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漸進的筋弛緩法


漸進的筋弛緩法の効果とやり方,注意点

みなさんこんにちは。作業療法士の石橋、公認心理師の川島です。私たちはこちらの心理学講座を開催しています。今回のテーマは「漸進的筋弛緩法」です。

漸進的筋弛緩法

漸進的筋弛緩法は、からだと心のリラックスを獲得できる伝統的な手法です。緊張しやすい、不安になりやすい、不眠傾向がある、というお悩みに効果があります。是非最後までご一読ください。

漸進的筋弛緩法とは?

定義

漸進的弛緩法は、心理学辞典(1999)[1]で以下のように定義されています。

まず身体の一部分(たとえば右腕の筋肉)から弛緩させ、しだいに身体の主要な筋肉の弛緩を始め、最終的には全身の筋肉をすべて弛緩させていく技法である。

【中略】いったん筋肉を緊張させてから弛緩させる方法をとっているので、その落差が大きく、筋肉が弛緩した状態に気づくことを狙いとする。

“漸進的”という言葉には「順を追って段々と目的に到達する」という意味があります。順を追って緊張と弛緩を繰り返し、リラックス状態にたどり着くことができるのです。

提唱者

漸進的筋弛緩法は、アメリカの精神科医であるエドモンド・ジェイコブソンの1908年の研究が元になっています。ジェイコブソンは、低微小電圧装置を使い、筋肉の緊張と精神活動の関係を分析しました。このような研究は当時画期的なものでした。研究の結果、

精神の緊張は筋肉の収縮をもたらす
筋肉の弛緩と精神的リラックスは関係する

これらの関係があることを発見したのです。その後1928年、ジェイコブソンは、実際に筋肉に力を入れたり、ゆるめたりを繰返すことで、身体と精神をリラックスさせる漸進的筋弛緩法を開発していきました。[2]

対象

漸進的筋弛緩法は心身の緊張を和らげるリラックス法として、様々な場面で使われる汎用性の高い手法です。

精神科のデイケア
がん患者への指導
スポーツ場面
ビジネスの緊張場面

筋弛緩法をマスターすると、リラックス効果が得られるだけでなく、日常的な不安や抑うつ感も改善できます。私の相談者の方で、実際に成果を出された方の一例を折りたたんで掲載しました。興味がある方は、展開してみてください。

20代の男性であるAさんは、ある日突然、満員電車に乗っている時に、次のような経験をしました。

心臓がどきどきする
やたらと汗をかく
呼吸が荒くなる

その後は込み合った電車に乗るたび、上記の症状が現れるようになりました。この症状があるために、電車に乗ることが難しくなり、学校も休みがちになりました。医師に相談したところ、パニック障害と診断され、薬が処方され、また漸進的筋弛緩法のやり方を教わりました。

Aさんは、漸進的筋弛緩法を練習することで、身体をリラックスさせる感覚を身に着け、電車で緊張が出た場合は、一度降りてベンチで筋弛緩法をするようにしました。その結果、緊張しつつも、苦手であった電車にも乗ることができるようになりました。

30代の女性であるBさんは、あがり症で悩んでいました。仕事柄、人前で話す機会が多いのですが、直前になると次のような症状が出てきます。

緊張がおそってくる
こえが震える
足がふるえる

B子さんはこれらの症状を改善しようと、カウンセリングを受け、漸進的筋弛緩法のやり方を教わりました。

B子さんは、漸進的筋弛緩法を練習することで、身体をリラックスさせる感覚を身に着けました。そして、人前に立つ30分前に、休憩室で筋弛緩法をするようにしました。その結果、多少の震えは残りましたが、落ち着いて人前に立てるようになりました。

 

効果研究

漸進的筋弛緩法は、様々な研究において効果が実証されています。以下にそれぞれ折りたたんで記載しましたので、気になる項目を展開してみてください。

秋葉ら(2013)[3]は、大学生13名を対象に、週1日×4回の漸進的筋弛緩法を行い、その効果を検証しました。その結果の一部が以下の図です。

漸進的筋弛緩法と快適度

このように、実施後の方が「快適度」のグラフが伸びていることがわかります。回数を重ねるごとに、実施前後の快適度の差が大きくなっていることもわかります。漸進的筋弛緩法を行うことで、不快感が和らぎ快適な気分が高まると考えられます。

近藤(2008)[4]は、入院中のがん患者に対して、漸進的筋弛緩法のトレーニングを2週間実施し、免疫機能について調査を行いました。免疫機能については、S-IgA(唾液中分泌型免疫グロブリンA)の値で比較しました。

その結果が以下の図です。

漸進的筋弛緩法と免疫機能の関係

漸進的筋弛緩法の「前」よりも「後」の方がグラフが伸びていますね。S-IgAの数値は、筋弛緩法の前後で205μg/mlから395.7μg/mlに上がっています。つまり、筋弛緩法を行うことで、免疫機能を高めることができると考えられます。

近藤(2008)[4]の研究では、漸進的筋弛緩法と血圧の関係についても調査が行われました。その結果が以下の図です。

漸進的筋弛緩法と血圧の研究漸進的筋弛緩法の「前」よりも「後」の方が、グラフが下がっています。筋弛緩法によって、血圧は121.2mmHgから115.8mmHgに低下しています。筋肉を緩めリラックスすることで、血の巡りも良くなっていくのですね。

近藤(2008)[4]の研究では、漸進的筋弛緩法と脈拍の関係についても調査が行われました。その結果が以下の図です。

漸進的筋弛緩法と脈拍 心理学研究

漸進的筋弛緩法の「前」よりも「後」の方がグラフが下がっています。筋弛緩法によって、1分間に68.5回の脈拍が65.1回に低下しています。体の緊張を緩めることで、呼吸が穏やかになり、安定することがわかります。

 

3分漸進的筋弛緩法

漸進的筋弛緩法は、簡便的なやり方からしっかり行うやり方まであります。当コラムでは、医師の富岡(2017)[5]の短時間で行う方法と、文部科学省の提唱する方法の2つを紹介します。以下は富岡が紹介する手法を筆者がアレンジしたものです。まずは気楽に試してみてください。

①手と腕のエクササイズ

まずは両手を握り腕を曲げます。

60%ぐらい力を入れて、10秒キープします。

脱力し、10秒間、筋肉が弛緩している感覚をしっかり味わいます。

②肩のエクササイズ

左右の肩を上に持ち上げ、耳にくっつけるようにします。

10秒間、力を入れてキープします。

脱力し、10秒間、筋肉が弛緩している感覚をしっかり味わいます。

③顔のエクササイズ

目を固く閉じ、目と鼻を近づけるようにします。
口はひょっとこのようにとがらせます。

10秒力を入れてキープします

脱力し、10秒間、筋肉が弛緩している感覚をしっかり味わいます。

①~③は必要に応じて各2~4セット行うといいでしょう。目安は3分程度となります。

10分漸進的筋弛緩法

次に時間をかけて行う筋弛緩を解説します。[6]

1.両手,両腕
両腕を伸ばし、掌を上にして、親指を曲げて握り込む。10秒間力を入れ緊張させる。手をゆっくり広げ、膝の上において、15~20秒間脱力・弛緩する。筋肉が弛緩した状態を、しっかりじっくり味わう。

(以下、1と同じ要領で、筋肉に力を入れて10秒間緊張させたあと、15~20秒間脱力・弛緩します。しっかりと脱力感を味わうことが重要です。)

2.上腕
握り拳を肩に近づけ、曲った上腕全体に力を入れる。

3.背中
曲げた上腕を外に広げ、肩甲骨を引き付ける。

4.肩
両肩を上げ、首をすぼめるように肩に力を入れる。

5.首
右側に首をひねる。左側も同様に行う。

6.顔
口をすぼめ、顔全体を顔の中心に集めるように力を入れる。
(筋肉が弛緩した状態=口がぽかんと開いている状態)

7.腹部
腹部に手をあて、その手を押し返すように力を入れる。

8.足
a:爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉を緊張させる。
b:足を伸ばし、爪先を上に曲げ、足の上側の筋肉を緊張させる。

9.全身
1~8までの全身の筋肉を一度に10秒間緊張させる。
力をゆっくりと抜き、15~20秒間脱力・弛緩する。

それぞれの項目について、何セット行うかは自由に設定して大丈夫です。目安としては10分ぐらいで考えると良いでしょう。

漸進的筋弛緩法,脈拍

古典的な手法では、自分のリラックス状態が客観的に測定できる環境を設定します。例えば、脳波、心電図、筋電図、脈拍などが分かるようにします。

もちろん計測なしでも漸進的筋弛緩法は実践可能ですが、脈拍計などは比較的手に入れやすいので、このように計測してみると、効果がより実感できるかもしれませんね。

注意点

漸進的筋弛緩法はリスクが少ない手法ですが、

循環器系の疾患を抱えている方
身体の強い疲労がある方
実施時に強い不快感がある方

このような方は医師の指導の元で実施するようにしてください。

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まとめ

漸進的筋弛緩法を練習していくと、身体の緊張を緩める感覚が身につき、心のあり方も穏やかにすることができます。部位を選べば、電車の中、布団の中、オフィスでも実践することができます。体が緊張しているな…と感じる時にぜひ実践してみてください♪

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・出典
[1]中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志 (1999).  心理学辞典  有斐閣
 
[2] 今別府 志帆・山田 重行(2009).  在宅療養者での漸進的筋弛緩法の習得過程におけるリラックス反応  日本看護技術学会誌,8, 57-64.
 
[3] 秋葉 茂季・立谷 泰久・高井 秀明・三村 覚(2013).  競技者における漸進的筋弛緩法の継続的実施が心身に与える影響 ―心理状態と筋電位による検討―  日本体育大学スポーツ科学研究, 2, 40-47,
 
[4] 近藤 由香(2008). がん患者に対する漸進的筋弛緩法の継続介入の効果に関する研究  日本がん看護学会誌, 22, 86-97.
 
 
[6] 文部科学省(2021). CLARINETへようこそ 第2章 心のケア 各論 文部科学省 Retrieved from https://mext.go.jp/a_manu/shotou/clarinet/002/003/010/004.htm (June 16, 2021)