みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは「来談者中心療法シリーズ」の2本目です。「エンカウンターグループ」をテーマに解説していきます。
エンカウンターグループとは、少人数のメンバーが率直な交流を通して、自分や他者への理解を深め、個人の成長をめざすグループ体験のことです(ロジャーズ, 1970)[1]。来談者中心療法を提唱したロジャーズが、その発展に大きな役割を果たしました。
目次は以下の通りです。
①エンカウンターとは
エンカウンターグループは、立場や考え方の異なる人たちが集まり、「今、ここ」で感じていることを率直に伝え合うことで、お互いを理解し、成長をめざすグループです。まずは定義と特徴を確認しましょう。
定義・意味
エンカウンター(encounter)は「出会い」という意味の英語です。エンカウンターグループは、少人数のメンバーが、感じていることを率直に伝え合う集中的な交流を通して、次のようなことをめざすグループです。
自分の気持ちや考えに気づく
他の人の気持ちを感じ取る力を高める
人との関わり方を見つめ直し、成長する
特徴
グループには「ファシリテーター」と呼ばれる進行役がいます。ファシリテーターは、メンバーを治療する専門家としてではなく、安心して話せる場を整え、交流を促す役割を担います。
話題の中心は、過去の出来事や理論ではなく、「今、ここで」メンバーが感じている気持ちや、メンバー同士のやりとりです。率直なフィードバックを受け取ることで、自分では気づかなかった一面に気づくことがあります。
Tグループとの違い
エンカウンターグループとよく似たものに、「Tグループ」があります。Tグループは、心理学者のレヴィンらが1940年代後半に始めた、グループの中での人間関係を学ぶための訓練グループです(ロジャーズ, 1970)[1]。
ロジャーズ自身も、1946〜47年にシカゴ大学で、退役軍人を支援するカウンセラーの養成にグループ体験を取り入れていました。
Tグループは「グループの動きや人間関係のスキルを学ぶこと」を主な目的とし、ロジャーズのエンカウンターグループは「個人の成長や気づき」をより重視します。両者は影響し合いながら発展しましたが、別の流れとして区別されます。
こちらは『自己への旅』という、1968年のアメリカのドキュメンタリー映画です。初対面の8人による16時間のグループセッションが描かれ、進行役としてロジャーズが登場しています。
②2つの進め方の違い
エンカウンターグループには、決まった課題を用意しない「非構成的」な進め方と、課題を用意して進める「構成的」な進め方があります。構成的な進め方は、日本で独自に体系化されたものです。
非構成的エンカウンター
ロジャーズが取り組んだのは、課題を用意せず、自由な話し合いで進めるスタイルです。「ベーシック・エンカウンター・グループ」とも呼ばれます。
10人前後の少人数で、数日間の合宿形式で行われることが多く、メンバーが感じたことを伝え合うことが中心になります。決まった流れがないぶん、進行役には高い技術が求められます。
構成的エンカウンター
構成的グループエンカウンターは、心理学者の國分康孝[2]が日本で体系化した方法です。あらかじめ用意した課題(エクササイズ)をメンバーで行い、そのあと感じたことを伝え合う「シェアリング」を行います。
短時間で行え、大人数でも実施できるため、学校の授業や企業の研修などで広く使われています。プログラムを事前に組み立てられるので、経験の浅い進行役でも比較的取り組みやすい方法です。
③参加したときの流れ
エンカウンターグループに参加すると、初めは戸惑いや緊張がありますが、時間とともに本音を話しやすい雰囲気が生まれていくのが一般的です。ここでは、参加したときの流れと、感じやすい気持ちを紹介します。
一般的な流れ
グループの進み方は、進行役や形式によって異なりますが、おおむね次のような流れになります。
①ルールの確認と、簡単な自己紹介をする
②沈黙や戸惑いの時間を、みんなで過ごす
③少しずつ、今の気持ちを言葉にしていく
④お互いの言葉に、感じたことを伝え合う
⑤終わりに、体験を振り返って言葉にする
非構成的なグループでは、②の「何を話せばいいか分からない時間」が長く続くこともあります。この戸惑いも、グループが深まっていく大切な過程の一部と考えられています。
感じやすい気持ち
参加中は、「うまく話せない」「他の人にどう思われるか不安」といった緊張を感じやすいものです。また、他のメンバーの率直な言葉に、心が大きく動くこともあります。
こうした気持ちの揺れは、多くの参加者が経験するものです。無理に整理しようとせず、「今、自分はこう感じている」と言葉にしてみることが、グループを活かす第一歩になります。
④参加前の注意点
エンカウンターグループは、心が大きく動く体験であるぶん、人によっては負担になることがあります。安心して参加するために、次の点を知っておきましょう。
心理的な負担がある
アメリカの大学生209名が18のグループに参加した研究では、最後まで参加した170名のうち16名(約9%)に、参加後も続く心理的な不調が見られました(ヤーロムら, 1971)[3]。進行役が強い刺激を与えたり、参加者に踏み込みすぎたりするグループで起きやすかったと報告されています。
参加中に気分が大きく落ち込んだり、眠れない日が続いたりする場合は、無理をせず進行役に伝えてください。
話したくないことは話さない
グループの中で、話したくないことを無理に話す必要はありません。「今は話したくない」と伝えることも、立派な自己表現です。
途中で休憩したり、参加をやめたりしてもかまいません。安全なグループであれば、そうした選択も尊重されます。
進行役と参加の判断
参加する前に、進行役がどのような資格や経験を持っているか、困ったときにどう対応してもらえるかを確認しておくと安心です。
また、心の不調で治療を受けている方や、つらい出来事の記憶に強く苦しんでいる方は、参加前に主治医やカウンセラーに相談してください。グループよりも、個別の支援が適している場合があります。
⑤学校・職場のワーク
構成的グループエンカウンターのエクササイズは、短時間で取り組め、学校や職場の人間関係づくりに活かせます。ここでは、取り入れやすい2つのワークと、進めるときのコツを紹介します。
他己紹介
2人1組でお互いにインタビューし、相手のことを全体に紹介するワークです。初対面のメンバーが打ち解けるきっかけになります。
①2人1組になり、3分ずつ質問し合う
②聞いた内容から、相手の紹介文を考える
③全体の前で、ペアの相手を紹介する
④紹介されてどう感じたか、伝え合う
いいところ探し
4〜6人のグループで、メンバー1人ずつの「いいところ」をカードに書いて渡すワークです。自分では気づかなかった長所を知ることができます。
①メンバーのいいところを、1人1枚書く
②1人ずつ順番に、カードを読み上げて渡す
③受け取った人は、感想を一言だけ伝える
④最後に、全体で感じたことを伝え合う
進めるときのコツ
どちらのワークも、最後のシェアリングが大切です。「楽しかった」で終わらせず、「どんな気持ちになったか」「何に気づいたか」を短く言葉にしてもらいます。
また、話す内容は「言える範囲で」と最初に伝え、発言を強制しないようにします。人前で話すのが苦手な人には、パスをしてもよいルールを用意しておくと安心です。
⑥効果を調べた研究
構成的グループエンカウンターについては、日本の学校や大学で効果を調べた研究があります。ただし、どれも小規模な研究で、結果は「効果の可能性を示すもの」として読む必要があります。
小学生を対象にした研究
佐々木ら(2009)[4]は、3つの小学校の10クラスで、約1か月の短期集中プログラムとして構成的グループエンカウンターを行い、実施前・実施後・その後の時点で質問紙調査を行いました。その結果、友人関係や学習意欲など、学校生活への意欲を表す得点が、実施後に高くなる傾向が報告されています。


課題を通じて共通の体験を重ね、交流を深めることで、友人関係や学習への意欲が高まる可能性が考えられます。
大学生を対象にした研究
櫻井(2013)[5]は、大学の授業で51名を対象に、1回のエクササイズの中で気分がどう変わるかを調べました。その結果、エクササイズが進むにつれて、緊張・抑うつ・怒り・混乱・疲労の気分が下がり、活気が高まっていました。


短い時間でも、本音で交流する体験によって、その場の気分が前向きに変化する可能性があります。研究の読み方について詳しく知りたい方は、以下の折り畳みを開いてください。
一般の方は読み飛ばしても大丈夫です。
⑦紛争解決への応用
晩年のロジャーズは、エンカウンターグループを、対立する集団同士の対話にも応用しました。その代表例が、北アイルランド紛争を題材にした「鋼鉄のシャッター」です(ライス, 1978)[6]。
鋼鉄のシャッター
北アイルランド紛争は、主にカトリック系住民とプロテスタント系住民の対立が続いた紛争です。1972年、ロジャーズらは、北アイルランドからプロテスタント系とカトリック系の住民9名をアメリカに招き、3日間のエンカウンターグループを行って、その様子を映画にまとめました。
話し合いでは、暴動や銃撃など、それぞれが経験したつらい出来事が語られました。あるメンバーは、つらさに押しつぶされないよう、誰もが心の中に「鋼鉄のシャッター」を下ろしていると表現し、他のメンバーも共感を示しました。

映画化とその後
グループの様子は映画『鋼鉄のシャッター』として上映され、対話による相互理解の大切さを伝えました。こちらはその映画の様子です。
北アイルランドでは、その後も長く対立が続き、1998年に和平合意(ベルファスト合意)が結ばれました。この小さなグループが和平を直接もたらしたわけではありませんが、対立する人同士が対話によって理解し合える可能性を示した試みとして、今も紹介されています。
⑧日常で活かすヒント
エンカウンターグループの考え方は、グループに参加しなくても、日常の人間関係で活かすことができます。ここでは、取り入れやすい2つのヒントを紹介します。
今の気持ちを言葉にする
エンカウンターグループでは、「今、ここ」で感じていることを言葉にすることを大切にします。日常でも、「少し緊張しています」「その話を聞いてうれしかったです」と、今の気持ちを短く伝えてみましょう。
気持ちを言葉にすると、相手も自分の気持ちを話しやすくなり、会話が深まりやすくなります。
フィードバックを受け取る
他の人から「あなたは〇〇に見える」と言われたとき、すぐに否定せず、「そう見えているんだな」といったん受け取ってみます。そのうえで、自分の感じ方と比べてみると、新しい気づきが得られることがあります。
ただし、相手の言葉をすべて正しいと思う必要はありません。受け取ったうえで、自分に合うものだけを取り入れれば十分です。
⑨よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
エンカウンターの体験
傾聴と共感の練習
自己理解を深めるワーク
はじめての心理療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースでエンカウンターや傾聴を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
エンカウンターグループの土台にある、来談者中心療法の考え方や、カウンセラーの3つの条件を基礎から学びたい方は、シリーズ1本目のコラムをご覧ください。
エンカウンターグループでも大切にされる、相手を受け止める聴き手の態度について詳しく知りたい方は、こちらのコラムがおすすめです。
他にも数多くの心理療法があります。ご自身の興味やお悩みに合った理論をじっくり探したい方は、一覧から選んでみてください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




