交流分析入門,ストローク理論,脚本分析について
みなさん、こんにちは。公認心理師川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「交流分析入門」です。目次は以下の通りです。
①提唱者
②構造分析
③相補交流・交差交流
④ストローク理論
⑤ゲーム分析とは
➅人生脚本とは
⑦OK-OKシート
交流分析は人間関係まで踏み込んだ実践的な心理療法です。是非、最後までお付き合いください。
①提唱者
エリック・バーンの幼少期と教育
交流分析 (transactional analysis) はカナダの精神科医であるエリック・バーン (Berne, E.) が提唱しました。エリック・バーン(1910年5月10日-1970年)は、カナダのモントリオールで医師と作家の両親のもとに生まれました。[1]父を早くに結核で失った一方で、頑張り屋さんの母が、編集者をしたり作家として活動したりして、バーンが医師を目指せるように奮闘したと言われています。
母の助けもあり、バーンは1935年にマギル大学で医学と外科の学位を取得しました。その後、アメリカに渡り、ニュージャージー州で研修医として働き、1936年にはイェール大学で精神科の研修を受け始めました。
精神分析から交流分析への転換
1943年、バーンはアメリカ国籍を取得し、名前をエリック・バーンに改名。1940年代後半からは精神分析の道を歩むも、1956年にサンフランシスコ精神分析研究所への正式入学が拒否されたことをきっかけに、独自の理論「交流分析」を確立しました。1958年には交流分析に関する論文が発表され、新しいアプローチとして認知されるようになります[2]。
ちなみに原著についてはカリフォルニア大学が公開しているようです。なかなか趣深いので興味がある方はこちらのリンクからダウンロードしてみてください。
著書『人間関係の心理学』と私生活
1964年、バーンの著書『人間関係の心理学(Games People Play)』[3]が出版され、ニューヨークタイムズのベストセラーとなりました。多くのセラピストにも影響を与え、交流分析が広く普及。私生活では3度結婚し、晩年はカリフォルニアで執筆活動を行いましたが、1970年に離婚を経験しました。
②構造分析
構造分析の意味と発展
交流分析にはいくつかの手法があり、その中の一つに構造分析があります。エリック・バーンは、もともとフロイトの精神分析の訓練を受けていました。フロイトの理論では、人格を「イド」「自我」「超自我」の3つに分けて解釈していましたが、一般的には難しいものです。
そこで、バーンはこれを日常的なコミュニケーションの観点から使いやすく解釈しなおし、「親」「大人」「子供」という3つの状態に再定義しました。
さらには、エリック・バーンが最初に提唱した3つの自我状態(親、成人、子供)のモデルは、ややざっくりとしたものだったので、イアン・スチュワート(1987)らによって、細分化され5つの自我状態として整理されるようになりました[4]。
5つの自我状態
具体的な5つの自我状態は以下の通りです。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
エゴグラム
デューセイ(1972)[5]はバーンの理論を基に、自己理解と他者理解を深めるための方法としてエゴグラムを提案しました。エゴグラムは、自分がどの自我状態を強く持っているかを視覚的に示すグラフであり、個人がどの自我状態に強く影響されているのか、あるいはどの状態を改善すべきかを理解するためのツールです。
エゴグラムを使うことで、自己認識を高め、より健康的な自我状態のバランスを取る方法を学ぶことができます。5つの自我状態については、以下の診断で測ることができます。興味がある方は、ぜひ自分の自我状態について確認してみてください。
5つの自我状態と研究
水野(2009)[6]は看護学生233名を対象に5つの自我状態と性格の関連について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
こちらの図は数字がプラスは正の相関関係、マイナスは負の相関になります。例えばCPは‐329*となっていますがこれはCPが高い人ほど情緒の安定性が低くなりがちと読み取ることができます。その他の数字についても是非考えてみてください。
③相補交流・交差交流
バーンは、5つの自我状態を前提に、人間関係がうまくいく時とうまくいかない時の原因を考えました。
相補交流とは
バーンは「お互いの自我状態が同じ場合は、人間関係が上手くいきやすい」と主張しました。これは「相補交流」と言います。以下の図はわかりやすくするため自我状態を3つにしています[3]。
例えば、大人(P)同士のビジネス場面であれば、名刺を交換し合うといったやり取りが起きます。また、子ども同士(C)の会話であれば、「はなちゃーん」「たろうくーん」といったやや砕けたコミュニケーションが生まれます。
交差交流とは
一方で、お互いの自我状態が異なる場合は、人間関係にトラブルが起きやすいとバーンは主張しました。これを「交差交流」と言います。
例えば、初対面のビジネス場面で、女性が「〇〇会社 大塚花子と申します(P)」と挨拶をしたとします。これに対して男性が「もっとフランクにいこうよ~♪はなちゃんってよんでいいっすか(C)」と返したら、女性は馴れ馴れしく感じるでしょう。このように、自我状態に不一致が生じると、コミュニケーションも上手く行きにくくなるのです。
④ストローク理論
定義
ストロークとは、以下のような定義があります。
他者の存在を認識する全ての行為
ストロークには、まずは肯定的/否定的に関わるの2種類があります。下図をご覧ください[7]。皆さんは普段、肯定・否定どちらのストロークを使うことが多いでしょうか。
5つの分類
ストロークはさらに細かくわけると、以下の5つに分類されます。肯定・否定×無条件・条件で、4種類に分類され、さらに左側に薄字で「ノンストローク」と書かれています。
無条件の肯定的ストロークは、「あいさつをしたり、目が合ったら笑う」などが挙げられます。無条件の否定的ストロークは、「意見をいったら頭ごなしに否定、人格批判をする」などが挙げられます。
条件付きの肯定は、「うまく書けたら褒める、テストで良い点を取ったら褒める」などです。条件付きの否定は、「遅刻をしたら叱る、悪口を言ったら怒る」などが挙げられます。
ノンストロークは、そもそもストロークをしないことを意味します。「挨拶をしない、ライン未読無視」などが挙げられます。
交流分析では、人間関係の土台は無条件の肯定にあり、逆に無条件の否定やノンストロークが最も人間関係を悪化させると考えます。ストローク理論については以下のコラムで詳しく解説をしました。
⑤ゲーム分析とは
ゲーム分析とは何か
バーンは、1964年に人生ゲーム入門(Games People Play)という本を出版し、その中で「ゲーム分析」という用語を使いました。ゲーム分析とは、トラブルの発生しやすい交流パターンを整理し、それらを解消することで健康的な人間関係を築く手法を意味します。
では、「ゲーム」とはどのようなものを指すのでしょうか。エリック・バーンによれば、ゲームとは以下のように説明されています。
繰り返し行われる一連の交流で、最後には両者が不快な感情を残して破壊的に終わるもの
このゲームの交流を続けてしまうと、毎回同じようなパターンで人間関係でトラブルを起こしてしまいます。「なぜいつもこうなってしまうのか」「どうしても○○がやめられない」などの感覚がある方は、ゲームにハマってしまっているかもしれません。
ゲームには30数種類あるとされています。今回はその中でも日常生活で見られやすいものをいくつかご紹介します(原,2010を参考)[8]。
ゲーム分析と具体例
以下はゲーム分析の具体例になります。気になる項目を展開して確認してみてください。
⑥人生脚本とは
脚本分析とは
脚本分析とは、以下の意味があります。
無意識に繰り返す人生のパターンを見つけ、健康的な生き方を見つけること
エリック・バーンは「人間関係にトラブルを抱えがちな人は、幼少期に親や周りの影響を受けて、ネガティブな人生の筋書きを作ってしまっている」と主張しました。
バーンはその筋書きを「脚本」と呼び、もしその脚本が間違っている場合は、修正してかなくてはならないと考えました。例えば、人生の中で何度も同じような否定的な考えがよぎるという方は、幼少期に不健康な脚本を作ってしまった可能性があると考えていきます。
不健康な脚本と禁止令
交流分析では、不健康な脚本には「禁止令」があるとしています。禁止令とは、「〇〇してはならない」「〇〇すべきではない」といった、抑圧的な思い込みのことです。ここで例として、4つの不健康な脚本をご紹介していきます。
・存在してはならない
幼少期のころに「あんたなんか生まなきゃ良かった」と繰り返し言われると、「自分は存在してはいけない人間だ」という脚本を作り出し、何か発言をしたり行動をしたりする際に、自分で自分を抑制してしまう状態になります。
・遊んではならない
毎日「勉強しろ!」と言われ、漫画を読んだりゲームをしたりしたら怒られていた場合、「遊んではいけない」という脚本を作り出してしまう可能性があります。すると、遊んでいる時に不安になったり、純粋に遊びを楽しめなくなってしまいます。
・人を信用してはならない
親同士が離婚してしまったり、騙されて大きな借金を背負って苦しい生活を強いられてきた人は、「人を信用してはならない」という脚本を作り出してしまうことがあります。
・男らしく・女らしく
「女らしくしろ!つつましくしろ!」と育てられた場合、「女は慎ましくいなければならない」という脚本を持ち、社会で積極的に行動できなくなることが多いです。
禁止令を緩める方法
毎回同じパターンで人間関係が壊れている、人生がネガティブな方向に行きがちな人は、幼少期に作られた禁止令がもとになっているかもしれません。
このような不健康な脚本がある場合は、「アロワー (allower)」を用意して改善していきます。アロワーとは許可を与える言葉になります。
先ほどの脚本で言えば、以下のようなアロワーが挙げられます。
・存在してはならない
→積極的に自分の意見を発言してもOK
・
・遊んではならない
→何も考えず遊んでみる時間も必要だ
・
・人を信用してはならない
→信用する勇気も必要だ
・
・男らしく、女らしく
→自分らしく振舞ってOKだ
このように、アロワーを用意して、実際に行動を変えてみると、肯定的な出来事が増えていきます。すると、少しずつ脚本が変化し、健康的なものに変わっていくことがあります。
もし人生を不健康にする脚本があると感じたら、アロワーを用意してみてください。
⑦OK-OKシート
I'm OK – You're OK
『I'm OK – You're OK』は、Thomas A. Harrisによる1967年の著書で、エリック・バーンの交流分析(TA)理論を基に、人間関係の改善方法を提供します[9]。この本は、特に自己理解と他者理解を深めることに焦点を当て、バーンの理論を一般向けに分かりやすく解説しました。Harrisは、自己評価(I'm OK)と他者評価(You're OK)の関係が、対人関係にどのように影響を与えるかを探ります。
OK/Not OKの枠組み
本書では、人間関係を4つの枠組みに分類します。
・I'm OK – You're OK
健全な自己肯定感と他者尊重の状態で、オープンな関係を築く
・I'm OK – You're Not OK
自己肯定感が高すぎて他者を見下し、支配的になる
・I'm Not OK – You're OK
自己評価が低く、他者に依存しすぎる状態
・I'm Not OK – You're Not OK
否定的な自己評価と他者評価が強く、閉塞感に陥る。
OK-OKシートの活用
本書で紹介されるOK-OKシートは、自己評価と他者評価を視覚的に整理するツールです。縦軸に自分の評価、横軸に他者の評価を設定し、4つの評価状態を示します。このシートを用いて、自己評価と他者評価のパターンを理解し、自己肯定感を高め、対人関係の改善に役立てることができます。
まとめ
交流分析を学ぶことで、日常的な人との関わり方の良し悪しを理解することができます。もし交差交流になっていることに気づいたら、なるべく相手に合わせるように心がけると良いでしょう。
また、自分の脚本を振り返ることで、自分を支配する思い込みに気づき、改善していくことができます。皆さんが人間関係をより円滑にし、素敵な環境で過ごすことができるように心から願っています♪
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・はじめて学ぶ交流分析
・エゴグラム性格分析
・不安が軽くなる,認知療法
・劣等感を利用する,アドラー心理学
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[4] Stewart, I., & Joines, V. (1987). TA Today: A New Introduction to Transactional Analysis. Lifespace Publishing.
[5] Dusay, J. M. (1972). Egograms and the Constancy Hypothesis. Transactional Analysis Journal, 2(3), 37-41.
[6] 水野正憲(2009).交流分析の自我状態とBig Five尺度との関係 水野正憲 日本教育心理学会総会発表論文集 51
[7] 杉田 峰康 (1985). 交流分析 講座サイコセラピー 第8巻 (p.90) 日本文化科学社 中島 美知子・白井 幸子 (1981). 死と闘う人々に学ぶ : 交流分析を用いての試み (p.38) 医学書院