心理療法とは何か②3つの学派,種類
前回の心理療法コラムでは、心理療法の基本的な知識を学習してきました。今回は2回目として心理療法の3つの流れと、日本の心理療法を概観していきましょう。
目次は以下の通りです。
精神分析療法
認知行動療法
来談者中心法
日本の心理療法
各コーナーには対象となるお悩みの掲載しています。どの心理療法から学ぶか迷う方は参考にしてみてください。
精神分析療法とは何か
フロイトと精神分析
心理療法はドイツで始まり発展してきました。特に有名なのが 「精神分析的心理療法」です。
精神分析は、精神医学の第一人者と言われているジークムント・フロイトが作りました。彼はドイツの神経科医でした。生前の様子が下記の動画で見ることができます。
意識と無意識
精神分析的心理療法は以下の哲学を基本としています。
無意識に隠れている葛藤が心の病気を引き起こす
無意識にある悩みの種を整理していくことが治療に役立つ
フロイトは、心を氷山に例えました。海から見える氷山の部分を「意識」、隠れている大部分を「無意識」と捉えました(図形出典:ウィキペディア)。
*意識
私たちが感じることのできる心の内面
*無意識
私たちが気づかない心の内面のさらに奥底にあるもの
フロイトは、無意識に隠れている葛藤が、知らず知らずのうちに、意識に影響を及ぼすと考えました。そして、無意識にある葛藤に気がついたり、誰かに語ると心が回復していくと主張しました。
抑圧とは
ここで1つだけ用語を抑えておきましょう。抑圧とは、心の防衛反応で、嫌な出来事を無意識に押しとどめることを意味します。
例えば、幼少期に人格を否定されるようなすごく嫌なことをされたとしましょう。私たちの心は防御機能があり、その記憶を忘れようと抑圧する(忘れようとする)ことがあります。
しかし、悩みを抑圧することはすごく大変なので、何らかの形でその記憶が顔を出し、人間関係が不安定になったりします。精神分析では、無理のない範囲でその記憶を呼び起こし、カウンセラーと整理していきます。
ドイツから世界へ発展
フロイトはこのように、心の全体図を示し、様々な理論を作っていきました。その結果、精神分析が一躍心理学、精神医学界で有名になり、フロイトにはたくさんの弟子がつきました。そして、弟子たちが新しい心理療法の理論を世界中に広めていきました。
一方で、初期の精神分析は性的な内容を含む衝撃的な内容であったり、それが、当時のドイツではタブーと考えられていたので、多くの批判も受けました。
弟子たちもフロイトの理論をそのまま受け継ぐというよりは、自分の理論を付け加え改良した形で世界へ広めています。
対象となるお悩み
精神分析は以下のお悩みと相性が良い心理療法です。
過去の家庭環境が悪かった
過去の何らかの悩みを引きずっている
人間関係が同じパターンでこじれる
あてはまると感じた方、精神分析をもっと詳しく知りたい方は後程、下記のリンクを参照ください。
認知行動療法とは何か
続いて認知行動療法について解説していきます。認知行動療法は現在最もポピュラーな心理療法です。日本でも保険適用がされるケースもあります。まずは全体像から掴んでいきましょう。
行動療法のはじまり
心理療法は20世紀になると、イギリスとアメリカでも発展していきます。1960年代にハンス・アイゼンクが「行動療法と神経症」という本を出版し、科学的に証明できる治療方法として有名になりました。
行動療法は以下の哲学を基本としています。
人は経験を学習することで、行動のあり方が変わっていく
行動療法では心の病気を抱えている人は、誤った行動の習慣を学習してしまっていると考え、問題となる行動を消去し、健康的な行動を学習し、習慣化することを目指します。
認知療法の始まり
「行動療法」の後には、スキナー,エリスという心理療法家による「認知療法」が発展していきました。認知療法は以下の哲学を基本としています。
考え方が偏っている人は心の病になりやすい
私たちは、同じ出来事でも、プラスに考える人もいれば、マイナスに考える人もいます。例えば、最近ですとコロナウイルスの問題がありました。ですが反応は人それぞれです。
もう日本は終わりだ!
二度と日常が戻ることはない
電車に乗ると感染する!
と考える人もいれば
ワクチン取得率が上がれば状況は改善する
この機会に家を綺麗にしよう
自粛がおわったら遊びにいくぞ♪
と前向きに考える方もいます。どちらがメンタルヘルスに良いかは言うまでもありません。このように認知療法は考え方を柔軟にしていく練習をしていきます。
両者は合体する
最近の研究では、行動療法と認知療法は相性が良いことがわかっています。行動だけを変えるのではなく、考え方もほぐしていくと、メンタルヘルスに効果が発揮されることがわかったのです。
そのため現在では「認知行動療法」と呼ぶことが増えています。今もっとも有名な心理療法は認知行動療法と言っても過言ではないでしょう。
対象となるお悩み
認知行動療法は以下のお悩みと相性が良い心理療法です。
引っ込み思案で行動できない
逃げ癖がある
考え方が極端である
思い込みが激しい
あてはまると感じた方、認知行動療法をもっと詳しく知りたい方は後程、下記のリンクを参照ください。
来談者中心法とは何か
行動療法が発展したおよそ10年後、1960年代には「人間性心理学」という理論が生まれました。
人間性を大事にする心理療法
人間性心理学は、カール・ロジャースの提唱した来談者中心法が基礎になっています。下記はロジャーズの生前のカウンセリングの様子です。暖かい雰囲気が伝わってきますね。
来談者中心法は以下の哲学を基本としています。
人はそもそも問題を乗り越える力を持っている
心理的に支えれば、自然と成長し、自律的に生きていける
それまでの心理療法は、心の病気を抱えた人を「治す」という姿勢があったのですが、ロジャースは、あくまで相談者の自律を「支援する」という姿勢を大事にしたのです。ロジャースは心に病を抱える人を「患者」と呼ばず「クライアント」と呼んだことが象徴的です。
ズレを見つけ一致させる
来談者中心療法では
理想の自分(自己)
現在の自分(体験された自己)
のズレが大きいと心の病気が引き起こされると考えられています。皆さんのお悩みにも、理想と現実のギャップがありますよね。
来談者中心法では、カウンセリングを通して、このズレを少しずつなくしていくことを目指していきます。このズレが少なくなることを「自己一致」と言います。
傾聴技法の発展
来談者中心法では「傾聴」が重視されています。
傾聴とは、クライエントの話をじっくり聴くという方法です。カウンセラーがクライエントの気持ちを受け止め共感的に理解すれば、クライエントは自らの力で立ち直っていくと考えられています。そのため、じっくりとクライエントの語る内容に耳を傾けるのです。
対象となるお悩み
来談者中心法は以下のお悩みと相性が良い心理療法です。
頭がごちゃごちゃして悩みが整理できない
いつも受け身で考えるのが苦手
自分自身の主体性を失っている
あてはまると感じた方、来談者中心法をもっと詳しく知りたい方は後程、下記のリンクを参照ください。
3つの心理療法まとめ
ここまで3つの新療法を紹介してきました。アブラハム・マズローは、
精神分析 行動療法 人間性心理学
を「三大勢力」と呼びました。この3つの理論は心理療法の軸を築き、現在の心理療法に大きな影響を与えました。「三大勢力」は、それぞれが違う視点を持ち、お互いを批判をする部分はあります。
一方で人の心の中や内面を理解するうえで、そして人の手助けをするうえでどれも大切な理論です。心理学を勉強する上でも、教科書には必ずと言っていいほど有名な理論です。
この機会に覚えていってくださいね♪
日本の心理療法
最後に日本人が開発した心理療法も紹介します。日本人が開発した心理療法は、仏教や禅の思想が入っていることが多く、馴染みやすい心理療法と言う特徴があります。
森田療法
20世紀初期1920年前後に、森田 正馬(もりた まさたけ)による森田療法が開発されました。精神科医の森田正馬が仏教の「禅」の思想を取り入れてつくりました。
「あるがまま」や「恐怖突入」といった言葉が有名です。気分に左右されずにやるべきことに集中するという態度が重視されます。
森田療法は現在でも社交不安障害の治療などで勉強されることが多いです。興味がある方は下記のリンクで学びを深めてみてください。
内観療法
次に生まれたのが吉本伊信(よしもと いしん)による内観療法です。
この治療方法も仏教の考え方が取り入れられています。基礎ができたのが1940年代、その後1960年代以降国内に広まりました。
この理論は学校などの教育の現場や企業にも広まったといわれています。内観療法は森田療法とともに、「東洋的心理療法」と呼ばれることもあります。
(画像出典:自己発見の会 HP)
内観療法では身調べと言われる手法で家族との関係を見直す作業を行います。改めて家族とは何か?を考え直したい方におススメです。
臨床動作法
最後に生まれたのが、成瀬吾策(なるせ ごさく)による臨床動作法です。
1960年代後半のことです。臨床動作法は、おもに脳性まひなどの子どもの肢体不自由の訓練のために開発されました。現在ではスポーツ選手のトレーニングなどにも応用されています。
(動画出典:日本心理学会)
欧米の知識を応用し、日本独自の考え方を取り入れた日本独自の方法は、現在でも病院や教育の現場などで使われています。これらの方法は日本で生まれたため、わかりやすく日本人になじみやすいというメリットがあります。
外国の理論は文化的な違いがあったり、翻訳の段階でニュアンスが異なる一方、日本の理論は文化的な違いはありません。そういった点でも、なじみやすい方法だといえます。
まとめ
ここまで2回にわたって心理療法の基礎を解説してきました。全体像は概観できましたでしょうか。今皆さんは心理療法のドアを1歩開けた状態になります。
私は心理療法の世界に入り15年になりますが、すごく奥が深くて、そして面白いです。是非勉強を続けてほしいと感じています(^^)
これ以降は、こちらの心理療法の一覧から、興味が持てそうな理論を選んで研鑽を続けて頂けると幸いです。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法
・森田療法の基礎,哲学を学ぶ
・マインドフルネス療法の基礎
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連