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認知の歪み10の原因と治し方,対処法

日付:

認知の歪みの原因と治し方

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「認知の歪み」についてご相談を頂きました。

認知のゆがみ 意味

相談者
31歳 女性

お悩みの内容
私は現在、精神疾患の治療中です。昔から極端に考える癖があって、自分で悩みを膨らませてきたと感じています。自分なりに勉強していたところ、認知の歪みと言う言葉がぴったりでした。

認知の歪みの対処法を知りたいです。よろしくお願いします。

精神疾患の療養中で、心を休める時期なのですね。

私たちはそれぞれ独自の世界観を持っていて生きています。この独自の世界観は、現実離れすることがあり、その現実離れによって、私たちは誤った行動もしますし、心が悲鳴をあげることもあります。

当コラムでは、現実離れした認知の歪みを改善し、健康的な心で生きていけるようにお手伝いしたいと考えています。是非最後までご一読ください。

ただ、認知の歪みを治すのは心に負担になることもあります。ひどく疲れている時は、お休みしながら読み進めてみてください。

 

認知の歪みの意味とは

まずは認知の歪みの概要を理解していきましょう。

意味

認知の歪みとは

不合理な考え方、自分や周りに対する偏見、非現実的な思い込み

を意味します。認知の歪みがあると、対人不安、自尊心の低下、人間関係のトラブルが起こりやすくなります。また社交不安症、うつ病、強迫症、拒食症(思春期やせ症)、など精神疾患の原因になることもあります。

歴史

認知の歪み(Cognitive distortion)の概念は、認知療法の創始者である アーロン・ベック (Beck, A.T.) が1970年代に基礎を築きました。[1][2]

そして1980年には、ベックの初期の学生であったデイビット・バーンズ (Burns, D.D.) が「Feeling Good: The New Mood Therapy」を執筆し[3]、400万部も販売されたことで知られています。

この本には「認知の歪み」を改善する必要性が記載されており、2020年代になっても色焦ることなく心理療法の世界で使われています。

認知の歪み10パターン,原著


下記はバーンズ博士の講演の様子です。雰囲気だけでも見ておくと人柄が分かるかもしれません。

表現の変化

ここ数年の傾向として「認知の歪み」という表現は、言い換えると「あなたの認知は歪んでいる」という表現にもなりうるため、相手を静かに傷つけることになります。これはマイクロアグレッションと呼ぶこともあります。

最近では、「認知の偏り」「考え方の癖」と表現することが多くなってきています。当コラムでは、まだ認知度の高い「認知の歪み」という表現を使っていますが、この点については是非抑えておいてください。

 

10の認知の歪みを理解

バーンズは1989年に続編として、フィーリングットハンドブックを出版[4]しています。この中では代表的な10の歪みが記載されています。

まずは10パターンを動画とともにご紹介します。自分に当てはまる場合は、動画も参照ください。

白黒思考(all-or-nothing thinking)とは以下の意味があります。

物事を白か黒かで極端に判断する考え方

たとえば、「少しでもミスをしたらすべてダメになる」「学歴で仕事は決まる!」このように極端に考えるのが白黒思考の捉え方です。

白黒思考を改善するには、「曖昧な状態でもよしとする心の余裕」が必要です。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

過度の一般化(overgeneralization)とは、以下の意味があります。

わずかな事実をもとに、それが一般的な法則であるかのように結論づける考え方

たとえば、「彼は2回もミスをした。今度もミスを連発するにちがいない。」このように小さな事実を元に、「いつも○○だ」「全部が△△だ」「絶対にそうだ」など、法則化するのが過度の一般化です。

過度の一般化を改善するには、充分なデータがあるか?無理やり推論していないか?と振り返る癖をつける必要があります。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

選択的知覚(mental filter)とは、以下の意味があります。

同じ情報を集め続け、思い込みを深くしてしまう考え方

たとえば「〇〇さんは私を嫌っている!笑顔であいさつをしなかったのが証拠だ」「自分と話すときにまた笑顔がなかった!」と偏った情報を集め、確信を深めて行くのが選択的知覚です。

選択的知覚を改善するには、思い込みとは逆の事実を集めてみることが大事です。例えば、「嫌われている!」と思い込んだら、「好かれている!」と仮定して事実を集めてみるのです。

より詳しく知りたい方は下記の動画を参照ください。

マイナス化思考(disqualifying the positive)とは、以下の意味があります。

自分や他人の「行動」「発言」「魅力」の価値を下げる考え方

たとえば、テストで100点をとっても、「今回はたまたま運がよかっただけ…次はどうなるかわからない…」と考えるのが、マイナス化思考です。マイナス化思考が強い方は、なんでも価値を下げるため、人間関係でトラブルが起きたり、メンタルヘルスが不安定になってしまいます。

改善するには、減点法ではなく加点法で考えていくことが大事です。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

心の読みすぎ癖(mind reading)とは、以下の意味があります。

人の心を過剰に読む、気持ちを過剰に推測する考え方

たとえば、「みんな私のことをバカだとおもっている!」「今日の私は暗いと思われているに違いない!」このように相手の考えを推測し続けるのが心の読みすぎ癖です。心の読みすぎ癖は、対人不安や緊張しやすい心理に繋がりやすいので注意が必要です。

対策としては、まずは人の気持ちを考える時間を少なくします。そして空いた時間を、別の生産的なことを考えるようにするのです。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

拡大解釈・過小評価(magnification and minimization)とは、以下の意味があります。

失敗や短所などを実際よりも大きく受け止め、成功や長所は実際よりも小さく考えること

たとえば、「名刺の交換でマナー違反があった…とんでもないミスをしてしまった…大口の取引を結んだが運がよかっただけだ」このように失敗だけ拡大解釈して、成功は小さく見積もるのを拡大解釈・過小評価と言います。

拡大解釈・過小評価を改善するには、失敗を過剰に見積ることを止め、成功をしっかり認めていく姿勢が大事です。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

感情的決めつけ(emotional reasoning)とは、以下の意味があります。

自分の感情が現実になる!と結果を決めつける考え方

たとえば、緊張を感じた時に「こんなに緊張しているんだから、失敗するに違いない!」と決めつけるのが感情的決めつけです。

改善するには、感情と事実を分けて、未来の予測を合理的にしていくことが大事になります。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

べき思考(should thinking)とは、以下の意味があります。

物事を「〜すべきである」「〜しなければならない」と強迫的に考えること

たとえば、「男性は絶対にたくましくあるべきだ」「女性はいつもおしとやかであるべきだ」このような、慣習やルールに厳格な姿勢をべき思考と言います。他人にも自分にも厳格なルールを守らせようとするため窮屈な人間関係になります。

改善をするには、言葉遣いを柔らかくしてみることです。例えば「なるべく」「できれば」などが挙げられます。より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

レッテル貼り(labeling and mislabeling)とは、以下の意味があります。

失敗や挫折をした人に非現実的でネガティブなレッテルを貼ること

たとえば、「彼は2回もミスをした。何を頼んでもできないダメ人間だ」「自分はコミュニケーション下手な人間だ」など、ネガティブな決めつけをすることをレッテル貼りと言います。

改善をするには、レッテルと矛盾する行動に焦点をあて、カウントしてみる手法が挙げられます。例えば、「だらしない」というレッテルを張ってしまったら、何回中何回だらしないのか?数字に起こしてみるのです。実際にカウントすると意外と確率が低かったりします。

より深く知りたい方は下記の動画を参照ください。

自己関連付け(personalization)とは、以下の意味があります。

ネガティブな出来事をすべて自分のせいではないかと考えること

たとえば「飲み会の席が盛り上がらないのはすべて自分のせいだ」このように、非現実的に原因や責任の所在を自分と絡めて考える姿勢を自己関連付けと言います。

改善するには、「自他の境界」をしっかりつけていくことが大事になります。詳しくは下記の動画を参照ください。

 

基礎的な対処法

ここまで認知の歪みの種類や改善について概観してきました。ここからは基礎的な認知の歪みへの対処法を紹介していきます。

3ステップで改善

具体的には

①認知の歪みの発見
②思考の追加
③統合する

という3つの段階で練習していきます。

具体例

まずは以下の事例で考えてみましょう。

会社の朝礼スピーチで、緊張して頭が真っ白になって10秒ぐらい固まってしまった。声も震えていた。どうにか最後まで話したけど、帰りの電車で「評価が絶望的に下がった…能力が低いと思われた…」と考え、ひどく落ち込んだ。


①認知の歪みの発見

10の思考の歪みのうち何が出ているか?チェックをしていきます。上記の事例では、

白黒思考 心の読みすぎ癖 

が特に強く出ていると言えそうです。

②思考の追加
考え方をたくさん追加していきます。数が多ければ多いほど歪みがほぐれていきます。最低でも3つは発想するようにしましょう。

・人前に立てただけでも充分成長した
・朝礼スピーチはあくまで親睦のため
・普段の仕事ぶりで充分挽回可能
・緊張はしたが最終的に情報はしっかり伝えた 


③統合する
最後に当初の考え方をほぐして新しくしていきます。元々あった考えと②を統合しましょう。紙に書いてみることもおすすめします。

スピーチで緊張したことは事実だけど、緊張しつつも大事なことは最低限話せた。人前に立てただけでも充分成長できた。よくやったね♪自分!

発展的な対処法

認知の歪みへの対処法は、基礎編の3つのステップが基本になります。もっとしっかり学習を進めたい場合は、以下のコラムをご利用ください。

認知療法を練習したい方へ

認知の歪みの改善は、認知療法という心理療法から生まれたものです。当コラムと合わせて認知療法を学習するとより効果的になります。基礎からしっかり学習したい方は以下のコラムを参照ください。

認知療法の基礎

考え方の引き出しを増やす

認知の歪みを改善するには、多角的なものの見方をすることが大事です。多角的なものの見方をするには、リフレーミングという手法が有効です。思考を増やそうと思ってもうまくいかない…と感じる方は以下のコラムを参照ください。

リフレーミング力をつける

まとめ

今回は認知の歪みについて解説していきました。知らず知らずのうちに、自分の中で認知の歪みが大きくなり、ストレスにつながっている可能性があります。

あなたの認知の歪みは、10種類のうちどれにあたるでしょうか?
自分はこういう認知の歪みがあるなぁと気づかれた方は、「他にどんな考え方があるだろう?」「その考え方は現実的だろうか?」と考えてみて下さいね♪

しっかり身につけたい方へ

当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。

・認知の歪みの種類と対策
・白黒思考,選択的知覚の改善
・心の読みすぎ癖の改善
・考え方をほぐす,認知療法

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1件のコメント

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    • えいこん
    • 2022年4月24日 1:18 PM

    はじめまして。
    私の奥さんが3年前から非定型うつ病になり、原因は私のせいでなったと言います。なので3年前から私が別居し実家暮らしをしています。月に一回帰るようにしてますが、帰るたびにイライラさせてしまいます。病気になる前のように早く仕事をさせてあげたいのですがなかなか体調が良くなりません。どうしたら治りますか

    返信する

コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Beck, A.T. (1972). Depression; Causes and Treatment. Philadelphia: University of Pennsylvania Press.
 
[2] Beck, A.T. (1979). Cognitive therapy and the emotional disorders. New York, NY: Penguin Books.
 
[3] Burns, D.D. (1980). Feeling Good: The New Mood Therapy. New York, NY: HaperCollins.
 
[4] Burns, D. D. (1989). The Feeling Good: Using the new mood therapy in everyday life. New York: William Morrow and Co.