ソクラテス式質問法とは,認知療法の対話技法
「アドバイスしても、なかなか納得してもらえない」——そんな経験はありませんか?実は、直接アドバイスするより効果的な対話の方法があります。
みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
目次
コラム①で紹介した「適応的思考を増やす9つの質問」は、実は認知療法における「ソクラテス式質問法」という対話技法の考え方がベースになっています。今回はその正体を詳しく解説していきます。
①ソクラテス式質問法とは何か
名前の由来
ソクラテス式質問法(Socratic Questioning)は、古代ギリシャの哲学者ソクラテスが行った対話法(相手に問いを重ねることで、自ら気づきを得させる方法)に由来する名称です。認知療法の分野では、心理学者クリスティン・パデスキーが1993年の講演[1]でこの技法を整理し、以来CBTの中心的な技法の1つとされています。
「説得」ではなく「発見」
ソクラテス式質問法の最大の特徴は、カウンセラーが「その考えは間違っていますよ」と直接指摘したり説得したりするのではなく、質問を重ねることでクライアント自身に気づいてもらう、という点です。
人は他人から指摘されるより、自分自身で気づいたことの方が、納得感を持って受け入れやすいという性質があります。ソクラテス式質問法は、この人間の性質をうまく活用した技法だと言えます。
アドバイスとの違い
簡単な例で比べてみましょう。「上司に怒られてばかりで、自分は無能だと思う」という相談に対して、2つの対応を見比べてみてください。
*アドバイス型の対応
「そんなことないですよ。あなたは十分頑張っていますよ」
*ソクラテス式質問法の対応
「これまでの仕事で、うまくいったことは何かありますか?」
アドバイス型は、その場では気休めになっても、本人の中に「本当にそうかな」という疑いが残りがちです。一方、質問によって本人自身が「そういえば、あの案件はうまくいった」と思い出せると、より確かな実感として残ります。
②質問の4つの段階
パデスキーは、ソクラテス式質問法(ガイドされた発見)の流れを4つの段階に整理しました[1]。
①聞く(Informational Questions)
②共感する(Empathic Listening)
③まとめる(Summary)
④気づきを促す(Analytical & Synthesizing Questions)
ポイントは、矛盾に気づいてもらいたい時、指摘するのは④だけということです。①〜③では矛盾を指摘せず、材料を集めて並べる「下準備」に徹します。この4つを、太郎さんの相談を例に見ていきましょう。
<事例>
「同僚と少し意見が食い違っただけなのに、嫌われたに違いない」と落ち込んでいる太郎さん
①聞く(Informational Questions)
やること:まずは、何があったのかを自然に質問しながら聞いていきます。決まった聞き方があるわけではなく、普通に会話をする感覚で大丈夫です。その中で、本人がまだ気づいていない事実や、考えと少し違う体験があれば、指摘はせずにそっと情報として集めておきます。
なぜ大切か:いきなり「考えすぎだよ」と否定せず、まずは事実そのものを本人の言葉で聞いていくことで、後で本人が自分の力で何かに気づくための材料が自然に集まっていきます。
気づきにつなげるポイント:ここでは何かに気づかせようと意識しすぎる必要はありません。普通に話を聞く中で、「あれ、ちょっと考えと違うかも」という体験が出てきたら、そのことをそっと覚えておく、くらいの感覚で十分です。
質問例:「意見が食い違った時、具体的に何があったの?」
太郎さんの答え:「僕が別の案を出したら、少し驚いた顔をされたんだ。でも、その後も普通に世間話をしてくれたんだよね」
(このやり取りの中で、「嫌われた」という考えと少し違う体験=「その後も普通に世間話をしてくれた」が、自然に出てきています。)
もし話の中で、本人の考えと食い違うような部分(矛盾)が出てきたら、その場で指摘するのではなく、カウンセラーはそこだけそっと深掘りしておきましょう。「その後も世間話をしてくれた、というのは具体的にどんな様子でしたか?」のように、もう少しだけ詳しく聞いておくと、後の③でまとめる時の材料がより強固になります。
②共感する(Empathic Listening)
やること:出てきた話を、否定も評価もせず、そのまま真剣に受け止めます。
なぜ大切か:ここで「でも、それって考えすぎじゃない?」と否定してしまうと、太郎さんは心を閉ざしてしまいます。安心して話せる雰囲気があるからこそ、本音や矛盾する事実も自然に出てきます。
気づきにつなげるポイント:矛盾する事実が出てきても、あえてそこを深掘りしたり指摘したりしません。「そう感じたんだね」と気持ちに寄り添うことに徹します。
聞き手の対応:「驚いた顔をされて、嫌われたかもって不安になったんだね」
太郎さんの反応:「うん……そうなんだ」(否定されなかったことで、話しやすくなる)
③まとめる(Summary)
やること:太郎さんの元々の考えと、①で自然に出てきた事実を、並べて整理して伝え返します。
なぜ大切か:「元の考え」と「新しく出てきた事実」を並べて見せることで、気づきにつながる材料がはじめて目に見える形になります。ただし、ここでもまだ「それって矛盾していますよね」とは言いません。
気づきにつなげるポイント:ここが今回一番のポイントです。「Aという考え」と「Bという事実」をただ並べて返すだけにとどめ、指摘は次の④に託します。
まとめの例:「別の案を出した時に驚いた顔をされて『嫌われたかも』と感じた。でも、その後も普通に世間話をしてくれた、ということだね」
太郎さんの反応:「うん、まさにそんな感じ」
④気づきを促す(Analytical & Synthesizing Questions)
やること:③で並べた「考え」と「事実」を突き合わせて、「この2つを一緒に見ると、どんなことが言えそう?」と問いかけます。
なぜ大切か:①〜③ですでに材料が揃っているので、この1つの質問だけで、太郎さんが自分の力で何かに気づけます。
気づきにつなげるポイント:「矛盾していますよね」と指摘するのではなく、「一緒に見ると、どう言えそう?」という開かれた質問にすることが大切です。答えを相手自身の言葉で言ってもらいましょう。
質問例:「『嫌われたかも』と感じたことと、『その後も普通に接してくれた』という事実。この2つを一緒に見ると、どんなことが言えそう?」
太郎さんの答え:「そうだね……本当に嫌われていたら、その後も普通に話しかけてくれないだろうから、嫌われたって決めつけるのは早かったかもしれない」
ポイントは、カウンセラーが「それは間違っていますよ」と答えを教えたのではなく、太郎さん自身が「聞く→共感する→まとめる→気づきを促す」という流れをたどる中で、自分の力で新しい見方にたどり着いたということです。
③実践で使えるフレーズ集
4つの段階ごとに、実際に使えるフレーズをまとめました。②と③は「質問」ではなく、受け止め方・まとめ方のフレーズです。
①聞く(質問)
「その時、具体的に何がありましたか?」
「これまで似たようなことはありましたか?」
「そう感じたきっかけは何でしたか?」
②受け止める(相づち・共感の言葉)
「そう感じたんですね」
「それはつらかったですね」
「なるほど、そう思ったんですね」
③まとめる(要約のフレーズ)
「つまり、〇〇ということですね」
「ここまでのお話をまとめると、〇〇ですね」
「〇〇と感じている、ということでしょうか」
④気づきを促す(質問)
「これらを一緒に見ると、どんなことが言えそうですか?」
「この2つを並べてみて、どう感じますか?」
「今の気づきを、次にどう活かせそうですか?」
④使う際のコツと注意点
誘導尋問にしない
「〇〇だと思いませんか?」のように、答えを誘導するような聞き方になっていないか注意が必要です。あくまで本人が自分の力で気づけるよう、開かれた質問を心がけましょう。
質問攻めにしない
次々と質問を重ねすぎると、詰問されているように感じさせてしまうことがあります。1つの質問に対する答えをじっくり受け止めてから、次の質問に進みましょう。
⑤もっと詳しく知りたい方へ
「詰問」との違い
ソクラテス式質問法は、しばしば「詰問(相手を問い詰めること)」と混同されます。しかし本来の目的は、相手を追い詰めることではなく、あくまで「一緒に発見の旅をする」という協働的な姿勢にあります[2]。
質問しながら「本当にこの人はついてきてくれているか」を確認し、相手のペースに合わせることが大切です。矢継ぎ早に質問を重ねて、相手が答えに詰まっているようであれば、一度立ち止まって共感的な言葉を挟むようにしましょう。
日常会話への応用
この技法は、カウンセリングの場だけでなく、家族や同僚との会話にも応用できます。例えば、悩んでいる友人に対してすぐに解決策を提示するのではなく、「これまでどう対処してきたの?」と一言尋ねてみるだけでも、相手が自分の力で答えを見つける手助けになります。
対象となるお悩み
ソクラテス式質問法は以下のお悩みと相性が良い技法です。
アドバイスをしてもなかなか納得してもらえない
人に説得されるのは苦手だが、自分で気づきたい
思い込みが強く、視野が狭くなりがち
誰かの相談に乗る機会が多い
あてはまると感じた方は、まずは身近な会話で1つの質問から試してみてください。
⑥理解度を確認する練習問題
ここまでの内容を踏まえて、2つの事例で練習してみましょう。
⑦自分に使ってみよう
ここまでは、カウンセラーや聞き手が相談者に対して使う場面を想定して解説してきました。実はこの4つの段階は、誰かに話を聞いてもらえない時、自分ひとりでも実践できます。
やり方はシンプルです。相手役がいない代わりに、自分自身に問いかけながら、紙やスマホのメモに書き出していきます。
①聞く:「具体的に何があったんだろう?」と、状況を書き出してみる
②共感する:「そう感じるのも無理ないよね」と、まず自分の気持ちを否定せず認める
③まとめる:「〇〇と感じているけど、△△という事実もある」とノートに書き出す
④気づきを促す:「この2つを見比べると、どう言えそう?」と自分に問いかけてみる
例えば太郎さんが一人で振り返るなら、こんな形になります。
①「意見が食い違った時、具体的に何があった?」→「別の案を出したら、少し驚いた顔をされた」
②「驚かれて不安になったのも、無理はないな」
③「『嫌われたかも』と感じているけど、その後も普通に世間話をしてくれた、という事実もある」
④「この2つを見比べると、どう言えそう?」→「嫌われたと決めつけるのは、少し早かったかもしれない」
誰かに話を聞いてもらう時ほどの効果は出にくいかもしれませんが、コラム法と組み合わせて、頭の中を整理する習慣にしてみてください。
⑧よくある質問と回答
最後に確認しよう!Q&A形式でよくある疑問にお答えします。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
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・行動療法の学習
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認知療法の基本モデルやコラム法の具体的な手順から確認したい方はこちら。
考え方の土台にある「スキーマ」について、幼少期の形成過程や具体的な種類まで詳しく知りたい方はこちら。
頭の中で考えを検証するのではなく、実際に行動して予測が正しいか確かめたい方はこちら。
認知行動療法シリーズ全体(行動療法・マインドフルネスへの展開)に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



