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SSTソーシャルスキルトレーニング入門

SSTソーシャルスキルトレーニング入門

みなさんこんにちは。公認心理師の川島です。私はこちらの心理学講座を開催しています。今回のテーマは「SST」です。

ソーシャルスキルトレーニング

目次は以下の通りです。

①提唱者
②SSTの理解
③研究紹介
④基本訓練モデル
⑤ステップ・バイ・ステップモデル
➅代表的なスキル紹介

SSTは、会話や人間関係が苦手で「どんな風に改善したらいいのか分からない」という方におすすめの認知行動療法です。SSTは私の大学院の研究テーマだったので張り切ってまいります!

 

①提唱者

SSTに関する重要人物は3人います。

Robert Liberman(ロバート・リバーマン)

筆頭となるのは、米国の心理学者であるRobert Liberman(ロバート・リバーマン)です[1]。リバーマンは、1975年から慢性精神障害患者向けのリハビリとしてSSTを開始しました。これは「基本訓練モデル」と言われていて、SSTの代表的な手法になっています。

Robert Liberman

基本訓練モデルが開発された背景には、脱施設化運動があります。精神病院などの施設から患者が地域社会に開放されるにつれ、さまざまな問題が起こりました。施設から患者を退院させたものの、家庭や地域社会の中で必要となる支援が整備されていなかったため、患者の生活の質が極めて貧しい実態になってしまったのです。

そこでリバーマンらは、地域でのサポート体制の充実を図ると共に医療側の治療方法として、対人関係の改善や、服薬の継続、症状自己管理など、精神障害者を支援する手法を学習できるようまとめたのです。日本では、1988年から本格的普及が開始されました[2]

 

Alan.S.Bellack(アラン・S・ベラック)

alan.s.bellack

2人目の提唱者は、米国のメリーランド大学で教授をしていた(アラン・S・ベラック)です[3]。ベラックは、統合失調症の患者向けに「ステップ・バイ・ステップ」というSSTの手法を開発しました。こちらもSSTの基本的なやり方として定着しています。

ステップ・バイ・ステップは、名前の通り、ステップを踏むことによるコミュニケーション手法です[4]。テーマに沿ったいくつかのステップを踏むことで、円滑な人間関係を作っていきます。テーマは複数名で共有し、モデリングしながら進めるため、いろいろな状況に合わせたスキルを身につけていくことができます。

 

Michael Argyle(マイケル・アーガイル)

Michael Argyle

基本モデル、ステップバイステップどちらも、精神疾患の患者向けに開発されたSSTです。教科書的にはこの2人が提唱者としてよく出てきて、国家試験にも出題されるのですが、実はもう一人、超重要人物がいます。

3人目の提唱者は、社会心理学者のMichael Argyle(マイケル・アーガイル)です[5]。オックスフォード大学の教授であるアーガイルは、人間関係に関する心理学の第一人者と言われる人物で、1960年代からソーシャルスキルの研究を行っていました。1972年には、6つのステップが含まれるコミュニケーションサイクルを確立しました。

このように、SSTは「心の病気を治す分野」と「人間関係に関する心理学」の分野で発達してきたと押さえておいてください。

 

②SSTの理解

定義

ソーシャルスキルは、複数の学者によって異なる定義がありますが、概ね以下のように定義できます。

人間関係を健康的に築くための言語・非言語スキルを総称したもの

例えば、挨拶をする、友人を作る、仲直りをする、嫌な依頼を断るなど、健康的な人間関係を築く技術を指します。

ソーシャルスキルに「トレーニング」がくっつくと、ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training)と呼びます。頭文字をとってSSTと呼ぶことが多いです。

SSTは、学校でいじめを防止するために実施されたり、ビジネスが円滑に進むように研修として行われるなど、その目的は多様です。

 

能力とスキルの違い

ソーシャルスキルを理解するうえで、「能力」と「スキル」の違いはしっかりと押さえておきましょう。以下は、能力とスキルの関係を表している図です。緑色「能力」を土台として、黄色「スキル」が上にくっついている状態です。

スキルと能力の違い SST

「能力」は、スキルも含めた広いもの、先天的な才能や資質で、学習の土台になります。一方で「スキル」は、後天的に学習していくものになります。私たちの能力は、先天的な資質と後天的に学ぶスキルの2つを組み合わせた、総合的な力になるのです。

具体例として、水泳で考えてみましょう。身長、体重、手の長さなどは先天的な才能や資質の部分です。ここで、スキルの学習なしに自己流で泳でみたとします。いくら資質があっても、最初は溺れかけてしまったり、がんばっても前にすすむぐらいで「能力」としては止まってしまうでしょう。

一方で、知識のある人から正しい泳ぎ方のスキルを学ぶと、多少体力がなくても、資質に恵まれなくても、スイスイと泳げるようになるものです。これがスキルの最大の特徴です。

スキルと能力の違い SST

このように、先天的な資質が無かったとしても、スキルを身に付けることで能力がグンと伸びるのは「会話力」も同じです。例えば、性格的に緊張しやすかったり、内向的で口下手な面があっても、ソーシャルスキルを学ぶことで緊張しながらもまあまあ話せるようになります。これがソーシャルスキルトレーニングの良いところだと私は考えています。

 

③研究紹介

ソーシャルスキル向上の意義

相川ら(2005)は、学生1,002名(男性435名,女性567名)を対象に、SSTに関する調査を行いました[6]。結果の一部を抜粋して紹介します。

SST(ソーシャルスキルストレーニング)の効果

この結果から、ソーシャルスキルが向上すると、対人不安が減りやすく、孤独感が減りやすいことが推測できます。また抑うつ感もマイナス関係になっている点から、ソーシャルスキルが向上すると元気に過ごしやすいと言えます。

SSTと傾聴スキル

川島(2010)は、成人100名を対象に、SSTを行う前後での傾聴スキルについて調査しています[7]。以下の図は、介入をしていない比較群と、SSTの介入を行った実験群(ダイコミュ生徒さん)のグラフです。縦軸は傾聴スキルの得点を表します。SST 傾聴スキルSSTの実践前は、傾聴が苦手な人が多いことがわかりますが、トレーニングを重ねることで、着実に傾聴力が向上していることがわかります。

 

④基本訓練モデル

先程解説したように、SSTの基本モデルは、リバーマンの「基本訓練モデル」とベラックの「ステップバイステップモデル」です。両者の進め方と、効果とデメリットを確認しておきましょう。

基本訓練モデルの進め方

①アイスブレイク
基本的には、4〜8人くらいで輪になって行うことが多いです。ワークをする前に、雑談などで雰囲気をほぐしておきましょう。軽い体操なども効果的です。

②問題場面の設定
支援者は、参加者に社会生活で苦手な場面を聞いていきます。そして、その問題がなぜ起こるのか、どうすればうまくできるか、などについて話し合いをします。

③ ロールプレイ
実際の場面を想定したロールプレイをします。必要に応じて支援者がお手本を見せます。他者の振る舞いを見て学ぶことを「モデリング」と言います。

④ 正のフィードバック
ロールプレイをした人に対して、支援者はできた部分を見つけてしっかり褒めてきます。また改善点がある場合は、レベルに応じて伝えていきます。これを何度も繰り返します。

⑤ 日常生活への汎化の確認
練習でできるようになったら、日常生活での目標を宣言してもらいます。日常生活でできるようになることを「汎化(はんか)」と言ったりします。練習だけで終わらないよう、支援者は促していきましょう。宿題を出すのも効果的です。

効果

基本訓練モデルは、具体的な悩みにフォーカスして練習することができるので、即効性が高いモデルです。今まさに悩んでることを、皆でアイデアを出し合い練習するので、協調性も養うことができます。

デメリット

基本訓練モデルは、実際の悩みをベースにワークを組み立てるので、逆に言えば、悩んでいないスキルについては獲得が難しくなります。散発的なスキルの獲得になりやすく、総合的な力は高まりにくいと言えます。

参考動画

こちらは、丹羽真一先生監修による基本訓練モデルの参考動画です。参加者に困りごとをしっかり聞いてからワークを実施している点が特徴的です。

 

 

 

 ⑤ステップバイステップモデル

ステップバイステップモデルの進め方

①教科書を準備
ステップバイステップモデルでは、原則として教科書が必要になります。SSTに精通した支援者が、レベルに応じた支援計画と教科書を作成します。

教科書作りについては、傾聴スキル、話し方スキル、アサーティブスキル、感情表現スキルなどを組み合わせて作成します。教材作成が難しいと感じる方がいらっしゃいましたら、私はコンサルテーションもできますので、こちらから気軽にお問合せください。

②教科書で練習問題を解く
ステップバイステップモデルでは、教科書をベースに、まずは簡単な問題を解いていきます。テキストベースで、さくさくできるようになるまで練習しましょう。

③ ロールプレイ
実際の場面を想定したロールプレイをします。必要に応じて支援者がお手本を見せます。他者の振る舞いを見て学ぶことを「モデリング」と言います。

④ 正のフィードバック
支援者はできたことを見つけ、しっかり褒めてきます。また、改善点がある場合は、レベルに応じて伝えていきます。これを何度も繰り返します。

⑤ 日常生活への汎化の確認
練習でできるようになったら、日常生活での目標を宣言してもらいます。日常生活でできるようになることを「汎化」と言ったりします。練習だけで終わらないように、支援者は促すようにしましょう。宿題を出すのも効果的です。

効果

教科書を使うことで、レベルごとの課題を設定しやすく、スキルが積み重なっていくので、総合的な力を養うことができます。会話場面で困ったことがあった時に柔軟に乗り越える力がつきます。

デメリット

良質な教材を作ることに、かなりの時間がかかります。また、ステップバイステップモデルは、お悩みに即していない事柄も訓練することになるので、モチベーションの維持が重要になります。

参考動画

こちらは、佐藤幸江先生によるステップバイステップモデルの参考動画です。やり方を明確にしている点が特徴的です。

 

 

 

➅代表的なスキル紹介

具体的にトレーニングするスキルは、様々なものがあります。以下に、代表的な4つのスキルについて紹介します。

傾聴スキル

傾聴スキルは、聴き上手になるスキルです。オウム返し法、肯定返し法、5W質問法、感情質問法、共感スキル、などが挙げられます。傾聴スキルを学ぶと、相手に配慮したコミュニケーションができるようになります。

傾聴スキル

発話スキル

発話スキルは、話し上手になるスキルです。5W発話法、自分へ質問法、繰り返し表現法、具体例提示法などがが挙げられます。発話力をつけると、対人不安が減る、相互理解が促進されるという効果があります。

発話スキル

アサーションスキル

アサーションスキルは、アイメッセージ法、DESC(Describe「描写」 Express「説明」Suggest「提案」Choose「選択」) 法、壊れたレコード法、限界設定法などが挙げられます。アサーションスキルを学ぶと、自他尊重の心が育ちます。

アサーティブコミュニケーション

感情表現トレーニング

人間関係を築く上では、非言語コミュニケーションのスキルも大事になってきます。笑顔、声の抑揚、姿勢、アイコンタクトの仕方などを練習すると良いでしょう。

感情表現スキル

仕上げ動画

SSTについて動画も作成しました。仕上としてご活用ください。

 

 

講座のお知らせ

ソーシャルスキルを公認心理師の元でしっかり学びたい方は、私たちが主催する講座をおすすめします。講座では

・傾聴スキルトレーニング
・発話スキルトレーニング
・アサーティブスキル練習

をしっかり行っていきます。筆者も講師をしています。皆様のご来場をお待ちしています♪↓興味がある方は下記のお知らせをクリック♪↓

コミュニケーション講座,心理療法の学習

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 元専修大学人間科学部教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Robert Liberman, M.D., ’60: Agent of change. Trustees of Dartmouth College Retreived from https://dartmed.
dartmouth.edu/winter09/html/alumni_album.php (May 10, 2022)
 
[2] Liberman, B.P. (1975). Personal Effectiveness Training. Champaign, IL: Research Press.
 
[3] Bellack, A.S., Mueser, K.T., Gingerich, S., & Agresta, J. (2004). Skills Training for Schizophrenia: A Step-by-Step Guide (2nd ed.).  New York, NY: Guilford Press. 
 
[4] Faculty Member Alan Bellack. Faculty Opinions. Retreived from https://facultyopinions.com/member/
1438936688244241 (May 10, 2022)
 
[5] Michael Argyle. goodreads. Retrieved from https://goodreads.com/author/show/322829.Michael_Argyle (May 11, 2022).
 
[6] 相川 充・藤田 正美 (2005). 成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成  東京学芸大学紀要. 第1部門, 教育科学, 56, 87-93.
 
[7] 川島 達史 (2010). 成人に対する言語ソーシャルスキルトレーニングの開発と主観的適応状態への影響  目白大学大学院心理学研究科修士論文 (未公刊)