家族療法 歴史とは?事例や技法
みなさん、こんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムでは「家族療法」を解説しています。
目次は以下の通りです。
①家族療法の意味
②家族療法の歴史
③直接的因果律,円環的因果律
④IPとは何か
⑤高EEとは何か
⑥治療技法
⑦家族療法の対象
家族療法は心の問題を個人ではなく全体からとらえる特徴的な心理療法です。家族療法を学ぶと、広い視野で心のありかたを考える力がつきます。是非最後までご一読ください。
①家族療法の意味
意味
心理学辞典(1999)[1]によると家族療法は以下のように定義されています。
家族集団を研究と治療の単位として扱い、個人の問題を家族という文脈のなかで捉える心理療法
(一部簡略化)
家族療法では、治療にあたっては、顕在化している問題が家族の中でどのように関連しているかを把握し、参加可能な家族成員の合意のもと治療が行われます。・
システム論
ある一人の人が心の病気になったとします。心理療法の多くは「患者」に焦点を当てます。一方で家族療法では、「家族が互いに影響し合った結果として、病気や問題が引き起こされる」と捉えていきます。
家族の間で起きた問題は、さまざまな要因が複雑に混ざり刻一刻と変化します。その変化が悪循環に陥ると「最も感受性の強い者が心の病気になる」と考えていくのです。
そして「家族」という団体を1つの集合体(システム)と考え、心の病気を全体から解決していきます。
②家族療法の歴史
家族療法は歴史を概観すると理解しやすくなります。以下、歴史を追っていきましょう。
1940年代
1940年代までは、うつ病や統合失調症は「本人」の「心のあり方」や「脳の仕組み」の問題として考えられていました。そのため治療は、患者本人に対する心理療法や投薬による治療が中心でした。
1950年代
精神疾患の様々な治療法が発展していくと、回復し退院する患者が出てくるようになりました。しかし、ここで問題が起こります。その患者が家族の元に帰ると、症状が再燃し、再入院することが増えてきたのです。
例えば、寛解したはずの統合失調症が、家族の元に戻るとまた再燃してしまうという問題がありました。そのため、家族との相互作用に原因があるのではないか?という仮説が立てられ、心理学者のベイトソン(Bateson)とヘイリー(Haley)によって研究が進められました(ベイトソンプロジェクト)[2]。ヘイリーの生前の動画はこちらです。
1960年代
1960年代初頭にはMental Research Institute (MRI) という家族療法の中心となるグループが設立され、研究が盛んになりました。例えばBrown(1962)[3]は、統合失調症の患者を対象に、以下の2群の比較を行いました。
*Low EE
家族から患者へ向ける感情が低い群
患者に対してあくまで冷静に対処する
・
*High EE
家族から患者へ向ける感情が強い群
患者に対して感情的に接する
EEとは,Expressed Emotion のことで「表出された感情」と訳す人もいますが,もとの英語のニュアンスが違うのと,「感情表出が豊か or 乏しい」という誤解(実際,専門家でも誤解している人がいます)を産むので,そのままEEとされています。
1970年代
統合失調症には家族の問題が関連することがはっきりしてくると、さらに研究が盛んになります。1970年代は、家族療法前期と言われ、以下のような学派が誕生し発展していきます。それぞれ折りたたんで記載しましたので、気になる項目をクリックしてみてください。
1980年代
1980年代以降は概ね後期と言われています。後期の特徴は
現実として起こっている問題を解決する
病気の症状を改善する
という、問題解決志向に重きが置かれるようになります。こうした動きから、次のような学派が生まれました。それぞれ折りたたんで記載しましたので、気になる項目をクリックしてみてください。
このように家族療法はじつにさまざまな学派が横断的に重なり合う心理療法なのです。日本でも1980年代初頭から導入がはじまり、現在では公認心理師や臨床心理士が学ぶ重要な心理療法として重視されています。
③直線的因果律,円環的因果律
家族療法では、心の問題の原因と結果を、「直線的因果律」ではなく「円環的因果律」で捉えていきます。
直線的因果律
直線的因果律は、原因が直接的に結果を引き起こすと考える方法です。
例えば、親が勉強に厳しく接することで、子どもがそのプレッシャーに耐えられずです。ここでは、「親の厳しさ」という原因が、まっすぐに「子どもの勉強放棄」という結果を生み出しています。家族療法では、原因である親の厳しさを取り除き、子どもがプレッシャーを感じない環境を作ることが問題解決の方法として考えられます。
円環的因果律
円環的因果律は、原因と結果が互いに影響し合い、繰り返し循環する関係を示します。
母親が子どもの勉強に不満を感じ厳しく叱ると、子どもはプレッシャーでやる気を失い、反抗的になります。父親は家庭内の緊張を避けようと無関心を装い、母親はその態度に不満を抱きストレスが増大します。
その結果、母親の叱責がさらに厳しくなり、子どもの反抗が強まり、悪循環が繰り返されます。このような循環は家族全員が関与しており、誰かの行動を変えることで断ち切ることが可能です。
④IPの意味とは
IPとは何か
家族療法ではIPと言う用語をよく使います。IPとは
Identified(識別可能な) Patient(病人,患者)
の略であり、
「家族の問題を表現する人」
「家族の病気の代表者」
「家族の中の象徴的な患者と見なされた者」
「家族の問題を肩代わりしている人」
と考えます。家族療法では、IPの問題がその人個人だけの課題ではなく、家族全体の相互作用や関係性が関与していると考えます。そのため、家族療法ではIP本人だけに治療を行うのではなく、家族全員がセッションに参加し、家族内のコミュニケーションやパターンを改善していきます。
IPと具体例
以下具体例を折りたたんで解説しました。IPについて理解を深めたい方は参考にしてみてください。
⑤高EEとは何か
怒りや暴言のような激しい感情表出がある方を、高EE(Expressed Emotion)と呼びます。高EEが家族内にいると、家族内の誰かが精神疾患になりやすいと言われています。高EEの方の感情表出は、以下の2点としてあげられます。
1.批判的表出
「本当に物覚えが悪いな!」「この怠け者め!」など、感情に任せて批判を行います。
2.情緒的表出
「私なんていなくてもいい!」「私のことなんて誰も必要としていない!」など、自暴自棄な発言を行います。
こちらのコラムでも詳しく解説をしています。
高EEの意味とは?
⑥治療技法
家族療法には様々な治療技法があります。当コラムでは入門として5つ紹介します。
①ジョイニング法
カウンセラーが家族の悩みを聴く場合、必ずしも心を開いて問題を語ってくれるわけではありません。まずはカウンセラーと家族の間に信頼関係が必要になります。この時、家族と関係性を築く方法がジョイニング法と呼ばれています。具体的には、伴走、調節、模倣の3つから成り立ちます。
②エナクトメント法
家族療法では、一人ではなく、家族のメンバーそれぞれに悩みを聴くことがあります。この時それぞれのメンバーは、主観的に悩みを話すので、現実が歪んでしまうことがあります。この時、実際に問題となる場面を再演してもらうことがあります。これをエナクトメントと言います。カウンセラーはエナクトメント通して、家族の問題の理解を深めることができます。
③リフレーミング法
家族療法では問題の捉え方を1つの視点ではなく、様々な視点からとらえることを大事にしています。システム論の具体的な手法として、問題を捉えなおすやり方をリフレーミングと言います。
例えば、不登校の子供がいる家庭の場合、不登校の子供がいるおかげで、離婚寸前の夫婦が安定しているケースがあったりします。
このような視点でとらえると、「子どもは親のために不登校の状態を続けている」と捉えなおすことができるのです。詳しくは下記の動画で解説しました。興味がある方は参考にしてみてください。
④ダブルバインド
ベイトソンは、統合失調症の患者についての研究から、「ダブルバインド仮説」という理論を発表しました。ダブルバインド仮説とは以下の意味があります。
「言葉のメッセージ」「表情やしぐさのメッセージ」が一貫せず、矛盾したコミュニケーションをすること
例えば、親が「怒らないから理由を言って!」と言ったにもかかわらず、正直に打ち明けた子供を叱りつけたとします。このように一貫性のない歪んだコミュニケーションを続けると子供の心理が不安定となり,成人になってから心の病になる一要因となると考えられています。カウンセラーは親にダブルバインドを控えるように促すことがあります。
➄偽解決パラドクス
家族療法の思想の1つに「偽解決パラドクス」があります。「偽解決パラドクス」とは「その問題を解決しようと試みることがさらに問題を大きくする悪循環」とされています[4]。
この悪循環を断ち切る方法に、パラドクス・アプローチというものがあります。これは、悩みを解決すべき方向とまったく逆の行動をとらせる方法です。偽解決パラドクスには以下の3種類があります。
⑥高EEの問題行動
先程解説したように、高EEは家族全体のメンタルヘルスを低下させます。そのため、感情的になりやすい人には、感情コントロールのトレーニングを行うことがあります。具体的にはマインドフルネス療法、アンガーマネジメントなどが行われます。
⑦家族療法の対象
家族単位
現代では、男女ともに初婚年齢が上がっており、離婚率も上昇しています。また、核家族化が進み、現在の親が子どもの頃に育ってきた環境とは大きく違う家族の形で生活をしています。
そのため家庭内の負担は大きく、特に夫婦間に起こる問題は深刻であると考えられています。そのために、家族単位で行う支援はとても大切なのです。
学校単位
「システムアプローチ」という理論は、学校場面でも応用することができます。例えば学校でいじめがあったときに、生徒間の問題として考えるだけでなく、学校の仕組みの問題、地域の問題としても捉えることができます。
風通しの悪い体制、教師に隠ぺい体質があるなど、システムの面から考え、全体として考えていく発想に結びつけることができます。
企業単位
ある企業で責任を問われる大きな問題が起きたとします。通常であれば、その仕事を担当した社員が叱責され、原因を追求されます。また、その上司も同様でしょう。
しかし「システムアプローチ」の考え方を取り入れると、担当者や上司だけのせいでないことが考えられるのです。
上司と担当者の関係性やコミュニケーション、強いては部署全体の関係性やコミュニケーションをシステムとして捉えると、仕事がどのように処理されているのかが次第に明るみになっていきます。
その部署(システム)の中で何が起きているのか、どのように関係を築けばよいか、どのように問題に対処すればよいのかなどを整理することができるのです。
まとめ
ここまで家族療法の基本的な考え方について解説してきました。家族療法は、個人を対象としがちな心理療法の視野を広げたという点で画期的なものです。
援助をする際、自分の悩みを考える際に、「家族」という視点を持ち、改善の糸口を探してみてください。きっと新しい気づきがあるはずです。
仕上動画
家族療法の入門編として動画も作成しました。仕上げとしてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
公認心理師,精神保健福祉士など専門家の元で心理療法を学びたい方は、私たちが開催している講座をオススメしています。内容は以下の通りです。
・家族間の会話の改善
・リフレーミング練習,全体として問題を捉える
・心穏やかに,アンガーマネジメント
・家族関係がよくなる,会話練習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連