みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、遊戯療法シリーズの2本目です。「非指示的遊戯療法」をテーマに解説していきます。
非指示的遊戯療法とは、子どもが自分で成長し、問題を乗り越えていく力を信頼し、治療者が遊びを指示せずに子どもの主導についていく遊戯療法のことです。アメリカの心理学者バージニア・アクスラインが、カール・ロジャーズの来談者中心療法をもとに1940年代に体系化し、現在の子ども中心遊戯療法の土台になっています。
今回は、提唱者アクスラインと8つの原則、そして原則に沿った言葉がけのコツを解説します。目次は以下の通りです。
目次
①非指示的遊戯療法とは
非指示的遊戯療法は、治療者が子どもをコントロールせず、子ども自身の成長する力を信頼する点に特徴があります。まずは、その考え方と、提唱者アクスラインについて確認しましょう。
子どもの力を信頼する
非指示的遊戯療法の土台には、来談者中心療法と同じく、「人には、本来、自分らしく成長しようとする力が備わっている」という考え方があります。子どもも同じように、安心できる関係の中で自由に表現できれば、自分で気持ちを整理し、行動を変えていく力を持っていると考えます。
そのため治療者は、「〜しなさい」「今日は〜で遊ぼう」といった指示をせず、子どもが選んだ遊びについていきます。そして、遊びの中に表れた気持ちを受け止め、言葉にして返していきます。
提唱者アクスライン
非指示的遊戯療法の提唱者は、アメリカの心理学者バージニア・アクスライン(Virginia M. Axline, 1911-1988)です。

アクスラインの経歴を調べたターリー・スティッチ[1]によると、アクスラインはインディアナ州に生まれ、オハイオ州コロンバスで育ちました。小学校の教師として働いた後、オハイオ州立大学の大学院で学び、そこでカール・ロジャーズと出会います。その後、シカゴ大学のカウンセリングセンターでロジャーズとともに働き、のちにコロンビア大学でも教えました。
1947年には、著書『遊戯療法(Play Therapy)』[2]で8つの原則を発表しました。また、1964年に出版した、心を閉ざした少年ディブスとの遊戯療法の記録『Dibs in Search of Self』は、今も広く読まれています。
指示的な方法との違い
遊戯療法には、治療者が遊びの内容をある程度導く「指示的遊戯療法」もあります。指示的な方法では、治療者が子どもの悩みに合わせて遊びを提案するのに対し、非指示的遊戯療法では、何で遊ぶか、どう遊ぶかを子どもが決めます。
他の手法との違いは、シリーズ1本目の遊戯療法の代表的な4つの手法で解説しています。
②アクスラインの8つの原則
アクスラインの8つの原則とは、非指示的遊戯療法で治療者がとるべき基本的な態度をまとめたものです。子どもの自由を尊重しながら、必要な制限だけを設ける点が特徴です。
8つの原則の一覧
アクスライン[2]が示した8つの原則は、以下の通りです。
①温かい関係をつくる
治療者は、子どもとの温かく親しみのある関係(ラポール)を、できるだけ早くつくる。
②ありのままを受け入れる
治療者は、子どもをありのままに受け入れる。
③自由な雰囲気をつくる
治療者は、子どもが気持ちを自由に表現できる、許容的な雰囲気をつくる。
④気持ちを察して返す
治療者は、子どもが表している気持ちに気づき、子どもが自分の行動に気づけるように、その気持ちを返していく。
⑤子どもの力を尊重する
治療者は、子どもが自分で問題を解決する力を尊重する。選ぶことや変わることの責任は、子どもにある。
⑥子どもについていく
治療者は、子どもの行動や会話をどのような形でも導こうとしない。子どもが先を行き、治療者がついていく。
⑦急がない
治療者は、治療を急がせない。治療はゆっくり進むものだと理解する。
⑧必要な制限だけを設ける
治療者は、治療を現実の世界につなぎとめ、関係の中での子どもの責任に気づかせるために必要な制限だけを設ける。
3つのまとまりで理解する
8つの原則は、3つのまとまりに分けると覚えやすくなります。①〜③は、安心できる関係と雰囲気をつくる原則です。④〜⑥は、子どもの気持ちと主体性を大切にする原則です。⑦と⑧は、時間と制限という、治療の枠組みに関する原則です。
この中で、「自由」と「制限」は矛盾しているように見えるかもしれません。しかし、どこまでが許されるのかがはっきりしているからこそ、子どもは安心して自由に表現できると考えられています。
治療者に求められる姿勢
8つの原則を実践するには、治療者自身が落ち着いた、安定した態度で子どもに関わることが大切です。子どもが攻撃的になったり、黙りこんだりしても、治療者が動揺せずに受け止めることで、子どもは安心感を得やすくなります。
治療者はただ子どもと遊べばよいのではなく、遊びの様子や、その背景にある気持ちに、十分な注意を払う必要があるのです。
③原則に沿った言葉がけ
8つの原則は、具体的な言葉がけにすると、日常でも使いやすくなります。ここでは、子どもと遊ぶ場面で取り入れやすい4つの言葉がけを、避けたい言葉とあわせて紹介します。
行動をそのまま言葉にする
子どもがしていることを、評価を加えずにそのまま言葉にします。原則⑥の「子どもについていく」姿勢を、言葉で伝える方法です。子どもは「ちゃんと見てもらえている」と感じやすくなります。
言葉がけの例:「車を高いところから走らせているね」
避けたい例:「上手だね!次はこっちで遊ぼう」
気持ちを映し返す
遊びの中で子どもが見せた気持ちを、短い言葉で返します。原則④の「気持ちを察して返す」にあたります。気持ちを否定したり、すぐに励ましたりせず、まずは受け止めることがポイントです。
言葉がけの例:「積み木が倒れて、悔しかったんだね」
避けたい例:「そんなことで怒らないの」
決める役割を子どもに返す
子どもに「どうすればいい?」と聞かれたときに、大人が答えを決めずに、選ぶ役割を子どもに返します。原則⑤の「子どもの力を尊重する」にあたり、自分で決める経験が、自信につながっていきます。
言葉がけの例:「ここでは、あなたが決めていいよ」
避けたい例:「じゃあ、お絵描きにしなさい」
必要な制限を伝える
人を叩く、物を壊すなど、安全にかかわる行動には、原則⑧に沿って制限を伝えます。一般的には、終わりの時間、治療者や自分を傷つけないこと、部屋の物を持ち帰らないこと、などの制限が設けられます。
伝え方は、ランドレス[3]の「ACTモデル」が参考になります。気持ちを受け止め、制限を伝え、代わりの行動を示す、という3つの順番です。詳しくは、シリーズ1本目の家庭や保育で活かす関わり方も参照ください。
言葉がけの例:「怒っているんだね。でも、人は叩かないよ。このクッションなら叩いていいよ」
避けたい例:「叩くなんて悪い子だね」
④場面で考えてみよう
ここでは、実際の遊びの場面で、8つの原則に沿った言葉がけを考えてみましょう。場面を読んで、自分ならどう声をかけるかを考えた後に、解説を開いて確認してください。
場面1 何で遊べばいいの?
はじめて遊戯室に来た5歳の男の子が、部屋の入り口で立ち止まっています。
しばらく部屋を見回した後、治療者に「何で遊べばいいの?」と聞いてきました。
場面2 まだ帰りたくない!
小学2年生の女の子が、人形遊びに夢中になっています。
終わりの時間が来たことを伝えると、「まだ帰りたくない!もっと遊ぶ!」と言って、人形を抱えたまま座り込んでしまいました。
⑤確認してみよう
最後に、非指示的遊戯療法の基本的な姿勢を、問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1 遊びを決めるのは
非指示的遊戯療法で、何で遊ぶかを決めるのは誰でしょうか。
ア:治療者
イ:子ども
ウ:保護者
問題2 気持ちを返す言葉
原則④「気持ちを察して返す」に沿った言葉がけはどれでしょうか。
ア:泣かないで、もっと楽しい遊びをしよう
イ:うまくいかなくて悔しいんだね
ウ:次はこうやってみたらどう?
問題3 選ぶ役割を返す
子どもに「どれで遊べばいいの?」と聞かれたとき、原則⑤に沿った返し方はどれでしょうか。
ア:ここでは、あなたが決めていいよ
イ:積み木で遊びなさい
ウ:先生は人形がいいと思うな
問題4 制限を設ける場面
非指示的遊戯療法で、治療者が制限を設けるのはどの場面でしょうか。
ア:子どもが黙って座っているとき
イ:子どもが治療者を叩こうとしたとき
ウ:子どもが同じ遊びを繰り返すとき
⑥まとめ
非指示的遊戯療法は、子どもの成長する力を信頼し、治療者が子どもの主導についていく遊戯療法です。アクスラインの8つの原則は、専門家だけでなく、子どもと関わるすべての大人にとってのヒントになります。
今回のポイント
子どもの力を信頼し、遊びは子どもに任せる
行動と気持ちを、評価せずに言葉にして返す
選ぶ役割は子どもに返し、急がせない
安全にかかわる行動には、必要な制限を伝える
はじめから8つすべてを意識するのは難しいものです。まずは、子どもの行動や気持ちを言葉にして返すことから、試してみてください。
シリーズの振り返り
遊戯療法の歴史や、さまざまな手法、効果研究については、シリーズ1本目で解説しています。全体像をおさえたい方は、あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




