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臨床動作法のやり方とは,効果,リラクゼーション法

臨床動作法のやり方とは?効果,リラクゼーション法

みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「臨床動作法」です。

臨床動作法

私がはじめて臨床動作法と出会ったのは20年前のことです。まだ心理学の勉強をはじめたばかりの時でした。当時、地元の津田塾大学で、たまたま臨床動作法のワークショップがありました。

臨床動作法という言葉を初めて聞いた私は、おそるおそるワークを受けたことを覚えています。参加者は20人ぐらいで、男性は私だけでした(汗)。

素敵な空間の元、ぽかぽかした気持ちになりながら、受講したことを覚えています。結論から言うと、臨床動作法は、どこか懐かしい気持ちになれる、安心感に満たされた心理療法でした。

いつか臨床動作法についてコラムを書きたいと感じていました。そしてついに、その機会が巡ってきたのです!目次は以下の通りです。

①臨床動作法とは
②臨床動作法の目的
③効果研究
④臨床動作法のやり方

私自身が暖かい気持ちになれたように、心を込めてコラムを執筆したいと思います。

①臨床動作法とは?

歴史

臨床動作法は、臨床心理学者の成瀬悟策先生(1924年6月5日- 2019年8月3日)が開発しました。 成瀬先生は、もともと催眠療法の研究や臨床を行っていました。

*生前の先生の様子はこちらです。

成瀬先生は1964年に、脳性マヒの青年の身体が催眠の暗示によって動くという体験します。[1]

当時は、脳性マヒの児童に、遊戯療法、自律訓練法、筋弛緩法などの心理療法が実施されていました。児童は心理的にやる気を出すと、積極的に体を動かすようになりました。

しかし、この積極性が過剰になると、今度は身体が緊張し、動かなくなっていってしまうのです。このような事例から、成瀬先生は、体の力をほぐすこと、リラックスすることの重要性を発見していくのです。

1970年代になると、自閉症やADHD傾向のある児童に実践され成果をあげました。また1980年代に入ると、神経症、心身症、統合失調症にも実践されるようになります。

2020年代では、治療場面に限らず、教育現場、スポーツ、家庭内等、幅広く活用されています。

定義

臨床動作法について、成瀬先生は以下のように定義しています。[2]

「動作」を主たる道具とする心理臨床活動であり、治療セッションにおける動作体験を通して、クライエントの日常の生活体験のより望ましい変化を図る心理療法

臨床動作法は、動作体験をきっかけとして、こころや生活のあり方を見直す方法なのです。

動作と課題とは

臨床動作法では、「課題→意図→努力→身体運動」の一連の流れを動作と呼びます。それぞれは以下のような意味があります。

課題
→治療者がクライエントに提示する動作の目標です。例えば、肩を上げたり下げたりする、背中に圧力をかけるなどです。

意図
→努力に取り組む際の「○○をしよう」「○○をしたい」という心の働き。

努力
→意図を適切な身体運動につなぐための心の働き。努力の仕方が適切であれば、身体運動は自然に生じる。

身体運動
→努力の結果生じる身体動作。 動作は意図に応じて変化し、その変化によって心理的な効果が得られる。

これによって、課題が意図を引き出し、意図が努力を促し、努力が身体運動を生み出す過程が生まれます。課題を通じた心理的過程を通して、クライエントは自己コントロール感や自己存在実感などを養い、心や生活のあり方を見直すことができます。

②臨床動作法の目的

臨床動作法の目的は大きく2つに分けられます。具体的には

自然な動作の獲得
心理的成長

の2点が挙げられます。

自然な動作の獲得

例えば、肩に力が入る癖がある場合、「リラックスして肩の不適正な緊張を緩めること」を目標にセラピストがサポートします。肩をゆっくり回す、肩をゆっくり開くなど、練習していきます。

私たちは普段気がつかないうちに、不必要に体の力を入れていることがあります。例えば、人前でスピーチをする際は、体がかたまり、肩に力が入ります。

しかし、本来であればスピーチに肩の力はいらないのです。このように不必要な力を普段から入れる癖をつけると、慢性的な肩こりや、頭痛、不眠に繋がっていきます。

臨床動作法では、私たちが生活で必要とする自然な力の獲得を目指します。

精神疾患を抱える方は、余計な体の緊張グセを持っていることが多いのですが、動作法を練習すると、自然な力の入れ方を覚え、余計な緊張がほぐれていくのです。

この意味で、精神疾患だけなく、スポーツトレーナーも選手に臨床動作法を行い、パフォーマンスの向上に役立てることがあります。

心理的な成長

自然な動作を獲得するためのやりとりの中で、体と心の変化を感じます。

なんだか体が温かくなってきたなぁ
だんだん眠くなってきた気がするなぁ
体にずいぶん力が入っていたんだなぁ
今まで気を張りすぎていたのかなぁ

と自分の状態に気が付いていきます。このように、体の緊張を解きながら、同時に心の在り方も見直していくのです。

そうして体のコントロールを自分自身でできるようになると、私たちは自信を深めることができます。

例えば、今まではがちがちに緊張していたスピーチを、緊張しつつも身体的にはリラックスしてできたとしたら、「やればできるじゃん!」と自信を深めることができます。

このように体への自信はそのまま自分自身の主体性に繋がっていくと考えられています。

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③効果研究

臨床動作法の効果については、これまでたくさんの研究がなされてきました。

7つの体験

武内 (2017)[3]は、大学生・大学院生132名を対象に動作法で得られる体験を検討しました。その結果、得られる体験が7つあることがわかりました。

1:主体的動作感
自分で体を動かしているという感覚や自分の体であるという感覚を得る。

2:動作統制感
自分の動作感覚の統合感や動作のコントロール感を得る。

3:弛緩の実感
体が緩んでいる感覚を実感する、緊張が緩むのがわかる。

4:自己存在実感
動作を通じて自分の体である実感をしっかり得る。

5:安心安定感
心身の安静や深い安心感を得る。

6:動作協力感
自分の動作を援助する他者、寄り添ってくれる他者の存在を実感する。

7:自己活動のモニタリング
自分の動作やこころの動きに注意を向けることができる。

社会的適応機能の向上

上倉・清水(2013)[4]によれば、長期入院の恐れがある者、および長期入院患者男女12名に、週1回40分の臨床動作法を計6回行いました。

その結果、社会適応機能尺度による評定が,有意に改善した(z = -2.14, p < .05) と報告しています。具体的には、「衝動のコントロール」「会話技能」などの改善がなされたと言えます。

自己意識の変容

上倉先生の実証研究をもう一つ紹介したいと思います。上倉(2020)[5]では、心の問題等を抱えていない、大学院生を対象とされた、いわゆるアナログ研究です。

研究では、実施前後の「体調」「リラックス感」「自己主体感」「身体的所有感」の変化が評価されました。その結果の一部が下図となります。

臨床動作法,体調への効果,上倉 安代先生

臨床動作法,効果,上倉 安代先生

上図のように、体調、リラックス感ともに、動作体験実施後に向上したのです。

また,図には示していませんが、「からだの姿勢や状態が,変わった気がした」「からだが,軽くなった気がした」「からだの動きが,変わったように感じた」「自体(自分の体)の細部の統合に関わる感覚」「運動主体感/意思作用感」などの効果が見出されました。

この他にも、臨床動作法の効果について、統合失調症の陽性症状や陰性症状が改善された研究などもあります。

④臨床動作法のやり方

臨床動作法にはさまざまな方法があります。当コラムでは4つの手法を紹介します。

1.肩上げ課題

まず1つ目は「肩上げ課題」です。具体的な手順は以下の通りです。

①片方の肩をゆっくり上げる
純粋に肩だけ上げていくイメージで、他の部分に余計な力を入れないようにするのがコツです。自分の感覚でゆっくり肩を上げていきます。頂点に達したら、その状態をしばらくキープします。なお、両肩を上げて進めていく援助のやり方もあります。

援助者としてはクライエントの体験様式を見立てながら、仮説を立て、それを検証しながらクライエントの困り感を解消する方向へ援助していきます。

②ゆるめる

少しきついなという感じが出たら、少し待ってみます。その時点での境界を明確にし、それを克服していく過程が大切だと考えています。

援助としては、目に見える一定の場所や位置ではなく、その時のクライアントにとっての「課題」となる部位や状況で適切な緊張に持ち込むよう援助できるかどうかがポイントになってきます。

③余韻を味わう
ぽかぽかじわーとした自体感を味わいます。自体感とは「今ここに自分がしっかりと存在しているという自己確実感」を意味します。自己有用感、自己効力感、自尊感情等、の用語でも言い換えることができます。これを左右順番に、数セット行います。

セット数について、力の要れ加減が分からない人は、筋肉痛を起こしてしまうことがあります。援助者としては、きつくなってきた境界を判断し、自分自身で弛められる感じ、自分でゆるめられた体験を大切にするよう促します。

*肩上げ課題の狙い
緊張と弛緩、2つの状態を実感することで、普段の生活でも、緊張している自分の状態に気付き、緊張をほぐす感覚を養います。

2.肩押し課題

次は、2人一組で行う「肩押し課題」です。まず、ひとりは椅子か床に楽な恰好で座ります。もうひとりは後ろに立ってゆっくり圧を加えます。

①両肩に手を乗せる
座っている人の両肩に、手のひらを優しく乗せます。

③圧力を加える
じっくり圧を加えていきます。手が沈み込んでいくようなイメージです。8~12秒程度で一拍休みます。

④ゆるめる
ゆっくりと圧を抜きます。10秒ぐらいかけてゆっくりゆっくり力を抜きます。

⑤余韻を味わう
ぽかぽかじわーとした余韻を感じましょう。お互いの呼吸を合わせながら行うと効果的です。相手の呼吸に合わせて圧を加える、力を緩めるリズムが整っていると、お互いが心地よく感じられます。

臨床動作法

*肩押し課題の狙い
セッションの後はお互い感想を言い合いますが、この時、「気持ちが良かった」「嬉しかった」という感想を話される方がほとんどです。この臨床動作をお互いに行うことで、体の緊張の弛緩、精神のリラックス、基本的な信頼感が育まれるのです。

*肩押し法については、以前は行われていた先生が多かったのですが、現在では、実施者が少なくなっています。

3.腰弛め課題

次に「腰弛め課題」をご紹介します。まずはイスの上に座るか、あぐらで座りましょう。

①足を肩幅程度に開く
イスの場合は足を腰幅に開き、内股にならないよう、膝をつま先方向にまっすぐにします。

②ゆっくりと前屈する
ゆっくり股関節を折るようにして、腰・肩・頭という具合に上体をゆるめながら前屈していきます。

③ゆるめた感じを味わう
ゆるめた感覚をゆっくり味わいます。イスの場合は、うっ血しないように適切な時間で上体を起こしましょう。

④左右の足それぞれで行う
次に、左右片方ずつ、足の上に上体を乗せてゆるめます。そして、ゆるめた感覚を味わっていきます。最後にもう一度、重心を真ん中に戻してゆるめた感覚を味わいます。

*腰弛め課題の狙い
身体感覚に注意を向けることで、緊張やゆるみに気づき、落ち着きを取り戻すことができます。

4.軸つくり:タテ系動作課題

最後に「軸つくり」をご紹介します。「腰弛め」動作でリラックス感を味わった後、そのまま「軸つくり」動作に取り組んでいきます。

①ゆっくりと上体を起こす
まず、頭をゆっくり起こします。

②頭と背骨を一直線にする
起こした頭と背骨が一本の真っ直ぐな棒のようなイメージを作ります。

③ゆっくりと前屈する
次に、胸を反らせながら、その棒が真っ直ぐに起き上がっていくイメージで、丁寧に上体を起こしていき、腰の上に上体をのせてきます。

④自体軸を確認する
身体をタテにすると、自分自身の存在と活動の軸となるを「自体軸」が生まれます。この体の芯の部分を確認していきます。

*軸つくりの狙い
タテ系動作訓練とは、折れたり屈がったりしようとする体の動きを抑えて、意識的に体軸・身体軸をタテにできるようにする援助法です。姿勢を改善したり、空間認識能力を高めることができます。

まとめ

肩上げ課題は、緊張感を強く感じた日や、不安を感じているときに取り入れるのがおすすめです。身体の緊張が緩めば、こころもほぐれてきます。自分の身体やこころの様子をしっかり感じてみてください。

また、とけあい動作法を行うと、身体の心地よさが体験でき、理屈なしに身体が安心感を味わえます。また、2人で行うと、セラピストのやさしさを実感し、自然と肯定的な気分に満たされていきます。

15年前に感じた臨床動作法の温かい感覚は、今でも体に残っています。なんとも不思議で温かい療法であると今でも実感しています。是非試してみてくださいね。

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
 
[1] 成瀬 悟策 (2002).   創造性と日本の社会. 特集 臨床動作法の 誕生と展開   学術の動向,,19-23.
 
[2] 日本臨床動作学会(編)(2000). 臨床動作法の基礎と展開   コレール社
 
[3] 阿部 達彦・瀧澤 聡・伊藤 政勝・石川 大 (2017).  肢体不自由児の動作法に関する一考察  北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要,8,27-37.
 
[4] 上倉 安代・清水 良三 (2013).  統合失調症者の適応的社会生活活動性および退院促進にかかわる動作法の効果   臨床動作学研究, 18, 27-38. 
 
[5] 上倉 安代(2020). 動作療法のメカニズムに関する基礎的研究 -「自己意識(「自己主体感」と「身体的所有感」)に焦点を当てて –  臨床動作学研究, 25, 1-13.
 

*その他 参考文献
織田島 純子(2009). 災害・事件後の心のケア養成研修会資料  セルフケアとしての動作法  Retrieved from http://ajcp.info/heart311/text/odajima3.pdf (August 24, 2020)