皆さんこんにちは。こちらの心理学教室を開催している公認心理師の川島達史です。
このコラムは、アドラー心理学シリーズの2本目です。「課題の分離」をテーマに解説していきます。
課題の分離とは、ある問題が「本来、誰の課題か」を見極め、自分の課題と他人の課題を区別する考え方です。アドラー心理学をもとに日本で考案された技法で、他人の課題に踏み込みすぎず、自分の課題には責任を持つことで、人間関係のストレスを減らすことを目指します。
この考え方はアドラー心理学の流れをくむもので、人間関係をより健康的に保つうえで、とても実用性の高いものです。
今回は、課題の分離の基本的な考え方から、職場や家庭、友人関係での具体的な実践方法まで、丁寧に解説していきます。目次は以下の通りです。
なお、このコラムは動画でも解説しています。最初にご覧いただくと、よりコラムが理解しやすくなると思います。お時間がある方は参考にしてみてください。
①課題の分離とは何か
課題の分離は、「誰の課題か」で線を引き、相手の課題は相手に任せ、自分の課題には責任を持つための考え方です。まずは意味と、学ぶ意義を確認しましょう。
課題の分離の意味
課題の分離とは、ある問題について「これは本来、誰の課題か」を見極め、自分が取り組むべき課題と、他人が取り組むべき課題とを区別する考え方です。心理的な境界線を引き、相手の人生と自分の人生をきちんと分けて考える姿勢が求められます。
課題の分離を学ぶ意義
他人の課題に過度に介入したり、逆に他人から過剰に介入されたりすることは、人間関係の不和やストレスの原因になります。特に現代は、SNSやメールなどでつながりが密になりやすく、他人の問題に巻き込まれる機会が増えています。だからこそ、課題の分離の考え方は、現代を生きる私たちにとって大切なのです。

分けた後は協力もできる
課題の分離は、「他人のことには一切関わらない」という冷たい考え方ではありません。誰の課題かをはっきりさせることで、本人が取り組むべきことを尊重しながら、必要なときには、どこまでを一緒に取り組むかを話し合えるようになります。この点は、5章で詳しく解説します。
②課題の分離が生まれるまで
課題の分離は、アドラー心理学の考え方をもとに、日本で考案された技法です。ここでは、その成り立ちを順に見ていきましょう。
フロイトと原因論
20世紀初頭、心理学界では、ジークムント・フロイトが確立した精神分析が大きな影響力を持っていました。フロイトは、悩みの原因は幼少期の体験や無意識の葛藤にあると考え、過去にさかのぼって原因を探ることを重視しました。
アドラーと目的論
これに対し、アルフレッド・アドラーは1912年ごろから「個人心理学」を展開し、人は過去の原因に動かされるのではなく、目的に向かって行動する存在だと考えました。また、人の悩みの多くは対人関係から生まれると考え、人を社会や対人関係の中で理解することを重視しました。目的を重視する考え方は、目的論とは|アドラー心理学の考え方で詳しく解説しています。

ドライカースの「誰の責任か」
アドラーの弟子であるルドルフ・ドライカース(Rudolf Dreikurs)は、子育てや教育の場面で、「誰の責任かを明らかにし、本来責任を持つべき人の手にゆだねる」ことを説きました。子どもが自分で解決すべきことを、親や教師が代わりに解決してしまうことへの問題提起です(AIJ)[1]。
野田俊作による考案
一般財団法人野田俊作顕彰財団(AIJ)の解説によると、「課題の分離」という技法は、日本でアドラー心理学を広めた野田俊作が、育児プログラムを日本に導入する際に考案したものです。ドライカースの「誰の責任か(Whose responsibility?)」という問いを、日本の文化に合わせて「誰の課題か」という問いに置き換えました。
同じ解説では、課題の分離はアドラー自身の教えだと誤解されることがあるものの、実際には日本で考案された技法だと説明されています。
嫌われる勇気で広がる
2013年、哲学者の岸見一郎氏とライターの古賀史健氏によるベストセラー『嫌われる勇気』[2]が出版され、「課題の分離」は一般の人にも広く知られるようになりました。
本書では、他人の課題に踏み込まず、自分の目的を大切にするという考え方が分かりやすく語られています。ビジネス・教育・子育てなど、さまざまな場面で課題の分離が話題になるきっかけとなりました。
③できない場合の問題点
課題の分離がうまくできていないと、他人の問題に口を出しすぎたり、逆に自分の人生を他人にコントロールされているような感覚になったりします。課題の分離ができない状態は、次の2つのタイプに分けて考えると理解しやすくなります。
干渉する側
1つ目は、「相手の問題を自分の問題のように扱ってしまう」タイプです。自分では善意や責任感から動いているつもりでも、実際には相手の人生に入り込みすぎて、問題を複雑にしてしまうことがあります。
・他人の課題にいちいち口を出す
・自分の意見を押しつける
・正論で相手を打ち負かす
・思い通りでないとイライラする
・助言を聞かない相手に腹を立てる
たとえば、子どもに「勉強しなさい」「今何ページ進んだの?」と干渉しすぎると、子どもは自分から学ぼうとする意欲を失い、指示待ちの姿勢になってしまうことがあります。職場でも、部下に逐一口を出すと、部下が自分で考える機会を奪ってしまいます。

干渉される側
2つ目は、「他人から課題を押しつけられても断れず、必要以上に引き受けてしまう」タイプです。「断るのが怖い」「申し訳ない」「自分さえ我慢すればいい」という気持ちが、根底にあることが多いです。その背景に、自分への自信のなさが隠れていることもあります(劣等感とは|アドラー心理学における捉え方)。
・他人の課題を無意識に引き受ける
・頼まれごとを断れない
・自分の予定が後回しになる
・誰かに振り回されている感覚がある
・相手に依存し合う関係に陥る
たとえば、お金にルーズな友人に繰り返しお金を貸してしまうと、「自分ばかり損をしている」というストレスが積み重なっていきます。職場で頼まれた仕事を何でも引き受けてしまうと、自分の業務が手につかなくなり、疲れ果ててしまいます。

④できない人の具体例
課題の分離ができない人の具体例をお伝えします。気になるタイトルを開いて、理解を深めてください。
干渉する側の例
善意から相手の課題に踏み込みすぎてしまう、親と上司の例です。
干渉される側の例
相手の課題を断れずに引き受け、自分が疲れてしまう例です。
⑤課題の分離の3ステップ
ここからは、課題の分離を実践するためのコツを、3つのステップで解説します。最後に、分けた後の関わり方と、取り組むときの注意もお伝えします。
STEP1:誰の課題かを見極める
最初のステップは、「この課題は本来、誰のものなのか?」を冷静に見極めることです。判断の基準としては、「その選択の結果を最終的に引き受けるのは誰か」「その結果にもっとも影響を受けるのは誰か」という2つの観点が役立ちます。
たとえば、相手が失敗したときに「自分がなんとかしないと」と思ってしまう場面があります。しかし、相手が自分で選び、その結果を引き受けるべき事柄であれば、それは相手の課題です。課題の持ち主をはっきりさせることで、自分が背負うべき責任と、相手に任せるべき領域が見えてきます。

STEP2:支援はOK、強制はNG
次のステップでは、相手の課題だと分かったときに、自分がどこまで関わるかを考えます。基本的に「助言・提案・支援」はOKですが、「命令・押しつけ・強制」はNGです。
たとえば、部下が悩んでいる場合、経験に基づいた助言や資料の提供は有効です。ただし、「絶対にこうしろ」と強制すると、相手の自主性が損なわれ、反発や依存を生む原因になります。干渉される側も、助言は受け取りつつ、それをどう生かすかは自分で決めてよいのです。

STEP3:見守る、見守られる
最後は、「見守る・見守られる」というスタンスです。見守るとは、相手を信じて任せる姿勢です。口出ししたい気持ちを抑えて「任せる」ことは、冷たい対応ではなく、「あなたの力を信じています」という信頼の表れです。
見守られる側も、「助言はありがたいけれど、最終的な判断は自分でしたい」と穏やかに伝えることが大切です。「口を出さないで」と拒絶するのではなく、「見守っていてほしい」と伝えると、自分の意思を尊重してもらいやすくなります。相手を信じて力づける関わり方は、勇気づけの技法とはで紹介しています。

分けた後は「共同の課題」に
AIJの解説では、課題の分離は「共同の課題」をつくるための準備と位置づけられています。誰の課題かを確認したうえで、本人だけで取り組むのか、周りも協力するのかを、本人と話し合って決めるのです。
たとえば、子どもの宿題は子どもの課題ですが、子どもが「分からないところを教えてほしい」と望めば、親子で話し合って共同の課題にすることもできます。分けて終わりではなく、分けたうえで協力の形を一緒に考える。これが、課題の分離の本来の姿です。周りの人と協力し合う土台となる考え方は、共同体感覚とはで解説しています。
取り組むときの注意
子どもの命や安全、健康に関わること、いじめや虐待、ハラスメントなどの場面では、「相手の課題だから」と見守るだけにしてはいけません。周りの大人や組織が、すぐに介入して守る必要があります。
また、人間関係の悩みで眠れない日が続く、気分の落ち込みが2週間以上続いている、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談してください。
⑥3つのステップ,具体例
最後に、4章で紹介した事例に、3つのステップを当てはめてみましょう。気になる例を開いてみてください。
干渉する側の3ステップ
親や上司が、相手の課題に踏み込みすぎないための考え方です。
干渉される側の3ステップ
相手の課題を引き受けすぎないための考え方です。
まとめ
課題の分離は、人間関係を健やかに保つための基本的な視点です。誰の課題かを見極め、支援はしても強制せず、見守る。
そして必要なときには、どこまで協力するかを一緒に話し合う。この流れを実践することで、過干渉や依存を避け、信頼にもとづく関係を築くことができます。是非、日常生活でも活用してみてくださいね。
⑦よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・アドラー心理学の基礎
・課題の分離の実践
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




