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勇気づけの技法とは

勇気づけとは,アドラー心理学の実践技法

みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、アドラー心理学シリーズの一4本目です。「勇気づけ」をテーマに解説していきます。

勇気づけとは、相手が困難を乗り越え、周りの人と協力しながら生きていけるよう、その力を引き出す関わり方のことです。アドラー心理学の実践の中心となる考え方で、言葉の言い回しよりも、相手を対等な仲間として信頼する姿勢が大切だとされています。

今回は、勇気づけの意味と、ほめることとの違い、日常で使える具体的な方法を解説します。目次は以下の通りです。

目次
①勇気づけとは
②ほめることとの違い
③勇気づけの5つの方法
④場面別の具体例
⑤練習してみよう
⑥よくある質問Q&A

①勇気づけとは

勇気づけは、アドラー心理学のあらゆる実践の土台となる考え方です。まずは、アドラー心理学でいう勇気づけの意味を確認しましょう。

勇気づけの意味

AIJ[1]の解説によると、アドラー心理学では、治療やカウンセリング、子育て、教育など、すべての実践が勇気づけを土台にして行われます。そして勇気づけとは、相手が、より共同体感覚にもとづく生き方ができるように働きかけることだと説明されています。

共同体感覚とは、周りの人を仲間と感じ、みんなにとって良いことを考えられる感覚です。つまり勇気づけは、相手が人と協力しながら、自分の課題に向き合っていけるよう後押しすることなのです。共同体感覚については、共同体感覚とはで詳しく解説しています。

励ましとは少し違う

一般に「勇気づけ」と聞くと、励ましたり、元気づけたりすることを思い浮かべるかもしれません。しかし、アドラー心理学の勇気づけは、それとは少し意味が異なります。

AIJの解説では、相手にとって厳しく聞こえる言葉が勇気づけになることもあれば、一般的には励ましの言葉でも、勇気をくじいてしまうこともあると説明されています。勇気づけは、「こう言えばよい」という決まった言い回しではないのです。

出発点は自分の構え

では、何が勇気づけを決めるのでしょうか。AIJの解説によると、勇気づけは、働きかける側が、相手と競い合う構えから抜け出し、協力的に関わると決めるところから始まります。上下の「縦の関係」ではなく、対等な「横の関係」で関わる決心です。

同じ言葉や技法でも、相手を思い通りに動かそうとする構えで使えば、勇気づけにはなりません。協力的な構えで使ったときに、はじめて勇気づけになる可能性が生まれるのです。

②ほめることとの違い

アドラー心理学では、「ほめること」と「勇気づけ」を区別して考えることが多くあります。その違いを、関係のあり方から見ていきましょう。

ほめるは評価になりやすい

「えらいね」「よくできたね」というほめ言葉は、使い方によっては、上の立場の人が下の立場の人を評価する言葉になりがちです。ほめられることが目的になると、「ほめられないなら、やらない」という気持ちも生まれやすくなります。人の行動をその目的から理解する考え方は、目的論とは|アドラー心理学の考え方で紹介しています。

もちろん、ほめることがすべて悪いわけではありません。ただ、相手を評価して動かそうとする気持ちが強いと、対等な関係から離れてしまうことがあります。

勇気づけは気持ちを伝える

勇気づけでは、相手を評価するのではなく、自分の気持ちを率直に伝えることを大切にします。たとえば、次のような違いがあります。

場面 ほめる 勇気づける
子どもが片付けた えらいね 片付けてくれて助かったよ
部下が資料を作った よくできてるね 見やすくて、会議が進めやすかった
友人が相談に乗ってくれた さすがだね 話を聞いてもらえてうれしかった

勇気づけの言葉は、「あなたの行動が、周りの役に立っている」というメッセージを伝えます。それが、相手の「自分は役に立てる」という感覚を育てていきます。

③勇気づけの5つの方法

勇気づけは決まった言い回しではありませんが、協力的な構えで関わるための手がかりはあります。日常で取り入れやすい5つの方法を紹介します。

方法1:話を最後まで聴く

AIJの育児プログラムでは、勇気づけのための方法の一つとして、「子どもの話を聴く」ことが挙げられています。途中で口を挟んだり、すぐに助言したりせず、まずは相手の話を最後まで聴きましょう。

「この人は、自分の話をちゃんと聞いてくれる」という安心感が、相手が自分で考える力を支えます。

方法2:お願いの形で伝える

同じ育児プログラムでは、「お願い口調」という話し方も紹介されています。「〜しなさい」と命令するのではなく、「〜してもらえると助かるな」とお願いの形で伝える方法です。

命令は上下の関係を、お願いは対等な関係を表します。相手に選ぶ余地を残すことで、相手が自分の意思で動けるようになります。

方法3:感謝と喜びを伝える

相手の行動で助かったことやうれしかったことがあれば、「ありがとう」「助かった」「うれしかった」と、自分の気持ちとして伝えましょう。

評価ではなく気持ちを伝えることで、相手は「自分は周りの役に立っている」と感じやすくなります。

方法4:結果より過程に目を向ける

うまくいったかどうかという結果だけでなく、取り組んだ努力や工夫、前回からの成長に目を向けて言葉にしましょう。「最後まで粘っていたね」「前より準備が早くなったね」といった具合です。

結果だけを見ると、うまくいかなかったときに相手の勇気をくじいてしまいます。過程に目を向けることで、失敗しても次に挑戦する力が残ります。

方法5:任せて見守る

相手が自分で取り組むべきことは、手を出しすぎずに任せることも、大切な勇気づけです。「あなたならできると信じている」という信頼が伝わります。

どこまで任せて、どこから手を貸すかの考え方は、課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方で詳しく解説しています。

④場面別の具体例

5つの方法を、実際の場面に当てはめてみましょう。気になる場面を開いて参考にしてみてください。

子育ての場面

テストの点数が悪くて落ち込んでいる子どもへの関わり方です。

テストで落ち込む子どもへの例

勇気をくじく関わり方
「だから勉強しなさいって言ったでしょ」「次は絶対に80点以上取りなさい」

勇気づける関わり方
まずは「悔しかったね」と気持ちを受け止め、話を聴きます。そのうえで、「漢字は前より取れてるね」と過程に目を向け、「次はどうしたいと思ってる?手伝えることがあったら言ってね」と、子ども自身が考える余地を残します。

職場の場面

プレゼンで失敗して落ち込んでいる後輩への関わり方です。

失敗した後輩への例

勇気をくじく関わり方
「準備不足だったね」「あれじゃ通らないよ」と、できなかった点だけを指摘する。

勇気づける関わり方
「最初の説明、分かりやすかったよ」とできていた点を伝え、「次に向けて、どこを一緒に見直そうか」と、対等な立場で次の一歩を考えます。

自分を勇気づける場面

勇気づけは、自分自身に対しても行うことができます。失敗したときこそ、自分に勇気づけの言葉をかけてみましょう。自分の弱さとの付き合い方は、劣等感とは|アドラー心理学における捉え方も参考になります。

自分を勇気づける例

勇気をくじく心の声
「また失敗した。自分は何をやってもダメだ」

勇気づける心の声
「うまくいかなかったけれど、挑戦したこと自体は前進だ。次は、準備の時間を少し増やしてみよう」。自分の努力に目を向け、次にできる小さな一歩を決めます。

⑤練習してみよう

最後に、学んだ方法を練習してみましょう。まずは自分で考えてから、回答例を開いてみてください。

練習問題1:手伝いをした子ども

・小学生の子どもが、夕食の食器を運んでくれた
・途中でお皿を1枚割ってしまった
・子どもは「ごめんなさい」としょんぼりしている

勇気づけの視点から、どのような言葉をかけるとよいでしょうか?

練習問題1の回答例

言葉かけの例
「けがはなかった?運んでくれて助かったよ。ありがとう。お皿は一緒に片付けようか」

割ったことを責めるのではなく、手伝ってくれた気持ちと行動に感謝を伝え、片付けを一緒に行います。

練習問題2:資料を作った同僚

・同僚が、会議の資料を急いで作ってくれた
・資料には誤字が2か所あった
・同僚は忙しい中で引き受けてくれた

勇気づけの視点から、どのように伝えるとよいでしょうか?

練習問題2の回答例

言葉かけの例
「忙しい中、ありがとう。おかげで会議に間に合ったよ。2か所だけ誤字があったから、私の方で直しておくね」

まず感謝を伝え、誤字は責めずに事実として共有します。

⑥よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

ほめてはいけないのですか?
ほめることが、すべて悪いわけではありません。ただ、アドラー心理学では、相手を評価して動かそうとする関わり方には注意が必要だと考えます。ほめられることが目的になると、「ほめられないならやらない」という気持ちが育ってしまうこともあるからです。迷ったときは、「えらいね」のような評価の言葉より、「助かったよ」「うれしかった」のような、自分の気持ちを伝える言葉を選んでみてください。それだけで、相手を対等な仲間として扱う関わり方に近づきます。言葉選びにこだわりすぎず、相手を信頼する気持ちを大切にしてくださいね。

言葉を覚えれば使えますか?

言葉の例を知っておくことは役立ちますが、それだけでは勇気づけにならないこともあります。アドラー心理学では、同じ言葉でも、相手を思い通りに動かそうとする気持ちで使えば、勇気づけにならないと考えます。大切なのは、相手を対等な仲間として信頼し、協力して関わろうとする姿勢です。最初は言葉の例を参考にしながら、「この人の力を信じよう」という気持ちを込めて使ってみてください。相手の反応を見ながら試していくうちに、自然と自分らしい勇気づけの言葉が見つかっていきますよ。

自分を勇気づけるには?

自分を勇気づけるときも、他人に対するときと同じ考え方が使えます。失敗したときに「自分はダメだ」と結果だけで判断するのではなく、「挑戦したこと自体が前進だ」と過程に目を向けてみてください。また、今日自分ができたこと、誰かの役に立てたことを、寝る前に一つ書き出してみるのもおすすめです。小さな積み重ねに気づくことで、「自分にもできることがある」という感覚が育っていきます。ただし、自分を責める気持ちが強く、気分の落ち込みが2週間以上続いている場合は、一人で頑張らずに、医療機関や専門家に相談してくださいね。

相手が変わらない時は?

勇気づけは、相手を思い通りに変えるための方法ではありません。相手がどう受け取り、どう行動するかは、相手自身が決めることです。すぐに変化が見えなくても、対等な関係で信頼を伝え続けること自体に意味があります。焦らず、話を聴く、感謝を伝える、といった関わりを続けてみてください。一方で、相手から暴言や暴力を受けている場合は、勇気づけで関係を変えようとする前に、自分の安全を守ることが最優先です。その場合は、一人で抱え込まず、周りの人や公的な相談窓口、専門家に相談してくださいね。

シリーズの続きを読む

アドラー心理学とは|基本の考え方

課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方

共同体感覚とは

目的論とは|アドラー心理学の考え方

劣等感とは|アドラー心理学における捉え方

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・アドラー心理学の基礎
・勇気づけの言葉かけ練習
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

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※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 一般財団法人 野田俊作顕彰財団 Adler Institute Japan(AIJ). アドラー心理学とは(技法:勇気づけ). 2026年10月6日閲覧.

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