内観療法の意味とは,吉本伊信,身調べの効果
みなさん、こんにちは。公認心理師の石橋陽介、川島達史と申します。私たちは現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムでは「内観療法」を解説しています。
わたしが内観療法について知ったのは、大学院入学前の受験勉強の時でした。その時率直に感じたことが、「え、15時間も屏風の中で内省するの?!」といった驚きでした。
確かに15時間も閉じられた空間の中に引きこもって、自分と向き合うという体験は辛いかもしれません。私も実践して耐えられる自信はありません。。
しかし、日常生活の中でここまで自分と向き合う機会はないと思います。そうした非日常の中でしっかり自分と向き合うことで、じっくり心の整理をすることができる。
内観療法の特徴はそんなところにあると思います。このコラムを通して知っていただき、少しでもみなさんの生活の中で役に立てたら幸いです
内観療法の特徴
内観療法とは何か
内観療法は日本で開発された心理療法です。
日常的な刺激を遮断した場所で瞑想を行い、身近な他者について考えて、気づきを得ていく心理療法です。特に、基本的信頼感の低さ、社交不安障害、愛着障害、非行、家庭内暴力など、人間関係を原因とする心の問題に特に効果があるとされています。
提唱者
内観療法は吉本伊信が開発しました。吉本伊信は1916年の奈良県に生まれです。生家は浄土真宗に熱心な家庭で、幼少期に信仰の原体験を重ねていきます。[1]
1937年
浄土真宗で行われていた「見調べ」と呼ばれる修行法を体験し、深く感銘を受けます。
1940年
森川産業有限会社の社長に就任し、ビジネスの世界にも進出します。24歳で社長になるとはバイタリティがありますね。
1953年
内観道場を開設し、内観療法の普及に努めます。その後、73歳で死ぬ直前まで内観を希望する方へ対応したと言われています。
その後…2003年
国際内観療法学会が設立されるなど国際的な評価も得られています。
内観を体験した人の声
内観を体験した人からは
自分は色々な人に支えられていることがわかった
何かスーッと心が軽くなった
家族を憎む気持ちが起こらなくなった
といったものが挙げられます。
援助者との関係は重視しない
一般的な心理療法では、援助者とクライエントの関係は非常に大事です。そして、援助者-クライエント関係が治療の成果を左右するといっても過言ではありません。
例えば、来談者中心療法では援助者の傾聴の仕方、受容的態度など、技量が大きく左右されることになります。
では、内観療法はどうでしょうか?他の心理療法に比べると、援助者-クライエント関係は重視していないことが考えられます。内観では、一人屏風の中でひたすら内省をしていくものです。
この治療の構造そのものが、治療に直接結びつき、治療者-クライエント関係を中心においていないのがわかります。
集中内観,日常内観
内観の流れについてざっとみてみましょう。内観法は
7日間続ける集中内観
日常的にできる日常内観
の2種類があります。
集中内観の流れ
①場所
静かな部屋の隅に屏風で囲んだ所に座ります。こうした場所を選ぶ理由として、外界からの刺激を遮断する機能があります。
日常生活から切り離されて、日頃の環境から離れることができます。また、屏風で仕切られることで、誰からも非難されず、プライバシーも保護される役割も果たしています。
②時間
午前5時から午後9時までの16時間を7日間続けるというのが、基本です。1~2時間、内観すると面接者が現れ、5分程度の報告が行われます。
③内観のテーマ
してもらったこと
して返したこと
迷惑をかけたこと
この3つが主なテーマです。正式には正座が推奨されますが、最近では楽な姿勢でも行われています。
まず、母親に対しての「してもらったこと、して返したこと、迷惑をかけたこと」を調べます。年代を細かく区切って内観していきます。そのほかには「養育費の算出」「嘘と盗み」について内観することもあります。
それが終わると、自分の生活史の中で重要な人物に対して、調べていきます。最初は苦痛に感じることも多いようですが、徐々に内観に集中できるようになるようです。
日常内観の流れ
①場所
まずは静かな部屋に身を置きます。できるだけ、外界から刺激を遮断できる場所を選びましょう。そして、携帯や読書、テレビなど何もしないで、内観することだけに集中します。
②時間
日常内観は定まったルールはありません。1日5分でもOKですし、休日に2時間内観される方もいます。ご自身にあった時間感覚を大事にしましょう。
③内観のテーマ
集中内観と同じく、自分にとって重要な人を選び、
してもらったこと
して返したこと
迷惑をかけたこと
を内観していきます。正座座禅といった座り方ではなく、普段の楽な姿勢でも大丈夫です。
今回はベーシックなやり方を解説しましたが、日常内観は厳密に決まったやり方はありません。日記を書きながら内観する方もいらっしゃいますし、静かな公園でゆったり内観している方もいます。
ご自身のメンタルヘルスの向上にあったやり方を探していきましょう。
内観療法の効果
内観療法の心理的な効果としては以下の6つが挙げられます。
①罪悪感を前向きに活用
②基本的信頼感の回復
③他者への愛の回復
④心の健康度UP
⑤心の疲労が軽くなる
⑥再犯率の低下
それぞれ解説をしていきます。
①罪悪感を前向きに活用
内観を行っていくと、罪の意識に直面することになります。内観の中で、「迷惑をかけたこと」を内省することで、強く罪悪感を抱くようになります。罪悪感について吉本伊信は
罪悪感が深ければ内観が深いともいえるし、罪悪感が浅ければ効果もない
と言っています。内観療法では、罪悪感というものを治療の中で有効的に扱うのです。そして、自分の罪意識と向き合うことで、その罪を自然と受け入れられるようになっていくのです。
悪い罪悪感
罪悪感は2種類に分けられるとされています。悪い罪悪感とは、本来は罪悪感を持たなくてもよいことでも感じてしまうことです。
必要以上に大きな罪をしてしまったと感じる
無関係のことなのに責任を感じてしまう
こうした罪悪感は、悪い罪悪感として考えられています。
良い罪悪感
一方で、してもらうばかりで、自分がしてあげることが少なかったと感じる罪悪感は良いとされています。
親は身近な世話をたくさんしてくれていた、それに対し感謝が言えていなかった
妻はいつも側で支えてくれていたが、自分はあまり家庭を顧みなかった
無口な父親であるが、こんなにもあたたかく見守ってくれていたんだ
こうした罪悪感は良い罪悪感であると考えられています。
強い罪悪感に注意
治療を進めていく上で注意することは、罪悪感の強すぎる人に対しては禁忌であることです。
うつ病 自傷行為がある方 境界性パーソナリティ障害
これらにあてはまる方は、罪悪感を持ちすぎると危険です。自罰的な行動が見られたという報告もあります。
②基本的信頼感の回復
罪の意識から肯定的な部分に気づいていくのが、基本的信頼感になります。基本的信頼感とは自分や人を信頼できる気持ちを意味します。例えば
私は毎日お乳をのませてくれる人がいたからこそ大きくなれた。私は尊重されてきたんだ
お父さんが毎日一生懸命働いてくれたから私が学校に行けた。信じられる人がいる。
このような自分や人を信じられるようになります。こんな自分でも周りから支援されていると感じることから、感謝の気持ちが芽生え、基本的信頼感を得ることができるのです。
③他者への愛の回復
自分がしてもらったことに対して、感謝の念が沸いてきたり、相手の立場を考えた行動をとるようになっていきます。
例えば、今まで自己中心的だった人が、他者に共感できるようになり、相手を気遣った行動ができるといったことです。
自身の安心感が保証されると、自分以外の他者に目が行きやすくなります。すると、相手の気持ちを考えるようになったり、相手を思いやった行動をしたりと他者への愛が芽生えていくのです。
④心の健康度UP
渡辺ら(2016)[2]は26名を対象に、9週間にわたって内観的認知行動療法のセッションを受けてもらいました。そして、内観的認知行動療法を受ける前と受けた後、いずれも6か月間の主観的幸福感の平均点を比較しました。
評価には、WHOが開発した主観的幸福感尺度(WHO SUBI)を活用しました。この尺度は大きく2つの要素に分けられます。
・心の健康度
・心の疲労度
まずは心の健康度から見ていきましょう。
内観的認知行動療法前と、6か月前との比較は以下の通りです。
上図はわかりやすいように、このように内観的認知行動療法前と比べて、6か月後の方がグラフが伸びていることが分かります。内観療法をしっかりと実践することで、幸福感が高まり、心の健康にもつながるのかもしれません。
⑤心の疲労が回復する
続いて心の疲労度を見ていきましょう。内観的認知行動療法前と、6か月前との比較は以下の通りです。
このように心の疲労度についても、内観的認知行動療法前と比べて、6か月後の方が伸びていることが分かります。自分の内面としっかり向き合うことで、精神的な疲れも少なくなっていくことが考えられます。
⑥再犯率の低下
内観療法は、1954年に矯正教育界に導入され、再犯率低下に効果的であることが分かってきました。1960年代には全国の刑務所・少年院30箇所で導入されるようになりました。
実証研究としては1960年前後に行われた徳島刑務所の再犯率調査が挙げられます。[3][4]
内観を実施した受刑者は再犯率は、一般の出所者と比べて半分程度となっています。大事な人への感謝を感じることで、更生意欲が促進されることがわかります。
まとめ
内観法は自分を集中的に見直す心理療法で独特な手法を取っています。私たちは日々の生活に追われると、どうしても家族への感謝の気持ちを忘れたり、愛情を当たり前のものと感じてしまうことがあります。
人生できちんと自分と向き合いたいときはとてもオススメな心理療法となります。また集中内観でなくても、日常生活でも内観法は充分実践できます。
してもらったことを確認する
感謝の気持ちを思い出す
愛情豊かに育てられたことを確認する
今度は自分自身が誰かに返す
是非日々の生活でも内観法の哲学を参考にしてみてください。きっと心の中に温かい気持ちが芽生えると思います♪
心理学講座のお知らせ
心理療法の基礎を公認心理師の元でしっかり学びたい方は、私たちが主催する講座をおすすめします。講座では
・人間関係の不安の改善
・感謝の気持ちを育てる
・認知行動療法
・マインドフルネス療法
・温かい人間関係を築く練習
を行っていきます。筆者も講師をしています。皆様のご来場を心からお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリック♪↓