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来談者中心療法②エンカウンターグループ,Tグループ,民族紛争

エンカウンターグループ,Tグループ,民族紛争

みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

前回の来談者中心法コラム①では、提唱者や特徴、技法などを紹介しました。コラム②では、「エンカウンターグループ」について解説をします。

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エンカウンターグループとは?

定義・意味

来談者中心療法を提唱したロジャーズは、人種問題や民族紛争の解決に関心を寄せていました。これらの問題を解決するには、グループでの心理的援助が必要だと考え、集団を対象としたエンカウンターグループ(Tグループともよばれます)を発案しました。

エンカウンターグループは呼ばれ、心理学辞典(2013)[1]で以下のように定義されています。

感情的に打ち解けるほどの直接的な交流を通して、構成的に洞察すること、他者を感受すること、個人の成長が促進されることを目的に集まったグループ

特徴

エンカウンターグループでは、立場や考え方、国籍といった個人要因が異なる人たちが集まり、お互いを理解することで個人の成長を促します。

グループのリーダーは治療者としてではなく、介在者や進行役として機能します。そして理論や参加者の動機よりも今、ここでの感情や交流に焦点を当てていく事が特徴です。

こちらは『自己への旅』という、1968年アメリカのドキュメンタリー映画です。この映画では、これまで会ったことがなかった8人による16時間のグループセラピーセッションが描かれています。

セッションの参加者は、レジ係、神学の学生、教師、校長、主婦、そしてビジネスマンが3人です。進行役には、来談者中心療法を提唱したロジャースと心理学者のカールロジャーズが登場しています。

グループの形態・種類

エンカウンターグループの形態は大きく分けて「非構成的エンカウンター」「構成的エンカウンター」の2つがあります。

・非構成的エンカウンター
フリートークを主体に進めるスタイルで、メンバーは少人数で構成されます。事前に課題などは用意されていないため、自己紹介を兼ねたゲームなどが行われます。かなりの時間が必要なため、数日間合宿形式で行われるケースが多いです。

進行役が中心となり、感じたことを互いに言い合うシェアリングが行われます。そのため進行役には高い技術が求められます。

 

・構成的エンカウンター
用意された課題に基づいて進めていくスタイルです。課題をグループのメンバーで行い、その後互いが感じたことを言い合うシェアリングを行います。

課題を行う中で共通体験をし、互いを交流を深めることができます。学校や会社など、大人数での実施が可能です。事前にプログラム化できるため、経験が浅い場合でも進行役は可能と言えます。

 

種類

上記の2つのやり方をベースとして、以下の種類に細分化されて行われていきます。より詳しく理解を深めたい方は折り畳みを展開ください。

・タスクグループ
今に焦点を当て、実行・活動・処理を通して学習します。

・評価グループ
スキル、行動、ニーズ、および機能の評価に焦点を当てます。

・ディスカッショングループ
すべてのメンバーが共有できる共通のトピックに焦点を当て参加を促進します。

・発達グループ
メンバー同士が、社会的相互作用スキルを発達させることを目的にしています。

・自助グループ
支援的で教育的なグループです。たとえば、アルコール依存症など人生を狂わせて島ような大きな問題に対して、個人の成長に焦点を当てています。

・サポートグループ
危機の中で他の人を助けることに焦点を当て、危機がなくなるまで、そして通常は自助グループの前に、そうし続けます。

・アドボカシーグループ
自分自身を変えず、他の人やシステムを変えることに焦点をあてていきます。

・心理療法グループ
現在の個人を支援することに焦点を当てています。

 

効果

エンカウンターグループにはどのような効果があるのでしょうか。代表的なものとしては、以下の結果が報告されています。

友人関係が深まる

佐々木ら(2009)[2]は、友人関係と構成的グループエンカウンターとの関係性を調査しました。研究では、小学生172名を対象に、構成的グループエンカウンター介入の事前・事後に質問紙調査を行い、友人関係の得点を調べました。その結果が以下の図です。

このように、グループエンカウンター後の方が、グラフが伸びていることがわかります。つまり、課題を通じて共通体験し、交流を深めることで、友人関係が深まることが考えられます。

学習意欲が高まる

佐々木ら(2009)[2]は、構成的グループエンカウンター介入の事前・事後に質問紙調査を行い、友人関係の得点を調べました。その結果が以下の図です。

このように、グループエンカウンター後の方が、グラフが伸びていることがわかります。つまり、構成的グループエンカウンターを行うことで、学習意欲が高まることが考えられます。

抑うつ感が減る

桜井(2013)[3]は、抑うつと単発型構成的グループエンカウンターとの関係性を調査しました。研究では、「人間関係論」を受講した学生60名を対象に、ワークシートを用いて分析を行いました。

その結果が以下の図です。

抑うつとグループエンカウンター 来談者中心療法

 

このように、回数を重ねるにつれて、抑うつが低下していることがわかります。参加者と本音で交流しあう機会が増えることで、メンタルヘルスの状態も良好になると言えそうです。

怒りが減る

桜井(2013)[4]は、怒りと単発型構成的グループエンカウンターとの関係性を調査しました。研究では、「人間関係論」を受講した学生60名を対象に、ワークシートを用いて分析を行いました。

怒りとグループエンカウンター 来談者中心療法

このように、回数を重ねるにつれて、怒りが低下していることがわかります。構成的グループエンカウンターを繰り返し行うことで、イライラすることが少なくなると言えそうです。

 

紛争解決の手段

エンカウンターグループは紛争解決の手段として用いられた歴史があります。晩年のロジャーズは国際的な紛争解決や人種差別撤廃に向けて、中央アメリカ、南アフリカなどの問題に着手してきました。

特に有名な紛争解決に向けての活動として、北アイルランド紛争があります。今回は、この北アイルランド紛争の解決に向けたプロジェクトについて紹介します。[5]

「鋼鉄のシャッター」プロジェクト

北アイルランド紛争とは、カトリック教徒とプロテスタント教徒の争いです。この北アイルランド紛争の解決に向けて、ロジャーズを含めた研究チームがカトリック教徒とプロテスタント教徒のエンカウンターグループの実施を計画しました。その計画は

①エンカウンターグループを実施する
②エンカウンターグループの様子を映画化する
③イギリスやアイルランドで映画を上映する

というものでした。これは、「鋼鉄のシャッター」プロジェクトとして、映画や著書、論文としてまとめられています。

エンカウンターグループの内容

エンカウンターグループでは以下の内容で行われました。

話し合いでは、暴動や銃撃などあらゆる悲惨な紛争の現状について、それぞれが経験した内容が語られました。それぞれの対話を通して、互いの状況に共感したり、感情移入がありました。最終的には、メンバーの間で深い理解が示され、異なる宗派への考え方や気持ちの変化が見られました。

鋼鉄のシャッター

メンバーの男性は、「感情の中に長く居座っていると、自分が粉々に砕けてしまう」と表現しました。それに対して、あるメンバーが「みんな心の中に降ろす鋼鉄のシャッターを持っている」と話しました。

これは、紛争という極限の状況で、感情が暴走せずに正気でいられるのを、鋼鉄のシャッターによって抑えられていると表現したものです。他のメンバーもそれに共感する人がいました。

映画化

このエンカウンターグループの様子は映画化され、『鋼鉄のシャッター』として、上映されることになりました。映画はイギリスやアイルランド、アメリカなどで上映され、アイルランド紛争の現状を伝えています。こちらはその映画の様子です。

この映画を通して、対話による相互理解の大切さを伝えています。カトリックとプロテスタントそれぞれの立場の理解から信頼につながり、緊張はほぐれていったとしています。

紛争終結とその後

その後、北アイルランドの紛争は1997年に和平合意がなされ、停戦協定が結ばれています。エンカウンターグループによる働きかけは、小規模ながらも和平へと歩み寄るきっかけになっていたと考えられます。ロジャーズはこれが1000人、2000人規模でのグループだったら、もっと効果は大きかったと話しています。

エンカウンターグループは、対話による相互理解を促して、互いの信頼感を高めるという点で、国際的、文化的な紛争の解決に向けての糸口になっています。

まとめ

今回はエンカウンターグループについて紹介しました。集団心理療法は参加メンバーを鏡にして自分を知り、多くの知恵を得ることができます。

他者の様々な感情に触れることで相互作用が生まれ、参加しているメンバー個々の成長も促進できるのです。カウンセラーはもちろん、福祉職、医療職の方もしっかり理解しておきましょう!

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・出典
[1]・G.R.ファンデンボス、繁枡算男、四本裕子 (2013)APA心理学大辞典 培風館 P.80
 
[2]ゴールマン、ダニエル(1975)「目標設定、Tグループの参加、および自己評価の変化:実験的研究」応用行動科学ジャーナル.11(2):197–208
 
[3]桜井由美子(2013)単発型構成的グループ・エンカウンターのエクササイズによる気分の変化 キリスト教大学紀要第47号 237
社会科学 p.237~246
 
[4]佐々木 正輝  菅原 正和(2009)小学校のおける学校心理学的援助の方法と構成的グループエンカウンターの有効性 岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 8巻 p.107-11
 
[5]C.Patrick Rice(1978) The Steel Shutter  畠瀬稔,東口千津子(訳)(2003) 鋼鉄のシャッターー北アイルランド紛争とエンカウンターグループー コスモス・ライブラリー