比率)」です。

研究を正しく読むための例として紹介します。

ポジティブ比とは

ロサダとヒーフィー(2004)[9]は、60のビジネスチームの会議を調べ、成績のよいチームでは、ほめ言葉などの前向きな発言が、批判などの否定的な発言のおよそ6倍あったと報告しました。

その後、この研究をもとに、ポジティブとネガティブの比率が約3対1を超えると人がいきいきと生きられる、という説が広く紹介されました。

後に指摘された誤り

しかし、ブラウンら(2013)[10]は、この比率を導いた数学的な計算に重大な誤りがあると指摘しました。その結果、「3対1」という特定の数値には科学的な根拠がないと考えられるようになっています。

一方で、前向きな関わりを意識することが人間関係に役立つという考え方まで否定されたわけではありません。講師としては、特定の数字にこだわらず、日頃の会話で感謝やほめ言葉を意識して増やすことは、関係づくりに役立つと考えています。

⑦第二世代のポジティブ心理学

ポジティブ心理学が広まるにつれて、「前向きなことばかりを重視しすぎている」という批判も生まれました。こうした批判を受けて発展したのが、第二世代(第二波)のポジティブ心理学です。

苦しみにも目を向ける

心理学者のウォン[11]は、人生の意味を重視する立場から、苦しみや否定的な感情を避けるのではなく、それと向き合い、意味を見いだしていく過程も、よりよく生きるために欠かせないと主張しました。

たとえば、大切な人を失った悲しみは、その人をどれほど大切に思っていたかの表れでもあります。苦しみを「なくすべきもの」とだけ考えず、そこから学びや成長が生まれることにも目を向けます。

明るさと暗さのバランス

ロマスとイフツァン(2016)[12]は、第二世代のポジティブ心理学の特徴として、物事を「ポジティブ」か「ネガティブ」かに単純に分けず、その両方のバランスの中に幸せがあると考える点を挙げています。

たとえば、適度な不安は準備を促し、楽観的すぎると危険を見落とすことがあります。同じ感情でも、状況によって役立つこともあれば、害になることもあるという見方です。

ポジティブとネガティブの両面を示すイラスト

⑧実践するときの注意

ポジティブ心理学の練習は、日常に取り入れやすい一方で、使い方によってはかえってつらくなることもあります。注意点を確認しておきましょう。

前向きさを押しつけない

落ち込んでいる人に「もっと前向きに考えよう」とすぐに伝えると、「気持ちを分かってもらえない」と感じさせてしまうことがあります。まずは相手のつらさを受け止めることが大切です。

自分に対しても同じで、悲しみや不安を感じている自分を責める必要はありません。

専門家に相談する目安

気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、何もする気が起きないといった状態が続く場合は、練習で何とかしようとせず、医療機関や専門家に相談してください。

ポジティブ心理学の練習は、治療の代わりではなく、心の健康を保つための方法の1つとして考えましょう。

⑨よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

いつも前向きでいるべき?

ポジティブ心理学は、「いつも前向きでいなければならない」と考える学問ではありません。悲しみや不安などの感情も、人生の大切な一部です。ポジティブ心理学が大切にしているのは、つらい部分だけでなく、強みや良い出来事にも目を向けて、心のバランスを整えることです。

また、第二世代のポジティブ心理学では、苦しみと向き合う中で成長していく面も重視されています。無理に明るく振る舞う必要はありません。今の気持ちを認めたうえで、できる範囲で良い面にも目を向けてみてください。自分のペースで、できることから取り入れてみてください。

落ち込んでいるときにも使える?

軽い落ち込みであれば、3つの良いことを書き出すなどの練習が、気分を立て直すきっかけになることがあります。ただし、気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、何もする気が起きないといった状態が続く場合は、練習で何とかしようとせず、医療機関や専門家に相談してください。

強い落ち込みのときに「前向きにならなければ」と自分を責めると、かえってつらくなることがあります。まずは休むことを大切にしてください。回復してから、少しずつ練習を取り入れていけば十分です。

自己啓発とは何が違う?

ポジティブ心理学は、幸福や強みといったテーマを、科学的な研究の方法で調べる心理学の一分野です。アンケートや実験で効果を確かめ、その結果を論文として発表し、ほかの研究者の検証を受けることを大切にしています。

一方で、ポジティブ比のように、一度は広まったものの、後に研究の誤りが指摘された例もあります。大切なのは、「科学的に証明された」という言葉をうのみにせず、どのような研究にもとづいているかを確かめる姿勢です。気になる研究があれば、出典の論文を確かめてみるのもおすすめです。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。

ポジティブ心理学の基礎
強みを見つけるワーク
はじめての心理療法
前向きになれる認知行動療法

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)

コミュニケーション教室,講座,ダイコミュ

個別レッスン

個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースでポジティブ心理学を深めたい方は、下記をご参照ください。

個別レッスンの詳細はこちら。

シリーズの続きを読む

ウェルビーイングを高める5つの要素について、それぞれの具体的な高め方を知りたい方は、こちらのコラムがおすすめです。

②PERMA理論とは,幸福の5要素と具体例

自分の強みを見つけて、仕事や人間関係に活かす方法を知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

③強み診断(VIA)とは,発見と活用法

他にも数多くの心理療法があります。ご自身の興味やお悩みに合った理論をじっくり探したい方は、一覧から選んでみてください。

心理療法の一覧

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Seligman, M. E. P. (1999). The president’s address. American Psychologist, 54(8), 559-562.
 
[2] Seligman, M. E. P., & Csikszentmihalyi, M. (2000). Positive psychology: An introduction. American Psychologist, 55(1), 5-14.
 
[3] Seligman, M. E. P., & Maier, S. F. (1967). Failure to escape traumatic shock. Journal of Experimental Psychology, 74(1), 1-9.
 
[4] Diener, E. (1984). Subjective well-being. Psychological Bulletin, 95(3), 542-575.
 
[5] Ryff, C. D. (1989). Happiness is everything, or is it? Explorations on the meaning of psychological well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 57(6), 1069-1081.
 
[6] Seligman, M. E. P. (2011). Flourish: A visionary new understanding of happiness and well-being. New York: Free Press.
 
[7] Peterson, C., & Seligman, M. E. P. (2004). Character strengths and virtues: A handbook and classification. New York: Oxford University Press / Washington, DC: American Psychological Association.
 
[8] Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60(5), 410-421.
 
[9] Losada, M., & Heaphy, E. (2004). The role of positivity and connectivity in the performance of business teams: A nonlinear dynamics model. American Behavioral Scientist, 47(6), 740-765.
 
[10] Brown, N. J. L., Sokal, A. D., & Friedman, H. L. (2013). The complex dynamics of wishful thinking: The critical positivity ratio. American Psychologist, 68(9), 801-813.
 
[11] Wong, P. T. P. (2011). Positive psychology 2.0: Towards a balanced interactive model of the good life. Canadian Psychology, 52(2), 69-81.
 
[12] Lomas, T., & Ivtzan, I. (2016). Second wave positive psychology: Exploring the positive-negative dialectics of wellbeing. Journal of Happiness Studies, 17(4), 1753-1768.
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