みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、アドラー心理学シリーズの一つ6本目です。「劣等感」をテーマに解説していきます。
劣等感とは、自分を他の人や理想の自分と比べて、「自分は劣っている」と主観的に感じる気持ちのことです。アドラー心理学では、劣等感は誰もが持つ自然な感情であり、使い方次第で成長の原動力にもなると考えます。
今回は、アドラー心理学における劣等感の捉え方と、劣等感が問題になるとき、日常で劣等感と上手に付き合うコツを解説します。目次は以下の通りです。
①劣等感とは
アドラーは「劣等感のアドラー」と呼ばれることもあるほど、劣等感に注目した人物です。まずは、劣等感の意味を正しく押さえておきましょう。
主観的な感情
劣等感(inferiority feeling)とは、「自分は劣っている」と感じる気持ちです。ポイントは、それが事実そのものではなく、本人が主観的に感じているものだという点です。
同じ身長でも、まったく気にしない人もいれば、強い劣等感を抱く人もいます。劣等感は、事実をどう受け止めるかによって生まれるのです。
劣等性との違い
アドラー心理学では、「劣等性」と「劣等感」を区別します。岩井俊憲氏の編訳書[1]では、次のように説明されています。
・劣等性:「背が低い」など、客観的な属性
・劣等感:それを人と比べて、主観的に劣っていると感じること
つまり、劣等性があるからといって、必ず劣等感を抱くわけではありません。逆に、客観的には何の問題もなくても、劣等感を抱くことはあります。
誰もが持つ自然な感情
アドラーは、劣等感は誰もが持つ自然な感情だと考えました。子どもは、周りの大人と比べて自分が小さく無力だと感じながら育ちます。その「もっとできるようになりたい」という気持ちが、成長の原動力になるのです。
劣等感があること自体は、決して恥ずかしいことではありません。大切なのは、その劣等感をどう使うかです。
②劣等感の3つの姿
劣等感は、使い方によって、成長のバネにもなれば、自分を苦しめるものにもなります。アドラー心理学の考え方をもとに、3つの姿に分けて見ていきましょう。
成長のバネになる劣等感
「今の自分はまだ足りない。だから努力しよう」と、劣等感を前向きな行動につなげている状態です。理想の自分と今の自分を比べて、そのギャップを埋めようとする健全な劣等感と言えます。
劣等コンプレックス
劣等感を「どうせ自分には無理だ」という言い訳に使い、やるべき課題から逃げてしまう状態です。「背が低いから、恋愛はうまくいかない」「学歴がないから、挑戦しても無駄だ」といった考え方がその例です。
劣等感そのものではなく、劣等感を「行動しない理由」として使ってしまうことが問題なのです。
優越コンプレックス
劣等感を隠すために、実際以上に自分を大きく見せようとする状態です。必要以上に自慢をする、他人を見下す、肩書きや持ち物で自分を飾り立てる、といった形で表れます。
一見、自信があるように見えますが、その裏には「本当の自分を知られたくない」という強い劣等感が隠れていることが多いと考えられています。
③劣等感をバネにする
アドラーは、劣等感を補おうとする心の働きを「補償(compensation)」と呼び、人が成長する大きな力だと考えました。
器官劣等性からの発想
アドラーは、1907年の著書[2]で、体の特定の部分の弱さを「器官劣等性」として論じました。体に弱さを抱える人には、それを補おうとする力が働くと考えたのです。
この考え方は後に、体の弱さに限らず、心理的な劣等感全般を補おうとする「補償」の考え方へと広がっていきました。
他の研究者への影響
アドラーの補償の考え方は、他の研究者にも影響を与えました。たとえば、岡花[3]は、旧ソ連の発達心理学者ヴィゴツキーの発達論に見られる「補償」の考え方を取り上げ、アドラーからの影響を中心に論じています。
補償の2つの方向
補償には、劣等感を感じている分野そのもので努力する方向と、別の分野で力を発揮する方向があります。親コラムでは、これを「直接補償」と「間接補償」として、具体例とともに紹介しています。
どちらの方向でも、劣等感を言い訳にせず、行動のエネルギーに変えている点が共通しています。
④付き合い方の4つのコツ
劣等感は、なくそうとするより、上手に付き合っていくことが大切です。アドラー心理学の考え方をもとに、日常で使える4つのコツを紹介します。
コツ1:理想の自分と比べる
他人と比べると、上には上がいるため、劣等感は終わりなく続きます。比べる相手を、他人ではなく「理想の自分」や「昨日の自分」に変えてみましょう。
「あの人より劣っている」ではなく、「理想の自分に向けて、今日はここまで進んだ」と考えると、劣等感が前向きな目標に変わっていきます。また、他人が自分をどう評価するかは、最終的には相手が決めることです。この考え方は、課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方で解説しています。
コツ2:言い訳に気づく
「どうせ自分は〇〇だから」という言葉が頭に浮かんだら、それが劣等コンプレックスのサインかもしれません。その言葉を使って、何から逃げようとしているのかを考えてみましょう。
行動の目的に目を向ける考え方は、目的論とは|アドラー心理学の考え方で詳しく解説しています。
コツ3:できることを1つ選ぶ
劣等感に圧倒されると、何から手をつければいいか分からなくなります。そんなときは、今日できる小さな行動を1つだけ選んで、実行してみましょう。
小さな行動を積み重ねることで、「自分にもできることがある」という感覚が育っていきます。自分を力づける方法は、勇気づけの技法とはも参考になります。
コツ4:周りのために活かす
アドラーは、劣等感を自分のためだけでなく、周りの人や社会のために活かすことを大切にしました。自分が苦しんだ経験は、同じように悩む人の気持ちを理解する力にもなります。
劣等感を「誰かを見返すため」ではなく、「誰かの役に立つため」に使うと、比べ合いの苦しさから離れやすくなります。この考え方は、共同体感覚とはにつながっています。
⑤練習してみよう
最後に、学んだ考え方を練習してみましょう。まずは自分で考えてから、回答例を開いてみてください。
練習問題1:同期との比較
・入社3年目の会社員
・同期が先に昇進した
・「自分はどうせ評価されない」と落ち込んでいる
アドラー心理学の視点から、どのように考えるとよいでしょうか?
練習問題2:話し下手の悩み
・人見知りの大学生
・話し上手な友人と比べて落ち込む
・飲み会ではいつも聞き役になってしまう
アドラー心理学の視点から、どのように考えるとよいでしょうか?
⑥よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・アドラー心理学の基礎
・劣等感を長所として活かす方法
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



