フロー状態とは、目の前の活動に深く没頭し、時間を忘れるほど集中しながら、充実感や楽しさを感じている心の状態のことです。心理学者ミハイ・チクセントミハイが1975年に提唱した概念で、自分の能力と課題の難しさがちょうど釣り合ったときに生まれやすいとされています。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「フロー心理学,フロー状態」です。

フロー心理学を学ぶと、勉強や仕事、趣味に夢中で取り組むためのヒントが得られます。当コラムでは、フロー状態の意味とモデル、研究、そして日常でフローに入るためのコツを紹介します。目次は以下の通りです。
目次
①フロー状態とは
フロー状態は、「気づいたら何時間も経っていた」というほど、活動に入り込んでいる状態です。まずは、その意味と名前の由来を確認しましょう。
フローの意味
フロー(flow)という概念は、ハンガリー出身でアメリカで活躍した心理学者、ミハイ・チクセントミハイ(Csikszentmihalyi, M.)が、1975年の著書[1]で提唱しました。
チクセントミハイは、画家などの芸術家が創作に夢中になると、空腹や疲れも気にせずに作業を続けることに注目しました。そして、スポーツ選手、チェスの名人、外科医など、さまざまな人に「最高に楽しかった体験」を尋ねる調査を行いました。
遊び、仕事、勉強に関わらず、「1日があっという間に終わった!」という体験は、誰でもあるでしょう。この、活動に没頭し、時間の感覚がなくなるほど集中している状態が、フロー状態です。
名前の由来
チクセントミハイの調査では、多くの人が没頭した体験を「流れに乗って運ばれていくようだった」「水の上に浮かんでいるようだった」と表現しました。この「流れ」のイメージから、「フロー」と名づけられたのです。
マイクロフローとディープフロー
フロー体験には、深さの違いがあるとされています。
マイクロフロー:鼻歌を歌う、ちょっとした作業に熱中するなど、日常の中で短い時間に起こる浅いフロー
ディープフロー:スポーツの試合や創作、難しい仕事など、長い時間、深く没頭するフロー
マイクロフローは、退屈な時間に変化をつけ、気分を整える役割があると考えられています。一方、ディープフローは、強い充実感や成長の実感につながりやすい体験です。
②フローのモデル図
フローに入りやすいかどうかは、「課題の難しさ」と「自分のスキル」のバランスで決まると考えられています。これを図にしたものが、フローのモデル図です。
下の図は、縦軸が課題の難しさ、横軸が自分のスキルの高さを表しています。

フロー状態
高いスキルを使って、難しい課題に挑戦している状態です。強豪チーム同士の試合で、1点を争っている場面などが当てはまります。適度な緊張感の中で、持てる力を全開で発揮でき、時間があっという間に過ぎていきます。
不安状態
スキルが足りないのに、難しすぎる課題に取り組んでいる状態です。自分の力ではとても歯が立たない仕事を任されたときなどが当てはまります。成果が出にくく、不安や自信の喪失につながりやすくなります。
リラックス状態
高いスキルがあるのに、簡単な課題に取り組んでいる状態です。高校生のサッカー部が、中学生と試合をしているような場面です。余裕を持って取り組めますが、長く続くと物足りなさを感じやすくなります。
退屈・無気力の状態
スキルも低く、課題も簡単な状態です。興味の持てない単純作業を、ただこなしているような場面が当てはまります。やる気が湧かず、時間が長く感じられます。図では「退屈」と表されることもありますが、チクセントミハイの詳しいモデル(下の折り畳み)では「無気力(アパシー)」にあたります。
フローは、「どちらに転ぶか分からない、少し難しい挑戦」をしているときに起こりやすいのです。チクセントミハイの詳しいモデルに興味がある方は、以下を展開してみてください。
③フロー体験の9つの特徴
チクセントミハイは、多くの人の体験談から、フロー体験に共通する9つの特徴をまとめました[3]。大きく、フローが起こる条件と、フロー中に感じる状態に分けられます。
フローが起こる条件
1.明確な目標:何をすればよいかがはっきりしている
2.すぐに分かるフィードバック:うまくいっているかが、その場で分かる
3.難しさとスキルの釣り合い:少し難しいが、頑張ればできる課題である
この3つは、自分で工夫して整えることができる条件です。後半の「⑤フローに入る5つのコツ」で、具体的な方法を紹介します。
フロー中に感じる状態
4.行為と意識の融合:考えなくても体が自然に動く
5.目の前の課題への集中:雑念や心配ごとが消える
6.コントロール感:状況を自分で操れている感覚がある
7.自意識の消失:人からどう見られるかが気にならない
8.時間感覚の変化:時間があっという間に過ぎる

それ自体が楽しい体験
9つ目の特徴は、「自己目的的な体験」です。報酬や評価のためではなく、その活動をすること自体が楽しく、価値があると感じられる状態です。人から言われたことよりも、自分がやりたいと思って取り組むことの方が、フローは続きやすいと考えられています。
④研究で分かっていること
フロー状態については、集中力や人間関係との関連などが研究されています。ここでは、国内外の研究を紹介します。
教師の集中力と孤独感
木村[4]は、高校の教師10名を対象に、授業中の心理状態を調べました。研究の一部を、以下に折り畳んで紹介します。
人間関係や希望との関連
アメリカのカリフォルニア州立大学スタニスラウス校のファリア[5]は、大学生を対象に、フロー、マインドフルネス、希望と、幸福感や人間関係などとの関連を調べました。その結果、フローを体験しやすい人ほど、人間関係が良好で、希望を持ちやすい傾向がみられました。

研究を読むときの注意
ここで紹介した研究は、どちらも対象の人数が少なく、ファリアの研究は大学の優等プログラムでの研究報告です。また、「関連がある」ことは分かっても、「フローが人間関係を良くする」という因果関係までは分かりません。何かに熱中している人の周りに人が集まる、という可能性も考えられます。
⑤フローに入る5つのコツ
フローは偶然に任せるだけでなく、条件を整えることで入りやすくなります。ここでは、勉強や仕事、趣味で使える5つのコツを紹介します。
目標を小さく明確にする
「英語を頑張る」ではなく、「今日の30分で、単語を20個覚える」のように、今取り組むことを具体的にします。何をすればよいかがはっきりしていると、迷わずに集中できます。
難しさを少しだけ上げる
簡単すぎると退屈し、難しすぎると不安になります。「ちょっと頑張ればできる」くらいに難しさを調整しましょう。例えば、勉強なら、ぱっと見て「何とか解けそう」と思える問題集を選びます。慣れてきたら、少しずつ難しさを上げていきます。
すぐに結果が分かる工夫
ゲームに夢中になりやすいのは、操作の結果がすぐに分かるからです。勉強なら、1問解いたらすぐに答え合わせをする、仕事なら、作業を小さく区切って、終わるたびにチェックをつける、といった工夫で、フィードバックを増やしましょう。
気が散るものを遠ざける
チクセントミハイは講演[6]で、人が一度に処理できる情報には限りがあり、人の話を理解するだけで、その多くを使ってしまうと述べています。スマートフォンの通知を切る、机の上を片付ける、まとまった時間を確保するなど、集中を邪魔するものを、あらかじめ減らしておきましょう。
「やりたい理由」を見つける
人から言われたことだけでは、フローは続きにくいものです。「この資格を取って、こんな仕事がしたい」「この曲を弾けるようになりたい」など、自分なりの理由を見つけると、取り組むこと自体が楽しくなります。目標の見つけ方は、アイデンティティを確立する方法も参考にしてみてください。
⑥場面別の具体例
フロー状態は、さまざまな場面で体験されます。ここでは、代表的な場面と、筆者の授業での工夫を紹介します。
スポーツでのフロー
バスケットボールの試合中、パスを受け、ドリブルし、シュートを決めるまでの動きが、考えなくても自然に進んでいく瞬間があります。周りの声も気にならず、ボールと選手の動きだけが見えている。練習で身につけた技術と、適度な緊張感のある試合がかみ合ったときに生まれる、典型的なフローです。
学習や創作でのフロー
数学の問題を解いているとき、解き方が次々と見えてきて、一問解けると自然に次の問題に手が伸びることがあります。絵を描くときも、描きたいイメージがはっきりしていて、それを表現する技術があると、気づけば何時間も経っていることがあります。どちらも、基礎の力があり、ちょうどよい難しさの課題に取り組んでいるときに起こります。

授業づくりでの工夫
筆者(川島)は、講座の練習問題を、難しすぎず簡単すぎないように組み立てています。最初の1〜2問はなるべく簡単にして、取り組みやすくする。3〜8問目は少しずつ難しくして、フローに入りやすくする。最後の2問は、挑戦しがいのある問題にする。このように、難しさの流れを工夫することで、受講生が夢中で取り組める授業を目指しています。
⑦注意したいフロー
フロー状態は、仕事や勉強ではプラスに働きますが、使い方によってはマイナスに働くこともあります。
ギャンブルとダークフロー
ディクソンら[7]は、スロットマシンで遊んでいるときに生じる、フローに似た没頭状態を「ダークフロー」と呼びました。研究では、ダークフローを感じやすい人ほど、ギャンブルの問題の程度が重く、抑うつ症状とも関連していることが報告されています。つらい気分から逃れるために、没頭できるギャンブルに向かってしまう可能性が指摘されています。

ゲームや課金への没頭
スマートフォンのゲームやガチャ(くじ引き形式の課金)も、結果がすぐに分かり、当たるかどうか分からない仕組みのため、のめり込みやすいものです。時間やお金の上限を決めておく、遊ぶ時間帯を決める、といった工夫をしましょう。やめたくてもやめられない状態が続く場合は、医療機関や相談窓口に相談してください。
我に返る力を持つ
フローに入ると、時間や体の疲れを忘れてしまうことがあります。仕事に没頭するあまり、食事や睡眠を削り続けると、体調を崩すおそれもあります。今の自分の状態に気づく力として、マインドフルネスも役立ちます。タイマーで休憩時間を決めておくのもよい方法です。
⑧確認してみよう
ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1
フロー状態が起こりやすいのは、どのようなときでしょうか。
ア 課題が簡単すぎるとき
イ 課題の難しさと自分のスキルが釣り合っているとき
ウ 課題が難しすぎるとき
問題2
フロー体験の9つの特徴に含まれないものはどれでしょうか。
ア 時間感覚の変化
イ 自意識の消失
ウ 周りの評価への強いこだわり
問題3
ディクソンらが「ダークフロー」と呼んだのは、どのような状態でしょうか。
ア スロットマシンで遊んでいるときの、フローに似た没頭状態
イ 夜に仕事をしているときのフロー
ウ 退屈で何もしたくない状態
⑨まとめ
フロー状態とは、ちょうどよい難しさの課題に没頭し、時間を忘れるほど集中しながら、充実感を感じている状態です。条件を整えれば、勉強、仕事、趣味など、さまざまな場面で体験することができます。
今回のポイント
フローは、難しさとスキルが釣り合ったときに起こりやすい
目標を明確にし、すぐに結果が分かる工夫をする
難しさは「少し頑張ればできる」くらいに調整する
ギャンブルやゲームへの没頭には注意する
仕上げの動画
フロー心理学について、動画でも解説しました。仕上げとしてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・フロー心理学の基礎
・はじめて学ぶ,心理療法の基礎
・やる気を引き出す,心理学
・健康的な人間関係を築く練習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




