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共同体感覚とは

共同体感覚とは,アドラー心理学の中核概念

みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、アドラー心理学シリーズの3本目です。「共同体感覚」をテーマに解説していきます。

共同体感覚とは、周りの人を仲間だと感じ、「これはみんなにとってどういうことだろう」と考えて行動しようとする感覚のことです。アドラー心理学で最も大切にされる考え方で、生まれつき持っている可能性であると同時に、意識して育てていくものとされています。

今回は、共同体感覚の意味と、誤解されやすいポイント、日常生活で育てていくための工夫を解説します。目次は以下の通りです。

目次
①共同体感覚とは
②なぜ大切なのか
③よくある3つの誤解
④日常で育てる4つの工夫
⑤練習してみよう
⑥よくある質問Q&A

①共同体感覚とは

共同体感覚は、アドラー心理学の思想の根っこにある考え方です。まずは、言葉の意味と成り立ちを確認しましょう。

共同体感覚の意味

AIJ[1]の解説によると、共同体感覚とは、物事がその人の属する共同体にとって善いことかどうかを判断する、アドラー心理学独自の価値判断の仕方です。日本でアドラー心理学を広めた野田俊作は、これを「みんなにとってどういうことだろう。みんながしあわせになるために、私は何をすればいいだろう」と考えること、と分かりやすく表現しました。

つまり共同体感覚は、ふわっとした気分ではなく、迷ったときに行動を選ぶための「物差し」のようなものなのです。

言葉の由来

共同体感覚は、ドイツ語で「Gemeinschaftsgefühl(ゲマインシャフツゲフュール)」と言います。前半の「ゲマインシャフト」は、人と人との精神的な結びつきでできた共同体を、後半の「ゲフュール」は感覚を意味します。

ここでいう「共同体」は、家族や職場、地域といった身近な集まりから、社会全体、さらには過去から未来にわたる人類全体までを含む、とても広い意味を持っています。

意識して育てる感覚

アドラーは、共同体感覚を「生まれつき持っている可能性」だと考えました。誰にでも身につける素地があるということです。

一方でアドラーは、共同体感覚は「意識して育てるべきもの」だとも述べています。学ばなければ身につかず、学んでもつい忘れてしまいがちなもの。だからこそ、日々の生活の中で少しずつ育てていくことが大切なのです。

②なぜ大切なのか

アドラーが共同体感覚を最も重視した背景には、時代の経験と、人間関係への深い洞察がありました。

戦争の経験から生まれた思想

アドラーは、第一次世界大戦に軍医として従軍し、戦争の悲惨さを目の当たりにしました。AIJの解説では、こうした経験から、アドラーは「何が善いことか」という価値判断を持たないまま心理学を使うことは危険だと考え、共同体感覚を治療の根本に据えたと説明されています。

迷ったときの判断の物差し

人間関係で迷ったとき、「自分が得をするか」「相手に勝てるか」だけで判断すると、周りとの対立が生まれやすくなります。共同体感覚は、そこに「みんなにとってどうか」という視点を加えてくれます。

自分だけでなく、相手や周りの人、さらにはこれから先の人たちにとってどうかを考えることで、長い目で見て、みんなが暮らしやすくなる選択がしやすくなります。

自己執着との違い

共同体感覚の反対にあるのが、アドラーの言う「自己執着」です。「これは私にとってどういうことだろう。私が幸せになるために何をすればいいだろう」だけを考えて行動する状態を指します。

AIJの解説では、他人を支配しようとすることは、まさにこの自己執着にあたるとされています。共同体感覚を大切にするなら、他人を支配せずに、ともに生きる方法を考えることになるのです。相手の課題に踏み込みすぎない関わり方は、課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方で解説しています。

③よくある3つの誤解

共同体感覚は、言葉の響きから誤解されやすい考え方です。よくある3つの誤解を確認しておきましょう。

誤解1:自己犠牲のこと

共同体感覚は、自分を犠牲にして周りに尽くすことではありません。「みんな」の中には、自分自身も含まれています。

自分が倒れてしまっては、周りの役に立つことも続けられません。自分を大切にしながら、周りにも目を向ける。そのバランスが、共同体感覚にもとづく生き方です。

誤解2:特別な能力のこと

AIJの解説によると、共同体感覚は、仙人や聖人だけが身につけられる特殊な能力ではありません。誰でも学ぶことができ、普段の生活や人生の大事な場面で役立てられる考え方です。

誤解3:みんなに合わせること

共同体感覚は、周りに同調して、自分の意見を言わないことでもありません。「みんなにとって」を考えた結果、あえて反対意見を伝えることが必要な場面もあります。

大切なのは、その場の空気に合わせることではなく、より広く、より長い目で見て、みんなのためになる選択を考えることです。

④日常で育てる4つの工夫

共同体感覚は、意識して育てていくものです。ここでは、アドラー心理学の考え方をもとに、日常で取り入れやすい4つの工夫を紹介します。

工夫1:「みんなにとって」と問う

迷ったときや、イライラしたときに、心の中で「これは、みんなにとってどういうことだろう」と問いかけてみましょう。

たとえば、職場で同僚のミスを責めたくなったとき、この問いを挟むだけで、「責めるより、次に同じミスが起きない仕組みを一緒に考えた方が、みんなのためになる」と気づけることがあります。相手の行動を、その人が目指している目的から理解する考え方は、目的論とは|アドラー心理学の考え方で紹介しています。

工夫2:小さな貢献を見つける

「自分は誰かの役に立っている」という実感は、共同体感覚を育てる土台になります。特別なことである必要はありません。

会議室の椅子をそろえる、家族の話を最後まで聞く、同僚に「ありがとう」と伝える。こうした小さな貢献を、1日に1つ意識してみましょう。自分の弱さを周りのために活かす考え方は、劣等感とは|アドラー心理学における捉え方で解説しています。

工夫3:仲間として接する

相手を「勝ち負けを競う相手」や「上か下か」で見るのではなく、同じ共同体の仲間として接してみましょう。相手を力で従わせるのではなく、対等な立場で話し合う姿勢が大切です。

相手を信頼し、力づける具体的な関わり方は、勇気づけの技法とはで紹介しています。

工夫4:受け取っている恩に気づく

私たちは、家族や友人だけでなく、会ったことのない多くの人や、過去の人々が残してくれたものに支えられて暮らしています。毎日使う道や電気、読んでいる本も、誰かの仕事の積み重ねです。

受け取っているものに気づくと、自然と「自分も何かを返したい」という気持ちが芽生えてきます。寝る前に、今日ありがたかったことを3つ書き出してみるのもおすすめです。

⑤練習してみよう

最後に、学んだ考え方を練習してみましょう。まずは自分で考えてから、回答例を開いてみてください。

練習問題1:家事の分担

・共働きの夫婦
・家事の負担が妻に偏っている
・妻は「なぜ私ばかり」とイライラしている

共同体感覚の視点から、妻はどのように考え、行動するとよいでしょうか?

練習問題1の回答例

「みんなにとって」と問う
このまま私だけが我慢を続けるのは、家族みんなにとっても良くない。私が疲れ切ってしまえば、家庭の雰囲気も悪くなる。

仲間として話し合う
責めるのではなく、「家族みんなが気持ちよく暮らすために、家事の分け方を一緒に考えたい」と、対等な立場で話し合いを持ちかけてみよう。

練習問題2:職場での孤立感

・入社1年目の会社員
・職場になじめず、居場所がないと感じる
・「自分は役に立っていない」と落ち込んでいる

共同体感覚の視点から、どのように考え、行動するとよいでしょうか?

練習問題2の回答例

小さな貢献を見つける
大きな成果はまだ出せなくても、できることはある。明日は、会議の資料を早めに配っておこう。

受け取っている恩に気づく
思い返すと、先輩が仕事のやり方を丁寧に教えてくれた。まずは「ありがとうございます」と伝えるところから始めよう。

⑥よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

共同体感覚とは簡単に言うと?

一言で言うと、「周りの人を仲間だと感じ、みんなにとって良いことは何かを考えられる感覚」です。アドラー心理学では、人の悩みの多くは人間関係から生まれると考えます。そして、相手と競い合ったり、相手を従わせようとしたりするのではなく、仲間として協力し合えるようになることが、心の健康につながると考えました。共同体感覚は、特別な人だけが持つものではなく、誰でも少しずつ育てていけるものです。迷ったときに「これはみんなにとってどうだろう」と問いかけてみる。そんな小さな習慣から始めてみてくださいね。

周りに尽くすことですか?

いいえ、自分を犠牲にして周りに尽くすことではありません。「みんな」の中には、あなた自身も含まれています。自分が疲れ切ってしまっては、周りの役に立つことも続けられませんし、無理を重ねると、かえって相手を責めたくなってしまうこともあります。共同体感覚は、自分も相手も大切にしながら、みんなにとって良い形を探していく考え方です。もし今、誰かのために我慢を重ねてつらくなっているなら、その状況を「みんなにとって良いことか」という視点で見直してみてください。断ったり、助けを求めたりすることも、立派な選択ですよ。

周りに合わせるのが苦手です

共同体感覚は、周りに合わせることとは違うので、安心してください。周りの意見に同調することが、いつも「みんなのため」になるとは限りません。たとえば、チームが間違った方向に進んでいるときに、あえて別の意見を伝えることは、共同体感覚にもとづく行動と言えます。大切なのは、その場の空気ではなく、より広く、より長い目で見たときに、みんなのためになるかどうかです。合わせるのが苦手な方は、その分、自分の視点から周りに貢献できることもきっとあります。自分らしいやり方で、周りとの関わり方を探してみてくださいね。

人を仲間と思えない時は?

過去に人から傷つけられた経験があると、人を仲間だと思えないのは自然なことです。無理に信じようとしなくて大丈夫です。まずは、安心できる人や場所を一つだけ見つけるところから始めてみてください。小さな「ありがとう」を伝え合える関係が一つあるだけでも、少しずつ感覚は変わっていきます。ただし、人と関わることへの強い恐怖で生活に支障が出ている、気分の落ち込みが2週間以上続いている、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談してください。安心できる関係の中で、ゆっくり進めていきましょう。

シリーズの続きを読む

アドラー心理学とは|基本の考え方

課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方

勇気づけの技法とは

目的論とは|アドラー心理学の考え方

劣等感とは|アドラー心理学における捉え方

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・アドラー心理学の基礎
・共同体感覚を育てる関わり方
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

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※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 一般財団法人 野田俊作顕彰財団 Adler Institute Japan(AIJ). アドラー心理学とは(思想:共同体感覚). 2026年10月6日閲覧.
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