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芸術療法・描画療法

芸術療法のやり方とは,樹木画テスト

芸術療法(アートセラピー)とは、絵を描く、音楽を奏でる、文章を書く、物語を読むといった表現活動を通して、言葉にしにくい気持ちを表現し、心の回復や自己理解を目指す心理療法の総称です。絵画療法、音楽療法、箱庭療法などさまざまな種類があり、医療や福祉、教育の現場で活用されています。

みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私はこちらの心理学講座を開催しています。今回は「芸術療法」について解説していきます。

当コラムでは、芸術療法の歴史、期待される効果、代表的な種類を紹介したうえで、自宅でも気軽に試せる「木を描く」「フロタージュ」「朗読」の3つの方法を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①芸術療法とは

芸術療法は、上手な作品を作ることが目的ではありません。表現する過程そのものが、心に働きかけると考える心理療法です。

芸術療法の意味

芸術療法の特徴は、言葉だけでは説明しにくい心の世界や感情を、絵や音楽、身体の動きなどのイメージによって表現し、理解できるようにすることです[1]。

悩みを言葉で説明しようとしても、うまく言えないことがあります。そんなとき、色や形、音などを使うと、言葉にならなかった気持ちが自然に表れることがあるのです。

作品の上手さは関係ない

芸術療法では、作品の出来ばえを評価することはありません。絵が苦手な人でも、楽器が弾けない人でも取り組めます。大切なのは、表現している間に何を感じたか、表現したものを見て何に気づいたか、というプロセスです。

②芸術療法の歴史

芸術療法は、心の状態を「知る」ための方法と、心を「癒す」ための方法という、2つの流れから発展してきました。

心を知るための描画

1921年、スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハが、インクのしみが何に見えるかから性格を探るロールシャッハ・テストを発表しました。こうした、あいまいな刺激への反応から心を探る方法は「投影法」と呼ばれます。

ロールシャッハテスト

その後、木を描いてもらう方法がスイスで試みられ、1949年には心理学者カール・コッホが「バウムテスト(樹木画テスト)」としてまとめました(英語版は1952年)[2]。1940年代には、家・木・人を描いてもらうHTPテストなども考案されています。

樹木画テスト

心を癒すためのアート

一方、表現そのものの癒す力に注目したのが、イギリスの画家エイドリアン・ヒルです。ヒルは結核で療養していた1930年代の終わりに、病床で絵を描くことが心の回復に役立つことに気づき、他の患者にも絵を教えるようになりました。「アートセラピー」という言葉を広めた人物の一人とされています[3]。

1960年代には、イギリスとアメリカでアートセラピーの専門家の協会がつくられ、専門職として確立していきました。

日本での発展

日本では、スイスのドラ・カルフが発展させた箱庭療法を、心理学者の河合隼雄が1960年代に紹介し、広く普及しました。箱庭療法は、砂の入った箱の中にミニチュアを置いて、自由に世界をつくる方法です。

1969年には、精神科医の中井久夫が、川、山、田、道などを順番に描き込んで一つの風景を完成させる「風景構成法」を考案しました。日本で生まれた描画法として、現在も臨床で使われています。

箱庭療法

③期待される効果

芸術療法には、主に次のような効果が期待されています。

気持ちを表現してすっきりする

心の中にたまったもやもやを、色や形、音にして外に出すことで、気持ちが整理され、すっきりすることがあります。これは「カタルシス効果」と呼ばれます。言葉にしにくい悩みも、作品として表現することで、心の重荷が軽くなることがあります。

自信を取り戻す

一つの作品を最後まで仕上げると、「自分にもできた」という達成感が生まれます。小さな達成を積み重ねることは、自信や自己効力感を取り戻す助けになります。

人とつながる

集団で作品をつくったり、作品を見せ合ったりすることで、言葉だけでは伝えにくい気持ちが自然に共有されます。共通の体験を通して、安心感や信頼関係が育まれることもあります。

研究の紹介

芸術療法の効果については、体の反応を調べた研究もあります。詳しく知りたい方は、以下を展開してみてください。

絵を描くこととストレス

中道ら[4]は、福祉施設で絵画療法を行い、その前後で、ストレスに関わるホルモンであるコルチゾールのだ液中の量を調べました。その結果、多くの場合で、絵画療法の後にコルチゾールが減少していました。

絵画療法とコルチゾール

絵を描くことが、ストレスを和らげる可能性が示されています。ただし、比較するグループを置いた研究ではないため、効果をはっきり確かめるには、さらに研究が必要です。

④主な種類

芸術療法には、使う表現の方法によって、さまざまな種類があります。代表的なものを紹介します。

絵画療法

絵や色を使って表現する方法です。自由に描くほか、テーマを決めて描く方法もあります。

マンダラ塗り絵:円の中を自由に塗る

コラージュ療法:雑誌の写真などを切り貼りする

風景構成法:決められた順番で風景を描く

フロタージュ:凹凸のある物を紙の上からこする

音楽療法

歌う、楽器を演奏する、音楽を聴くなどの活動を通して、気持ちを整えたり、人との交流を促したりする方法です。即興演奏で気持ちを表現する方法や、集団で打楽器をたたく方法などがあります。高齢者施設やリハビリテーションの場でも広く行われています。

書く療法

日記や詩、物語を書くことで、気持ちを整理する方法です。ペネベーカー[5]は、つらい体験について、感じたことを数日間書き出す「筆記開示」の研究を行い、心と体の健康に良い影響があることを報告しています。書いて気持ちを整理する方法は、ジャーナリングとはでも解説しています。

その他の方法

箱庭療法:砂箱の中にミニチュアで世界をつくる

演劇療法(心理劇):役を演じて気持ちを表現する

読書療法・朗読:本や物語を読んで気持ちを整える

⑤木を描いて振り返る

ここからは、自宅で気軽に試せる方法を紹介します。まずは、1本の木を描いて、自分の心の状態を振り返る方法です。

描く前に知っておくこと

バウムテストは、本来、専門家が他の検査や面接と組み合わせて使う心理検査です。描かれた木だけで、性格や心の状態を判断することはできません。ここでは「検査」ではなく、自分を振り返るきっかけとして、気軽に描いてみましょう。

描き方

①A4の紙、鉛筆、消しゴムを用意する

②「実のなる木を1本」描く。上手に描く必要はない

③時間は気にせず、描きたいように描く

振り返りの問い

描き終わったら、作品を眺めながら、次の問いを考えてみましょう。

描いているとき、どんな気持ちだったか

木のどこを一番丁寧に描いたか

この木は、どんな場所に立っていそうか

この木に声をかけるとしたら、何と言うか

「なぜこんな木になったのだろう」と考えることで、今の自分の気持ちに気づくきっかけになります。解釈に正解はないので、思いつくままに考えてみてください。

⑥フロタージュ法

フロタージュ法は、葉っぱや硬貨など凹凸のある物の上に紙を置き、鉛筆やクレヨンでこすって模様を写し取る方法です。絵が苦手な人でも、気軽に楽しめます。

やり方

①葉っぱ、硬貨、木の板など、表面に凹凸がある物を集める

②物の上に薄めの紙を置く

③鉛筆を寝かせて、やさしくこする

④浮かび上がった模様を眺める。色を変えて重ねてもよい

フロタージュ法で写した葉っぱ

楽しみ方のコツ

こちらは、筆者がフロタージュ法で写した葉っぱです。こすっているうちに模様が少しずつ浮かび上がってくるのが楽しく、何枚も続けてしまいました。手を動かすことに集中するうちに、頭の中の考えごとから少し離れられるのも魅力です。

散歩で拾った葉っぱで行ったり、子どもと一緒に楽しんだりすると、自然な会話も生まれます。高齢者施設のレクリエーションとして取り入れられることもあります。

⑦朗読療法

朗読療法は、物語や詩を声に出して読むことで、気持ちを整える方法です。芸術療法の中ではあまり知られていませんが、筆者が個人的に好きな方法です。

朗読と気分の研究

藤野ら[6]は、大学生・大学院生21名に物語を朗読してもらい、その前後で気分の変化を調べました。その結果、朗読の後には、怒りや疲労などの否定的な気分が減っていました。

朗読による気分の変化

この研究で朗読された作品は、小川未明の童話「野ばら」です。10分ほどで読める短い物語なので、興味のある方は読んでみてください。なお、学会発表として報告された小規模な研究であることに注意が必要です。

やり方

①好きな物語や詩を1つ選ぶ(漫画や小説でもよい)

②静かな場所で、ゆっくり、はっきり声に出して読む

③読み終わったら、心に残った言葉や、今の気分に気づく

イライラしたときや、不安なときに、好きな作品を声に出して読んでみるのもおすすめです。

⑧取り組むときの注意

芸術療法は、気軽に取り組める方法も多いですが、次の点に気をつけましょう。

つらくなったら中断する

表現しているうちに、思いがけず、つらい記憶や強い感情が湧いてくることがあります。違和感やつらさを感じたら、無理に続けず、手を止めて休みましょう。

心の不調があるときは専門家と

心の不調で治療を受けている方や、気分の落ち込みが強い方は、一人で深く取り組むよりも、芸術療法を学んだ専門家のもとで行うことをおすすめします。また、描いた絵の解釈は、専門家でも慎重に行うものです。インターネット上の診断のような解釈を、そのまま自分に当てはめないようにしましょう。

⑨よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

絵が下手でも大丈夫ですか?

まったく問題ありません。芸術療法では、絵の上手さを評価することはありません。むしろ、上手に描こうとするより、描きたいように自由に描く方が、気持ちが表れやすいとも言われます。どうしても絵に抵抗がある場合は、フロタージュやコラージュ、朗読など、描かずにできる方法から始めてみてください。

描いた絵で性格が分かりますか?

描いた絵だけで、性格や心の状態を判断することはできません。バウムテストなどの描画法は、専門家が面接や他の検査と組み合わせて、慎重に使うものです。インターネット上には、「幹が細いと〜」といった解釈が紹介されていることもありますが、それだけで自分を判断しないようにしましょう。絵は、自分の気持ちを振り返るきっかけとして活用してください。

どこで受けられますか?

芸術療法は、精神科や心療内科などの医療機関、高齢者施設、障害のある方の福祉施設、学校などで行われています。ただし、実施している機関は限られているため、受けたい場合は、事前に問い合わせてみましょう。音楽療法の場合は、音楽療法士という専門職が担当していることもあります。まずは、かかりつけの医療機関に相談してみてください。

⑩まとめ

芸術療法とは、絵や音楽、文章などの表現を通して、言葉にしにくい気持ちを表し、心の回復や自己理解を目指す心理療法です。作品の上手さではなく、表現する過程を大切にします。

今回のポイント

芸術療法は、心を「知る」流れと「癒す」流れから発展した

気持ちの表現、自信の回復、人とのつながりが期待できる

木を描く、フロタージュ、朗読は自宅でも試せる

絵の解釈は専門家でも慎重に。つらいときは中断する

専門家に相談したい方へ

芸術療法を専門的に受けたい方は、専門のカウンセラーを探すことをおすすめします。カウンセラーの探し方は、以下の動画で解説しています。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・芸術療法の基礎を学ぶ

・風景構成法で心の理解

・バウムテストで心の理解

・はじめての心理療法の学習

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

芸術療法とは,種類と効果,心理学講座

講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 蘭 香代子 (2008). 「描画」研究の歴史と考察:童話研究(5) 駒沢女子大学研究紀要, 15, 1-15.
 
[2] Koch, C. (1952). The tree test: The tree-drawing test as an aid in psychodiagnosis. New York: Grune & Stratton.
 
[3] 稲村 めぐみ (2018). ターミナルケアにおける芸術療法 東京大学, 129-142.
 
[4] 中道 芳美・鮫島 道和・顧 寿智・杉浦 敏文 (2006). 絵画療法とその効果の唾液コルチゾールによる評価 聖隷クリストファー大学看護学部紀要, 169-176.
 
[5] Pennebaker, J. W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
 
[6] 藤野 雄教・桂川 泰典・菅野 純 (2012). 朗読によるカタルシス効果 日本教育心理学会第54回総会発表論文集, 649.
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