遊戯療法①やり方,効果,種類などを基礎
みなさんこんにちは。公認心理師の川島です。こちらの心理学講座で講師をしています。私たちは心理療法の知識をみなさんにわかりやすくお伝えしています。今回のテーマは「遊戯療法」です。
本格的な遊戯療法は専門機関で行われますが、その思想や手法は学校や幼稚園の先生、保育士の方など、子どもに関わる職業の方におすすめです。また親子の間でも、とても役に立つ心理療法です。是非最後までご一読ください。
目次
①遊戯療法と歴史
②遊戯療法の特徴
③遊戯療法と様々な手法
④遊戯療法と事例紹介
⑤効果研究
①遊戯療法と歴史
意味
心理学辞典(1999)[1]によると、遊戯療法は以下のように定義されています。
子どもを対象とし、遊びを通じて行う心理療法を意味する。子どもは言葉のやり取りによって自分の気持ちを表現することがまだ十分にできない。そこで、遊びを代わりに用いることで、ありのままの自己表現を促し、自己成長へと向ける。
(一部簡略化)
始まりは精神分析
遊戯療法以前、オーストリアの精神科医で心理療法家のジークムント・フロイトが精神分析という手法を発展させていました。精神分析とは、「私たちの問題となる行動や葛藤は、無意識の世界が影響している」というものです。その精神分析を学習する一人に、オーストリアの精神分析医であるヘルミーネ・フーク-ヘルムート[2]がいました。
ヘルムートは「子供の魂の人生から」というプロジェクトを発足させ、子供の精神分析について研究をしていきます。その過程でヘルムートはある発見をします。
精神分析は通常、自分の過去を回想し無意識を探ります。しかし、子どもはそれに消極的であり、自分の感情を言葉にすることが難しく、ヘルムートは悩みます。
そして、子どもを分析するために「遊び」が重要であること、遊びを通して自分を表現するために遊具やおもちゃが有効であることに気がついたのです。
しかし残念ながら、ヘルムートの研究はそこまで有名にはなりませんでした。
アンナ・フロイトと遊戯療法
ヘルムートの研究をさらに発展させたのは、主にアンナ・フロイトとメラニー・クラインといえるでしょう。
アンナ・フロイトは、精神分析の創始者で有名なジークムント・フロイトの娘にあたります。アンナは1925年前後から、本格的に児童の精神分析を始めます。
最初の出版物は「精神分析入門:児童アナリストと教師のための講義」でした。これはアンナが実際に子どもと接するときに行っていた手法をまとめたものです[3]。
アンナは「子供が絵を描いたり遊んだりするなかで表現されるものは、無意識の葛藤が隠れている」と考え、これを治療に役立てようとしました。
さらにアンナは、遊戯療法は「精神分析だけでなく、親と子の信頼関係を築く手段でもある」と主張しました。単に分析を目的とするだけでなく、親と子の関係をよりよくしようとした点に特徴があります。
メラニー・クラインと遊戯療法
アンナ・フロイトと双璧をなすのは、メラニー・クラインです。クラインはウイーン出身の精神分析家です。アンナ・フロイトと同じく精神分析を基盤にしています。
クラインは、プレイセラピーという手法を提唱しました。プレイセラピーは、おもちゃや人形などがある部屋で子どもに遊んでもらい、深層心理を探っていくという手法です。
遊戯療法においては、アンナとクラインはお互いの理論について激しく闘争し合います。その結果、遊戯療法は様々な学派に別れていきました。
その他の重要な人物に興味がある方は、以下を展開してみてください。
②遊戯療法の特徴
遊戯療法は様々な学派に別れていますが、共通する特徴がいくつもあります。以下を入門としておさえておきましょう。
実施場所
遊戯療法は、
病院のカウンセリングルーム
学校のカウンセリングルーム
児童養護施設
市区町村などの相談施設
民間の施設
などで行われます。各施設には「遊戯室」が設置されます。子どもはそこで思う存分遊び、「遊び」を通して自分の心を表現します。治療者は遊びに加わり観察をすることで、子どもの心の状態を理解し、不安や悩み、心の病気を治療していきます。
対象年齢・回数
概ね3歳~12歳前後までの子どもを対象に行われます。1年から3年程度続けるケースが多いと言えます。須藤(2018)[4]は、遊戯療法の国内外の論文を精査し、「概ね35回前後のセッションが効果的である」としています。
遊戯室の雰囲気
遊戯室には、積み木、人形、ままごと道具、お絵描きセット、ボールや鉄砲など、さまざまなおもちゃがあります。場合によっては砂場や水遊びができる場所なども備わっています。安全が十分に配慮された、安心できる空間で遊ぶことができます。
*雰囲気は下記を参照ください。
対象となる児童
遊戯療法は様々な児童の心理的問題に対して行われます。具体的には以下のような問題が挙げられます。
自閉スペクトラム症 ADHD 選択性緘黙 分離不安症 アタッチメント障害 PTSD 不登校 問題を抱える親子 など
子どもにはたくさんの悩みや問題が溢れていますが、子どもは自分自身のことを言葉にして伝えることが困難です。遊戯療法は、子供の抱える問題や、問題の原因・維持要因を把握する上での参考としても活用されています。
③遊戯療法と様々な手法
遊戯療法には様々な手法が存在します。それぞれ特徴があるため、子どもの問題や特徴に合わせて使い分けることが大切です。
自由遊び療法(Non-Directive Play Therapy)
自由遊び療法は、ヴァージニア・アクスラインが提唱した方法で、子どもが好きなように遊べるようにすることで、心の中にある悩みや気持ちを表現してもらう治療法です。
治療者(先生のような人)は何も指示をせず、ただ子どもを見守りながら、優しく受け入れる姿勢を見せます。遊びを通じて子どもが自分自身で感情を整理し、安心して自分を表現できる環境を作ることが目的です。
例えば、絵を描いたり積み木を使ったりして遊ぶことで、子どもが自分の気持ちを自然に表せるようになります。この方法は「子ども自身が癒やされる力」を大切にしています。参考文献は、アクスラインの『Play Therapy』(1947年)です。
※写真はイメージです
指示的遊び療法(Directive Play Therapy)
指示的遊び療法は、デヴィッド・レヴィが考案した方法で、治療者が遊びの内容や進め方を少し導いていく遊び方です。子どもの問題や悩みに応じて、特定の遊びを提案し、気持ちや経験を引き出すようにします。
例えば、子どもに人形を使って家族の出来事を再現してもらい、それを通じて家庭での困りごとや葛藤を表現してもらいます。この方法では、子どもが抱えている不安やストレスを軽くすることを目指します。治療者は遊びを一緒に進めながら、子どもが安心して問題を乗り越えられるよう手助けします。参考文献は、レヴィの「Release Therapy」(1938年)です。
※写真はイメージです
サンドプレイ療法(Sandplay Therapy)
サンドプレイ療法は、ドラ・カルフが開発した治療法で、子どもが砂箱とミニチュアの人形や道具を使って自由に世界を作る遊びです。この遊びの中で、子どもは心の中にある気持ちや問題を自然に表現します。砂で山や川を作ったり、小さな人形を置いて物語を作ったりすることで、無意識の感情や考えが見えてきます。
治療者は子どもの作ったものを注意深く観察し、そこに表れている心のテーマや不安を理解します。この方法は、子どもが安心して自分を表現できる環境を作るのにとても役立ちます。参考文献は、カルフの『Sandplay: A Psychotherapeutic Approach to the Psyche』(1980年)です。
※写真はイメージです
人形療法(Doll Play Therapy)
人形療法は、メラニー・クラインが提唱した方法で、人形を使って子どもが無意識の気持ちや心の中の問題を表現する治療法です。子どもが人形を使って家族や学校の場面を再現することで、その中にある不安や悩みが明らかになります。例えば、子どもが人形を使って「この人はお母さん、これはわたし」と物語を作ると、家庭での困りごとや不安な気持ちが見えてきます。
治療者は子どもの遊びを観察し、何が問題になっているのかを一緒に理解していきます。この方法は、特にトラウマや不安症のある子どもに効果的です。参考文献は、クラインの『The Psycho-Analysis of Children』(1932年)です。
※写真はイメージです
④遊戯療法の進め方
遊戯療法では、子どもの様子を観察し、気持ちを言い換えたりする中で、悩みなどを解決していきます。実際のやり方については、それぞれの手法により異なりますが、以下の5項目は共通しています。
①日常の行動
子どもが日頃、どのように行動しているのか推測する。
②本当の気持ち
遊びの背景にある、子どもの気持ちを推測する。
③治療目標
無理のない範囲で達成できそうな目標を立てておく。
④主訴以外の課題
目に見える悩み(主訴)以外の課題はないか検討し、治療についての目標を設定する。
⑤言葉がけ
これらに沿って、治療者は子どもへの言葉がけについて考える。
以下の折り畳みは、臨床現場での実際の事例をもとに作成しました。遊戯療法の進め方について興味がある方は参考にしてみてください。
⑤効果と研究
なぜ効果があるの?
子どもは不安や悩みなどを人に上手に伝えることができません。そこで「遊び」を通し、自分の心の中の様子を表し不安などを和らげていきます。言葉で表すことが苦手な子供にとって、「遊び」はとても大切なコミュニケーションツールなのです。
遊戯療法は子どもの不安や悩み、心の病気などを治療するだけでなく、子ども自身が治療者と一緒に本来の自分(自己)を探し発見できます。
自分ってどんな人だろう?という内省が深まり、不安や怒りなどの感情も上手にコントロールできるようになるのです。
効果研究
水島ら(2008)[5]は、中学生以下の児童25名を対象に、遊戯療法の効果を検討しました。その結果が以下の図です。
攻撃性、拒否の大きさが9回目以降に減っていることがわかります。遊戯療法は、ある程度継続して実施していく必要があると言えます。
一方で同研究では、自主性なども同じく低下していくという、遊戯療法の狙いとは異なる結果も得られています。遊戯療法は子供対象とした研究で、評価者の主観によることがあるため、効果の実証が難しいという問題点もあるのです。
発展とまとめ
発展,アイクスライン8つの原則
遊戯療法入門では、5つのポイントを元に、実際のやり方を解説しました。遊戯療法を本格的に実施する立場の方は、アイスクライン8つの原則をおさえることをおすすめします。心理師、保育士、子供と関わる仕事をされている方は是非ご一読ください。
まとめ
私自身、現在3人の子育てをしています。子どもは日々遊びながら、喧嘩をしたり、笑ったり、葛藤しながら遊んでいます。そして遊びを通して、身体の感覚、感情の感覚、言葉の感覚を養い、全てが一連につながっていくのです。
私たち大人にできることは、遊びの環境を作ることです。そしてそこで、子供が主体的に考え、自己を開放していくことで、遊びを通して悩みを解決し、自信をつけていけるのだと思います。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連