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目的論とは

目的論とは,アドラー心理学の考え方

みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、アドラー心理学シリーズの一つ5本目です。「目的論」をテーマに解説していきます。

目的論とは、人の行動を「過去の原因」ではなく、「その人が目指している目的」から理解しようとする、アドラー心理学の基本的な考え方です。人は原因に動かされるだけの存在ではなく、目標に向かって自ら動く存在だと捉えます。

今回は、目的論の意味と原因論との違い、誤解されやすいポイント、日常で目的論を使って考える方法を解説します。目次は以下の通りです。

目次
①目的論とは
②目的論が役立つ理由
③よくある3つの誤解
④目的論で考える3ステップ
⑤具体例で理解しよう
⑥よくある質問Q&A

①目的論とは

目的論は、アドラー心理学の理論の土台となる考え方の一つです。まずは、意味と、よく比べられる「原因論」との違いを確認しましょう。

目的論の意味

AIJ[1]の解説によると、目的論(teleology)とは、人間を、原因に動かされるだけの消極的な存在ではなく、目標に向かって主体的に生きていく積極的な存在として捉え、人の行動にはすべて目的があると考える立場です。

たとえば、ある人が人前で話すのを避けているとき、「過去に失敗したから」と原因を探すのではなく、「避けることで、何を守ろうとしているのか」という目的から理解しようとするのです。

原因論との違い

目的論とよく比べられるのが、「人の行動には原因がある」と考える原因論です。2つの違いを整理すると、次のようになります。

  原因論 目的論
問い なぜそうなったのか 何のためにそうしているのか
見る方向 過去 現在から未来
人の捉え方 原因に動かされる 目的に向かって自ら動く
変えられるもの 過去は変えられない 目的や手段は選び直せる

気づいていない目的もある

ここでいう「目的」は、本人がはっきり自覚しているものだけではありません。AIJの解説では、自覚されたものであろうとなかろうと、その人が今選んでいる目的を指すと説明されています。

つまり、「自分では理由が分からないけれど、ついやってしまう行動」にも、本人が気づいていない目的があると考えるのです。

②目的論が役立つ理由

目的論は、悩みを解決するための実用的な考え方です。原因論だけで考えると行き詰まりやすい場面でも、目的論なら次の一歩が見えやすくなります。

原因探しは終わらない

原因を探して過去をさかのぼると、原因らしきものはいくつも見つかります。しかし、その原因にもさらに原因があり、さかのぼるほど数が増えて、決定的な原因を特定するのは難しくなります。

しかも、原因が見つかったとしても、それは過去のことなので、変えることも取り除くこともできません。AIJの解説では、原因論を実生活に当てはめると、こうした困難にぶつかると指摘されています。

目的は選び直せる

一方、目的は過去のものではなく、今から未来に向けて達成しようとしているものです。自分が何を目指しているのかに気づければ、その目的のために、より良い行動を自分で選べるようになります。

さらに、必要であれば、目的そのものを変えることもできます。目的論は、私たちが自分の人生に主体的に関わるための考え方なのです。

なお、AIJの解説では、人にとって最も大きな目標は、社会の中に自分の居場所を持つこと(所属すること)だとされています。この考え方は、共同体感覚とはとも深く関わっています。

感情も目的のために使う

アドラー心理学では、感情も目的のために使われるものと考えます。AIJの解説では、「怒りが私に子どもを叱らせた」と考えるのではなく、「私が怒りを使って子どもを叱った」と考える例が紹介されています。

感情に振り回されているように感じるときでも、「この感情を使って、何をしようとしているのだろう」と考えると、別の伝え方を選べる余地が生まれます。

③よくある3つの誤解

目的論は、強い言葉で紹介されることも多く、誤解されやすい考え方です。特に大切な3つの誤解を確認しておきましょう。

誤解1:過去を否定する考え

目的論は、過去の出来事を「なかったこと」にする考え方ではありません。つらい経験が実際にあったこと、その影響を今も感じていることは、事実として大切に扱われるべきです。

目的論は、そのうえで「これからどうしていきたいか」に目を向けるための視点です。過去を否定するのではなく、過去にとらわれすぎずに、次の一歩を考えるための考え方なのです。

誤解2:本人を責めるための考え

「行動には目的がある」と聞くと、「つらいのは自分でそれを選んでいるからだ」と、本人を責める考え方だと受け取られることがあります。しかし、それは大きな誤解です。

AIJの解説では、アドラー心理学の理論は、人を評価したり、誰かに「こうあるべきだ」と押しつけたりするためのものではないと明記されています。目的論は、相手を責める道具ではなく、行動を理解し、より良い選択肢を一緒に探すための考え方です。

誤解3:何でも思い通りになる

目的論は、「目的さえ変えれば何でも思い通りになる」という考え方でもありません。病気や障害、環境など、自分だけではどうにもならないこともあります。

目的論が教えてくれるのは、そうした制約がある中でも、自分にできることを選び直す余地がある、ということです。一人で抱えきれない状況では、周りの人や専門家の力を借りることも、大切な選択の一つです。

④目的論で考える3ステップ

ここからは、日常の悩みを目的論で考えるための3つのステップを紹介します。紙とペンを用意して、書き出しながら進めてみてください。

STEP1:行動と感情を書き出す

まずは、悩んでいる場面で、自分がどんな行動をとり、どんな感情を抱いたかを書き出します。「同僚に強い口調で言い返した」「イライラしていた」のように、事実をそのまま書きましょう。

このとき、「なぜそうなったのか」という原因探しは、いったん脇に置いておきます。

STEP2:「何のために」と問う

次に、その行動や感情について、「自分は何のためにそうしたのだろう」と問いかけます。「言い返すことで、自分の正しさを分かってほしかった」「イライラを使って、相手に引いてほしかった」などです。

すぐに答えが出なくても大丈夫です。自分を責めるためではなく、自分を理解するための問いだと考えてください。

STEP3:別の手段を考える

目的が見えてきたら、その目的を、もっと良い方法で達成できないか考えます。「正しさを分かってほしい」なら、言い返すのではなく、落ち着いた場で、自分の考えを冷静に説明する方法もあります。

目的そのものを見直すことも選択肢です。「分かってもらうこと」より、「一緒に解決策を見つけること」を目的にすると、選ぶ行動も変わってきます。相手の行動を変えようとしすぎない考え方は、課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方で解説しています。

⑤具体例で理解しよう

3つのステップを、実際の場面に当てはめてみましょう。気になる例を開いて参考にしてみてください。

例1:仕事を先延ばしにする

大事な企画書の作成を、締め切り直前まで先延ばしにしてしまう人の例です。

先延ばしの例

STEP1:行動と感情
企画書に手をつけず、関係のない作業ばかりしてしまう。不安で落ち着かない。

STEP2:何のために
先延ばしにしておけば、「時間がなかったから」という言い訳ができる。本気で取り組んで評価が低かったときに、傷つかずに済む。

STEP3:別の手段
傷つくのを避けたい気持ちは自然なもの。完璧を目指さず、まずは30分だけ下書きをして、早めに上司の意見をもらってみよう。

※できない理由を用意して課題を避ける心の動きは、劣等感とは|アドラー心理学における捉え方で紹介している「劣等コンプレックス」とも関係しています。

例2:子どもに怒鳴ってしまう

子どもが言うことを聞かず、つい怒鳴ってしまう親の例です。

子どもに怒鳴る例

STEP1:行動と感情
何度言っても片付けない子どもに、大きな声で怒鳴った。カッとなっていた。

STEP2:何のために
怒りを使って、子どもにすぐ言うことを聞かせようとしていた。

STEP3:別の手段
本当の目的は、子どもが自分で片付けられるようになること。怒鳴るのではなく、「片付けてもらえると助かるな」とお願いの形で伝え、できたときには「ありがとう」と伝えてみよう。相手を力づける関わり方は、勇気づけの技法とはが参考になります。

⑥よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

目的論とは簡単に言うと?

一言で言うと、「なぜ?」ではなく「何のために?」と考える方法です。私たちは悩んだとき、つい「なぜこうなったんだろう」と過去の原因を探しがちです。でも、過去は変えられません。目的論では、「自分は何のためにこうしているんだろう」と考えます。そうすると、「本当はこうしたかったんだ」という目的が見えてきて、その目的を、もっと良い方法で叶えられないかを考えられるようになります。過去を責めるのではなく、これからを選び直すための考え方です。気軽に、日常の小さな場面から試してみてくださいね。

トラウマは存在しないのですか?

目的論は、つらい経験やその影響を否定する考え方ではありません。虐待や事故、災害などの深い傷つき体験が、その後の心や体に影響を与えることは、医学的にも広く知られています。目的論は、そうした経験があったうえで、「これからどう生きたいか」に目を向けるための一つの視点です。もし今、フラッシュバックや強い不安、眠れない日が続くなどの症状に悩まされている場合は、考え方だけで乗り越えようとせず、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談してください。安心できる環境で、専門家と一緒に向き合うことが大切です。

自分が悪いということですか?

いいえ、そういう意味ではありません。目的論は、人を責めるための考え方ではなく、自分の行動を理解し、より良い選択肢を見つけるための考え方です。たとえば、「人前で話すのを避けている」という場合、それは「傷つきたくない」という自然な気持ちを守ろうとしているのかもしれません。その目的自体は、責められるものではありません。大切なのは、その目的を、もっと自分を大切にできる方法で叶えられないかを考えることです。自分を責める材料にするのではなく、自分を理解するための手がかりとして使ってみてくださいね。

原因論は間違いなのですか?

原因論が間違いだということではありません。体の病気の治療などでは、原因を特定することがとても大切です。心理学でも、原因を探る考え方は広く使われています。アドラー心理学が目的論を重視するのは、人間関係の悩みのように原因が複雑に絡み合っている場面では、原因探しよりも、これからの目的に目を向けた方が、解決への一歩を踏み出しやすいと考えるからです。どちらか一方だけが正しいというより、場面に応じて使い分ける視点の一つとして、目的論を取り入れてみてください。

シリーズの続きを読む

アドラー心理学とは|基本の考え方

課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方

共同体感覚とは

勇気づけの技法とは

劣等感とは|アドラー心理学における捉え方

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・アドラー心理学の基礎
・目的論で悩みを整理する練習
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

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※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

・出典
[1] 一般財団法人 野田俊作顕彰財団 Adler Institute Japan(AIJ). アドラー心理学とは(理論:目的論). 2026年10月6日閲覧.

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

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