みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、アドラー心理学シリーズの一つ5本目です。「目的論」をテーマに解説していきます。
目的論とは、人の行動を「過去の原因」ではなく、「その人が目指している目的」から理解しようとする、アドラー心理学の基本的な考え方です。人は原因に動かされるだけの存在ではなく、目標に向かって自ら動く存在だと捉えます。
今回は、目的論の意味と原因論との違い、誤解されやすいポイント、日常で目的論を使って考える方法を解説します。目次は以下の通りです。
①目的論とは
目的論は、アドラー心理学の理論の土台となる考え方の一つです。まずは、意味と、よく比べられる「原因論」との違いを確認しましょう。
目的論の意味
AIJ[1]の解説によると、目的論(teleology)とは、人間を、原因に動かされるだけの消極的な存在ではなく、目標に向かって主体的に生きていく積極的な存在として捉え、人の行動にはすべて目的があると考える立場です。
たとえば、ある人が人前で話すのを避けているとき、「過去に失敗したから」と原因を探すのではなく、「避けることで、何を守ろうとしているのか」という目的から理解しようとするのです。
原因論との違い
目的論とよく比べられるのが、「人の行動には原因がある」と考える原因論です。2つの違いを整理すると、次のようになります。
| 原因論 | 目的論 | |
| 問い | なぜそうなったのか | 何のためにそうしているのか |
| 見る方向 | 過去 | 現在から未来 |
| 人の捉え方 | 原因に動かされる | 目的に向かって自ら動く |
| 変えられるもの | 過去は変えられない | 目的や手段は選び直せる |
気づいていない目的もある
ここでいう「目的」は、本人がはっきり自覚しているものだけではありません。AIJの解説では、自覚されたものであろうとなかろうと、その人が今選んでいる目的を指すと説明されています。
つまり、「自分では理由が分からないけれど、ついやってしまう行動」にも、本人が気づいていない目的があると考えるのです。
②目的論が役立つ理由
目的論は、悩みを解決するための実用的な考え方です。原因論だけで考えると行き詰まりやすい場面でも、目的論なら次の一歩が見えやすくなります。
原因探しは終わらない
原因を探して過去をさかのぼると、原因らしきものはいくつも見つかります。しかし、その原因にもさらに原因があり、さかのぼるほど数が増えて、決定的な原因を特定するのは難しくなります。
しかも、原因が見つかったとしても、それは過去のことなので、変えることも取り除くこともできません。AIJの解説では、原因論を実生活に当てはめると、こうした困難にぶつかると指摘されています。
目的は選び直せる
一方、目的は過去のものではなく、今から未来に向けて達成しようとしているものです。自分が何を目指しているのかに気づければ、その目的のために、より良い行動を自分で選べるようになります。
さらに、必要であれば、目的そのものを変えることもできます。目的論は、私たちが自分の人生に主体的に関わるための考え方なのです。
なお、AIJの解説では、人にとって最も大きな目標は、社会の中に自分の居場所を持つこと(所属すること)だとされています。この考え方は、共同体感覚とはとも深く関わっています。
感情も目的のために使う
アドラー心理学では、感情も目的のために使われるものと考えます。AIJの解説では、「怒りが私に子どもを叱らせた」と考えるのではなく、「私が怒りを使って子どもを叱った」と考える例が紹介されています。
感情に振り回されているように感じるときでも、「この感情を使って、何をしようとしているのだろう」と考えると、別の伝え方を選べる余地が生まれます。
③よくある3つの誤解
目的論は、強い言葉で紹介されることも多く、誤解されやすい考え方です。特に大切な3つの誤解を確認しておきましょう。
誤解1:過去を否定する考え
目的論は、過去の出来事を「なかったこと」にする考え方ではありません。つらい経験が実際にあったこと、その影響を今も感じていることは、事実として大切に扱われるべきです。
目的論は、そのうえで「これからどうしていきたいか」に目を向けるための視点です。過去を否定するのではなく、過去にとらわれすぎずに、次の一歩を考えるための考え方なのです。
誤解2:本人を責めるための考え
「行動には目的がある」と聞くと、「つらいのは自分でそれを選んでいるからだ」と、本人を責める考え方だと受け取られることがあります。しかし、それは大きな誤解です。
AIJの解説では、アドラー心理学の理論は、人を評価したり、誰かに「こうあるべきだ」と押しつけたりするためのものではないと明記されています。目的論は、相手を責める道具ではなく、行動を理解し、より良い選択肢を一緒に探すための考え方です。
誤解3:何でも思い通りになる
目的論は、「目的さえ変えれば何でも思い通りになる」という考え方でもありません。病気や障害、環境など、自分だけではどうにもならないこともあります。
目的論が教えてくれるのは、そうした制約がある中でも、自分にできることを選び直す余地がある、ということです。一人で抱えきれない状況では、周りの人や専門家の力を借りることも、大切な選択の一つです。
④目的論で考える3ステップ
ここからは、日常の悩みを目的論で考えるための3つのステップを紹介します。紙とペンを用意して、書き出しながら進めてみてください。
STEP1:行動と感情を書き出す
まずは、悩んでいる場面で、自分がどんな行動をとり、どんな感情を抱いたかを書き出します。「同僚に強い口調で言い返した」「イライラしていた」のように、事実をそのまま書きましょう。
このとき、「なぜそうなったのか」という原因探しは、いったん脇に置いておきます。
STEP2:「何のために」と問う
次に、その行動や感情について、「自分は何のためにそうしたのだろう」と問いかけます。「言い返すことで、自分の正しさを分かってほしかった」「イライラを使って、相手に引いてほしかった」などです。
すぐに答えが出なくても大丈夫です。自分を責めるためではなく、自分を理解するための問いだと考えてください。
STEP3:別の手段を考える
目的が見えてきたら、その目的を、もっと良い方法で達成できないか考えます。「正しさを分かってほしい」なら、言い返すのではなく、落ち着いた場で、自分の考えを冷静に説明する方法もあります。
目的そのものを見直すことも選択肢です。「分かってもらうこと」より、「一緒に解決策を見つけること」を目的にすると、選ぶ行動も変わってきます。相手の行動を変えようとしすぎない考え方は、課題の分離とは|仕事や子育てへの活かし方で解説しています。
⑤具体例で理解しよう
3つのステップを、実際の場面に当てはめてみましょう。気になる例を開いて参考にしてみてください。
例1:仕事を先延ばしにする
大事な企画書の作成を、締め切り直前まで先延ばしにしてしまう人の例です。
例2:子どもに怒鳴ってしまう
子どもが言うことを聞かず、つい怒鳴ってしまう親の例です。
⑥よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・アドラー心理学の基礎
・目的論で悩みを整理する練習
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




