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フロー心理学,フロー状態の意味

フロー心理学、フロー状態の意味

みなさんこんにちは。公認心理師・精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「フロー心理学,フロー状態」です。

フロー状態とは?

今回は入門編として以下の目次で解説していきます。

①フロー状態とは何か
②モデル図と4つの領域
③フロー心理学,効果研究
④フロー状態9の条件
⑤注意事項,悪用例

フロー心理学を学ぶと、人生を充実させる大きなヒントが得られます。せひ最後までご一読ください。

①フロー状態とは?

意味

「フロー状態(State of Flow)」という概念は、ハンガリー系アメリカ人の心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Csikszentmihalyi, M.R.) が1975年に提唱し[1]、1980年代と1990年代に流行しました。

チクセントミハイは、芸術家が創作活動に夢中になると、食べ物や水、睡眠でさえ必要としないことに気付きました。チクセントミハイはこの芸術家の精神状態に着目し、フロー心理学を提唱したのです。意味としては以下になります。

前意識が活動に没頭し、流れるように課題を進める最適状態

つまりフロー状態とは、活動している人が、充実感をもって集中している精神状態を指します。

例えば、遊び、仕事、勉強に関わらず、「1日があっという間に終わってしまった!」という体験は誰でもしたことがあるでしょう。この「あっという間に終わる」という感覚はフロー状態に入っている証拠です。

 

 

種類

チクセントミハイは、フロー状態には2種類あるとしています。

・マイクロフロー
短時間に起こるフロー状態です。例えば、鼻歌を歌っている時、楽しくメールを打っている時、半額セールに遭遇した時など、比較的浅く、短い時間に起こるフローです。

・ディープフロー
長時間没頭する状態です。例えば、勉強や仕事、映画など、深く、長い時間続くフローです。

 

②モデル図

ミハイが提唱した、フロー状態のモデル図を見ていきましょう。縦軸は難易度を、横軸はスキルレベルを示しています。

フロー状態のモデル図

リラックス状態

高度なスキルがあるにも関わらず、低レベルの課題をこなしている状態です。例えば、高校生が中学生とサッカーの試合をしているような状態です。高校生の能力で中学生と対戦するため、余裕をもって戦えます。

退屈状態

スキルが低く、かつ低レベルのことをやっている状態です。先ほどのサッカーの試合で考えると、ルールがわからない小学生同士が戦い、お互い混沌としてしまい、試合にならずやる気を失う状態になります。

不安状態

スキルが低いにも関わらず、高レベルの課題をこなしている状態です。例えば、自分の能力では到底わからない仕事を任された時などが挙げられます。成果が出ないことが多く、挫折しやすく、不安や自信喪失につながりやすくなります。

フロー状態

自分の高い技術を使って高い難易度にチャレンジしている状態です。フロー状態としては以下の例が挙げられます。

強豪チーム VS 強豪チームの戦い
ロスタイムで0対0、1点入れば試合が決まる
当落線上の試験を受けている
納期になんとか間に合う仕事をしている
頑張れば付き合えそうな異性とのデート

このような、どちらに転ぶかわからない状況は、フロー状態になりやすいと言えます。

本気で取り組める状況

 

③フロー心理学,効果研究

フロー状態は、最大のパフォーマンスを発揮できるといわれています。では、フロー状態にはどのような効果があるのでしょうか。研究を交えながら解説していきます。

集中力が上がる

木村(2011)[2]は、高校の先生10名を対象に、先生の授業中の心理について研究しました。この調査では、4つの心理状態について調べています。下記は「集中力」に関する結果の一部です。

フロー状態と集中力

先生の集中力が最も高いのは、高い技術で難易度の高い授業をした時だとわかります。集中力を上げるには、精一杯の努力と、ふさわしい課題が大事であることがわかります。

孤独感が減る

木村(2011)[2]は、同研究で授業時の「孤独感」についても調査を行いました。結果の一部が下図です。

フロー状態と孤独感

フロー状態は孤独感が最も低いことがわかります。フロー状態にある先生は、すごく熱中している状態です。そのため、生徒をうまく巻き込みながら授業を進めていると推測できます。これは、生徒と先生が互いに絡み合っている状態なので孤独を感じにくいと考える事ができます。

一方で、先生が熱中していない時は、生徒からのリアクションが少ない可能性が高くなります。そのため、孤独を感じやすくなるのかもしれません。

人間関係が良好になる

カリフォルニア州立大学の心理学者であるナタリー・ファリア(Faria, N.)(2017)[3]は、フロー状態と様々な心理について調査を行いました。

以下は、フロー状態と「人間関係」の結果です。人間関係とフロー状態には正の相関関係がありました。

フロー心理学と人間関係の相関 心理学研究

何かに熱中して取り組んでいる人は、周りの人間関係も良好になると言えそうです。確かに、何かにチャレンジしている人の周りには人が集まってくるイメージがあります。

希望を持ちやすい

Natalie (2017)[3]によると、フロー状態と「希望」も相関関係にありました。

フロー心理学と希望の相関 心理学研究

フロー状態になると、「私の人生はきっとうまくいく!」「夢は叶う!」「素敵な人生が待っている!」このような希望を持ちやすくなるのです。

 

フロー状態9の条件

ミハイ・チクセントミハイの著書「フロー体験 喜びの現象学」(1996)[4]では、フローに入るための条件が9つ述べられています。

1.明確な目標

何をすべきかがハッキリと分かっていると、フロー状態に入りやすくなります。目標は熟考して考えたものほどフロー状態になりやすくなります。

目標の持ち方については以下のコラムで詳しく解説しています。理解を深めたい方は参考にしてみてください。

アイデンティティを確立する方法

2.選択と集中

2004年のミハイのTEDによる話[5]によると、私たちが情報処理できる量は「約110ビット/秒」だそうです。110ビットというと、大体12文字ぐらいです。速読できる人なら1秒で12文字ぐらい読めそうですね。逆に言うと、私たちの情報処理はそれぐらいが限界と言えそうです。

そう考えると、集中力を高めるには、他の情報処理に時間がとられないように、情報を遮断することも大事だと言えそうです。人生の時間は限られています。たくさんのやりたいことの中から、人生をかけるべき課題を選び、覚悟を決めることが大事になります。

3.自己意識の低下

完全にフロー状態に入ると、自分が集中していることに気づかないものです。たとえるなら、こちらの少年のような感じでしょうか。時にはこの少年のように、自意識が無くなるぐらい没頭するものいいでしょう。

フロー状態の作り方

4.時間の歪み

フロー状態では時間の流れが早く感じます。あっという間に2時間、3時間経ってしまいます。逆にフロー状態ではない時は、時間が長く感じます。

もし時間が長く感じたら、退屈、リラックス、不安のいずれかにある可能性が高いです。その場合は原因を分析し、フローに入る工夫をしましょう。

5.即座のフィードバック

チャレンジしたらすぐに結果が分かると、フロー状態に入りやすくなります。例えば、子どもがゲームに夢中になるのは、結果が出るまでの時間が早いからです。コマンドを入力すれば攻撃がヒットし、回避に失敗すれば1秒も立たずにダメージを受けます。

学習においても同じことが言えます。1問解いたらすぐに回答を見るなど、フィードバックをした方がフロー状態に入りやすいです。課題や宿題は小刻みに進めた方が集中力がアップしやすくなります。

6.スキルと難易度が適切

自分のスキルに合わせた目標は、フロー状態になりやすいと考えられています。改めて、フロー状態のモデル図を見てみましょう。フロー状態のモデル図

難易度とスキルがともに「高い」ときは、適度なプレッシャーを感じつつ、自分の能力を全開まで発揮することができます。

7.コントロール可能

自分の技術を使ってある程度チャレンジできる感覚があると、フロー状態に入りやすいといわれています。例えば勉強であれば、ぱっと見た時に「ある程度チャレンジできそうだ」という感覚が持てる参考書を選んだ方が、集中力を維持できます。「ちょっと頑張ればクリアできる」くらいの状態や環境を目指しましょう。

8.内的動機

自分自身がやりたい事にチャレンジすることが大切です。言われた事をやる、他人が決めた事をやる、など、外的要因による目標ではフロー状態は続かないと言われています。まずは自問自答して、自分自身がやりた事を見つけることが大事です。

9.没頭環境

フロー状態を持続させるには、環境の設定も大事です。静かな部屋、まとまった時間、スマフォの電源を切る、デスク周りを整理するなど、気が散らないようにしましょう。

 

注意事項,悪用例

フロー状態は、仕事や勉強などではプラスに働きますが、マイナスに働くこともあるので注意が必要です。

フロー状態と問題行動

・ギャンブル依存
ギャンブル依存とフロー状態は深い関連があります。例えば、パチンコでは、当たるか当たらないかという状態が続き、フロー状態に入りやすくなります。公営ギャンブルなどは、制限を設けながら遊戯するようにしてください。

フロー状態とキャンブル

・犯罪
フロー状態は犯罪に結びつくこともあります。例えば、万引き(盗癖)がクセになってしまうと、何度も繰り返してしまいます。見つかるか見つからないかハラハラする心理から、抜け出せなくなるのです。露出などの犯罪も同じ原理にあたります。

万引きクセとフロー状態

・ガチャ依存
ガチャはどちらに転ぶか分からないため、フロー状態に入りやすくなります。興奮してお金を使いすぎてしまわないように注意しましょう。


・恋愛依存
恋愛は、好きか嫌いかが揺れ動くので、フロー状態に入りやすくなります。恋愛の刺激は強いため、一部不安定な恋愛を求めてしまう人もいます。出会いと別れを繰り返す人は、注意が必要です。

フロー状態と問題行動

フロー状態から我に返るには、自分を客観視するマインドフルネス力が大事になります。マインドフルネス力がつくと、今自分がどのような状態にあるかを把握しやすくなるため、フロー状態と健康的に付き合っていくことができます。

我を失い問題行動をしてしまう…と感じる方は、以下のコラムを参照ください。

マインドフルネスコラム

仕上げの動画

フロー心理学について動画でもしっかり解説しました!仕上げとしてご活用ください。

 

まとめ

フロー心理学は、日常生活でかなり使える考え方です。勉強、仕事、恋愛、さまざまな場面で集中力を高めてくれます。例えば、講師の川島の場合は、難しすぎず簡単すぎない授業づくりを大切にしています。

1問目2問目はなるべく簡単な問題にする。3~8問目は難易度をあげ、フロー状態に入りやすくする。最後の2問は難しくする。このような工夫で、フロー状態に入れるような授業を目指しています。

フロー心理学は日常生活のあらゆるケースで活用ができます。是非、充実した日々を過ごすために活かしてみてくださいね♪

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・フロー心理学の基礎
・はじめて学ぶ,心理療法の基礎
・やる気を引き出す,心理学
・健康的な人間関係を築く練習

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

 

フロー心理学,フロー状態の意味,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Csikszentmihalyi, M. (1975).  Beyond boredom and anxiety: Experiencing flow in work and play. Hoboken, NJ: Jossey-Bass Publishers.
 
[2] 木村 優 (2011). 授業における高校教師のフロー体験に内在する実践的意義,日本教育方法学会紀要,教育方法学研究, 36,25-37.
 
[3] Faria, N. (2017). Positive Psychology and Student Success:How Flow, Mindfulness, and Hope are Related to Happiness, Relationships,and GPA.  Retrieved from https://csustan.edu/sites/default/files/groups/University%20Honors%20Programs/Journals/natalie_faria.pdf  (June 17,2021)
 
[4] Csikszentmihalyi, M.R. (1992). Flow: The Psychology of Happiness. New York, NY: Harper & Raw. (チクセントミハイ, M.R. 今村 浩明(訳)(1996). フロー体験 喜びの現象学   世界思想社)
 
[5] TED. (2004). ミハイ・チクセントミハイ:フローについて Retrieved from https://ted.com/talks/mihaly_csikszentmihaily_flow_the_secret_to_
happiness?language=ja (October 16, 2021)